DIHS(薬剤性過敏症症候群)では、あなたが急性期にDLSTを出すほど陰性になりやすく、診断を見逃すリスクがあります。
DLST(Drug-induced Lymphocyte Stimulation Test)とは、薬剤誘発性リンパ球刺激試験の略称で、日本国内で広く用いられる呼称です。海外では同一の検査をLTT(Lymphocyte Transformation Test)と呼ぶため、文献を参照する際は両方の名称を確認しましょう。
基本原理はシンプルです。患者から採血した末梢血の単核球(主にTリンパ球)に、被疑薬剤を添加して72時間程度培養します。その後、放射性物質のトリチウムチミジン(³H-チミジン)を16時間加えて反応させ、DNAへの取り込み量を液体シンチレーションカウンターで計測します。感作が成立したTリンパ球が薬剤に反応して増殖した場合、DNA合成が高まり、チミジンの取り込みが増えます。この増殖反応を数値化して判定に用います。
DLSTが有用なのはⅣ型(遅延型)アレルギーが疑われる場面です。Tリンパ球が関与するアレルギー反応を評価する検査であるため、IgEが主役となるⅠ型(即時型)アレルギーの一次検査としては用いません。薬疹や薬剤性肝障害のように遅発型の免疫応答が関わる病態に使う検査だということですね。
実際の増殖を担う細胞について補足しておきます。末梢血単核球にはTリンパ球・Bリンパ球・NK細胞・単球などが含まれますが、薬剤に直接反応するのはTリンパ球です。ただし、Tリンパ球が活性化されるには抗原提示細胞(単球・樹状細胞前駆細胞など)の補助が必要であり、一つの薬剤特異的Tリンパ球が反応するとIL-2などのサイトカインを介して周囲のリンパ球も増殖します。つまり、少数のT細胞が反応を増幅させる仕組みになっています。
産業医科大学・戸倉新樹教授による「薬剤アレルギーにおけるDLST」(DLSTの原理・T細胞サブセットとの関係を詳説)
検査の実施手順を、順を追って確認していきます。
まず採血量は、1薬剤につき12mLが基本です。2薬剤目からは1薬剤増えるごとに5mL追加します。つまり2薬剤なら17mL、3薬剤なら22mLとなる計算です。採血管はヘパリン加またはEDTA加のものを使用します。注意点として、ヘパリン自体が被疑薬の場合は専用容器が必要になります。また、白血球数(リンパ球数)が少ない患者では1薬剤あたり500万個のリンパ球が必要なため、採血量を2倍程度に増やすことを検討してください。
採血と同時に、被疑薬の現物も検査室に一緒に提出します。これはDLSTの大きな特徴の一つです。必要量の目安は以下のとおりです。
| 剤形 | 必要量 |
|---|---|
| 錠剤 | 1錠 |
| カプセル剤 | 1カプセル |
| 散剤・粉末 | 1回投与量程度(1包) |
| 液剤(内服) | 約0.5mL |
| 注射薬 | 1バイアル(アンプル) |
採血後は速やかに搬入することが重要です。検体は採取当日中に検査室へ提出するのが原則です。凍結は厳禁で、リンパ球が死滅してしまいます。冷蔵保存で搬送し、外注の場合は24時間以内に検査室へ届くよう手配します。受託可能日が月〜金に限られる検査機関が多いため、曜日の確認も忘れずに行ってください。
検査室では、比重遠心法(フィコール法)でリンパ球を含む単核球を分離し、96ウェルプレートで複数の薬剤濃度条件下(Cmaxの1/10・1・10倍など)で3〜6日間培養します。最後の12〜18時間でトリチウムチミジンを添加し、シンチレーションカウンターで放射活性を測定します。これが検査の全工程です。
SRL総合検査案内 DLST検索ページ(採血量・提出条件・受付曜日などの実務情報)
結果が返ってきたとき、「陽性」「陰性」とは書かれていないことに戸惑う場合があります。つまりレポートには、数値としてcpm値とSI値が記載されています。
cpm(counts per minute)は、リンパ球に取り込まれたトリチウムチミジンの放射活性を示す値で、1分間あたりのカウント数を表します。この数値が高いほどリンパ球の増殖が旺盛だったことを意味します。
SI値(Stimulation Index)は以下の式で求めます。
$$\text{SI値} = \frac{\text{薬剤添加群のcpm}}{\text{コントロール群(薬剤無添加)のcpm}}$$
SI値そのままではなく、SI値×100の計算結果が180以上のとき陽性と判定します。たとえばSI値が2.0なら200となり陽性、1.5なら150で陰性です。この判定基準はすべての施設で統一されているわけではなく、施設によって異なる場合があることは把握しておく必要があります。海外の文献では「SI≥2」を陽性基準とするものもあります。
結果の解釈には注意が必要です。陽性だからといって「原因薬確定」とはいえませんし、陰性だからといって「原因薬ではない」とも言い切れません。DLSTの陽性率は薬疹全体で約40〜60%と報告されており、つまり本当に原因薬であっても半数近くで陰性になる可能性があります。コントロール群のcpm値が非常に低い場合は参考データにとどめることも重要です。
結果の解釈は慎重にが基本です。病歴の詳細、薬剤の投与・中止時期との時間的関係、皮膚症状の経過、他の検査との整合性を合わせて総合的に判断します。
DLSTに対応できない薬剤があります。これが原則です。
まず麻薬・覚せい剤原料は検査が不可能です。麻薬及び向精神薬取締法・覚醒剤取締法上の規制により、検査機関が受領できません。向精神薬は検査可能ですが、受領記録の作成が必要です。脂溶性の高い成分や溶解性の低い製剤(坐薬・一部のシロップ剤など)は、培養液に溶けにくいため反応が弱くなり、検査に適さないことがあります。皮内反応注射薬や希釈された注射薬も濃度が薄く反応が出づらいため、錠剤・カプセルでの代用を検討します。
次に、偽陽性を起こしやすい薬剤が複数報告されています。
| 偽陽性を起こしやすい薬剤 | 理由 |
|---|---|
| 漢方薬・植物製剤 | 免疫賦活作用による非特異的刺激 |
| バンコマイシン | 非特異的リンパ球刺激 |
| βラクタム系抗菌薬 | 非特異的リンパ球刺激 |
| 抗代謝薬(5-FUなど) | ³H-チミジンの取り込み経路を活性化 |
| NSAIDs | 非特異的刺激傾向 |
| カルバマゼピン・フェニトイン | 薬剤自体がリンパ球を非特異的に刺激 |
偽陰性が起きる主な原因は、「採血タイミングが急性期に集中している」「ステロイドや免疫抑制剤を使用中」「薬物の代謝産物が真の抗原である」「患者の白血球数が少ない」などが挙げられます。これらの条件が重なると、アレルギーがあっても陰性となる可能性があります。意外ですね。
免疫抑制状態の患者にDLSTを行う場合には、偽陰性リスクを念頭に置いた解釈が不可欠です。可能であれば、ステロイドが十分に減量・中止された回復期に検査を実施するのが望ましいとされています。
くすりプロ「DLSTとは?押さえておきたい10のポイント」(不向きな薬剤・偽陽性薬剤リストを含む実務解説)
DLSTを行う最適なタイミングは、薬疹の型によって大きく異なります。これは多くの医療従事者が見落としがちな点です。
一般的な薬疹(播種状紅斑丘疹型・SJS/TENなど)は、発症後1週間以内の急性期にDLSTを行うと陽性になりやすいとされています。発症初期からリンパ球の感作が成立しており、採血によって反応が得られやすい時期です。
一方で、DIHS(薬剤性過敏症症候群、別名DRESS)は全く異なります。DIHSでは発症直後の急性期に採血をしても陰性になることが多く、発症後1ヶ月以上が経過した回復期に初めて陽性となる症例が多く報告されています。実際に、DIHSの急性期のDLST感度は約40%・特異度は約30%であるのに対し、回復期では感度73%・特異度82%と大幅に改善するという研究結果があります。
この差はなぜ生まれるのでしょうか? DIHSでは発症機序にウイルス(HHV-6など)の再活性化が関与するため、急性期は免疫系が複雑に乱れており、薬剤に特異的なT細胞応答が適切に評価できない状態にあります。軽快後に免疫バランスが整ってから初めて薬剤特異的リンパ球の増殖が確認できるようになります。
つまり「発症直後に検査して陰性だったから原因薬ではない」という判断は、特にDIHSにおいては危険な誤りです。また、全身ステロイドや強力な免疫抑制剤を使用中は、リンパ球の増殖反応自体が抑制されるため偽陰性のリスクがさらに高まります。
検査を依頼する際は、薬疹の疑い病型と採血時期を必ず記録し、主治医・皮膚科医・検査担当者間で情報共有することが重要です。
DLST検査の保険点数は調べる薬剤数によって異なります。現行の診療報酬では以下のとおりです。
| 検査薬剤数 | 保険点数 | 3割負担時の患者負担目安 |
|---|---|---|
| 1薬剤 | 345点 | 約1,035円 |
| 2薬剤 | 425点 | 約1,275円 |
| 3薬剤以上 | 515点 | 約1,545円 |
保険適用となるのは、薬疹を目的とした検査のみです。薬剤性肝障害の原因薬特定を目的とした場合は、現時点では保険適用外となり自費診療になります。この点は実際の医療現場で混同されやすく、レセプト審査でも問題になりやすいため注意が必要です。
検査に使用した被疑薬の薬剤費について、別途保険請求できない点も確認しておきましょう。DLSTはin vitro検査であり、患者への直接投与(施用)ではないため、診療報酬の「検査に当たって患者に対し薬剤を施用した場合」の要件を満たさないと解釈されています。薬剤費は検査点数に含まれるという考え方です。
このルールを知らずに被疑薬を薬剤料として別途算定してしまうと、レセプト返戻の原因になります。請求前に必ず確認しておきたいポイントです。
また、依頼する場合に複数の被疑薬がある場合は、優先順位を明示して提出するよう求められることがあります。2薬剤目以降の処理は1薬剤目と同時に行われるため、優先度の高い薬剤から正確に指定することが確定診断の精度を上げることにつながります。
今日の臨床サポート D016 細胞機能検査(DLST保険点数の算定区分・注釈を掲載)