「自然由来コスメは大企業ブランドより安全」と思って選んでいると、知らぬ間に肌への負担を増やしているかもしれません。
サステナブル コスメ アワード(以下、サスコス)は、2019年に始まった日本で初めてかつ唯一の、化粧品・ファイントイレタリー分野をSDGs視点で評価・表彰するアワードです。主催は、環境省「つなげよう支えよう森里川海プロジェクト」のアンバサダー有志が発起人となって立ち上げた組織で、審査員には環境・メディア・化粧品など多分野の専門家を招いています。
通常のコスメアワードが「使い心地」「効果」「人気投票」を主軸にするのに対し、サスコスの評価軸はまったく異なります。成分の安全性にとどまらず、原料生産・製造・販売・流通・消費・廃棄という「製品のライフサイクル全体」を審査します。
審査では80以上のチェックポイントを設定しています。具体的には次のような観点が含まれます。
このアワードには、他にも大きな特徴があります。それは「2030年に終了する」と最初から宣言していること。SDGsの国際目標達成期限である2030年には、人にも地球にもやさしいコスメが「当たり前の時代」になっているはず、だからアワードの役目も終わる——そういった強い意志が込められています。
結論はシンプルです。サスコスとは、「コスメの良さをモノの使い心地だけで判断しない」という新しい価値観を体現したアワードだということです。
(公財)日本環境協会エコマーク事務局の協力のもとで策定されたSDGs視点の審査基準を使用しており、中立性・公平性も担保されています。参加費は通常20,000円(税別)程度と、海外の環境認証(数十万円規模になることもある)の10分の1以下に抑えられており、中小零細ブランドが参加しやすい設計になっているのも特徴のひとつです。
📎 サステナブルコスメアワード公式:アワードの理念・ミッションについて(sustainableaward.jp)
2025年度の受賞カテゴリは、以下のように構成されています。
このカテゴリ設計は、意外な事実を示しています。受賞の基準は「成分が天然由来かどうか」だけではありません。フェアトレード部門やダイバーシティ部門が存在することからわかるように、製品に関わるすべての人——原料生産者、製造スタッフ、消費者——への配慮もスコアに含まれます。
これは医療従事者にとって重要な視点です。医療の現場では「患者と関わる全員への配慮」が当然の倫理として存在します。サスコスの評価軸は、その医療倫理と似た構造を持っていると言えます。つまり「使う人だけ安全ならOK」ではなく、「作る人も、地域も、将来世代も、全員が守られるか」を問うています。これが基本です。
特に「リジェネラティブ部門」は2025年度から新設された最新カテゴリで、単なる「環境負荷を減らす」(サステナブル)を超え、使えば使うほど環境が回復する設計の製品を評価します。「みんなでみらいを」の洗顔クレンジングパウダーSは、廃棄されていた米ぬかを活用し、使うたびに配管まできれいになるという設計でこの部門を受賞しました。これは使えそうです。
📎 サステナブルコスメアワード2025受賞コスメ一覧(sustainableaward.jp)
2025年度のGOLD賞に輝いたのは、株式会社AMRITARAの「ホワイトバーチモイストウォーター」です。水を一切使用せず、北海道産の白樺樹液を基材に用いた化粧水で、成分の抽出方法から製品機能性の高さ、さらに新たに取り組んだ詰替式パッケージまでが高く評価されました。水の代わりに白樺樹液を使う——これはシンプルですが、原料調達からCO2削減まで一貫した思想の表れです。
SILVER賞はダブル受賞で、株式会社Valley and WindのブランドKruhi(クルヒ)の「THE LAYER SERUM」と「THE FACE CLEANSE」が選ばれました。クルヒは2022年のブランド誕生以来、2022年・2023年と連続してGOLD賞を受賞した実績があります。自社農場でのスタディツアーを実施し、成分の産地・製造背景を消費者に直接見せるという透明性の高さも評価のポイントになっています。
BRONZE賞には3製品が選出されています。
アワードの審査員長・岸紅子氏は「無名だったブランドが受賞を機に売上数億円の規模へと成長するケースが生まれている」と語っています。これは、消費者がブランドの背景やストーリーに価値を見出すようになったことを示しています。
医療従事者が日常のスキンケアでこうした受賞製品を選ぶ意義があります。製品のライフサイクル全体が審査されているということは、成分の安全性・透明性の担保にもつながっています。不確かな情報に惑わされず、審査済みの基準を一つの指標として使える点は、証拠に基づいた判断を重視する医療従事者の思考習慣とも相性が良いでしょう。
📎 Shift C:サステナブルコスメアワード2025受賞ブランドの詳細レポート(shiftc.jp)
医療従事者が直面している肌トラブルの実態は、一般的な「乾燥肌対策」とは少し異なります。毎日数十回にわたるアルコール消毒と石けん手洗いで、手の皮脂膜と角質バリアは著しく損傷しやすい状態にあります。看護師を対象とした調査では、職業性手皮膚炎の有病率が一般人口の2〜3倍以上とされるデータもあります。手肌のバリアが壊れると、さらに外部刺激への感受性が高まります。そうなると悪循環です。
こうした背景から、医療従事者が選ぶべきコスメには次の3つの条件が重なります。
サステナブル コスメ アワードの審査基準は、これらと高い親和性を持っています。成分の安全性チェック・原料の透明性・化学合成成分の使用状況・動物実験の有無……これらはすべて、受信者の安全を最優先とする医療倫理と重なります。
コロナ禍では化粧品会社から医療従事者への支援が広がりました。コーセーは全国の医療従事者に約28万セットの化粧品を寄贈し、資生堂は主力スキンケア製品を2万セット無償提供しています。これは「ケアされる立場の人が、ケアする立場の人の肌も守る必要がある」という社会的認識の表れです。
注意が必要です。「サステナブル」「オーガニック」を謳う製品であっても、植物由来のアレルゲン(ラベンダー精油・ティーツリー油など)を含む場合があります。特に職業性手皮膚炎を発症したことがある医療従事者は、成分表示を確認する習慣が大切です。アワード受賞という指標をひとつの基準にしながらも、最終的には成分表を一読してから購入を決める——それが最も堅実な方法です。
📎 日本財団:コロナ禍に28万人の医療従事者の心を癒やした化粧品の力(nippon-foundation.or.jp)
サスコスの受賞情報は、医療従事者が「信頼できるコスメ」を素早く絞り込む際の有効な手がかりになります。しかし選び方には少しコツが必要です。受賞の種類によって「何を優先した製品か」が変わるからです。
たとえば、成分の安全性を最優先にしたい場合はGOLD賞・SILVER賞・BRONZE賞の製品が比較的総合得点が高く参考になります。一方、パッケージのプラスチック削減を重視したい場合はカーボンニュートラル部門の受賞製品が特化しています。コストを抑えたい場合は、2025年度に新設されたコストパフォーマンス部門の受賞製品が選びやすいでしょう。
日本では国内化粧品上位5社だけで毎年約2万トン以上のコスメが廃棄されています(株式会社モーンガータ調査)。これは大型トラック5台分以上に相当します。個人や店頭での廃棄を加えると実態はさらに膨大です。医療従事者として「医薬品のロス削減」に敏感な方なら、コスメ選びの観点も自然と変わるはずです。
アワードを活用したコスメ選びの具体的なステップは以下の通りです。
受賞コスメは一般の小売店では手に入りにくいことも多いため、公式サイトや受賞ブランドの直販サイトを活用するのがおすすめです。また2025年度受賞製品は、2026年3月31日まで東京・下北沢の「みんな商店」でポップアップが開催されており、実際に触れて確認できます。
最後に、このアワードが2030年に「終了する」という事実を覚えておいてほしいです。それまでに「人にも地球にもやさしいコスメが当たり前の時代」を目指すこの取り組みは、医療従事者が患者さんに「体に良い生活習慣」を推奨する姿勢とも重なります。肌のことも、地球のことも、次世代のことも、「自分ごと」として考える習慣がこれからの時代のケアの基準になっていくでしょう。
📎 ELLE Japan:「サステナブルコスメアワード」の視点・今求められるコスメとは?(elle.com)