加熱してもトマトアレルギーは完全には消えず、重篤な反応を起こした患者報告が国内で複数確認されています。
トマトには複数のアレルゲンタンパク質が含まれており、それぞれ加熱に対する安定性が大きく異なります。この違いを理解していないと、患者への食事指導で重大な見落としが生じる可能性があります。
主なアレルゲンは大きく3種類に分類されます。1つ目はプロフィリン(Lyc e 1)、2つ目は病原関連タンパク質(PR-10タンパク:Lyc e 3は実際にはLTPに相当)、そして3つ目が脂質転送タンパク質(LTP:Lyc e 3)です。
プロフィリンは熱に不安定なタンパク質です。80℃前後の加熱処理で構造が変性し、アレルゲン性が大きく低下するとされています。花粉−食物アレルギー症候群(PFAS)の患者において、口腔アレルギー症候群(OAS)を引き起こすのは主にこのプロフィリンであるケースが多く、加熱トマトであれば症状が軽減・消失することが多いと報告されています。
一方、LTPは状況が異なります。LTPは熱安定性が高く、100℃での加熱処理後もアレルゲン活性が保たれることが複数の研究で示されています。これが原則です。
LTPによるアレルギーは消化酵素への抵抗性も高く、全身性の反応(蕁麻疹、血管性浮腫、アナフィラキシー)を引き起こすリスクがあります。トマトケチャップや濃縮トマトペーストのように、長時間加熱・濃縮されたものを摂取しても反応が出た症例が報告されていることは意外ですね。
つまり、加熱の効果はアレルゲンの種類次第です。「加熱したから安全」という一律の判断は危険であり、どのアレルゲンが原因なのかをアレルギー専門医と連携しながら特定することが、適切な患者指導の第一歩となります。
日本アレルギー学会誌(アレルギー)- トマトを含む食物アレルギーの原因タンパク質や臨床研究論文が掲載されています
花粉症患者がトマトを食べて口や喉にかゆみを感じる——これは花粉−食物アレルギー症候群(PFAS)として知られる現象です。シラカバ花粉やハンノキ花粉に含まれるBet v 1関連タンパク質(PR-10タンパク質)と、トマトのアレルゲンが交差反応を起こすことで発症します。
この場合の症状は、多くが口腔アレルギー症候群(OAS)にとどまります。口唇・舌・咽頭の掻痒感や軽い浮腫が典型的で、消化管に入ると消化酵素で分解されやすいため、全身反応に至ることは比較的少ないとされています。これは使えそうです。
加熱によってPR-10タンパク質は変性するため、PFAS由来のOAS患者では、加熱済みトマト(ソース、煮込み料理など)であれば症状が出ないケースが多く報告されています。日本アレルギー学会の食物アレルギー診療ガイドラインでも、この点は記載があります。
ただし重要な注意点があります。同じトマトアレルギーでも、LTPが原因の患者は花粉感作の有無に関わらず全身性反応のリスクが高く、加熱の有無は症状軽減に直結しません。イタリアをはじめとした地中海地域での疫学研究では、LTPによるトマトアレルギーが重篤なアナフィラキシーの主因となっているケースが報告されており、日本でも増加傾向が指摘されています。
臨床現場での鑑別ポイントは以下の通りです。
患者が「加熱済みなら大丈夫と言われた」と思い込んで摂取し、症状が出るケースは実際に起こりえます。どのアレルゲンが原因かの特定が条件です。
日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会 - 食物アレルギーの診断・治療に関する情報が掲載されています
患者から「加熱したトマトなら食べてもよいですか?」という質問を受けたとき、どのように答えるべきでしょうか?この問いへの対応が、患者の安全管理において非常に重要な場面になります。
まず前提として、アレルゲンの種類の特定なしに「加熱したら大丈夫」とは言えません。これが原則です。特異的IgE検査(CAP法)でLyc e 3(トマトLTP)への感作が確認されている場合は、加熱の有無に関わらずトマト含有食品全般を避けるよう指導する必要があります。
一方、PFAS関連のOAS症状のみで、特異的IgEがプロフィリン(Lyc e 1)や花粉交差反応性のコンポーネントに対して陽性であり、LTPへの感作が確認されていない場合は、十分に加熱されたトマト製品については摂取可能である可能性があります。ただし、この判断はアレルギー専門医が行うものです。
患者指導において具体的に伝えるべき調理上のポイントは以下の通りです。
食品表示の点については特に注意が必要です。卵・乳・小麦などの特定原材料8品目と異なり、トマトは表示義務のない「特定原材料に準ずる品目(20品目)」に含まれます。つまり、表示がない加工食品にもトマトが含まれている可能性があります。これは痛いですね。
患者が「表示を確認したから安全」と判断して摂取するリスクがある点も、指導時に伝えるべき重要な情報です。
厚生労働省 食品表示(アレルギー表示)- 特定原材料と特定原材料に準ずる品目の表示ルールが確認できます
経口負荷試験(OFC:Oral Food Challenge)は、食物アレルギーの確定診断や耐性獲得の確認において現在のスタンダードな手法です。トマトアレルギーの診療においても、OFCは有用ですが、加熱の条件設定が結果に大きく影響します。
生トマトと加熱トマトを別々に負荷する設計が重要です。加熱トマト(例:トマトピューレを100℃で10分加熱したもの)では問題なく、生トマトのみで反応が出る患者は、PFAS関連OASの可能性が高く、日常生活での制限をより少なくできる可能性があります。結論はアレルゲン特定が先です。
一方、加熱トマトでもOFCで反応が出た場合は、LTP感作など熱安定性アレルゲンへの感作が強く疑われます。この場合は、より慎重な除去管理と定期的な再評価が必要です。
OFCの実施にあたって医療従事者が注意すべき点を整理します。
運動誘発性食物依存性アナフィラキシー(FDEIA)との関連も見逃せません。LTP感作のあるトマトアレルギー患者が、トマト摂取後に運動した場合にアナフィラキシーが誘発されたという事例は国内外で報告があります。OFCでは安静条件で陰性でも、運動負荷条件では陽性になるケースがあるため、患者の生活習慣(食後の運動習慣など)を確認することも指導に含めると良いでしょう。
Mindsガイドラインライブラリ - 食物アレルギー診療ガイドライン(日本小児アレルギー学会)の要約・推奨事項を確認できます
ここでは、一般向けの情報にはあまり載っていない、臨床現場ならではの視点をまとめます。これは使えそうです。
落とし穴①:トマトジュースは「加熱済み」でも要注意
市販のトマトジュースは製造過程で加熱処理が施されています。しかし、LTP感作患者においては、加熱済みのトマトジュースでも症状が誘発された事例が報告されています。「加熱加工食品だから大丈夫」と患者が自己判断して摂取するリスクがあります。LTP感作患者には、加工食品についても除去が必要なことを明確に伝えることが重要です。
落とし穴②:トマトアレルギーと診断されていない患者が摂取している可能性
日本において食物アレルギーの有病率調査(2020年度調査)では、学童期以降の食物アレルギーの原因食物として果物・野菜類が増加傾向にあり、トマトはその中に含まれます。しかし、トマトは義務表示品目でないため、加工食品に使用されていても患者が気付かない場合があります。原因不明の蕁麻疹やOASが繰り返す患者には、トマト含有食品の摂取歴を問診に含めることが診断の糸口になりえます。
落とし穴③:「トマト嫌い」が実はアレルギーである可能性
小児において「トマトが嫌い」という訴えの背景に、口腔内の不快感(OAS)が隠れているケースがあります。嫌いな理由が「なんとなく気持ち悪くなる」「口がかゆくなる」であれば、アレルギー評価を行う価値があります。単なる好き嫌いとして見過ごされがちな点は要注意です。
落とし穴④:アレルゲン免疫療法(AIT)とトマト
花粉症に対するアレルゲン免疫療法(スギ・ハンノキなどのSCIT/SLIT)を受けている患者では、治療の進行に伴い花粉交差反応性のOASが改善するケースが報告されています。ただし、LTP感作による症状は花粉免疫療法の効果が期待しにくく、別途対応が必要です。免疫療法中の患者からトマトアレルギーについて相談を受けた場合は、この点を踏まえた説明が求められます。
落とし穴⑤:調理器具・調理場の二次汚染
レストランや給食施設でのトマト使用後の調理器具・まな板には、アレルゲンタンパク質が残存する可能性があります。特に、LTP感作の患者は微量のアレルゲンでも反応する場合があるため、外食・給食管理での対応について患者・保護者へ情報提供することが重要です。これが条件です。
以上の落とし穴を踏まえると、医療現場でのトマトアレルギー管理には「加熱の有無だけで判断しない」という姿勢が一貫して求められます。アレルゲンコンポーネント検査の活用、専門医との連携、そして患者への丁寧な個別説明の3点が、安全管理の核となります。
日本小児アレルギー学会誌 - トマトを含む食物アレルギーの臨床研究・症例報告が掲載されています