カプセルから徐放錠への切り替えは「同じ成分だから問題ない」と思っていると、思わぬ重大な副作用を見落とす可能性があります。
ジソピラミドカプセルは、不整脈治療に長年使用されてきたIa群抗不整脈薬です。ジソピラミドの先発品として広く知られていたリスモダンカプセル(旧ファイザー→ヴィアトリス製薬→チェプラファーム)は、これまでに複数のメーカーから後発品が流通していました。
販売中止は段階的に進んでいます。2022年10月、ヴィアトリス製薬はジソピラミドカプセル50mg・100mg「ファイザー」の販売中止を告知し、経過措置期間満了を2024年3月末と設定しました。複数の後発品メーカーも同時期に撤退しており、沢井製薬やTCKなど各社がカプセル製剤の販売を順次終了しています。
その後、先発品の製造販売承継が行われました。2024年8月、リスモダンカプセルの製造販売承認がチェプラファーム株式会社へ承継されましたが、原薬への異物混入が発覚し、同年3月より出荷停止・限定出荷が継続しました。2025年4月7日より通常出荷が再開されたものの、500カプセル包装については在庫消尽次第(2025年12月を目安)販売を中止することが決定しています。
つまり現在(2026年)の状況をまとめると以下の通りです。
販売中止の理由は「諸般の事情」と公式には案内されており、採算性の低下や原薬調達困難などが背景にあると考えられています。医療現場としては、ジソピラミドカプセルへの依存を見直す転換点にきています。
以下のリンクでは、日本循環器学会が会員向けに発信した公式案内の詳細を確認できます。
日本循環器学会:ジソピラミドカプセル「ファイザー」販売中止予定のご案内(公式)
カプセルから徐放錠に変更する場合、「同じジソピラミドだから大丈夫」という感覚は危険です。これが大前提です。
ジソピラミドカプセル(50mg・100mg)は速放型製剤であり、1日3〜4回分服が基本です。これに対し、徐放製剤であるリスモダンR錠150mgは1日2回投与が標準となっています。単純に「1日量が同じ」だからといって、そのまま置き換えることはできません。
血中濃度プロファイルが変わる点が特に重要です。速放型は投与後に急速に吸収されてピークを形成し、徐放型は緩やかに持続的な濃度を保ちます。心房細動や上室性頻拍などで血中濃度の急激な立ち上がりを期待していたケースでは、徐放錠に切り替えた際に治療効果が変化することがあります。
| 製剤 | 代表的な薬価(1錠/1カプセル) | 投与回数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| リスモダンカプセル100mg(先発) | 31.20円 | 1日3〜4回 | 速放型、吸収が速い |
| リスモダンR錠150mg(先発) | 26.80円 | 1日2回 | 徐放型、血中濃度が安定 |
| ジソピラミド徐放錠150mg「SW」(後発) | 11.80円 | 1日2回 | 徐放型、後発品 |
| ジソピラミドリン酸塩徐放錠150mg「トーワ」(後発) | 11.80円 | 1日2回 | 徐放型、経過措置期限2026年3月末予定 |
なお、東和薬品のジソピラミドリン酸塩徐放錠150mg「トーワ」についても2024年12月に販売中止が告知されており、2026年3月末を経過措置期間満了の目安としています。代替候補品は2025年3月から供給可能とされていますが、切り替え前に最新情報の確認が必要です。
薬価から見ると、後発品の徐放錠(11.80円/錠)は先発品カプセル(31.20円/カプセル)と比べて1剤あたり約60%の薬価削減になります。年間処方で考えると、1日2回×365日で730錠分となり、後発品への切り替えで年間約1万4,000円前後のコスト差が生じる計算です。患者負担軽減の観点からも、徐放型後発品の選択は合理的な判断です。
切り替えが必要な患者に対しては、まず循環器専門医に相談することが原則です。
KEGG Medicus:ジソピラミド全製品一覧(薬価・後発品情報の確認に有用)
徐放錠への切り替えが難しいケースや、そもそもジソピラミド自体を継続することが適切でない患者については、他成分への切り替えも選択肢に入ります。注意が必要です。
日本循環器学会およびメーカーが提示している代替候補成分は主に3種類です。
他成分への切り替えにあたっては、単純に「同じクラスだから問題ない」とは言えません。実際、抗不整脈薬は同一クラスでも作用プロファイルや副作用、禁忌疾患が大きく異なります。m3.com薬剤師向けコラムでも「同一クラスでも安易な切り替えは避けるべき」という循環器専門医の見解が掲載されています。
具体的な切り替えの手順としては、①現在の不整脈の種類と重症度を再評価、②禁忌・慎重投与疾患の有無を確認、③循環器専門医との協議で方針決定、④切り替え後の心電図・症状モニタリング、という流れが基本です。
いきなりの成分変更は危険です。特に外来管理中の患者では変更後の経過観察が不十分になりやすいため、切り替えのタイミングや観察計画を事前に立てることが大切です。
ジソピラミドには抗不整脈作用のほかに、無視できない抗コリン作用があります。この点を忘れると、深刻なインシデントにつながる可能性があります。
抗コリン作用による主な副作用は、口渇・尿閉・便秘・眼圧上昇などです。特に問題になるのは前立腺肥大症のある患者や、閉塞隅角緑内障の患者への投与です。添付文書では前立腺肥大等下部尿路閉塞性疾患のある患者は「禁忌」に指定されています。不整脈を持つ高齢男性患者は前立腺肥大も合併しているケースが多く、処方時のスクリーニングが不可欠です。
日本老年医学会が作成した「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」においても、ジソピラミドは抗コリン作用を持つ薬剤として高齢者への慎重投与が求められています。75歳以上の患者への長期投与では特に注意が必要です。
また、うっ血性心不全のある患者も禁忌です。ジソピラミドは陰性変力作用(心筋収縮力低下作用)を持つため、心機能が低下している患者に投与すると心不全が悪化するリスクがあります。不整脈と心不全を合併しているケースでは、代替薬の選択においてもこの点が最重要の判断材料になります。
禁忌患者への誤投与は医療事故に直結します。代替薬への切り替えを契機に、既存患者の禁忌事項を今一度見直すことが強く推奨されます。
これらの禁忌を正確に把握しておくことが条件です。
電子カルテや薬歴システムを利用して、ジソピラミド処方患者の禁忌疾患合併の有無を一括で確認することも有効な対策です。販売中止を機に院内での処方適正化を進める好機と捉えましょう。
KEGG Medicus:ジソピラミド徐放錠の添付文書(禁忌・慎重投与の全文確認)
販売中止への対応は「代替薬を探す」だけでは終わりません。これが医療現場の実態です。実際には、病棟・外来・薬局が連携した複合的な対応が求められます。
まず在庫管理の問題があります。ジソピラミドカプセルが一時的に通常出荷に戻った際(2025年4月〜)に在庫を確保した施設もありますが、500カプセル包装は2025年12月に販売中止となっているため、残余在庫の使用期限管理が必要です。100カプセル包装については継続供給の可能性があるものの、メーカーの状況は流動的であり、定期的な情報収集が欠かせません。
次に患者への説明です。長年ジソピラミドカプセルを服用してきた患者にとって、見た目が変わる(カプセル→錠剤)・服用回数が変わるという変化は不安の原因になります。「薬が変わった=治療が変わった」と誤解するケースも少なくありません。説明が不十分だと服薬アドヒアランスの低下につながり、不整脈の再発リスクを高めます。
特に注意が必要な患者層は以下の通りです。
薬剤師が処方医と患者の間で果たすべき役割が特に大きくなるのが、こうした販売中止対応の局面です。トレーシングレポートを活用した処方医へのフィードバックや、患者への服薬指導強化が、実務上の重要な対応策となります。
また、院内の採用薬変更を伴う場合は、医薬品情報担当(DI)薬剤師が薬事委員会へ変更申請を行う手続きも発生します。代替薬の採用決定から院内周知まで、通常1〜2ヶ月かかる施設もあります。早めの対応が原則です。
医療機関としての対応が遅れた場合、患者が処方を受けられない状況が生じるリスクもあります。今すぐ在庫状況と処方患者数を確認することを強くおすすめします。
以下のリンクでは、薬剤供給状況をリアルタイムで確認できるデータベースを参照できます。
DSJP 医療用医薬品供給状況データベース:リスモダンカプセル100mgの最新供給状況