特定のアレルゲンに対するspecific IgEが陰性でも、ImmunoCAP ISACが感作を検出するケースが報告されています。
参考)4 Outcomes
ImmunoCAP ISAC(Immuno Solid-phase Allergy Chip)は、サーモフィッシャーサイエンティフィックが開発したマルチプレックス特異的IgE検査です。 バイオチップ上に51種のアレルゲン源由来の112種のアレルゲンコンポーネントが固定されており、患者の血清中のspecific IgEがそれぞれのスポットに結合します。 結合したIgEは蛍光標識抗ヒトIgE抗体で検出され、結果はISAC Standardized Units(ISU)で報告されます。thermofisher+2
必要血清量はわずか30µL(約1滴)です。 これはコーヒースプーン1杯の約60分の1という超微量で、小児や採血困難な患者でも毛細管血が利用可能です。 つまり「採血量が少なくてできない」は言い訳にならないということです。abacusdx+1
従来の単項目CAP法(クラス1〜6で定量)とは異なり、ISACはセミ定量的な測定です。 検出範囲が限られる点と、単項目検査よりコスト高になる点は、臨床導入前に理解しておく必要があります。
| 項目 | ImmunoCAP 単項目 | ImmunoCAP ISAC |
|---|---|---|
| 同時測定数 | 1〜数項目 | 112コンポーネント |
| 必要血清量 | 〜1mL以上 | 30µL |
| 定量性 | 定量(kUA/L) | セミ定量(ISU) |
| CCD干渉 | あり | あり(ISAC固相由来) |
| エビデンス数 | 多数 | 260件超の査読論文 |
112種のアレルゲンコンポーネントは、臨床文献のエビデンスに基づき厳選されています。 単なる「よく見るアレルゲン」の寄せ集めではなく、全身性反応リスクの評価、アレルゲン免疫療法(AIT)の適応判断、交差反応性の鑑別という3つの臨床目的を達成するために構成されています。
アレルゲン源としては食品(ピーナッツ・牛乳・卵・小麦など)、吸入アレルゲン(ダニ・花粉・カビ)、昆虫(蜂毒)など48〜51種に及びます。 たとえばピーナッツアレルギーでは、Ara h 1・Ara h 2・Ara h 3・Ara h 8・Ara h 9など複数のコンポーネントが含まれており、交差反応性プロファイルの詳細な解析が可能です。arzthaus+1
これは使えそうです。
1種類のアレルゲンに見えても、実際には複数の感作経路が重なっている「多重感作」のケースで、ISACは真の原因アレルゲンを絞り込む強力なツールになります。 識別困難なアレルギーの患者でISAC追加検査を行った結果、20%でアナフィラキシーとの関連が強い新たな感作が発見されたという報告もあります。
参考)https://repub.eur.nl/pub/97397/REPUB_97397.pdf
抗CCD(Cross-reactive Carbohydrate Determinants)IgEが高い患者では、ImmunoCAP固相のセルロース由来のCCDエピトープに非特異的に結合し、偽陽性が生じます。 研究によると、抗CCD IgEが7.0 kUA/L超の患者では90%(29例中26例)で偽陽性が確認されています。 痛いですね。
参考)ImmunoCAP cellulose displays c…
これは、アルコール性肝疾患患者など多価のグリコシル化タンパク質に暴露されやすい集団でより顕著です。 実際にIgE陽性が出ていても、CCD由来の場合は臨床的な症状を引き起こさないことが多く、アレルゲン免疫療法の不適切な選択につながるリスクがあります。jiaci+1
偽陽性リスクが懸念される場面では、CCD阻害剤を用いた前処理や、ALEX²のようなCCD阻害剤内蔵型の次世代マルチプレックス検査との比較が選択肢になります。 ALEX²は295アレルゲン(165アレルゲン源)を測定可能で、CCD阻害剤が内蔵されているため偽陽性の影響を軽減できます。 CCD確認が条件です。
ISACの結果は「感作プロファイル」として構造化レポートで出力されます。 これは一次感作(真のアレルギー原因)と交差反応性感作を区別するための重要な情報を提供します。 つまり「IgE陽性=アレルギー確定」ではないということです。
感作が検出されたからといって、すべてのコンポーネントが臨床的に関連しているとは限りません。 食物アレルギーの系統的レビューでは、ISACの特異度は一般的に感度を上回ることが示されており、これは皮膚プリックテストや従来の単項目specific IgE検査とは対照的な特性です。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cea.13871
アレルゲン免疫療法(AIT)の観点では、ISACで真の感作コンポーネントを特定することで、ダニ・スギ・草花粉など適切なアレルゲンの選択精度が上がります。 識別困難なアレルギー患者へのISAC追加で、32%において追加の感作が発見されAIT処方内容が変更されたという報告があります。 これが診療の質を直接左右します。
| 感作コンポーネントの例 | 臨床的意義 | AIT適応への影響 |
|---|---|---|
| Ara h 2(ピーナッツ) | 全身性反応リスク高 | 経口免疫療法の候補特定 |
| Bet v 1(シラカバ花粉) | PR-10タンパク交差反応の起点 | 花粉AIT有効の指標 |
| Der p 1/2(ダニ) | 通年性吸入アレルゲンの主要感作 | ダニAITの適応確認 |
| nApi m 1(蜂毒) | アナフィラキシーリスク評価 | 昆虫毒免疫療法の選択 |
NICEの系統的評価によると、牛乳アレルギーではISAC 89コンポーネントの感度が78%(Bos d 8)であるのに対し、従来の単項目specific IgE検査の感度は41%にとどまります。 特異度はどちらも96%と同等です。 意外ですね。
一方、卵白アレルギーでは単項目検査の感度が71.1%と高く、ISACコンポーネント(Gal d 1〜4)の感度は17.8〜57.8%と低い結果が報告されています。 検査の感度は疾患・アレルゲンによって大きく異なるということです。
医療現場で見落とされがちな点として、ISACは「広く感作プロファイルを把握する」スクリーニング的役割が強く、特定アレルゲンの確定診断に使う場合は感度の限界を理解した上での解釈が必要です。 NICE(英国国立医療技術評価機構)は2016年の評価ガイダンスで「診断困難なアレルギー患者」への限定的使用を推奨しており、すべての患者への一律適応は想定されていません。 一読して理解できる原則です。nice+1
また、ISACは単項目検査のような絶対定量値(kUA/L)ではなくISU(ISAC Standardized Units)で報告されるため、施設間の数値比較には限界があります。 異なる検査施設からの転院患者の過去データを単純比較することは推奨されません。 ISU値の解釈は文脈が条件です。ltd.aruplab+1
参考:NICE診断ガイダンスDG24「識別困難なアレルギーへのマルチプレックスアレルゲン検査(ImmunoCAP ISAC 112)」
NICE Diagnostics guidance DG24 - ImmunoCAP ISAC 112 for multiplex allergen testing
参考:PubMed掲載のImmunoCAP ISAC食物アレルギー系統的レビュー(感度・特異度データ)
ImmunoCAP ISAC in food allergy diagnosis: a systematic review(Clinical & Experimental Allergy, 2021)
参考:NIHR Health Technology Assessment報告書(多重アレルゲン検査の費用対効果含む系統的評価)
ImmunoCAP ISAC and Microtest for multiplex allergen testing - NIHR HTA Report 2016