DHCの血流改善サプリを「健康によいから」と毎日飲んでいる患者が、手術前に自己申告しなかったせいで術中出血が止まらなくなるケースがあります。
DHCは「サラサラな流れに」カテゴリとして、血流・循環系をテーマにした複数のサプリメントを展開しています。医療従事者として患者から質問を受けやすい製品群であるため、まず主要な製品と成分をおさえておきましょう。
代表的なのは、機能性表示食品である「EPAプレミアム」です。1日6粒の摂取目安量あたりEPAを705mg、DHAを155mg配合しており、合計860mgのオメガ3脂肪酸が摂れます。EPA705mgという数値は、サバ(中1切れ・80g)から摂れるEPAの約1.5倍に相当するほどの量です。これは届出番号I926として消費者庁に届け出られており、「血中の中性脂肪値(TG値)を低下させる機能が報告されている」ことが届出表示として認められています。
もう一つの主要製品が「ナットウキナーゼ」です。1粒あたりナットウキナーゼ3,100FUに加え、DHA 5mg・EPA 0.5mg・たまねぎ外皮エキス(ケルセチン5%含有)が配合されています。重要なのは「ビタミンKを除いた原料を使用している」という点です。ワーファリン服用患者が「納豆の代わり」として自己判断でこのサプリを選ぶケースがあります。
つまり製品によって成分と目的が異なります。
以下に代表製品と主な機能性成分を整理します。
| 製品名 | 主な機能性成分 | 1日摂取目安 | 届出表示の内容 |
|---|---|---|---|
| EPAプレミアム | EPA705mg・DHA155mg | 6粒 | 血中TG値の低下 |
| ナットウキナーゼ | ナットウキナーゼ3,100FU・DHA・EPA | 1粒 | 健康食品(届出なし) |
| イチョウ葉 脳内α | イチョウ葉由来フラボノイド配糖体・テルペンラクトン | 3粒 | 脳の血流改善・記憶力維持 |
血流改善を目的としたDHCサプリは「どの部位・どのリスク因子に働きかけるか」が製品ごとに異なります。患者が複数の製品を飲み合わせていることもあるため、問診票の設計や聞き取り方を工夫することが実務上有効です。
DHC公式 サラサラな流れにカテゴリ一覧(製品情報の確認に活用できます)
EPAとDHAはオメガ3系多価不飽和脂肪酸であり、体内での合成量が不十分なため「必須脂肪酸」として食事やサプリからの補給が求められます。厚生労働省の食事摂取基準では、日本人の平均的なEPA・DHA摂取量は1日約400mgにとどまっており、推奨目安の1,000mgに対して大きく不足しています。
EPAとDHAはそれぞれ働きが異なります。EPAは血小板の凝集を抑制することで血栓形成を防ぎ、炎症性メディエーターの産生を抑える作用があります。一方DHAは、赤血球や血管壁の細胞膜を柔らかく保ち、毛細血管への血流通過をスムーズにします。いわばEPAが「固まりにくくする成分」、DHAが「流れやすくする成分」と理解するとわかりやすいです。
ナットウキナーゼは、納豆の発酵過程で生まれるタンパク質分解酵素です。既存の血栓(フィブリン)を直接溶かす線溶作用のほか、体内の線溶酵素(プラスミン・ウロキナーゼ)を活性化する間接的な作用も確認されています。FU(フィブリン分解単位)という活性単位で含有量が表示されており、DHCの「ナットウキナーゼ」は1粒3,100FUという配合量です。これは使用感の参考値として、健常成人を対象にした報告でおおむね2,000〜3,000FU以上の摂取で末梢血流への影響が観察されるとされています。
これは使えそうです。
イチョウ葉エキスに含まれるフラボノイド配糖体とテルペンラクトンは、毛細血管における血小板凝集の抑制と血管拡張作用を介して、脳を中心とした末梢血流を改善する効果が報告されています。DHCの「イチョウ葉 脳内α」は機能性表示食品として「加齢によって低下する脳の血流を改善し、認知機能の一部である記憶力を維持する」という届出表示を取得しています。認知症や物忘れを気にする中高年の患者が好んで使用している製品の一つです。
福岡県薬剤師会 EPA・DHAとは?(抗炎症・抗血栓作用のメカニズムを薬剤師向けに解説)
医療従事者として最も注意すべきなのが、血流改善系サプリと処方薬との飲み合わせです。これは見落とされやすい問題です。
EPA・DHAには血小板の凝集を抑制する抗血小板作用があります。そのため、ワーファリン(ワルファリンカリウム)やアスピリン(バイアスピリン)などの抗血栓薬と同時に摂取すると、出血リスクが相加的に高まる可能性があります。DHC自身の安全性評価シートにも「DHA・EPA両方を含む魚油と、抗凝固薬・抗血小板薬との併用により出血リスクを高める可能性」と明記されています。
具体的な症状として現れやすいのは「傷が普段より止まりにくい」「あざができやすくなった」「鼻血が出やすい」などです。患者が自覚しにくい変化であり、薬との相互作用とは結びつけない方がほとんどです。
ナットウキナーゼとワーファリンの組み合わせはさらに注意が必要です。一般的に「ワーファリン服用中に納豆がNG」というのは広く知られていますが、納豆がNGの主な理由はビタミンKによってワーファリンの効果が弱まるからです。DHCのナットウキナーゼサプリは「ビタミンKを除いた原料を使用」しているため一見安全に見えますが、ナットウキナーゼ自体の線溶作用(血液を固まりにくくする作用)により、ワーファリンの抗凝固作用と合わさって出血傾向が増強するリスクがあります。意外ですね。
また、イチョウ葉エキスについても同様に、抗血小板薬・抗凝固薬・インスリンによる血糖コントロール中の患者・抗てんかん薬を服用中の患者とは、相互作用に注意が必要とされています。
| サプリ成分 | 注意が必要な薬剤 | リスクの内容 |
|---|---|---|
| EPA・DHA | ワーファリン、アスピリン、クロピドグレル | 出血傾向の増強 |
| ナットウキナーゼ | ワーファリン | 線溶作用が重なり出血リスク増大 |
| イチョウ葉エキス | 抗血小板薬、抗凝固薬、抗てんかん薬 | 出血・けいれん誘発リスク |
患者が複数のサプリを飲み合わせているケースでは、それぞれのサプリが単独でも出血リスクを持つことを念頭においた上で、処方薬との相互作用を評価する必要があります。患者への聞き取りでは「サプリも含めて毎日飲んでいるものを全て教えてください」という形で確認するのが基本です。
愛知県薬剤師会 薬事情報センター「医薬品との併用に注意のいる健康食品」(EPA・イチョウ葉・ビタミンEと薬の相互作用の一覧表として参考になります)
手術や観血的処置の前には、血流改善系のサプリメントを休薬することが推奨されています。休薬が必要です。
日本麻酔科学会は「手術前に中止が必要なサプリメント・健康食品の例」として、魚油(EPA・DHA)を明示しています。また、EPA製剤(医薬品エパデール)の休薬期間に準じるなら、手術7日前までの中止が目安とされています。一部の施設では「手術14日前からサプリメントの使用中止を原則とする」という基準を採用しているところもあります。
血小板の寿命はおよそ7〜10日間で、EPAによる抗血小板作用は血小板との結合が不可逆性であるため、新しい血小板が産生されるまでのこの期間が休薬目安の根拠となっています。車でいえばブレーキが効かなくなるようなもので、血液が止まりにくい状態がサプリをやめてもすぐには解消されません。
患者への指導ポイントとして重要なのは以下の点です。
- 🩺 「サプリメントは薬でないから手術前も飲んでいい」という誤解を解くこと
- 📋 術前問診票にサプリメント欄を設けるか、口頭で具体的に確認すること
- 🗓️ 処置の7〜14日前を目安に、血流改善系サプリ全般の休薬を指示すること
- 📞 外来で処方変更が発生した際に、サプリ継続の可否も合わせて確認すること
患者本人が「健康のために良いこと」と信じて飲んでいるサプリを休薬させる際には、頭ごなしに「危険です」と伝えるのではなく、「手術後に安全に再開できるよう、今は一時お休みしてもらう」というニュアンスで伝えると患者の納得感を得やすいです。
日本麻酔科学会「よくある術前合併症 – 健康食品やサプリメント」(手術前に中止が必要なサプリメントの公式リストとして活用できます)
「患者がDHCの血流改善サプリを飲みたいと言っている」という状況で、医療従事者として的確にアドバイスするための視点を整理します。
まず目的別に成分の使い分けを理解することが基本です。中性脂肪の高値が気になるケースならEPAプレミアム(機能性表示食品・EPA705mg)が最も科学的根拠の層が厚い選択肢です。末梢血流の改善や血圧が高めの方にはナットウキナーゼが関与成分として報告されている製品が適しており、脳の血流と記憶力維持が目的ならイチョウ葉 脳内αという整理になります。
次に、機能性表示食品かどうかを確認するよう患者に伝えることも有効です。DHCのEPAプレミアムのように届出番号(例:I926)が明記されている製品は、消費者庁への届出が受理された科学的根拠に基づいた機能性が記載されています。一方で、届出なしの健康食品は同じ血流改善をうたっていても科学的根拠の質が製品によって大きく異なります。機能性表示食品が条件です。
ただし、機能性表示食品はあくまで「疾病の診断・治療・予防を目的としたものではない」と明記されています。脂質異常症や高血圧、動脈硬化などの疾患を抱えている患者がサプリで代替しようとするケースには注意が必要です。処方薬の代わりに使おうとする動機がある患者には、「サプリは補完的な位置づけ」であることを明確に伝える必要があります。
また、過剰摂取のリスクとして、EPA・DHAの1日3g以上の摂取では出血傾向が生じることがあるとされています。スイスの研究者による解析では、オメガ3脂肪酸サプリメントを1年以上摂取した場合、1日1gを超えると心房細動のリスクが1gあたり1.11倍上昇するという用量依存的な関連も示唆されています。EPAプレミアムの1日分(860mg)は1g以下に収まっているため、単品使用であれば通常範囲内とされますが、複数製品の重ね飲みや処方薬との重複があるケースではトータルの摂取量を試算することが重要です。
患者が自分でサプリを選ぶ際に判断しやすい基準を、外来の掲示物や説明資料として整備しておくと、医療従事者の説明コストを下げることができます。これは実務的なメリットです。機能性表示食品の届出情報は消費者庁のデータベースから無料で検索できるため、患者から製品名を聞いた際にすぐ確認するルーティンを持っておくと役立ちます。
厚生労働省 EJIM「オメガ-3脂肪酸と心臓病の関係について知っておくべき5つのこと」(医療従事者向けの信頼性の高い情報源として活用できます)
千里丘かがやきクリニック「1日に必要なEPA・DHA摂取量ガイド」(摂取量の根拠と医薬品との相互作用を整理した医師監修コンテンツ)