腸溶錠の「めまい」に適応はなく、腸溶錠でメニエール病を治療すると適応外使用になります。
アデホスコーワ腸溶錠の有効成分は「アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(ATP-2Na)」であり、薬効分類は代謝賦活剤(分類番号:3992)に該当します。1958年に注射剤として日本に登場し、1964年以降に経口剤の使用が始まり、現在では内科・循環器科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・眼科など多くの診療科で幅広く処方されています。
添付文書(2025年11月改訂・第3版)に記載されているアデホスコーワ腸溶錠(20mg・60mg)の効能または効果は以下の4項目です。
用法及び用量は「アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物として、1回40〜60mgを1日3回経口投与する。なお、症状により適宜増減する」と規定されています。腸溶錠20mgであれば1回2〜3錠、腸溶錠60mgであれば1回1錠が標準的な投与量となります。これが基本です。
ATPは体のすべての細胞がエネルギーとして利用する"エネルギー通貨"そのものです。血管拡張・血流増加作用、代謝賦活作用、筋収縮力増強作用、神経伝達効率化作用という複数の薬理作用を持つため、一見すると適応疾患が多岐にわたって見えますが、それぞれに対して国内二重盲検試験で有用性が確認されています。心不全試験では153例にATP-2Na 180mg/日を8週間投与した結果、有用性が認められており、エビデンスの裏付けがある薬剤です。
参考:アデホスコーワ腸溶錠の最新添付文書(PMDA・JAPIC掲載)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062547.pdf
医療現場で見落とされやすいのが、腸溶錠と顆粒剤で効能が異なる点です。意外ですね。
アデホスコーワ腸溶錠の効能は前述の4項目ですが、アデホスコーワ顆粒10%にはこれに加えて「メニエール病及び内耳障害に基づくめまい」の適応が認められています。腸溶錠にはこの適応がありません。
| 効能 | 腸溶錠(20mg・60mg) | 顆粒10% |
|---|---|---|
| 頭部外傷後遺症 | ✅ | |
| 心不全 | ✅ | |
| 調節性眼精疲労 | ✅ | |
| 消化管機能低下の慢性胃炎 | ✅ | |
| メニエール病・内耳障害のめまい | ❌(適応なし) | ✅(1988年追加) |
つまり、メニエール病患者が「顆粒は飲みにくい」という理由で腸溶錠への変更を希望した場合、医療従事者がその要望に応じてしまうと、適応外使用となってしまいます。これは薬局ヒヤリハット事例としても実際に報告されている問題です。
顆粒剤でのメニエール病に対する用量は「1回100mg(1g)を1日3回」と、その他の効能における用量(1回40〜60mg)より大幅に多く設定されています。腸溶錠では1回最大60mgしか投与できないため、用量面でも対応できません。顆粒の用量が必須です。
メニエール病を理由にアデホスが処方されている患者の剤形変更依頼を受けた際は、必ず添付文書上の効能を確認してから疑義照会を行う必要があります。これが原則です。
参考:顆粒と錠剤の適応の違いについての解説記事
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201304/529839.html
添付文書の14条「適用上の注意」には、2つの重要な指示が明記されています。
14.1 薬剤調製時の注意として「本剤は腸溶性製剤のため、乳鉢等ですりつぶさないこと」と記載されています。
なぜ粉砕・すりつぶしが禁止されているのか。ATPはその化学的性質から、pH2.5〜3.5という強酸性条件下(胃酸と同等の環境)では速やかに加水分解されてしまいます。腸溶コーティングはこの分解を防ぐために施されており、乳鉢ですりつぶすとコーティングが破壊され、有効成分が腸に届く前に胃内で分解されてしまいます。粉砕したら効果ゼロになります。
嚥下困難な高齢患者への対応で粉砕を検討する場面もありますが、アデホスコーワ腸溶錠は粉砕不可の薬剤として明確に分類されています。そうした場合は顆粒剤への変更(ただし前項の適応確認が必要)、または他の薬剤への切り替えを医師と相談することが適切な対応です。
14.2 薬剤交付時の注意として、PTPシートからの取り出し指導も義務付けられています。「PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある」と記載されており、特に高齢者や認知機能が低下した患者への指導は欠かせません。
また、保管条件は「室温保存、有効期間3年」と定められています。アルミピロー開封後は吸湿に注意が必要です。これだけ覚えておけばOKです。
参考:粉砕してはいけない薬一覧(薬剤師向けまとめ)
https://yakuzaic.com/archives/91327
相互作用(10.2 併用注意)として、添付文書に記載されているのは「ジピリダモール」のみです。併用禁忌はありません。
ただし「のみ」という表現に油断は禁物です。ジピリダモールはアデノシンの赤血球・血管壁への取り込みを抑制する作用を持つため、ATPの分解物であるアデノシンの血中濃度が上昇し、心臓血管への作用が増強されます。心疾患を合併する患者に対して両薬剤を処方する際は、患者の状態を十分に観察するよう求められています。
副作用(11.2 その他の副作用)は以下のとおりです。
| 器官系 | 1.0%未満 | 頻度不明 |
|---|---|---|
| 消化器 | 悪心、食欲不振、胃腸障害、便秘傾向、口内炎 | — |
| 循環器 | 全身拍動感 | — |
| 過敏症 | そう痒感 | 発疹 |
| 精神神経系 | 頭痛、眠気、気分が落ち着かない | — |
| 感覚器 | 耳鳴 | — |
| その他 | 脱力感 | — |
副作用の発現率は全体として1.0%未満と低く、心不全患者を対象とした二重盲検試験(n=153)でも副作用発現は7例(3.9%)にとどまっており、安全性プロファイルは良好といえます。
特定の背景を有する患者への注意については以下のとおりです。
高齢者への投与が特に注意点となります。一般的な生理機能低下(腎機能・肝機能の低下など)により薬物濃度が上昇しやすいため、通常量からの減量を検討することが望ましいとされています。厳しいところですね。
参考:アデホスコーワ腸溶錠60の副作用・基本情報(日経メディカル)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3992001F3028.html
添付文書はあくまで医薬品情報の「最低限の骨格」です。日常業務でより深い情報が必要な場合には、添付文書を補完する「医薬品インタビューフォーム(IF)」が有用です。
アデホスコーワ腸溶錠のIFは2025年11月に第20版が改訂されており、PMDAの医薬品情報検索ページ、または興和株式会社の医療関係者向けサイト(medical.kowa.co.jp)で入手できます。IFには血中濃度データや薬物速度論的パラメータ、非臨床試験結果、各効能の詳細な臨床成績が記載されており、添付文書だけでは答えられない疑問(「高齢者でどれくらい減量すべきか」「腎機能低下例での目安は」など)の根拠を探る際に役立ちます。
現場での疑義照会を適切にすすめるための3つの確認軸として、以下を念頭に置くことが有効です。
また、薬局ヒヤリハット事例として「アデホスコーワ顆粒10%が処方されていたにもかかわらず、アデホスコーワ腸溶錠60を渡してしまった」という事例が日本医療機能評価機構に報告されています。これは使えそうな事例です。類似名称による調剤ミスのリスクは実際に存在しており、特に後発医薬品(「ATP腸溶錠○mg「〇〇」」など)が複数存在する現状では、処方箋上の品名と剤形を指差し確認する習慣が重要です。
さらに、2024年12月に興和株式会社からアデホスコーワ腸溶錠20・60の一部包装(PTP2100錠、バラ1000錠)の販売中止がアナウンスされました。現在流通している包装単位を常に最新情報で確認しておくことも、調剤業務の安全性を高める上で重要です。
参考:興和株式会社 医療関係者向け医薬品情報ページ(アデホスコーワ)
https://medical.kowa.co.jp/product/item-4.html
参考:PMDA 添付文書情報検索(アデノシン三リン酸二ナトリウム)
https://www.info.pmda.go.jp/psearch/PackinsSearch