摘要欄に施設要件を書かなかっただけで、1本あたり約5.9万円の薬剤費が全額査定されることがあります。
デュピクセント皮下注(一般名:デュピルマブ)は、最適使用推進ガイドラインが策定された医薬品であり、保険請求にあたって診療報酬明細書(レセプト)の摘要欄への記載が義務付けられています。これを怠ると、適切な診療を行っていても査定・返戻の対象となります。令和3年度の個別指導では「デュピクセント皮下注300mgペンの投与開始に当たって、施設要件及び患者要件の記載がない」という指摘が実際に文書化されています。記載漏れは現実のリスクです。
摘要欄への記載が必要な項目は、投与する疾患によっても異なります。以下にアトピー性皮膚炎の場合を中心に整理します。
| 記載区分 | 記載内容 | 選択式コード例 |
|---|---|---|
| 施設要件 | 施設要件ア・イ・ウのうち該当するもの | 820600189など |
| 前治療要件 | 前治療要件ア・イ・ウのうち該当するもの | 820600181など |
| 疾患活動性(必須3項目) | IGAスコア、EASIスコア(全身or頭頸部)、体表面積における病変割合(%) | フリーテキスト |
| 小児への投与時のみ | 体重(kg) | フリーテキスト |
施設要件は3種類あります。アは「初期研修後5年以上の皮膚科診療の臨床研修」、イは「初期研修後6年以上の臨床経験うち3年以上アレルギー診療の研修(成人のみ)」、ウは「初期研修後6年以上の臨床経験うち小児科3年以上+アレルギー3年以上(小児のみ)」です。令和5年9月25日の改正(保医発0925第4号)で小児への投与に関する「施設要件ウ」が新設されたため、小児患者を扱う医療機関では最新の要件を確認しておく必要があります。
前治療要件も3種類ある点に注意が必要です。ステロイド外用薬(成人はストロングクラス以上、小児はミディアムクラス以上)やカルシニューリン阻害外用薬による6か月以上の治療歴がある場合(要件ア・イ)と、過敏症・副作用により継続困難な場合(要件ウ)に分かれます。該当するコードを選択式で入力するのが一般的です。
継続投与の際も、投与開始時の情報を引き続き摘要欄に記載する必要があります。つまり毎月のレセプトに記載が継続して必要ということです。これが基本です。
参考:厚生労働省 保医発0925第4号(令和5年9月25日)アトピー性皮膚炎等への摘要欄記載要件改正
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000291356.pdf
デュピクセント皮下注の保険算定でもっとも迷いやすいのが、在宅自己注射指導管理料(C101)の算定タイミングと、院内注射の手技料の扱いです。実際にしろぼんねっとなどのQ&Aフォーラムには毎月のように同じ質問が寄せられており、多くの医療機関が頭を抱えていることがわかります。
在宅自己注射への切り替えには、原則として2回以上の指導が必要です。1回目は指導のみで院内注射を行い、2回目以降に院外処方(自己注射用)を交付した段階で在宅自己注射指導管理料(月1回、月27回以下のイ:820点)を算定するのが標準的な流れです。これが原則です。
問題になるのは、同一月内に院内注射と在宅自己注射の双方が発生するケースです。5週ある月などでは、院内で2回注射した後、同月内に在宅自己注射分を処方するケースが生じることがあります。この場合、通知(保医発0304第1号別添1・C101通知(13))の解釈次第では、院内注射の薬剤料(1本あたり約5.9万円相当)が査定される可能性があります。手技料のみ査定される場合もありますが、薬剤料まで査定されると病院の完全な持ち出しになるため、絶対に避けたいところです。
審査機関によって対応が異なるのが現状です。可能であれば、在宅自己注射の開始は翌月に持ち越すスケジュール設計が安全策となります。一方、手技料については「在宅自己注射指導管理料を算定している患者への注射手技料(G000)は算定できない」というルールが通知で明確に示されているため、こちらは例外なく算定不可です。
なお、デュピクセントは針及び注入器が一体となった製品(シリンジ型またはペン型)です。そのため、C101を算定する場合でも「C151 注入器加算」は算定できません。また「C153 注入器用注射針加算」も同様に算定不可です。これは製品仕様による制限であり、疾患を問わず共通のルールです。
| 算定項目 | 算定可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 在宅自己注射指導管理料(月27回以下) | ✅ 算定可 | 月1回算定 |
| 導入初期加算(580点) | ✅ 算定可(3か月間) | 初回指導月から3か月限度 |
| 注入器加算(C151) | ❌ 算定不可 | 針一体型製品のため |
| 注入器用注射針加算(C153) | ❌ 算定不可 | 針一体型製品のため |
| 院内注射の手技料(G000) | ❌ 同月算定不可 | 管理料算定患者への手技料算定不可規定 |
これだけ覚えておけばOKです。注入器加算と手技料の2つは算定できないと押さえておきましょう。
参考:保医発0524第3号(令和4年5月24日)注入器加算算定不可の根拠通知
https://www.hospital.or.jp/site/news/file/4572452991.pdf
アトピー性皮膚炎でデュピクセントを使用している患者に在宅自己注射を導入した場合、見落としやすい落とし穴があります。それが「皮膚科特定疾患指導管理料Ⅱ(B001 8)」との同月算定禁止ルールです。
皮膚科特定疾患指導管理料は、アトピー性皮膚炎(16歳以上で外用療法を行っている患者)に月1回算定できる管理料ですが、在宅療養指導管理料(在宅自己注射指導管理料を含む)と同月に算定することは診療報酬通則により認められていません。これは法令で明確に禁止されています。
つまり、自己注射を導入した月から、それまで算定していた皮膚科特定疾患指導管理料Ⅱ(66点)は算定できなくなります。この影響は財務的には小さく見えますが、毎月の積み重ねでみると年間792点(約7,920円)の差になり、また算定ルールを正確に把握していないと誤請求として返戻・指導の対象となります。厳しいところですね。
一方で、デュピクセントを院内注射として投与しており、在宅自己注射指導管理料を算定していない場合は、皮膚科特定疾患指導管理料の算定は引き続き可能です。患者が自己注射に移行したかどうかで算定できる管理料が変わる、という点を明確に把握しておきましょう。
また、アトピー性皮膚炎に対して外用療法を行っていない状況では、そもそも皮膚科特定疾患指導管理料Ⅱは算定できません(外用療法が条件)。デュピクセント単剤での治療だけでは要件を満たさない可能性があるため、外用薬の処方状況もあわせて確認することが必要です。
参考:皮膚科の在宅自己注射指導管理料(加算・併算定禁止事項の解説)
https://hihunaika.net/2024/05/31/zaitakujikochushasidoukanriryo/
算定できる加算が複数あるにもかかわらず、実務では漏れてしまうことが少なくありません。デュピクセントの在宅自己注射導入時に確実に押さえておきたい加算を整理します。
導入初期加算(580点)は、在宅自己注射を新たに開始した患者に対して、初回指導を行った月から起算して3か月間、月1回に限り算定できる加算です。つまり最大3か月連続で算定できます。3割負担の患者であれば、3か月分で合計5,220円の加算に相当します(580点×3か月×3割)。加算の算定には患者の受診が必要なため、開始後3か月間は毎月受診を促すスケジュールにすることが大切です。また、処方内容を別の薬剤に変更した場合にも、1回に限り算定が可能です。これは使えそうです。
バイオ後続品導入加算(150点)は、先発品からバイオシミラーに変更した場合に3か月間算定できる加算です。2025年時点でデュピルマブ(デュピクセント)のバイオシミラーは自己注射可能なものは存在していないため、現状この加算はデュピクセント使用患者には適用されません。ただし今後の新規収載に注意が必要です。
在宅療養指導料(170点)は、在宅自己注射指導管理料を算定している患者に対して、医師の指示に基づき保健師・助産師・看護師が30分以上の個別指導を行った場合に算定できます。月1回(初月は月2回)が上限です。自己注射を初めて導入する場面では、看護師が注射手技の指導を行うことが多いため、算定できるケースは実は多いはずです。30分以上の指導記録をきちんとカルテに残すことが条件です。
| 加算・管理料名 | 点数 | 算定上限 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 在宅自己注射指導管理料(月27回以下) | 820点 | 月1回 | 院外処方した月に算定 |
| 導入初期加算 | 580点 | 初回月から3か月 | 毎月受診が必要 |
| バイオ後続品導入加算 | 150点 | 変更月から3か月 | 現状デュピクセントには非適用 |
| 在宅療養指導料 | 170点 | 月1回(初月2回) | 看護師等による30分以上の指導が必要 |
導入初期加算と在宅療養指導料の両方を算定できれば、管理料と合わせて1か月あたり1,570点(820+580+170点)の算定も可能です。加算のもれなく算定が原則です。
デュピクセント皮下注は2026年3月時点で、アトピー性皮膚炎・気管支喘息・鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎・結節性痒疹・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・特発性慢性蕁麻疹(一部)など複数の疾患に適応を持ちます。摘要欄に記載すべき内容は疾患によって異なるため、それぞれを混同しないよう注意が必要です。
たとえば鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(耳鼻咽喉科が主な処方科)の場合、「手術が適応とならないと判断した理由」の記載が必要となります。アトピー性皮膚炎では不要なこの記載が、CRSwNPでは義務付けられており、記載を省略すれば査定の対象となります。適応疾患が条件です。
また、気管支喘息での使用時には、医師要件がアトピー性皮膚炎とは異なり、「アレルギー学または呼吸器内科領域での臨床研修歴」が求められます。施設要件の記載コードも疾患ごとに別になっているため、電子カルテのシステムで選択式コードを間違えないよう確認が必要です。
転院患者についても現場では迷いが生じやすい場面です。前医でデュピクセントを投与済みの患者が新たに来院した場合、患者要件(2)(3)を再度確認する必要はなく、「一度患者要件を確認している」という扱いが最適使用推進ガイドラインで明確にされています。つまり、投与を一時中止した後に同一患者が別の医療機関を受診して再開する場合でも、前治療要件の再確認は不要です。ただし、初回投与時と同様に施設要件や疾患活動性のレセプト記載は引き続き必要です。これが条件です。
実務上、電子カルテのレセプトコメント欄に定型文を登録しておくことで、記載漏れのリスクを大幅に減らすことができます。サノフィ社(製造販売元)でも医療機関向けのレセプト記載サポート資材を提供しているため、MRへの確認やe-MRサイトの活用も有効な手段です。
参考:サノフィ 医療関係者向け デュピクセント処方時のレセプト記載内容(CRSwNP)
https://pro.campus.sanofi/jp/products/dupixent-crswnp/crswnp3-movie_0001
参考:別表Ⅱ 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(薬価基準)石川県保険医協会版
https://ishikawahokeni.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/kisai_be2.pdf