肝機能が正常でも、重篤な腎機能障害があるだけで中毒リスクが約3倍跳ね上がります。
リドカイン塩酸塩注「日新」は、日新製薬株式会社(山形)が製造販売する後発品(加算対象)の局所麻酔剤です。先発品であるキシロカイン注ポリアンプと生物学的同等性試験で同等と確認されており、浸潤麻酔作用・伝達遮断作用・硬膜外麻酔作用いずれにおいても有意な差は認められていません。つまり、先発品と同等の安心感で使用できます。
容器はワイドオープンポリエチレンボトルを採用しており、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)は禁止されています。これは見落としがちな注意点です。
現在、0.5%・1%・2%の3濃度が揃っており、それぞれ5mLと10mLの容量から選択可能です。
| 販売名 | 濃度 | 1管中のリドカイン塩酸塩量 |
|---|---|---|
| リドカイン塩酸塩注0.5%「日新」 | 0.5% | 25mg(5mL管)/ 50mg(10mL管) |
| リドカイン塩酸塩注1%「日新」 | 1% | 50mg(5mL管)/ 100mg(10mL管) |
| リドカイン塩酸塩注2%「日新」 | 2% | 100mg(5mL管)/ 200mg(10mL管) |
薬価はいずれも100円/管(2024年現在)と統一されており、経済的な選択肢です。なお効能・効果の範囲には微妙な差があり、0.5%製剤のみ「上肢手術における静脈内区域麻酔」の適応を持ちます。1%・2%製剤は代わりに「表面麻酔」の適応があります。この点は条件です。
貯法は室温保存で有効期間は3年。開封後の残液は廃棄が原則です。また、本剤は金属を侵す性質があるため、長時間カニューレや注射針などの金属器具に接触させないことが推奨されています。
参考:日新製薬株式会社 リドカイン塩酸塩注「日新」添付文書(PMDA掲載)
JAPIC:リドカイン塩酸塩注0.5%・1%・2%「日新」添付文書(PDF)
基準最高用量は成人1回200mgが原則です。ただし年齢・麻酔領域・部位・組織・症状・体質により適宜増減することが求められます。以下に麻酔方法ごとの目安をまとめます。
| 麻酔方法 | 0.5% | 1% | 2% |
|---|---|---|---|
| 硬膜外麻酔 | 25〜150mg | 100〜200mg | 200mg |
| 硬膜外麻酔(交感神経遮断) | 25〜100mg | — | — |
| 伝達麻酔 | 15〜200mg | 30〜200mg | 40〜200mg |
| 伝達麻酔(指趾神経遮断) | 15〜50mg | 30〜100mg | 60〜120mg |
| 伝達麻酔(肋間神経遮断) | 25mgまで | 50mgまで | — |
| 浸潤麻酔 | 10〜200mg | 20〜200mg | 40〜200mg |
| 静脈内区域麻酔(上肢) | 200mgまで | — | — |
注入後20分以内は駆血帯を解除しないこと。これは静脈内区域麻酔において特に重要な条件です。駆血帯を早期解除すると大量のリドカインが一気に血液循環に入り、中毒症状を引き起こすリスクがあります。
また静脈内区域麻酔には、血管収縮剤(アドレナリン等)を絶対に添加してはなりません。これは禁止事項として添付文書に明示されています。他の麻酔方法では血管収縮剤の併用を考慮できますが、静脈内区域麻酔だけは例外です。
硬膜外麻酔に際しては、注射針またはカテーテルが血管やくも膜下腔に入っていないことを確認してから投与することと、試験的注入(test dose)を行ってから本投与に進む手順が求められます。注入速度はできるだけ遅くすることが基本です。
参考:今日の臨床サポート リドカイン塩酸塩注0.5%「日新」詳細
今日の臨床サポート:リドカイン塩酸塩注0.5%「日新」用法用量詳細
禁忌(絶対に投与してはならない)として、本剤の成分またはアミド型局所麻酔薬に対し過敏症の既往歴がある患者への投与が禁じられています。硬膜外麻酔に関しては、さらに大量出血・ショック状態・注射部位周辺の炎症・敗血症の患者への使用も禁忌です。
慎重投与(使用する際に特別な注意が必要な患者)は下記のとおりです。
- 高齢者:硬膜外麻酔で麻酔範囲が広がりやすく、生理機能の低下により忍容性が低い。投与量の減量を考慮してください。
- 妊娠後期の患者:仰臥位性低血圧が起きやすく、麻酔範囲が拡大しやすい。用量減量と全身状態の厳重観察が必要。
- 重篤な肝機能障害患者:リドカインは主にCYP1A2・CYP3A4で肝代謝されるため、肝機能低下患者では半減期が健常人の約3倍に延長します。中毒症状が発現しやすくなります。
- 重篤な腎機能障害患者:代謝産物の排泄遅延により中毒症状のリスクが上がります。
- 心刺激伝導障害のある患者:症状を悪化させるおそれがあります。
- 血液凝固障害や抗凝血薬投与中の患者(硬膜外麻酔):血腫形成や脊髄障害のリスクがあります。
肝機能が低下していると半減期が3倍になるということは、通常量の投与でも血中濃度が想定以上に積み上がるリスクを意味します。これは使えそうな視点です。特に繰り返し追加投与を行う場面では、この知識が患者保護に直結します。
クラスⅢ抗不整脈薬(アミオダロン等)との併用は心機能抑制作用が増強するおそれがあるため、心電図モニタリングを行いながら使用することが求められます。これが並注意(併用注意)として添付文書に明記されています。
参考:日経メディカル リドカイン塩酸塩注0.5%「日新」基本情報
日経メディカル:リドカイン塩酸塩注0.5%「日新」基本情報・禁忌・慎重投与
局所麻酔薬中毒は、血中濃度の上昇に伴い主に中枢神経系と心血管系に症状が現れます。特に誤って血管内に投与した場合、数分以内に症状が発現することがあります。これは厳しいところです。
🔴 中枢神経系の症状(進行順)
- 初期:不安・興奮・多弁・口周囲の知覚麻痺・舌のしびれ・ふらつき・耳鳴・視覚障害・振戦
- 進行:意識消失・全身痙攣・低酸素血症・高炭酸ガス血症
- 重篤:呼吸停止
💛 心血管系の症状
- 血圧低下・徐脈・心筋収縮力低下・心室性頻拍・心室細動・循環虚脱・心停止
「耳鳴りや口のしびれは中毒の初期サイン」だと覚えておけばOKです。これらの症状が出た段階で直ちに投与を中止し、緊急処置に移行します。
🚨 緊急処置の流れ
1. 投与を即座に中止
2. 気道確保・酸素投与
3. 振戦・痙攣が著明な場合:ジアゼパムまたは超短時間作用型バルビツール酸製剤(チオペンタールナトリウム等)を投与
4. 心肺停止時はCPRを開始
投与前に静脈路を確保しておくことと、救急器具・救急薬品を常に準備しておくことが重要な基本的注意として添付文書に明示されています。中毒症状を完全に防止する方法はない以上、事前準備こそが最大の防衛手段です。
なお、悪性高熱が稀に起こることがあります。原因不明の頻脈・急激な体温上昇・筋強直・ポートワイン色尿などを認めたら、直ちに投与を中止し、ダントロレンナトリウムの静注・全身冷却・純酸素による過換気・酸塩基平衡の是正を行います。
参考:日本麻酔科学会 局所麻酔薬の注意点と対応資料(NMS麻酔科)
NMS麻酔科学:局所麻酔薬中毒の症状・対応プロトコル(PDF)
医療現場で見落とされがちな視点として、リドカイン塩酸塩注「日新」の供給動向があります。医薬品供給状況データベース(DSJP)の告知履歴を見ると、2024年2月から2025年7月中旬にかけて断続的に「限定出荷(他社品の影響)」が続いていました。その後、2025年7月15日に通常出荷に解除され、2026年3月時点では通常出荷が継続しています。
この「他社品の影響による限定出荷」という状態は意外ですね。自社の製造ラインに問題がなくても、競合他社の供給不足が需要集中を生んで限定出荷に踏み切らざるをえないケースがあるのです。後発品の調達計画は余裕を持ったバッファが条件です。
実務上の対応として、以下のような管理が現場を守ります。
- 📋 定期的な供給状況チェック:DSJPや日新製薬の公式サイトで月1回以上確認する習慣をつける
- 🔄 代替品リストの整備:同成分のキシロカイン注ポリアンプやリドカイン塩酸塩注射液「VTRS」など代替品をあらかじめ把握しておく
- 📦 適正在庫の維持:限定出荷時の急騰リスクを見越して、一定の在庫バッファを設ける
- 📑 院内採用品目の見直し:1%・0.5%・2%のどの規格を中心に使うか、用途別に明確化する
リドカイン塩酸塩の薬価は100円/管(10mL管)と比較的低コストですが、急な供給停止は術前麻酔計画の変更や手術日程の見直しにつながり、医療現場に大きな負担をかけます。薬価だけで評価せず、安定供給性も含めた総合的な調達評価が現場にとってメリットを生みます。
参考:医療用医薬品供給状況データベース DSJP リドカイン塩酸塩注1%「日新」
DSJP:リドカイン塩酸塩注1%「日新」供給状況・告知履歴