筋肉内注射を選んでいると、患者に末梢壊死が起きるリスクがあります。
ホリゾン注射液 10mgの有効成分はジアゼパム(Diazepam)10mgで、1管2mL製剤です。製造販売元は丸石製薬株式会社で、2012年10月に現在の形で発売されています。規制区分は「向精神薬・処方箋医薬品・習慣性医薬品」であり、厳格な管理が求められます。
脳内のベンゾジアゼピン受容体(GABA-A受容体複合体)に作用し、GABAの抑制作用を増強することで神経細胞の過剰興奮を抑制します。抗不安・鎮静・筋弛緩・抗痙攣という4つの主要作用を持ち、幅広い臨床場面で使用されます。
承認されている効能・効果は以下の3つに大きく分類されます。
- 神経症の不安・緊張・抑うつに対する薬物療法
- 麻酔前、麻酔導入時、術後、アルコール依存の離脱症状、分娩時における不安・興奮・抑うつの軽減
- てんかん様重積状態・有機リン中毒・カーバメート中毒における痙攣の抑制
つまり、緊急場面から周術期管理まで幅広い適応があります。
薬価は1管83円(10mg1管)と比較的低廉ですが、向精神薬としての在庫管理・記録義務は厳守が必要です。なお、第3種向精神薬としての薬局間譲渡・譲受けは可能ですが、記録の保持が望ましいとされています(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課の手引きに準拠)。
成人への標準的な用法・用量は、「初回2mL(ジアゼパムとして10mg)を筋肉内または静脈内にできるだけ緩徐に注射し、以後必要に応じて3〜4時間ごとに繰り返す」とされています。重要なのが投与速度です。
静脈内注射は必ず2分間以上かけて行うことが求められています。これは非常に具体的な数字であり、医療現場での"なんとなく緩徐に"では不十分です。2分間でゆっくり投与する、というのは2mLの液体を2分かけて押し込むことを意味し、秒針を確認しながら実施する必要があります。
なぜこれほど時間にこだわるかというと、本剤の浸透圧比が生理食塩液に対して約27〜30という高張液だからです。この数値がどれほど高いかというと、生理食塩液の浸透圧比は1であり、ホリゾン注射液はその27〜30倍に相当します。細い静脈や急速注射はただちに血栓性静脈炎を引き起こすリスクがあります。
血管痛・静脈炎の予防ポイントをまとめると、以下のとおりです。
- なるべく太い静脈(肘正中皮静脈など)を選択する
- 2分間以上かけてゆっくりと注射する
- 同一部位への繰り返し注射を避ける
血管痛軽減の工夫として、リドカインの前投与やドロペリドールの前投与が有効との報告があります(丸石製薬MR情報・医学文献より)。臨床現場では「1%キシロカイン数mLを事前に静注してからホリゾンを注射する」方法が実践されることもあります。
また、投与経路の優先順位についても正確に理解しておく必要があります。
| 投与経路 | 位置づけ |
|----------|----------|
| 静脈内注射 | 原則(第一選択) |
| 筋肉内注射 | やむを得ない場合のみ・必要最小限 |
| 乳幼児・新生児・低出生体重児への筋注 | 禁忌 |
筋注は「原則禁忌に近い」扱いです。これが基本です。
投与前に必ず確認が必要な禁忌事項が4項目あります。見落とすと重篤な有害事象に直結します。
①急性閉塞隅角緑内障:本剤の抗コリン作用が眼圧を上昇させ、症状を悪化させます。「緑内障があるから」とまとめて除外するのは誤りで、閉塞隅角(特に急性)が問題です。
②重症筋無力症:ジアゼパムの筋弛緩作用が直接病態を悪化させます。呼吸筋への影響が特に危険です。
③ショック・昏睡・バイタルサインの悪い急性アルコール中毒:頻脈・徐脈・血圧低下・循環性ショックが生じます。アルコール中毒だからといって鎮静目的で安易に使用してはいけません。
④リトナビル(HIV治療薬)またはニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッド)を使用中の患者:CYP450の競合的阻害によりジアゼパムの血中濃度が著しく上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制を引き起こします。COVID-19治療で使われるパキロビッドも含まれる点は見逃しやすいです。
次に、配合禁忌(混合禁止)についても明確にしておく必要があります。
本剤は「他の注射液と混合または希釈して使用しないこと」と添付文書に明記されています。理由はジアゼパムが水に難溶性のため、有機溶媒(プロピレングリコール)に溶解して製剤化されているからです。他の水性注射液と混合すると、即座に白濁が生じます。白濁した液は絶対に使用できません。
これは意外と見逃されやすい点です。生理食塩液で希釈して点滴にしようとした場合も同様に白濁します。配合可能な注射剤はゼロです。
今日の臨床サポート:ホリゾン注射液10mgの禁忌・配合変化・用法・副作用の全情報(医療従事者向け)
副作用の中で特に注意が必要なものから整理します。
重大な副作用は4つです。①依存性(連用による薬物依存)、②舌根沈下による気道閉塞・呼吸抑制、③刺激興奮・錯乱、④循環性ショック。これらはいずれも頻度不明ながら、発現した際の重症度は高く、発見が遅れると生命リスクに直結します。
5%以上の頻度で現れる副作用は「眠気」のみです。これが基本です。しかし重篤な副作用は低頻度でも突然起こりうるため、投与後の呼吸・循環モニタリングは必須です。
副作用の頻度別一覧を示します。
| 頻度 | 副作用 |
|------|--------|
| 5%以上 | 眠気 |
| 0.1〜5%未満 | ふらつき、眩暈、頭痛、血圧低下、悪心・嘔吐、便秘、口渇、倦怠感、脱力感 |
| 頻度不明 | 失禁、言語障害、歩行失調、振戦、複視、霧視、眼振、失神、多幸症、黄疸、顆粒球減少、白血球減少、頻脈、徐脈、食欲不振、発疹、浮腫 |
高齢者への投与では、特別な注意が必要です。意外ですね。一見「少量なら問題ない」と思われがちですが、健康高齢男性と非高齢者を比較した薬物動態データでは、高齢者の分布容積・消失半減期がいずれも非高齢者の約2倍になることが報告されています(丸石製薬インタビューフォーム参照)。
つまり、薬が体内に2倍の時間滞留するということです。活性代謝物(N-デスメチルジアゼパム)も薬理活性を持ち、反復投与により蓄積が顕著になります。消失半減期は非高齢者でも9〜96時間と幅があり、高齢者ではさらに延長するため、翌日以降も過鎮静が持続するケースがあります。
厳しいところですね。
その他、慎重投与が必要な特殊患者は以下のとおりです。
- 心障害のある患者:症状が悪化するおそれがある
- 脳に器質的障害のある患者:作用が強くあらわれる
- 高度重症患者・呼吸予備力の制限されている患者:静脈内投与時に無呼吸・心停止が起こりやすい
- 腎機能障害・肝機能障害患者:排泄が遅延し蓄積するおそれがある
- 妊婦:奇形児出産リスクの疫学報告あり、有益性が危険性を上回る場合のみ投与
- 授乳婦:母乳中に移行し新生児に嗜眠・体重減少・黄疸増強のおそれがあるため授乳を避けること
過量投与が明白または疑われる場合の対処として、フルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)の投与が選択肢として明示されています。ただし、フルマゼニルを使用する前に必ずその添付文書を確認してから投与するよう、ホリゾンの電子添文でも注意喚起されています。
フルマゼニルの作用持続時間はジアゼパムより大幅に短いため、フルマゼニル投与後に再鎮静が起こるリスクがある点は押さえておく必要があります。再鎮静の観察のために投与後も一定時間のモニタリングが必要です。
また、有機リン中毒・カーバメート中毒に対してホリゾンを投与する際は、以下の手順を守ることが必須です。
1. 必ず呼吸状態の把握と気道確保を先行して行う
2. アトロピンおよびプラリドキシムを投与した上でホリゾンを追加投与する
3. 本剤は直接的な解毒作用を持たない点を認識する
これは使えそうです。
連用による依存形成への注意も重要なポイントです。漫然とした長期連用は薬物依存を引き起こします。連用中に急激に減量または中止すると、痙攣発作・せん妄・振戦・不眠・不安・幻覚・妄想などの離脱症状が出現することがあります。中止する場合は必ず徐々に減量する原則があります。
向精神薬としての保管・管理においても、麻薬と比べると管理は緩和されていますが、在庫記録と定期的な残量確認は実施することが求められます。第3種向精神薬に該当し、調剤記録の保存が義務付けられています。
最後に、薬液の変色(黄色化)についても現場で問い合わせが多い事項です。ジアゼパムは製造直後から経時的に黄色く変色しますが、これは加水分解物(MACB)によるもので、急性毒性に差はなく使用可能と丸石製薬の社内データで確認されています。一方、他剤との混合による白濁は絶対に使用不可であり、黄変と白濁を混同しないようにすることが重要です。
丸石製薬公式サイト:ホリゾン注射液10mgの詳細Q&A・電子添文・患者向けガイドのダウンロードページ
丸石製薬インタビューフォーム(2024年1月改訂):薬物動態・高齢者データ・配合変化の詳細情報