2026年3月31日以降、まだアドソルビン原末を処方していると保険請求が通らなくなります。
アドソルビン原末(製造販売元:アルフレッサファーマ株式会社)は、消化管用吸着剤として長年にわたり下痢症の治療に使用されてきた医薬品です。一般名は「天然ケイ酸アルミニウム(日局)」であり、薬効分類番号は2343(消化管用吸着剤)に分類されます。薬価は1gあたり0.77円(500g包装の統一商品コード:274-12995-7)と非常に安価な薬剤でした。
販売中止の直接の原因は、極めて異例な事情によるものです。アルフレッサファーマは2022年12月12日に出荷停止を発表した際、公式文書においてこのように説明しています。「これまで原薬として使用しておりました国内の天然ケイ酸アルミニウムの鉱脈が枯渇したことから別原薬への切替えを検討しておりますが、製品規格に適合する原薬が見つかっておらず、製品を供給できる目途が立っておりません。」というものです。つまり、薬の製造に不可欠な原料そのものが地球から採れなくなったという、医薬品としては非常に珍しいケースです。
鉱脈が枯渇するとは、山や地下に存在する天然ケイ酸アルミニウムの層が採掘し尽くされた状態を指します。国内の鉱山から産出される量が製品規格を満たす水準に届かなくなり、海外産の代替原薬も製品規格(粒子径・吸着能など)に合致するものが見つかりませんでした。つまり、製薬会社の経営判断や品質問題ではなく、文字通り「材料がなくなった」ということです。これは後発医薬品の整理統合やコスト問題による販売中止とは、まったく性質が異なります。
その後、別原薬への切り替え検討が続けられましたが解決に至らず、2024年9月にアルフレッサファーマは正式な「販売中止のご案内」を発出しました。経過措置期間の満了予定日は2026年3月31日とされており、それをもって薬価基準から削除されることが確定しています。
出荷停止(2022年12月)→ 販売中止正式案内(2024年9月)→ 経過措置満了・薬価削除(2026年3月31日)という流れが基本です。2026年4月1日以降は、仮に在庫がどこかに残っていたとしても、保険請求の対象外となります。
アルフレッサファーマ公式:アドソルビン原末 出荷停止のお知らせ(続報)- 鉱脈枯渇の詳細経緯と薬価削除に向けた対応状況が記載されています
アドソルビン原末が医療現場で広く用いられてきた背景を理解するためには、その作用機序を確認しておくことが重要です。作用は吸着です。胃および腸管内における異常有害物質・過剰な水分・粘液などを物理的に吸着・除去することで下痢症を改善します。腸管内でこの吸着作用が発揮されると、結果的に収斂作用・止瀉作用が現れます。ロペラミドのような腸管運動抑制とは根本的に異なるメカニズムです。
1日投与量は成人で3〜10gを3〜4回に分割して経口投与します。粉末製剤であり、無味無臭に近い白色〜わずかに灰色がかった粉末ですが、口腔内の水分を強く奪う特性があります。服用感としては「砂を噛むようなシャリシャリ感」があるため、多めの水で一気に流し込む服用指導が推奨されていました。
臨床現場では、タンニン酸アルブミン(タンナルビン)との混合処方が長年の慣習として定着していました。「アドソルビン+タンナルビン」の2剤を混合した判子処方を常備していた医師も多く、特に急性腸炎・胃腸炎の外来診療では定番の処方パターンでした。小児にも使いやすい剤形であり、小児科・内科を問わず幅広く処方されていた点も、この薬の存在感を際立たせていた要因です。
禁忌として「腸閉塞のある患者」と「透析療法を受けている患者」が設定されていました。特に透析患者への長期投与はアルミニウム脳症・アルミニウム骨症のリスクがあるため注意が必要でした。この点は代替薬を選ぶ際にも参考になる視点です。
くすりのしおり:アドソルビン原末 患者向け情報 - 効能・用法・注意点など基本情報を確認できます
販売中止にあたり、アルフレッサファーマは公式の「販売中止のご案内」の中で代替候補品を2つ提示しています。ひとつは「タンニン酸アルブミン『ニッコー』(製造販売元:日興製薬株式会社)」、もうひとつは「ロペラミド塩酸塩カプセル」です。ただし、これらは「候補品の例示」であり、最終的な処方選択は医師・薬剤師が患者の状態を踏まえて個別に判断する必要があります。
まず、タンニン酸アルブミン(タンナルビン)について整理します。作用機序は収斂作用であり、腸管でタンニン酸を遊離して腸粘膜に結合し、粘膜保護・止瀉作用を発揮します。アドソルビン原末とはセットで処方されることが多かった薬であり、現場での親和性は高いと言えます。水に不溶のため胃では作用せず、腸管で初めて効果を発揮するという特性があります。牛乳アレルギーの患者には注意が必要です(アルブミンの由来が乳由来のケースがあるため)。
次に、ロペラミド塩酸塩(ロペミン等)について整理します。腸管運動抑制薬であり、腸のぜん動を抑制することで下痢を改善します。即効性があり1日1〜2回の服用で済む利便性がありますが、感染性腸炎(腸管に病原体が残っている状態)では排出を妨げるリスクがあるため、急性感染性下痢症への安易な使用は避けるべきとされています。アドソルビン原末と同時に服用するとタンニン酸アルブミン由来のタンニン酸がロペラミドを吸着し、効果を減弱させる可能性があることも知られています。この飲み合わせの問題は過去から指摘されているため、タンナルビンとロペラミドを組み合わせる場合は服用時間をずらすことが推奨されます。
代替選択の考え方として整理します。
| 薬剤名 | 作用機序 | 主な特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| タンニン酸アルブミン(タンナルビン) | 収斂作用 | 穏やかな作用・胃障害少ない | 牛乳アレルギー注意 |
| ロペラミド塩酸塩(ロペミン等) | 腸管運動抑制 | 即効性あり・服用回数少ない | 感染性下痢には原則不可 |
| タンニン酸ベルベリン(フェロベリン等) | 収斂+腸内殺菌 | 感染性下痢にも有用 | ‐ |
感染性下痢にはタンニン酸アルブミンまたはフェロベリンが適しています。非感染性・機能性の下痢でロペラミドが適応となるケースには積極的に切り替えを検討できますが、小児や高齢者への使用には用量管理の注意が必要です。つまり「吸着剤の代わりを選ぶ」のではなく「患者の病態に合った止瀉薬を選び直す」という視点が原則です。
ファーマシスタ:止瀉薬(下痢止め)一覧・作用機序 - アドソルビン含む止瀉薬の分類・作用機序を体系的に確認できます
アドソルビン原末の経過措置期間満了日は2026年3月31日です。この日を境に、薬価基準から正式に削除されます。削除後は保険医療機関・保険薬局いずれにおいても、当該薬剤を処方・調剤して保険請求することができなくなります。経過措置の意味をあらためて確認しておきましょう。
経過措置とは、医薬品の製造・販売中止が決定した後、在庫消尽のための猶予期間として設けられる制度です。この期間中は通常通り保険請求が可能ですが、期間満了後は薬価基準の掲載が失効し、レセプトへの記載・請求ができなくなります。2026年3月31日が満了日ということは、2026年4月1日以降の処方・調剤分からは保険請求の対象外です。
実務上、注意すべき具体的なシナリオを挙げます。たとえば、処方オーダのマスタ更新が遅れている医療機関では、4月以降もアドソルビン原末が処方できる状態になっていたとしても、調剤・請求段階でエラーになります。また、アドソルビン原末が院内採用されたままになっている場合、患者への処方変更の説明と処方内容の切り替えを事前に完了させておく必要があります。
今回の案件は、いわゆる「後発医薬品の整理」とは異なり、同一成分のジェネリックも含めて完全に市場から消える「成分単位の削除」に該当します。つまり代替できる同一成分薬は存在しません。処方変更は必須です。
医療機関薬剤部・調剤薬局に求められる対応としては、まず院内採用薬マスタからのアドソルビン原末の削除または処方停止設定を行うことが最優先です。次に、長期投与患者(特に下痢症が慢性的な患者)への代替薬切り替えに伴う疑義照会・処方変更への対応を計画的に進める必要があります。対応が遅れると、4月以降のレセプト返戻につながります。これは避けたいですね。
厚生労働省:薬価基準から削除する品目及び経過措置期間を延長する品目について(PDF) - 経過措置の制度的な根拠と対象品目の詳細が確認できます
今回のアドソルビン原末の販売中止は、医療用医薬品の供給安定性に関してこれまであまり議論されてこなかった盲点を突いています。一般的に医薬品の供給不安定・販売中止の原因としては、製造工場の品質問題、採算悪化による自主的な販売撤退、後発品業界の統廃合、または輸入原薬への依存による地政学リスクなどが挙げられます。しかし今回のケースはそのいずれでもありません。
国内の特定鉱山にしか存在しなかった天然ケイ酸アルミニウムの鉱脈が物理的に枯渇したという事実は、「医薬品の原料は無限に手に入る」という暗黙の前提を覆すものです。医療従事者として、この事例から学べることは少なくありません。
ひとつは、植物・鉱物・海洋生物など天然由来の原薬を持つ医薬品は、鉱山枯渇・漁獲量減少・気候変動による農業生産への影響などによって突然の供給停止に陥るリスクがあるという認識です。もうひとつは、代替原薬が見つからない場合、製薬会社がどれだけ努力しても製品を復活させることができないという点です。アルフレッサファーマも2022年の出荷停止発表後、約2年にわたって別原薬の探索を続けましたが、最終的に断念しています。
実際、アドソルビン原末と同様の状況に置かれやすい天然物由来成分の医薬品は他にも存在します。たとえばコデインリン酸塩(アヘン由来)・ジギタリス製剤(植物由来)・ヘパリン(豚腸由来)などは、原料調達環境の変化に影響されやすい成分として知られています。これらの薬剤についても、長期的な供給動向を継続的にモニタリングしておく姿勢が医療機関には求められます。
さらに今回の事例で特筆すべきは、アドソルビン原末の薬価(1gあたり0.77円)が非常に低かったことです。採算性の低い薬剤は、供給停止が起きた際の復旧コスト(新原薬の探索・規格変更の承認申請など)を回収できる見込みが立ちにくく、製薬企業が諦めざるを得ないハードルが高くなります。低薬価品ほど供給リスクが顕在化しやすいという構造は、日本の医薬品供給政策全体の課題として認識されています。
これは使えそうな視点です。担当患者に天然物由来の薬剤が処方されている場合、各薬剤の供給動向を確認する習慣を持つことが、将来の突発的な処方変更対応の負担を減らすことにつながります。
くすり・薬剤師サイト:2026年3月に経過措置となる387品目一覧 - アドソルビン原末を含む削除品目の全体像と背景が詳しく解説されています
ここまでの内容を踏まえ、医療機関・薬局の実務担当者が確認しておくべき対応事項を整理します。対応が抜けているとレセプト返戻や患者への適切な情報提供ができないリスクがあります。一つひとつ確認していきましょう。
まず、処方マスタ・薬品マスタの更新です。院内処方オーダシステムにアドソルビン原末が残っている場合、2026年4月1日以降は処方不可に設定するか、マスタから削除することが必要です。調剤薬局においても、レセプトコンピュータ(レセコン)の設定確認が急務です。特に地方の調剤薬局では年1〜2回しか処方されないような薬剤はマスタ更新の優先度が下がりがちですが、今回は保険請求の可否に直結するため優先的に対応する必要があります。
次に、継続処方患者への対応です。アドソルビン原末が長期的に処方されていた患者(特に慢性下痢症・過敏性腸症候群などの診断のある患者)については、担当医への事前連絡と代替薬への処方変更依頼が必要です。疑義照会の際は「販売中止による代替薬への変更のご相談」として記録を残しておくことが推奨されます。
また、院内採用薬品一覧のアップデートも重要です。薬事委員会・薬品委員会での審議を経て、アドソルビン原末の削除と代替採用薬の正式決定を行うことが必要です。代替として採用する薬剤(タンニン酸アルブミン・ロペラミド塩酸塩など)の在庫確保・発注調整も同時に進めます。
患者説明に関しては、「お薬が変わります」という内容をわかりやすく伝えることが基本です。「今まで飲んでいた薬の原料が地球から採れなくなったため、製造できなくなりました。同じ効果が得られる別のお薬に変更します」という説明が、患者にとって最も理解しやすいアプローチです。難しいことを言う必要はありません。
処方変更後のフォローアップとして、代替薬への切り替え後は効果確認・副作用確認を1〜2週間後に行うことを推奨します。特にロペラミドに変更した場合は、便秘への傾きや腹部膨満感などの副作用モニタリングが必要です。タンニン酸アルブミンへの変更では、牛乳アレルギーの有無を事前確認することが条件です。
経過措置満了後も在庫が残っているケースについては注意が必要です。薬局の棚にアドソルビン原末が残っていたとしても、2026年4月1日以降の調剤・請求は保険対象外です。廃棄または自費対応(患者の同意が前提)となることを把握しておきます。在庫は2026年3月末までに使い切るか、廃棄処理の手続きを進めることが望ましいです。
対応は早いほど現場への負担が少なく済みます。2026年3月末を過ぎてから慌てて動くよりも、今の段階で粛々と準備を進めることが最も合理的です。医療機関・薬局の双方が連携して計画的に対応することが、患者へのスムーズな切り替えを実現する最善策です。
データインデックス:経過措置医薬品告示情報(経過措置期限2026年3月31日) - アドソルビン原末を含む経過措置品目一覧とレセプト対応の確認に役立ちます