ボトル包装が販売中止になったからといって、PTP包装に黙って切り替えるだけでは、患者の服薬継続を危うくすることがあります。
「ベムリディ錠が販売中止」という情報が伝わる中で、現場では「もう手に入らないのか」と誤解する声も聞かれます。ここは正確に整理しておきましょう。
製造販売元のギリアド・サイエンシズは、2024年5月7日付けでボトル包装(バラ30錠×1瓶、薬価27,105円)の出荷終了を告知し、2024年6月頃をもって在庫消尽後に販売中止としました。重要なのは、この措置はボトル包装に限定されているという点です。
一方で、PTP包装は2024年2月13日に新たに発売が開始されており、現在もギリアド・サイエンシズから継続して出荷されています。つまり、ベムリディ錠25mgという医薬品そのものが市場から消えたわけではありません。これが原則です。
ただし、ボトル包装が廃止された背景として、過去に中国での偽造品問題(2017年)があり、PTP包装への一本化によって視認性の向上や偽造防止効果が期待されている点も見逃せません。ボトル→PTPへの移行には製品管理上の意図があります。
薬価は1錠903.5円(2024年9月改訂・第3版添付文書より)。1日1錠服用のため、月30日換算で約27,105円が処方コストとなります。高額薬剤であることを踏まえると、供給情報は早期に正確に把握する必要があります。
参考情報:DSJPによるベムリディ錠25mgのボトル包装販売中止告知の詳細(告知日・薬価・包装情報)を確認できます。
ベムリディ錠25mgの一般名は「テノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)」で、抗ウイルス化学療法剤に分類されます。効能・効果は「B型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性肝疾患におけるB型肝炎ウイルスの増殖抑制」です。これが基本です。
TAFは従来薬であるテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)のプロドラッグとして開発されました。TDFとの大きな違いは、血漿中での安定性が高く、効率的に肝細胞へ送達されるため、TDFの約12分の1(25mg vs 300mg)の用量で同等の抗ウイルス効果を発揮できる点です。
腎機能・骨密度への影響も異なります。TAFはTDFと比べて血漿中テノホビル濃度が約89%低く(添付文書 薬物動態より)、腎毒性や骨密度低下のリスクが有意に少ないことが第3相臨床試験で示されています。腎機能障害リスクのある患者や高齢患者では、この差が治療選択の重要な根拠になります。
実際に、2026年2月発表の後ろ向きコホート研究でもTAF群はTDF群と比較して腎機能マーカーの改善が優位であったと報告されており、TDF→TAF切り替えの有用性が実臨床でも裏付けられています。意外ですね。
なお、用法・用量は「通常、成人には1回25mgを1日1回食後経口投与」です。食後投与が原則なのは、空腹時投与に比べてAUC(薬物曝露量)が約1.7倍高くなるためです(添付文書 表2より)。食後投与の指導は忘れずに行ってください。
参考情報:TAFとTDFの腎・骨安全性と抗ウイルス効果を比較した実臨床データ(2026年2月報告)を参照できます。
CareNet Academia|慢性B型肝炎治療薬TAF、TDFより腎・骨安全性で優位
ボトル包装からPTP包装への変更は、患者にとって見た目も取り出し方法も全く異なります。この変化を丁寧に説明しないまま交付すると、服薬ミスやアドヒアランス低下につながります。厳しいところですね。
まず確認すべきは「1包化の可否」です。ボトル包装のベムリディは、バラ包装のためそのままボトルごと交付する運用が一般的でした。PTP包装に移行した場合、錠剤をPTPシートから取り出して服用するよう指導することが添付文書(14.1 薬剤交付時の注意)に明記されています。PTPシートを誤飲すると硬い鋭角部が食道粘膜を傷つけ、縦隔洞炎などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあるためです。
次に押さえておきたいのが、包装変更時の患者への説明内容です。具体的には以下の3点を伝えることで、患者の混乱を最小限に抑えられます。
また、多剤服用の患者で「1包化」指示が出ている場合は、ベムリディのPTP包装への切り替えにより、1包化の可否について処方医への確認が必要になるケースもあります。自動的に対応を変えるのではなく、必ず確認するという姿勢が重要です。これが条件です。
包装変更に際して患者が戸惑いを感じやすい時期に、薬局・病院双方でアドヒアランス確認の機会を意識的に設けるのが望ましい対応です。
ボトル包装の販売中止はPTP包装への移行で解決しますが、現場では「このタイミングで代替薬への切り替えを検討すべきか」という疑問が生まれることがあります。これはどう判断すればよいでしょうか?
まず確認しておくべきは、ベムリディ(TAF)自体の供給は継続しているという事実です。包装形態の変更は代替薬への切り替えを検討する医学的理由にはなりません。日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン第4版」では、B型慢性肝疾患における核酸アナログ製剤の第一選択はエンテカビル(ETV)またはテノホビル(TDF/TAF)とされており、TAFは現行ガイドライン上も主要な選択肢の一つです。
代替薬への切り替えを医学的に検討する状況としては、腎機能の悪化(クレアチニン・クリアランスが15mL/分未満への低下)が典型的です。この場合は添付文書(7.3)でも投与中止を考慮するよう明記されています。逆に、腎機能が正常範囲に保たれており、抗ウイルス効果も維持されているならば、包装変更を理由に薬剤を変える必要はありません。
なお、TAFとの併用禁忌薬には「リファンピシン」と「セント・ジョーンズ・ワート含有食品」があります(禁忌:2.2)。これらを使用中の患者では代替薬への切り替えが必要になることがあるため、処方歴と生活習慣の確認が欠かせません。
また、TDF使用中の患者をTAFへ切り替えるかどうかについて、韓国の全国調査(2025年報告)では実臨床における切り替え率が1.4%にとどまっているという報告もあります。腎機能や骨密度リスクを踏まえた個別判断が求められるということですね。
参考情報:日本肝臓学会によるB型肝炎治療ガイドライン第4版(核酸アナログの選択・中止基準を詳説)
日本肝臓学会|B型肝炎治療ガイドライン第4版(簡易版)PDF
販売中止に伴う包装変更は、医療従事者にとっては「軽微な変更」に見えます。しかし患者の目線では、「薬の見た目が変わった=処方が変わったかもしれない」と感じて自己判断で服用をやめてしまうことが現実に起きています。これはまさに"無自覚な中断"と呼ぶべき問題です。
核酸アナログ製剤の服薬中断がもたらすリスクは、添付文書(1. 警告)にも明確に記載されています。「本剤は、投与中止により肝機能の悪化又は肝炎の重症化を起こすことがある」という記述は、軽く読み流してはいけない内容です。
実際、Alimentary Pharmacology & Therapeutics誌(2025年5月)に掲載された多施設後ろ向きコホート研究では、核酸アナログ治療の中断がHBV関連急性慢性肝不全(HBV-ACLF)患者の90日死亡率を1.6倍に高めると報告されています(ハザード比1.610、95%CI:1.095–2.365)。この研究は中国の4つの三次医療機関のデータに基づくものですが、数字の重みは無視できません。
さらに、治療終了後の肝炎急性増悪は投与中のみならず投与終了後数ヵ月間にわたって起こりうることが知られており、治療中止に際しては少なくとも数ヵ月間の臨床的・検査的観察継続が必要とされています(添付文書 8.2)。痛いですね。
こうした背景から、ボトル包装→PTP包装の切り替えを「製品の変更」として捉え、患者が服薬をいったん止めてしまうリスクを意識して先手を打つことが重要です。具体的には、包装変更前に「次回からPTPシートになりますが、中の薬は全く同じです。絶対に自分で判断して止めないでください」という一言を添える、これが服薬継続の最も有効な橋渡しになります。
包装の変更前後に処方箋に記載される薬品名・規格が変わっていないかを再確認することも、薬局・病棟での誤認防止につながります。「ベムリディ錠25mg PTP」と明記されたラベルが患者に届く体制を整えることが、安全管理の最後の砦になります。
参考情報:核酸アナログ治療中断と急性慢性肝不全患者の死亡リスクに関する研究(2025年5月報告)
CareNet Academia|B型肝炎治療中断、急性慢性肝不全患者の死亡リスクを1.6倍に高める