ラクテック注とソルラクト輸液は、成分が全く同じです。
乳酸リンゲル液は「一般名(成分名)」が一つであるにもかかわらず、臨床現場では複数の商品名が飛び交っています。これが現場での混乱を招くことがあります。つまり、商品名が違っても、中身の電解質組成はほぼ同じというケースが多いのです。
現在、日本国内で流通している乳酸リンゲル液(単独製剤)の主な商品名と製造会社は以下のとおりです。
| 商品名 | 製造会社 | 規格(主なもの) | 薬価(目安) |
|---|---|---|---|
| ラクテック注 | 大塚製薬工場/大塚製薬 | 250mL・500mL・1L | 234〜384円 |
| ソルラクト輸液 | テルモ | 250mL・500mL・1L | 215〜434円 |
| ハルトマン輸液「NP」 | ニプロ | 500mL・1L | 231〜434円 |
| ハルトマン輸液pH8「NP」 | ニプロ | 500mL・1L | 231〜434円 |
| ラクトリンゲル液"フソー" | 扶桑薬品 | 200mL・500mL・1L | 199〜434円 |
| ハルトマン液「コバヤシ」 | ネオクリティケア製薬 | 500mL瓶・500mL袋 | 215〜231円 |
| ニソリ輸液 | ヴィアトリス・ヘルスケア | 500mL瓶 | 215円 |
「ハルトマン」という商品名は、1932年に乳酸リンゲル液を開発したアメリカの小児科医アレクシス・フランク・ハルトマン(Alexis Frank Hartmann)の名前に由来しています。そのため、「ハルトマン液」は乳酸リンゲル液の別名としても通用します。
「ラクテック」の「ラク」は乳酸(Lactate)を指します。英名はLactated Ringer's Injectionで、米国薬局方(USP)の規格と同一組成です。これが基本です。
施設によって採用メーカーが異なるため、転職・異動後は必ず施設の採用品を確認することが重要です。「うちはラクテックじゃなくてソルラクトです」といった会話が現場でよく聞かれますが、組成はほぼ同等です。
なお、「アルスロマチック関節手術用灌流液」もYJコード上は乳酸リンゲル液に分類されますが、これは関節鏡手術時の灌流専用製剤(3L袋)であり、通常の補液とは用途が異なります。注意が必要なケースです。
参考:乳酸リンゲル液の医療用医薬品一覧(データインデックス)
乳酸リンゲル液の医療用医薬品一覧 – データインデックス株式会社
乳酸リンゲル液が「細胞外液補充液の代表格」として広く使われている理由は、その電解質組成が血漿に最も近いからです。これは使える情報ですね。
主な電解質組成(mEq/L)を血漿と比較すると、以下のようになります。
| 成分 | 血漿 | 乳酸リンゲル液 (ラクテック注) |
生理食塩水 | リンゲル液 |
|---|---|---|---|---|
| Na⁺(mEq/L) | 142 | 130 | 154 | 147 |
| K⁺(mEq/L) | 4〜5 | 4 | 0 | 4 |
| Ca²⁺(mEq/L) | 5 | 3 | 0 | 4.5 |
| Cl⁻(mEq/L) | 103 | 109 | 154 | 156 |
| 乳酸イオン(mEq/L) | 1〜2 | 28 | 0 | |
| 浸透圧(mOsm/L) | 285〜295 | 約273 | 308 | 約309 |
生理食塩水はNa⁺とCl⁻の濃度が血漿より高く、大量投与で高クロール性代謝性アシドーシスを招くリスクがあります。これに対し、乳酸リンゲル液はClを109 mEq/Lに抑え、アシドーシス補正のために乳酸イオン(L-乳酸ナトリウム)を28 mEq/L含んでいます。
乳酸イオンは肝臓で代謝されて重炭酸イオン(HCO₃⁻)に変換され、体内のアシドーシスを補正する働きをもちます。イメージとしては、肝臓がプロセッサーとなって「乳酸→重炭酸」に変換してくれると考えると理解しやすいです。
浸透圧は約273 mOsm/Lで、血漿よりわずかに低張(やや低い)になっています。そのため乳酸リンゲル液は「やや低張の等張液」として分類されることもあります。これが原則です。
この特性から、乳酸リンゲル液の適応は出血性ショック・熱傷・外傷・手術中の補液・代謝性アシドーシスの補正など幅広い臨床場面に及びます。循環血液量が急激に減少した状況で投与された場合、1Lの乳酸リンゲル液のうち血管内に留まるのは約250〜300mL程度(全体の1/4〜1/3)とされており、残りは組織間液へ移行します。
参考:輸液療法の基礎知識(大阪大学研修医レクチャー)
研修医レクチャー 輸液療法 – 大阪大学
乳酸リンゲル液の禁忌と慎重投与を正確に把握しておくことは、患者安全に直結します。「よく使う輸液だから大丈夫」という思い込みが、思わぬインシデントにつながります。厳しいところですね。
💊 禁忌(投与してはいけない病態)
- 高乳酸血症の患者:乳酸イオンを含む本剤の投与は、高乳酸血症(乳酸アシドーシス)をさらに悪化させるおそれがあります。ラクテック注・ソルラクト・ハルトマン輸液など商品名に関わらず、一般名が乳酸リンゲル液であれば共通の禁忌です。
⚠️ 慎重投与が必要な病態
| 病態 | 理由 |
|------|------|
| 重篤な肝障害 | 乳酸の代謝が肝臓依存のため、肝機能低下で乳酸が蓄積し高乳酸血症を招くリスク |
| 腎疾患 | 水分・電解質の代謝異常が悪化するおそれ |
| 心不全・肺水腫 | 過剰な水分負荷が循環に悪影響を及ぼす可能性 |
| 浮腫 | 水分貯留が悪化するおそれ |
特に重要なのが「肝障害患者への投与」です。これは意外ですね。
肝臓の機能が大幅に低下した重症肝硬変や急性肝不全では、乳酸の代謝が障害されます。健康な肝臓は乳酸代謝の30〜70%を担っているとされており、その機能が失われると、投与した乳酸が蓄積して乳酸性アシドーシスを起こすリスクが高まります。
この点については、添付文書上「禁忌」ではなく「慎重投与」に分類されていますが、循環不全を合併した重症肝障害では実質的に投与が難しいケースも少なくありません。そのような場面では後述する酢酸リンゲル液が選ばれることが多いです。
また、カルシウムイオン(Ca²⁺)を含む点にも注意が必要です。カルシウムイオンは血液製剤(赤血球製剤・全血製剤)との配合変化を引き起こすことがあり、同一ルートからの同時投与は避けるべきとされています。日本赤十字社のガイドラインでも「輸血用血液製剤は単独投与が原則」と明記されており、乳酸リンゲル液など「カルシウムイオンを含む輸液」は特に注意が必要です。
参考:輸血と薬剤の混注について(日本赤十字社)
赤血球製剤 – 輸血の実施 | 日本赤十字社
乳酸リンゲル液と酢酸リンゲル液は、どちらも細胞外液補充液として同じ立場にありますが、代謝経路という点で大きく異なります。これが原則です。
代謝経路の違い
- 🔴 乳酸リンゲル液:乳酸イオンは主に肝臓で代謝されてHCO₃⁻になる
- 🟢 酢酸リンゲル液:酢酸イオンは肝臓+骨格筋など全身の組織で代謝される
酢酸は肝臓以外の筋肉でも代謝されるため、肝機能が低下した患者でも比較的安全に使用できます。この違いが、臨床での選択基準になります。
乳酸リンゲル液を優先する場面
- 循環動態が安定している術中・術後の補液
- 外傷や熱傷に伴う細胞外液喪失の補充
- 代謝性アシドーシスの補正(肝機能が正常な場合)
酢酸リンゲル液への切り替えを検討する場面
- 重篤な肝障害(肝硬変・急性肝不全)
- 敗血症や出血性ショックなど循環不全が顕著な状態
- 大量輸液が必要で乳酸蓄積リスクが懸念される状況
主な酢酸リンゲル液の商品名としては、ヴィーンF輸液(扶桑薬品)、ソルアセトF輸液(テルモ)、フィジオ140輸液(大塚製薬工場)などが挙げられます。
また、近年では重炭酸リンゲル液(商品名:ビカネイト輸液)も注目されています。乳酸イオンも酢酸イオンも含まず、直接HCO₃⁻を補充できるため、より生理的な補液として使われるケースが増えています。ただし薬価はやや高く、1袋あたり数百円の差があります。
「どの輸液を選ぶか」は施設のプロトコルや病態によって異なりますが、電解質組成と代謝経路の違いを頭に入れておくことで、状況変化に対応できる選択の幅が広がります。これは使えそうです。
参考:酢酸リンゲル液と乳酸リンゲル液の使い分け(扶桑薬品)
酢酸リンゲル液と乳酸リンゲル液の使い分けを教えてください – 扶桑薬品工業
乳酸リンゲル液には、糖質(ブドウ糖・ソルビトール・マルトース)を加えた派生製剤も複数存在します。「ただの補液」だと思って選ぶと、エネルギー投与量の管理が抜け落ちる可能性があります。注意が必要です。
🍬 糖質加乳酸リンゲル液の主な商品名
| 商品名 | 一般名(分類) | 加えられた糖質 | 製造会社 |
|---|---|---|---|
| ポタコールR輸液 | 乳酸リンゲル液(マルトース加) | 5%マルトース | 大塚製薬工場 |
| ソルラクトTMR輸液 | 乳酸リンゲル液(マルトース加) | マルトース | テルモ |
| ラクテックG輸液 | 乳酸リンゲル液(ブドウ糖加) | 5%ブドウ糖 | 大塚製薬工場 |
| ラクトリンゲルS注"フソー" | 乳酸リンゲル液(ソルビトール加) | ソルビトール | 扶桑薬品 |
ポタコールR輸液は「5%マルトース加乳酸リンゲル液」であり、浸透圧が血漿の約2倍(高浸透圧)となります。マルトースは体内でブドウ糖に分解されてエネルギー源になりますが、5%ブドウ糖液(ラクテックGなど)と比べて血糖の急激な上昇が起こりにくい特徴があります。
一方、ラクトリンゲルS注"フソー"(ソルビトール加)には注意点があります。ソルビトールは体内で代謝されてブドウ糖や果糖になりますが、「遺伝性果糖不耐症」の患者には代謝できず低血糖や肝障害を引き起こす危険があるため、禁忌となっています。
投与速度にも注意が必要です。ラクテックG(ソルビトール加製品含む)では、D-ソルビトールとして1時間あたり0.5g/kg体重以下を超えないよう管理することが添付文書で定められています。体重60kgの患者なら、1時間あたりの上限は30gとなります。
糖質加製品は「電解質+エネルギー補給」を同時に行えるメリットがありますが、高血糖リスクのある患者(糖尿病・術後高血糖など)には適切でないケースもあります。血糖管理が必要な病態では単純な乳酸リンゲル液(糖なし)を選ぶのが基本です。
参考:等張電解質輸液の解説(日経メディカル処方薬事典)
参考:乳酸リンゲル液の歴史と開発背景(扶桑薬品工業)
輸液の歴史 – 扶桑薬品工業株式会社