ストロング系の酒の意味と医療現場で知るべき危険性

「ストロング系」という酒の言葉、正確な意味を理解していますか?アルコール度数・純アルコール量・依存リスクまで、医療従事者が患者指導に活かせる知識を解説します。

ストロング系の酒の意味と医療従事者が知るべきリスク

ストロング系のロング缶1本で、女性の1日適正飲酒量の3.6倍のアルコールを一気に摂れてしまいます。


🗂️ この記事の3ポイント要約
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「ストロング系」の意味と定義

アルコール度数7〜9%の缶チューハイを指し、「ストロング」の名称はサントリーの商品名から普通名詞化。ジュース感覚で飲める見た目・味に反し、500ml缶1本に純アルコール約36gが含まれる。

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医療現場が直面する健康リスク

国立精神・神経医療研究センターの研究により、ストロング系チューハイの飲用者は「問題飲酒(AUDIT 8点以上)」との有意な関連が世界で初めて証明。アルコール依存症患者の多くが愛飲しているとの報告あり。

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医療従事者に求められる具体的知識

AUDIT・純アルコール換算・多量飲酒の定義を正確に把握し、患者がストロング系を飲んでいると申告した際の問診・早期介入(SBIRT)につなげることが重要。


ストロング系の酒の「意味」とは:定義と名前の由来

「ストロング系」という言葉は、もともと一つの商品名から生まれた呼び方です。2009年2月にサントリーが「-196℃ ストロングゼロ」を発売し、これが爆発的にヒット。他メーカーも追随商品を出したことで、アルコール度数7〜9%の缶チューハイ全般を指す普通名詞として定着しました。


名称の「ストロング」は「強い(アルコール度数が高い)」という意味で使われており、「ゼロ」の部分は「糖質ゼロ・プリン体ゼロ・人工甘味料ゼロ」を意味するマーケティングワードでした。ちなみに2024年3月には、サントリーが「ストロングゼロ」ブランドを「-196(イチキューロク)」に正式リニューアルしています。これは果実を-196℃で瞬間凍結する独自製法に由来するネーミングです。


「ストロング系」の正式な法的定義はありません。業界内の慣習上、アルコール度数8%以上の缶チューハイを指す場合が多く、税制上は「その他の発泡性酒類(アルコール度数10%未満)」に分類されます。この分類こそが、後述する低価格化と健康問題につながる重要な背景です。


ベースとなるアルコールは焼酎ではなく、多くの場合何度も蒸留を繰り返したクリアウォッカです。強い果実フレーバーで酒類特有の苦みや辛みを完全にカバーしているため、清涼飲料水と区別がつきにくい口当たりになっています。つまり「ストロング系」の意味の核心は、「ジュースのような飲みやすさ」と「高いアルコール度数」の組み合わせにあります。


医療従事者にとってこの定義を正確に把握しておくことは、患者問診の精度に直結します。患者が「チューハイを少し飲んでいます」と言ったとき、それがストロング系であれば話は全く変わってきます。飲料の種類を具体的に確認するだけで、見えてくるリスクの大きさが変わる点は、ぜひ覚えておいてください。


松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)によるストロング系の歴史・臨床的危険性の詳細解説(岩波「種まき書房」連載)


ストロング系チューハイの純アルコール量と「1日適正量」の比較

医療現場で患者に飲酒量を説明するとき、缶の本数だけでなく純アルコール量(g)での換算が不可欠です。純アルコール量の計算式は次のとおりです。


📐 純アルコール量(g) = 飲料量(ml) × アルコール度数(%) ÷ 100 × 0.8


これをストロング系(9%)に当てはめると以下のようになります。


| 容量 | 純アルコール量 | 日本酒換算 |
|------|-------------|----------|
| 350ml缶 | 約25g | 約1.4合 |
| 500ml缶(ロング缶) | 約36g | 約2合 |


厚生労働省が定める節度ある適度な飲酒量は、男性で純アルコール20g/日以下、女性で10g/日以下とされています。これを基準に考えると、500mlのストロング系1缶を飲んだ場合、男性は1日の適正量の1.8倍、女性は実に3.6倍もの純アルコールを一度に体内に入れることになります。


さらに、ストロング系500mlロング缶1本の純アルコール36gは、テキーラのショットグラス約3.75杯分に相当するというデータもあります(東洋経済オンライン、2024年)。ビールのロング缶1本(500ml・5%)の純アルコールが約20gであるのと比較すると、ストロング系は同じ容量で純アルコール量がほぼ倍です。


多量飲酒の定義も確認しておく必要があります。厚生労働省は純アルコール60g/日以上を多量飲酒者と定義しており、この状態が5年以上続くとアルコール性肝障害(脂肪肝→肝炎→肝硬変)のリスクが高まるとされています(大阪中央病院、消化器内科コラム)。ストロング系500ml缶を2本飲むだけで72gに達し、あっという間に多量飲酒者の基準を超えてしまいます。


「チューハイ2本だから大丈夫」が危険なのです。


患者が「毎日2本飲んでいる」と話した場合、それがストロング系のロング缶ならば、毎日72gの純アルコールを摂取している計算です。患者との対話の中でどの種類のお酒を何ml飲んでいるかを確認し、純アルコール量に換算する習慣が医療従事者には求められます。


医師監修:ストロング系チューハイの危険性3選(純アルコール量の計算・肝障害リスクを含む詳解)|メディカルドック


ストロング系の酒とアルコール依存症:医療現場からの警告

2019年末、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦医師がFacebookに「ストロングZEROは危険ドラッグとして規制すべき」と投稿し、大きな反響を呼びました。これは単なる印象論ではなく、長年の臨床経験から裏打ちされた見解でした。


医療現場で「何を飲んでいますか?」と問診すると、アルコール依存症患者の多くが「ストロング系を飲んでいます」と答えるとされています。岡山県精神科医療センターの精神科医・宋龍平氏も「同僚はみな、ストロング系がどれほど依存症に影響しているか調べたいと言っていた」と証言しています(BuzzFeed Japan Medical, 2022年)。


この臨床的直感をデータで裏付けたのが、2022年12月に世界初の研究として発表された論文です。慶應義塾大学の吉岡貴史氏らによる全国3万3,000人を対象とした横断的調査で、現在ストロング系チューハイを飲んでいる人は、飲んでいない人に比べてWHOが定める「問題飲酒(AUDIT 8点以上)」と有意に関連していることが明らかになりました。さらに追加分析では、飲酒量を統制した上でも、ストロング系の使用は多量飲酒・コントロール喪失・朝の飲酒・家族からの懸念と関連していたことが確認されました。


これは重要な知見です。


単純に「アルコール量が多いから問題飲酒になる」というだけでなく、ストロング系という飲料の性質そのものが問題飲酒のリスクと結びついている可能性を示しています。なぜなら、ジュースのような口当たりで急速に血中アルコール濃度を上げられるため、コントロールを失いやすい飲み方になりやすいからです。「飲むペースを感じにくい」という点は、アルコール性飲料の中でも特異な危険性といえます。


また臨床的に注目すべきは、肝障害が進行した患者でもストロング系は飲めてしまうという事実です。日本酒やワインは醸造酒特有の臭気で嘔気を催すことがあるのに対し、ストロング系は何度も蒸留したピュアなエチルアルコールをベースとしているため、肝機能が著しく低下した状態でもするすると飲めてしまいます。松本氏は「黄泉の国への快速切符」とさえ表現しています(岩波「種まき書房」連載、2024年)。


医療従事者として見逃してはならない点がここにあります。アルコール依存症の患者が「最近はあまり飲めなくなった」と言う場合でも、ストロング系を続けている可能性を念頭に置いた問診が必要です。


世界初:ストロング系チューハイと問題飲酒の関連を明らかにした研究の詳細解説(慶應義塾大・吉岡氏らへのインタビュー含む)|BuzzFeed Japan Medical


ストロング系が低価格で普及した背景:酒税の構造的問題

ストロング系が100〜200円という低価格で流通する背景には、日本の酒税の構造的な歪みがあります。これを理解することは、患者がなぜストロング系を手にするのかを理解する上で重要な視点です。


日本の酒税制度では、アルコール度数が比較的低いビールの税率が高く設定されており、逆にアルコール度数が高いワインや日本酒、リキュール類の税率は低い傾向があります。さらに「アルコール度数10%未満・発泡性の酒類」というカテゴリは特に税率が低く設定されており、ストロング系はこの基準ギリギリのアルコール度数(7〜9%)に収めることで低価格を実現しています。健康被害のリスクが相対的に低いビールほど割高になるという、健康的観点からは逆転した構造です。


これはWHOが2010年に定めた「問題飲酒を減らすための世界戦略」とも逆行する状況です。同戦略では、高アルコール飲料への課税強化とアクセス制限が明記されています。ところが日本ではコンビニで24時間、100〜200円という低価格で入手できる状態が続きました。


さらに問題なのは、若者向けマーケティングです。2022年にはM-1グランプリの公式チューハイとしてストロングゼロがタイアップし、SNS上で大規模なキャンペーンが展開されました。「酒を飲んだことがない」若い世代の入り口として、ストロング系が機能してきたという指摘は医療の立場から重要です。


市場の動向としては、2024年にアサヒビール・サッポロビールが「今後、度数8%以上の新商品は発売しない」と相次いで表明。キリンも販売に慎重な姿勢を示し、ストロング系市場は縮小傾向に入っています。サントリーもブランド名を「-196」にリニューアルし、低アルコール路線も並走させています。ストロング系市場が縮小傾向であることは確かです。


しかしながら、既存のストロング系商品はまだ市場に流通しており、患者が日常的に飲んでいる可能性は十分あります。市場の変化を把握しつつも、問診では引き続き具体的な銘柄・容量の確認が必要です。


医療従事者がストロング系飲酒患者に行うべき問診とAUDIT活用法

ストロング系についての知識を得たとして、実際の診療や保健指導にどう活かすかが最も重要です。ここでは、医療従事者が具体的に使えるスキームを整理します。


まず問診のポイントです。患者が「お酒を飲んでいる」と申告した際、次の3点を必ず確認する習慣をつけてください。「①何を飲んでいるか(種類・銘柄)」「②何ml飲んでいるか(缶の容量)」「③週に何日・何本飲むか」この3点が揃えば純アルコール量が計算でき、多量飲酒・生活習慣病リスクを定量評価できます。


次に、スクリーニングツールとしてのAUDIT(Alcohol Use Disorder Identification Test)の活用です。これはWHOが開発した10項目の問診票で、8点以上が「問題飲酒」の基準、15点以上が「アルコール依存症疑い」の目安になります。特に前述の研究で、ストロング系飲用者はこのAUDITスコアとの有意な関連が示されているため、ストロング系を定期飲用していると分かった患者にはAUDITを実施する動機になります。


スクリーニング後の対応として有効なのがSBIRT(Screening, Brief Intervention, Referral to Treatment)のアプローチです。スクリーニング(S)→簡易介入(BI)→必要であれば専門治療への紹介(RT)という流れで、プライマリケアや内科・産業医の場面でも活用できます。


簡易介入(ブリーフインターベンション)では、患者の飲酒量を純アルコール量で「見える化」し、「適正量の〇倍になっています」と伝えることが有効です。数字で示すだけで、多くの患者が自身の飲酒量を正確に把握していなかったことに気づきます。


最後に、問診で見落とされがちな点として、「少ししか飲んでいない」と申告する患者にも注意が必要です。ストロング系の場合、「1日1本だけ」が実はロング缶500mlを指していることがあり、それだけで純アルコール36gになります。適正量だけを念頭に置くと精度が落ちるので注意が必要です。


大阪府が公開している「アルコール関連問題のある人への簡易介入マニュアル」では、SBIRTの手順が平易に解説されており、医療従事者の実務参考として活用できます。


AUDIT(アルコール使用障害同定テスト)の判定基準と使い方|久里浜医療センター


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