FFPを大量に投与すれば、フィブリノゲンは必ず十分に上がると思っていませんか。
新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma:FFP)は、血漿成分と血液保存液(ACD-A液)を凍結した血液製剤です。複数の凝固因子を含むため、複合的な凝固因子欠乏を伴う病態の第一選択として広く使用されています。
FFP投与の根本的な目的は、「凝固因子の欠乏による病態の改善」であり、出血の予防や止血促進をもたらすことにあります。これが原則です。
現在の血液製剤使用指針(日赤・厚生労働省)では、FFPの適応として以下の病態が定められています。
| 適応病態 | 主なトリガー指標 |
|---|---|
| 肝障害(複合型凝固障害) | PT活性値30%以下、またはAPTT正常上限の2倍以上 |
| 播種性血管内凝固(DIC) | 上記に加えてフィブリノゲン値100mg/dL未満 |
| 大量輸血時(希釈性凝固障害) | 循環血液量(70mL/kg)相当の大量輸血が24時間以内 |
| 濃縮製剤がない場合の単独凝固因子欠乏 | 代替製剤が入手不能な状況 |
| 血漿交換療法(TTP等) | 置換液としての使用 |
投与に先立ってはPT・APTTの測定が必要で、DICや大量出血ではフィブリノゲン値の確認も必須条件です。
重要な点として、FFP投与は「他に安全で効果的な製剤や代替医薬品がない場合にのみ」適応となります。つまり選択の余地があれば、より安全性の高い製剤が優先されるべきというのが指針の立場です。
また、使用前には30〜37℃の恒温槽での融解が必要で、通常20〜30分の準備時間がかかります。融解後は原則3時間以内に使用する点も現場では必ず押さえておきたいポイントです。
参考:FFPの適応と使用方法の詳細(日本赤十字社)
血液製剤の使用指針(改定版)−新鮮凍結血漿−(日本赤十字社)
FFPのフィブリノゲン含有量は、約200mg/dL(FFP-LR480の場合、0.8〜1g/480mL程度)です。この値は正常血漿のフィブリノゲン濃度(200〜400mg/dL)とほぼ同等です。
問題はここにあります。
大量出血が起きて補液・赤血球輸血が優先されると、患者血中の凝固因子は急速に希釈されます。凝固因子の中でも最初に止血可能な濃度を下回るのがフィブリノゲンであり、これが大量出血時の止血不全の主因とされています。
フィブリノゲン値を100mg/dL上昇させるには、濃縮フィブリノゲン約3〜4gの投与が必要とされています。一方、FFP480mLに含まれるフィブリノゲンは0.8〜1g程度です。つまり、同じ上昇効果を得るためにFFPに頼ると、およそ4〜5倍もの容量が必要になる計算です。
大量のFFPを投与し続けると、今度は容量過負荷(volume overload)が問題になります。FFPは保存液の関係でナトリウム含有量が高く、大量投与では肺うっ血・肺水腫のリスクが上昇します。さらに輸血関連急性肺障害(TRALI)の発症リスクも考慮しなければなりません。
濃縮フィブリノゲン3〜4gの投与でフィブリノゲン値は約100mg/dL上昇するとされています。高度に低下した血中フィブリノゲン濃度でも、一気に止血可能域に到達できる可能性があります。これは使えそうです。
高度な低フィブリノゲン血症が主体の凝固障害に対しては、FFP単独ではなく、クリオプレシピテートまたはフィブリノゲン製剤との組み合わせが実臨床では重要です。現場でフィブリノゲン値のリアルタイム測定が難しい場合には、ポイント・オブ・ケアテスト(POCT)機器の活用も選択肢の一つとして検討できます。
参考:止血目的の血液製剤の使い分けについて(アトムメディカル)
血液製剤の種類と特徴:止血目的の輸血ではどう使い分ける?(アトムメディカル株式会社)
産科領域における大量出血の凝固障害は、他の領域と異なる特殊な病態を持ちます。「科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿の使用ガイドライン(改訂第3版)」では、産科領域の大量出血については、フィブリノゲン値200mg/dLを目安にFFPを使用することが弱く推奨されています(推奨度2C)。
産科領域以外の大量出血(外傷・心臓血管外科等)では150mg/dLが目安です。
この差が生まれた理由は、複数の産科研究のデータにあります。Charbitらの報告では、分娩後重症出血者において受診時(H0)のフィブリノゲンのみが大量出血を予測し、H0のフィブリノゲンが400mg/dLの場合の大量出血陰性的中率は79%、200mg/dL以下では陽性的中率が100%となることが示されています。さらに、フィブリノゲンが100mg/dL低下するごとに大量出血リスクは2.63倍上昇するという報告もあります。
フランスの産科106施設の報告(Cortetら)では、フィブリノゲン値が200〜300mg/dLの場合、これ以上の値と比較した出血悪化のオッズ比は1.90倍ですが、200mg/dL未満では11.99倍に跳ね上がります。200mg/dLが条件です。
つまり産科においては、他領域より高いトリガー値を設定してより早期にFFPを使い始めることが、患者予後の改善につながる可能性があるわけです。
「産科危機的出血の対応指針2022」では、フィブリノゲン濃縮製剤の使用にあたりフィブリノゲン150mg/dL未満を確認することが推奨されていますが、FFPやクリオプレシピテートの場合は濃縮製剤よりフィブリノゲン回復に大量製剤を要するため、より早期の介入が望ましいとされています。
また2021年に産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対して、フィブリノゲン製剤(フィブリノゲンHT)の保険適用が拡大されています。これにより、フィブリノゲン値を確認できた段階で、より迅速な補充療法が実施しやすくなりました。
参考:産科危機的出血対応とフィブリノゲンのトリガー値(日本輸血・細胞治療学会ガイドライン改訂第3版)
科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿の使用ガイドライン(改訂第3版)(日本輸血・細胞治療学会)
播種性血管内凝固(DIC)や肝障害による複合型凝固障害は、FFPが明確に適応となる場面の代表です。ここでは具体的なトリガー値と目標値を正確に把握しておくことが重要です。
日本血栓止血学会「DIC診療ガイドライン2024」では、新鮮凍結血漿輸血のトリガー値として次の数値が示されています。
この設定は、「止血のためには血漿フィブリノゲン値が最低100〜150mg/dL必要である」という臨床的知見に基づいています。正常人では200〜400mg/dLが存在しており、100mg/dLはその半分以下です。
肝障害では肝細胞でのフィブリノゲン産生が障害されるため、DICとは異なる消費機序が重なります。PT・APTTの延長に加え、フィブリノゲン値を継続的にモニタリングする必要があります。
ただし、肝障害患者への予防的FFP投与には注意が必要です。肝硬変患者の低侵襲手術準備としてFFPを投与された145件において、20件(13.8%)で輸血後に容量過負荷の合併症を発症したという観察研究が報告されています。厳しいところですね。
また肝硬変患者の静脈瘤出血244例の後方視的解析では、FFP輸注が行われた100例と輸注なし144例を比較したところ、42日死亡率がFFP輸注例で有意に増加(OR 9.41, 95% CI 3.71-23.90)という報告もあります。これは凝固障害の明確な証拠なく投与された例が含まれると考えられますが、適応の見極めがいかに重要かを示しています。
重度の凝固障害を伴わないDIC類似病態や肝疾患の場合、FFP投与の前に本当に適応があるかを確認することが原則です。
参考:DIC診療ガイドライン2024(日本血栓止血学会)
播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024(日本血栓止血学会)
「術前にPTが少し延長しているからFFPを念のため入れておく」という実践は、実は現行ガイドラインでは強く否定されています。これは意外ですね。
「科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿の使用ガイドライン(改訂第3版)」では、「大量輸血を必要としない外傷・手術におけるFFPの予防的輸注は施行しないことを推奨する(推奨度2B)」と明記されています。
その根拠となる主なエビデンスを整理すると以下のとおりです。
つまり「予防として入れたFFP」が、害をもたらすリスクがある。FFPの予防投与はダメです。
では、術前に軽度のPT延長が認められる患者に対して何もしなくてよいのかというと、そうではありません。まず重要なのは、「凝固障害の程度」と「想定される出血量・リスク」を組み合わせて評価することです。軽度なPT延長だけで大量出血が予測されない場合、FFP投与の積極的な根拠は薄いと考えられます。
非大量出血が予測される症例では、術中のリアルタイムな凝固モニタリング(ROTEM・TEGなどの血液粘弾性測定)を組み合わせることで、FFPが本当に必要な局面を的確に判断できます。検査結果が出るまでの間に病態が急変する可能性がある場合は、あらかじめFFPを準備(融解)しておくことが重要です。準備が条件です。
FFPの融解には20〜30分を要するため、緊急性が見込まれる手術では事前に準備を進めておくという「先読み」の判断が、結果的に患者を守ることにつながります。
参考:大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン(日本輸血・細胞治療学会)
大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン(日本輸血・細胞治療学会)