亜硫酸塩アレルギーと疑って行ったIgE検査が「陰性」でも、患者は本当に発作を起こします。
亜硫酸塩(サルファイト類)とは、亜硫酸ナトリウム・ピロ亜硫酸ナトリウム・次亜硫酸ナトリウムなど複数の化合物の総称です。食品添加物としては酸化防止剤・保存料・漂白剤として古くから使われており、日本の食品衛生法に基づく使用基準は二酸化硫黄換算で0.35g/kg未満と定められています。
日常で接触しやすい食品には、ワイン、ドライフルーツ、かんぴょう、甘納豆、冷凍えび・かに、ゼラチン、コンニャク粉などが挙げられます。しかし医療現場で見落とされがちなのが、食品だけではなく医薬品にも広く使われているという事実です。
医薬品における亜硫酸塩は、有効成分として含まれる場合(亜硫酸リジン)と、添加剤として含まれる場合(抗酸化剤・安定化剤目的)があります。後述するエピペン(アドレナリン)にもピロ亜硫酸ナトリウムが添加されており、医療従事者として把握しておくことが必要です。
亜硫酸塩に対する過敏症は「アレルギー」と一括りにされることが多いですが、正確にはIgE依存性の免疫応答とは異なる機序が関係しているケースがほとんどです。つまり「食物アレルギー」の標準検査で使われる特異的IgE抗体検査だけでは、亜硫酸塩過敏症を正しく評価できない可能性があります。
食品安全委員会の評価書(2022年)では「IgEテストは通常陰性であり、これは反応がアレルギーを惹起せしめる抗原物質ではなかったことを意味する」と明記されています。IgE陰性でも過敏症状が出るという点が原則です。
食品安全委員会添加物専門調査会「亜硫酸塩等 添加物評価書(2022年)」— IgEテストと亜硫酸塩反応機序に関する詳細な評価が記載されています。
亜硫酸塩過敏症の診断で最初に思い浮かぶのがIgE血液検査(特異的IgE抗体検査)かもしれません。しかし前述の通り、この検査は亜硫酸塩に対してはほとんど陰性になります。検査が陰性だから問題なし、とはなりません。
現時点で臨床的に有用とされているアプローチは、以下の3つを組み合わせることです。
① 皮内テスト(イントラダーモテスト)
亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどを個別に皮内注射し、膨疹・発赤の有無を確認する方法です。2018年に「アレルギー」誌(医学書院)に報告されたワイン摂取後アナフィラキシー症例では、プリックテストが陰性だったにもかかわらず皮内テストで3物質すべて陽性が確認されました。プリックテスト単体では感度が低い場合があります。
② パッチテスト
遅延型(IV型)の接触アレルギーを評価するのに用います。2025年10月にDermatitis誌に発表された後ろ向き横断研究では、亜硫酸ナトリウムへのパッチテスト陽性患者は陰性の患者と比べ、高硫酸塩含有食品・飲料(特にワイン)摂取後の全身症状を有意に多く報告し、パッチテスト反応が強い患者ほど症状の頻度と重症度が高い傾向があることが示されました。これは接触アレルギーと全身性の不耐症の間に重複がある可能性を示唆しています。
③ 食物経口負荷試験(OFC)
最終確認として用いる方法です。患者の症状履歴と合わせて実施しますが、亜硫酸塩過敏患者は喘息発作やアナフィラキシーを起こすリスクがあるため、必ず医療機関内で専門医の管理下で行う必要があります。絶対に自己判断で行わない、が原則です。
3つの検査を組み合わせるのが基本です。
CareNet「亜硫酸ナトリウムのパッチテスト陽性患者、高硫酸塩食品で全身症状が高頻度に(2025年10月)」— パッチテスト陽性と全身症状の関係性についての最新研究内容が要約されています。
亜硫酸塩過敏症の問題を語るとき、喘息患者への影響を避けては通れません。厚生労働省が2026年3月に発行した医薬品・医療機器等安全性情報 No.427では、以下の通り明記されています。
「気管支喘息患者においては数~10%程度の者が亜硫酸塩に過敏に反応したとする複数の報告があり、二酸化硫黄及び亜硫酸塩による過敏性反応の発症機序等に関する新たな知見の集積を注視すべきである。」
日本の喘息患者数は成人で約10.4%(2017年時点)に達しており、厚生労働省の統計では外来受診患者だけで年間89万9千人を超えています。このうち数~10%が亜硫酸塩に過敏反応を示す可能性があると考えると、喘息外来・アレルギー外来を担当する医療従事者が亜硫酸塩過敏症の知識を持つことは決して「まれな知識」ではありません。
非喘息患者に比べ、喘息患者は亜硫酸塩過敏症が多く認められることが複数の文献で報告されています。これは米国FDA(2024年6月)もEUも同様の見解を示しており、国際的にコンセンサスが形成されつつある部分です。厳しいところですね。
喘息患者に亜硫酸塩含有薬を処方・投与する際は、患者が亜硫酸塩過敏症である可能性を事前に問診で確認しておく必要があります。特にワインや保存食品を摂取した後に喘息が悪化した経験があるかどうかを確認する問診項目が、診断の重要な端緒になります。
問診と検査のセットが診断の条件です。
厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.427(2026年3月)」— 亜硫酸塩含有医療用医薬品の使用上の注意改訂と喘息患者へのリスクについて詳しく解説されています。
医療従事者の間で意外に知られていない事実があります。アナフィラキシーの第一選択薬であるエピペン(アドレナリン注射液0.3mg)には、添加剤としてピロ亜硫酸ナトリウムが3.34mg含まれています。
ここで問題になるのは、亜硫酸塩過敏症の患者がアナフィラキシーを起こした場合の対応です。通常なら迷わずエピペンを使用しますが、亜硫酸塩アレルギーの患者に対しても同様に投与してよいのかという臨床的疑問が生じます。
エピペンの製品情報概要には「本剤にはピロ亜硫酸塩が含まれていますが、ピロ亜硫酸塩アレルギーの方であっても、緊急時には本剤をご使用ください」と明記されています。生命の危機があれば亜硫酸塩過敏症があっても投与が優先されます。
しかし、日常の処方管理では話が変わります。2018年に報告されたワイン摂取後アナフィラキシー症例では、亜硫酸塩アレルギーと確定された患者について「亜硫酸塩が添加されていない薬剤のみで対応する方針」となり、エピペンを所持しないという判断が下されました。つまり、亜硫酸塩過敏症患者の緊急時プランを策定する際に、エピペン以外の薬剤選択肢の事前検討と準備が必要になる場合があります。
さらに、ステロイド製剤・昇圧剤の多くにも亜硫酸塩が含まれており、薬剤師と連携して「亜硫酸塩を含まない製剤リスト」を病棟・外来であらかじめ把握しておく体制づくりが、患者安全につながります。
| 薬剤カテゴリ | 亜硫酸塩含有の代表例 | 注意点 |
|---|---|---|
| アドレナリン製剤(エピペン) | ピロ亜硫酸ナトリウム 3.34mg含有 | 緊急時は投与優先。通常管理では要確認 |
| 昇圧剤・カテコールアミン系 | 一部製品に亜硫酸ナトリウム含有 | 処方前に電子添文で添加剤を確認 |
| ステロイド注射薬 | 一部製剤に含有あり | 亜硫酸塩不含製剤への代替を検討 |
これは使えそうです。
2026年2月10日付で厚生労働省が亜硫酸塩含有医療用医薬品の電子添文の「使用上の注意」改訂を一斉指示しました。改訂ポイントは「亜硫酸塩を含有していること」と「喘息患者では非喘息患者より過敏症が多く認められる」旨の記載を義務付けた点です。担当患者の定期処方薬について、電子添文で添加剤を確認する、という一つの行動が安全管理の第一歩になります。
亜硫酸塩過敏症と診断が確定した後も、医療従事者が患者にどこまで指導できるかによって患者の生活の質が大きく変わります。亜硫酸塩は非常に多くの食品・飲料・医薬品に含まれているため、漫然と「亜硫酸塩を避けてください」と伝えるだけでは不十分です。
日本では食品表示において、亜硫酸塩(二酸化硫黄として)が一定量以上含まれる食品に添加物名の記載義務があります。米国・EUでは二酸化硫黄換算で10μg/g(10ppm)以上を含む食品に表示義務を課しており、国際的には主要アレルゲンの一つとして扱われています。つまり輸入食品では日本国内基準と異なる可能性があり、海外食品を摂取する患者への情報提供では、輸入品のラベル確認を促すことが重要です。
患者が見落としやすい亜硫酸塩含有食品には以下があります。
白ワインへの注意は特に必須です。
食品の見極め方として、患者に実践できる方法を一つ伝えるとすれば「食品表示の一括表示欄で"亜硫酸塩"または"二酸化硫黄"の文字を確認する」です。パッケージが小さい場合や外食・バル・居酒屋などで提供される料理では添加物の確認が難しいため、重症例はワインや加工食品の摂取自体を医師と相談する方針が安全です。
また、亜硫酸塩過敏症が確定した患者が新たな医療機関を受診したり、救急搬送された場合に備えて、「自分が亜硫酸塩過敏症であること」を医療スタッフに伝えられるようアレルギー手帳やお薬手帳への記載を促しておくことも、診断後指導の重要な一環です。情報を手帳に残すことが条件です。
日本アレルギー学会「アレルギー検査方法の実際」— プリックテストを含む皮膚テストの解釈と患者指導における臨床的な活用方法が紹介されています。
医学書院「ワインに含まれた亜硫酸塩によりアナフィラキシーを生じた1例(2018年)」— 皮内テストによる亜硫酸塩アレルギー診断と、緊急薬選択の実際を報告した国内症例報告です。