化粧品を多く使うほど肌は良くなるどころか、バリア機能を壊して炎症を起こします。
スキンケア市場には無数の製品があふれていますが、医学的に効果が証明された成分は、実はごく限られています。米ノースウェスタン大学の研究チームが実施した大規模調査では、全米のトップ皮膚科医62人を集め、318種類もの成分を精査した結果、「強い合意が得られた成分」はわずか23種類にとどまりました(Journal of the American Academy of Dermatology, 2025年7月号)。
この数字は、318種類中の約7%です。つまり、市場にある化粧品成分の9割以上は「専門家が推奨するに足る十分なエビデンスがない」ということになります。意外ですね。
研究では「デルファイ法」と呼ばれる評価手法を使用し、専門家が各成分を1〜9のスケールで採点し、繰り返し意見交換を行いながら合意を形成しました。最終的に残った23種類の代表的な成分は以下のとおりです。
医療従事者が患者さんやスタッフへのスキンケア相談に応じるとき、これらの成分名を把握しておくと的確なアドバイスが可能です。これは使えそうです。
調査を主導したアラム医師(ノースウェスタン・メディシン)は「スキンケアにおいては、たくさん使えばいいわけではない」とも強調しています。成分を絞り込み、悩みに対応した製品を選ぶことが、科学的なスキンケアの基本です。
参考:米皮膚科医62名の合意形成調査(2025年)にもとづく解説記事
実際に効くスキンケア成分が判明 大規模調査で皮膚科医が合意|Newsphere
大学の皮膚科学研究室は、医療現場と化粧品開発の両方に深く関わっています。日本医科大学皮膚科学教授の船坂陽子先生は、神戸大学大学院での研究・米国イエール大学への留学を経て、国内でいち早くハイドロキノンによるシミ治療やケミカルピーリングを導入した先駆者です。
ハイドロキノンはアメリカでは1950年代から使われていた「世界最強の美白剤」ですが、日本では長い間「副作用がある」という認識から使われてきませんでした。船坂先生が大学病院でエビデンスに基づく安全な使用法を確立したことで、科学的根拠ある美白治療が普及しました。これはまさに大学研究が臨床に落とし込まれた好例です。
ケミカルピーリング(グリコール酸を使った古い角質の除去)もそうです。船坂先生はそのメカニズムを研究で解明し、日本人の皮膚に適した治療条件を明らかにしました。その後エステなどでの安易な施術が広まり、国民生活センターへの被害相談が急増したことを受け、日本皮膚科学会がガイドライン(2001年)を制定。大学発の知識が、社会全体のケア標準を守る役割を果たしました。
皮膚科学が専門かどうかにかかわらず、医療従事者が「大学研究で何が明らかになっているか」を押さえておくことは、患者さんへの信頼性の高いアドバイスに直結します。大学発の知識が原則です。
現在も東京大学皮膚科学教室(佐藤伸一教授)ではCBD(カンナビジオール)の皮膚バリアへの効果研究、岐阜大学大学院医学系研究科(岩田浩明先生)では医療従事者が美容専門知識を身につける必要性に関する研究レポートが発表されるなど、大学と化粧品科学の連携はどんどん深まっています。
参考:日本医科大学皮膚科学教授・船坂陽子先生のインタビュー
科学的根拠に裏付けられた美容皮膚科学の実践へ|日本医科大学 hippocrates
多くの人が「化粧水をたっぷりつけるほど肌が潤う」と思っています。しかし大学・医療機関の研究はこれを真っ向から否定しています。
花王株式会社の研究など複数の臨床データが示すとおり、化粧水を過剰に塗布しても、角層が吸収できる水分量には限界があります。さらに肌が水分を過剰に含んだ状態(いわゆる「浸軟」状態)になると、バリア機能を担うセラミドなどの細胞間脂質が失われやすくなります。結果として、刺激成分が侵入しやすくなり、炎症やニキビ、乾燥の悪化につながるのです。
カリフォルニア大学の皮膚科学研究では、「適切な保湿を継続することでシワの進行を30%以上遅らせられる」と報告されています。ここで重要なのは「適切な」という言葉です。過剰保湿ではありません。
また、洗顔のしすぎも同様のリスクがあります。物理的な摩擦刺激でバリア機能が破壊されると、水分や皮脂が逃げてかえって乾燥が悪化します。厳しいところですね。
医療従事者として患者さんへスキンケアを指導する際は、「使う量と回数」についても具体的に言及することが大切です。1回の使用量は化粧水であれば500円玉大程度、ハンドクリームであればパール粒1個分が目安とされています。スキンケアの量が気になる場合は、製品の公式サイトや皮膚科医が監修する情報源で一度確認することをおすすめします。
| スキンケアのNG行為 | 引き起こすリスク |
|---|---|
| 化粧水の過剰塗布 | バリア機能低下・刺激成分の侵入 |
| 洗顔しすぎ(ゴシゴシ洗い) | 皮脂・水分の喪失・炎症リスク |
| スクラブの多用 | 角質層の過剰除去・敏感肌化 |
| 複数成分の同時使用(相性無視) | 刺激増強・肌荒れ・赤み |
2024年度の国内ドクターズコスメ市場規模は1,239億円(矢野経済研究所, 2026年1月発表)に達しました。これは前年度比100.3%と微増ながらも、市場全体として着実な拡大が続いています。2025年度は1,269億円に達すると同所は予測しています。
東京ドームの建設費(約350億円)と比較すると、この市場は東京ドーム約3.5棟分を超える経済規模です。つまり「科学的根拠に基づく化粧品」の需要は、医療費補助とは別に、社会の中で確固たる地位を築きつつあります。
ドクターズコスメの定義は「医師が開発・研究に参加している、または医療施設で販売・紹介される化粧品」です(矢野経済研究所による定義)。皮膚科・整形外科・美容外科など医療施設を通じた「医家向けルート」は特に成長が顕著で、コロナ禍以降の美容医療需要拡大が追い風になっています。
医療従事者にとって、これらの違いを患者さんに明確に説明できることは、信頼関係の構築につながります。特に「皮膚科医が監修したから必ず安全・有効」とは限らず、個々の肌質・悩みに合わせた選択が重要です。患者さんから製品について相談があった際は、成分を確認する習慣を持ちましょう。
参考:ドクターズコスメの市場規模に関する最新調査レポート
ドクターズコスメ エビデンス志向と美容医療需要が下支え 1239億円|ヒフコNEWS
成分を理解せず複数のスキンケアを組み合わせると、思わぬ刺激やトラブルを招くことがあります。この点は医療従事者にとって特に重要な知識です。患者さんやスタッフからスキンケアの相談を受ける機会は、診療科にかかわらず少なくありません。
注意すべき代表的な「組み合わせのリスク」を整理します。
医薬部外品として認可されているナイアシンアミドの濃度は、日本では5%前後が基準とされています。濃度が高ければよいわけではない、ということです。これが原則です。
大学の皮膚科学研究が進んできた背景には、こうした「成分の組み合わせ安全性」を患者さんに正しく伝えるための根拠づくりという側面もあります。医療従事者が知識をアップデートし続けることで、患者教育の質も高まります。スキンケア指導の際は、使用する成分の種類を最低限に絞り込むことが、皮膚科学的に見ても合理的です。
日本皮膚科学会が公開している美容診療指針や各学会の診療ガイドラインも、スキンケア指導の参考として活用できます。
参考:日本皮膚科学会の美容医療診療指針(PDF)
美容医療診療指針|日本皮膚科学会(公式PDF)