室温23℃・湿度40%以下でも、測定部位を5分間安静にしないとTEWL値が最大30%ずれます。
TEWL(Transepidermal Water Loss)とは、経皮水分蒸散量のことを指します。皮膚の表面から大気中へ自然に蒸散していく水分量を定量化した指標で、皮膚バリア機能の評価において最も客観的な数値の一つとされています。
健常な成人の前腕部では、TEWLの基準値はおおよそ5〜10 g/m²/h程度とされています。この値が高いほど皮膚バリアが低下していることを示し、アトピー性皮膚炎や乾燥肌、接触皮膚炎などの病態評価に広く使われています。つまり「数値が高い=バリアが壊れている」が基本です。
TEWL測定はもともと化粧品・皮膚科研究の領域で発展しましたが、近年は褥瘡予防・ストーマ周囲皮膚管理・新生児スキンケアの臨床場面でも重要度が高まっています。特に新生児の皮膚は成人の約3分の1の厚さしかなく、TEWL値が成人の2〜3倍になることもあります。これは見落とせないポイントですね。
皮膚科医や皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)だけでなく、ICU・NICUに携わる看護師やリハビリ職においても、TEWL測定の基礎を知っておくことは臨床判断の精度向上に直結します。
TEWL測定は機器をあてるだけで完了するように見えますが、実際には環境条件の管理が結果の信頼性を大きく左右します。標準化が原則です。
測定環境として推奨される条件は以下の通りです。
この中で特に見落とされがちなのが「気流」です。わずかな空調の風でも開放型チャンバーの測定値は10〜20%変動するというデータがあります。意外ですね。
測定手順の基本的な流れは次のようになります。
3回測定して平均をとるのが条件です。1回の測定値だけで判断すると、ノイズの影響を受けたデータを使うリスクがあります。
TEWL測定機器は大きく3種類に分類されます。それぞれ測定原理が異なり、適した場面も変わります。
① オープンチャンバー式(拡散法)
代表機器:Tewameter® TM300(Courage + Khazaka社)
センサー内の上下2点で温湿度を計測し、Fick の拡散法則からTEWL値を算出します。最も普及しており、研究・臨床両方で広く使われています。ただし気流の影響を受けやすく、測定環境の管理が特に重要です。
② クローズドチャンバー式(密閉法)
代表機器:AquaFlux® AF200(Biox Systems社)、VapoMeter®(Delfin Technologies社)
チャンバーを密閉して内部の湿度上昇速度からTEWLを計算します。気流の影響を受けにくいため、診察室や病棟など環境管理が難しい場所でも使いやすい利点があります。これは使えそうです。
③ コンデンサー式
代表機器:Biox AquaFlux(最新モデル)
コンデンサー表面に結露する水分量から蒸散速度を計算する方式です。低TEWL値の精度が高く、健常皮膚の微細な変化を捉えるのに向いています。
機器選択の際は、以下の観点を整理してから検討することをおすすめします。
「どれでも同じ」ではありません。測定原理の違いを理解した上で機器を選ぶことが、データの比較可能性を担保する上でも重要です。
TEWL値は身体の部位によって大きく異なります。これを知らずに測定すると、正常範囲の判断を誤ります。
部位ごとの基準値の目安(健常成人)を以下に示します。
| 測定部位 | TEWL基準値の目安(g/m²/h) | 特記事項 |
|---|---|---|
| 前腕部(掌側) | 5〜10 | 最も標準的な測定部位 |
| 手背 | 8〜15 | 職業的刺激の影響を受けやすい |
| 頬部 | 8〜18 | スキンケア製品評価に使用 |
| 頭皮 | 15〜30 | 発汗の影響を受けやすい |
| 仙骨部 | 10〜20 | 褥瘡リスク評価に使用 |
| ストーマ周囲皮膚 | 20〜50以上 | びらん・浸軟の程度を反映 |
褥瘡ケアの場面では、仙骨部・踵部などの骨突出部のTEWLが上昇していると、皮膚バリアの破綻が始まっているサインとして早期介入の根拠になります。目視では発赤が確認できない段階でも、TEWL値が15 g/m²/hを超えている場合は要注意です。
ストーマ周囲皮膚管理においては、TEWL測定がびらんの定量評価に活用されています。TEWL値が50 g/m²/h以上の場合、皮膚バリアがほぼ破綻した状態と判断され、ストーマ装具の種類変更やスキンケアバリア製品の見直しが必要です。結論は「50以上なら即介入」です。
アトピー性皮膚炎の患者では、外見上は正常に見える部位でもTEWLが健常者の2〜4倍に上昇していることがあります。これはフィラグリン遺伝子変異による構造タンパク質の欠損が主因で、TEWL測定は症状が出る前のスクリーニングにも有効です。
参考:日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(皮膚バリア機能評価の根拠として使用)
日本皮膚科学会|アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
実際の臨床・研究現場でTEWL測定を行う際、ベテランでも陥りやすいミスがいくつかあります。ここでは独自の視点から、見落とされがちなポイントを整理します。
誤り① プローブの角度・加圧管理の甘さ
プローブを皮膚に対して斜めにあてたり、わずかに押しつけるだけでTEWL値が5〜15%上昇します。特に高齢者や乾燥した皮膚では変形が起きやすいため、自重のみで密着させる意識が重要です。加圧ゼロが基本です。
誤り② 測定直前の消毒・清拭
感染管理の観点からアルコール綿で測定部位を清拭したくなるのは自然な発想ですが、アルコールは角質層の脂質を溶解し、TEWLを一時的に上昇させます。清拭後30分以上経過してから測定する必要があります。
誤り③ 同一被験者でも時間帯を統一しない
TEWL値には日内変動があり、午前と午後では最大20%異なることが報告されています。経時的に追跡するデータを取る場合、時間帯を統一することは必須条件です。
誤り④ 生理周期・季節変動の未考慮
女性被験者では月経周期によってTEWL値が変動します。また冬季は夏季に比べてTEWLが低く出やすく、施設の空調状態による差も加わります。研究目的であれば測定時期の記録は欠かせません。
誤り⑤ プローブの校正不足
Tewameter®などのオープンチャンバー式機器は、定期的なキャリブレーションが必要です。メーカー推奨では3〜6ヶ月ごとの校正が原則ですが、日常業務に追われて省略されるケースが散見されます。校正記録の管理は忘れがちですね。
以下は、測定の再現性を高めるためのチェックリストです。
このチェックリストを測定プロトコルに組み込むだけで、施設内のデータ品質が大幅に向上します。チーム全体で共有しておくのが理想です。
参考:International Guidelines for TEWL measurement(EEMCO Group)
参考:Courage + Khazaka社 Tewameter® 製品情報・測定プロトコル
Courage + Khazaka|Tewameter® TM 300 製品ページ(英語)