「フェニトインの投与量を少し増やしただけで、患者が意識障害を起こすことがあります。」
フェニトイン散(代表的商品名:アレビアチン散10%)は、抗てんかん剤として広く使用される薬剤です。添付文書に記載された効能・効果は、てんかんのけいれん発作のうち「強直間代発作(大発作)」「焦点発作(ジャクソン型を含む)」「自律神経発作」「精神運動発作」の4種類が対象です。混合発作型(例:大発作と小発作が混在する患者)への単独投与は、小発作を誘発または増悪させるリスクがあり、添付文書でも明確に注意が示されています。これは基本中の基本です。
用法・用量については、成人にはフェニトインとして1日200〜300mgを毎食後3回に分割経口投与します。アレビアチン散10%の場合は散剤の量(g)が有効成分量の10倍になるため、「散剤2〜3g」と換算できます。小児用量は年齢区分によって異なり、学童(おおむね6〜12歳)は100〜300mg、幼児は50〜200mg、乳児は20〜100mgを目安とします。用量は症状や耐薬性に応じて適宜増減が必要です。
用法・用量に関連した注意事項として、眼振・構音障害・運動失調・眼筋麻痺などの症状が現れた場合には過量投与の徴候であることが多いと添付文書は明記しています。このような症状が出た際は直ちに至適有効量まで徐々に減量する必要があります。また、用量調整をより適切に行うためには「血中濃度測定を行うことが望ましい」と添付文書に記載されており、TDM(治療薬物モニタリング)が強く推奨されています。
連用中に投与を急激に減量または中止すると、てんかん重積状態が生じる危険があります。高齢者・虚弱者では特に注意が必要です。減量は段階的に、かつ慎重に行うことが原則です。
禁忌(投与してはならない患者)の筆頭は、本剤の成分またはヒダントイン系化合物に対し過敏症の既往がある患者です。フェニトインはヒダントイン骨格を持つため、関連化合物に対する交差過敏も起こりえます。フェノバルビタールやカルバマゼピンとの間に交差過敏症(過敏症症候群を含む皮膚過敏症)の報告があることも添付文書は記載しており、他の抗てんかん薬との切り替えに際してはこの点を確認することが欠かせません。
もう一つの重要な禁忌は「特定の薬剤との併用」です。タダラフィル(肺高血圧症の適応であるアドシルカ)、アスナプレビル、ダクラタスビル、マシテンタン、エルバスビル、グラゾプレビル、チカグレロル、各種抗HIV配合錠(ビクタルビ・シムツーザ・ゲンボイヤ・スタリビルドなど)、ソホスブビル・ベルパタスビル、ドルテグラビル・リルピビリンなど、多くの薬剤が「併用禁忌」として添付文書に列挙されています。フェニトインはCYP3Aなどの肝薬物代謝酵素を強力に誘導するため、これらの薬剤の血中濃度を著しく低下させるリスクがあります。これは意外と見落とされやすい点です。
慎重投与が求められる患者像は以下の通りです。
特に糖尿病患者での血糖値上昇は見落とされやすい副作用です。インスリン製剤や経口血糖降下剤との相互作用として「血糖降下剤の作用が減弱され高血糖を起こすことがある」と明記されているため、血糖モニタリングを強化する姿勢が求められます。糖尿病管理中の患者には特に配慮が必要です。
参考情報:PMDAのアレビアチン散10%添付文書(最新版)
PMDA 医療用医薬品情報:アレビアチン散10%(添付文書PDF・2024年2月改訂版)
フェニトインの薬物相互作用は、添付文書の中でも特にページ数を多く割く重要な項目です。これほど相互作用が多い薬は珍しいですね。フェニトインは主にCYP2C9・一部CYP2C19で代謝され、さらにCYP3A・CYP2B6・P糖蛋白を誘導します。そのため、他薬の血中濃度を「上げることも・下げることも」どちらも起こりえる二方向の相互作用があります。
フェニトインの血中濃度を「上昇させる」薬剤としては、アミオダロン、イソニアジド、オメプラゾール・エソメプラゾール、シメチジン、フルコナゾール・ミコナゾール、フルボキサミン、クロラムフェニコール、ジルチアゼム、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、ゾニサミドなど多数が挙げられています。これらを新たに開始する際は、フェニトインの血中濃度が上昇して中毒症状が出現しないか観察が必要です。
フェニトインの血中濃度を「低下させる」薬剤には、リファンピシン、シスプラチン、ビンカアルカロイド、シプロフロキサシン、テオフィリン・アミノフィリン、ビガバトリン、アパルタミドなどがあります。これらとの併用開始後は発作の再出現に注意が必要です。
バルプロ酸との相互作用は特に複雑です。バルプロ酸がフェニトインの肝代謝を抑制してフェニトインの血中濃度を上昇させる作用と、逆にバルプロ酸による蛋白結合からの置換によって遊離型フェニトイン濃度が上昇して肝代謝が促進され血中濃度が低下する作用の両方があります。つまり上がることも下がることもあるということです。バルプロ酸との併用時は総濃度だけでなく遊離型フェニトイン濃度に着目することが推奨されます。
見落とされがちな相互作用として、アセトアミノフェンがあります。フェニトインの長期連用者では、アセトアミノフェンの代謝物による肝障害を生じやすくなることが添付文書に記載されています。フェニトインの肝酵素誘導によりアセトアミノフェンから肝毒性代謝物(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)への代謝が促進されるためです。また、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品もフェニトインの代謝を促進し血中濃度を低下させます。サプリメントや健康食品の確認も欠かせません。
参考情報:フェニトインの相互作用・TDMに関する詳細情報
EasyTDM:フェニトインの有効血中濃度・TDMの考え方(薬剤師向け)
フェニトインの副作用は多彩で、かつ一部は生命を脅かすほど重篤になりえます。添付文書には重大な副作用として11項目が列挙されており、これを整理して把握しておくことが重要です。
最も緊急性の高い副作用の一つが、中毒性表皮壊死融解症(TEN)・皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)です。発熱・紅斑・水疱・びらん・そう痒感・咽頭痛・眼充血・口内炎などの初期症状が出た時点で疑い、直ちに投与を中止して副腎皮質ホルモン剤の投与等の処置を行います。
過敏症症候群も見逃せません。初期症状として発疹・発熱がみられ、その後にリンパ節腫脹・肝機能障害などの臓器障害、白血球増加・好酸球増多・異型リンパ球出現を伴う遅発性の重篤な過敏反応です。ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)等の再活性化を伴うことが多く、症状が再燃・遷延化することがあります。投与開始後2〜8週間が特に警戒が必要な時期です。
血液系の重大な副作用としては、再生不良性貧血・汎血球減少・無顆粒球症・単球性白血病・血小板減少・溶血性貧血・赤芽球癆が挙げられています。連用中は定期的な血液検査が添付文書上でも「望ましい」と明記されています。定期検査は必須です。
長期投与特有の副作用として、小脳萎縮があります。「長期投与例で、小脳萎縮があらわれることがあり、持続した血中濃度上昇との関連が示唆されている」と添付文書は記載しています。血中濃度が20μg/mLを超えると複視・眼振、30μg/mLを超えると運動失調・歩行困難が生じるとされており、高濃度での管理が長期間続くことは小脳への不可逆的なダメージにつながりかねません。ある研究では血中濃度が中毒値以下でも小脳失調を呈した例が報告されており、単に「治療域内」だから安心とは言い切れないのが現実です。
その他の重大な副作用には、劇症肝炎・肝機能障害・黄疸、SLE様症状、間質性肺炎、悪性リンパ腫・リンパ節腫脹、横紋筋融解症、急性腎障害・間質性腎炎、悪性症候群があります。これらの副作用は頻度不明とされているものの、発現時の重篤性は高いため、定期的な観察と患者への説明が不可欠です。
参考情報:抗てんかん薬による副作用の詳細情報
全日本民医連:抗けいれん薬の副作用の特徴(フェニトインによる過敏症候群・肝障害など)
フェニトインは、臨床現場で最も慎重な血中濃度管理が求められる薬剤の一つです。その理由は、特異な薬物動態にあります。フェニトインの消失は、一般的な一次速度論(投与量に比例して血中濃度が変化する)ではなく、ミカエリス-メンテン型(Michaelis-Menten型)の非線形動態をとります。これは、肝臓における代謝酵素の処理能力に上限があるためです。
この非線形動態が何を意味するかというと、投与量がある閾値を超えると、代謝酵素が飽和し始め、わずかな投与量の増加によって血中濃度が急激・指数関数的に上昇するということです。例えば、1日200mgで安定していた患者に「もう少し発作を抑えたい」と考えて250mgに変更した場合でも、予想外の血中濃度上昇をきたすことがあります。これがフェニトインの怖さです。
フェニトインの有効血中濃度域は10〜20μg/mLです。20μg/mLを超えると複視・眼振、30μg/mLを超えると運動失調・歩行困難、40μg/mLを超えると傾眠・構音障害、70μg/mLを超えると意識障害が生じます。治療域と中毒域の幅は実際には非常に狭く、常に意識が必要です。
TDMにおける採血タイミングは、定常状態でのトラフ値(服用直前)が推奨されています。定常状態到達時間は投与量によって異なり、血中濃度10μg/mL以下の投与量では2週間以内ですが、20μg/mLに相当する投与量では約4週間を要することがあります。投与量変更後の採血タイミングには特に注意が必要です。
慢性腎疾患・ネフローゼ症候群の患者ではアルブミン低下によりフェニトインのタンパク結合率が低下し、総濃度は低くても遊離型(活性型)が増大して中毒症状が出ることがあります。血清アルブミンが低い患者では、総フェニトイン濃度だけでなく遊離型濃度の把握が重要です。透析患者でも同様の注意が必要で、また経腸栄養剤との同時投与では吸収が低下して血中濃度が予想より低くなることが報告されています。経腸栄養とフェニトイン散を同時投与している患者のTDM値が「なぜか低い」場合は、この相互作用を疑うべきです。
| 血中濃度(μg/mL) | 出現しうる症状 |
|---|---|
| 10〜20 | 治療域(有効範囲) |
| 20超 | 複視・眼振 |
| 30超 | 運動失調・歩行困難 |
| 40超 | 傾眠・構音障害 |
| 70超 | 意識障害・昏睡 |
参考情報:フェニトイン血中濃度の詳細とTDMの考え方
医療従事者として添付文書を使いこなす上で欠かせないのが、特殊な患者集団への対応です。特に妊婦へのフェニトイン投与は、見落としが患者に重大なデメリットをもたらすリスクがあります。
妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ」と添付文書に記載されています。妊娠中の投与により口唇裂・口蓋裂・心奇形等の奇形を有する児を出産した例が多いとの疫学的調査報告があります。また、他の抗てんかん薬(特にプリミドン)との併用ではリスクがさらに高まることも明記されています。やむを得ず投与する場合は、可能な限り単剤投与とすることが原則です。
妊娠中の具体的なリスクとして、以下が添付文書に列挙されています。
葉酸低下の点は特に重要です。フェニトイン長期服用患者では血清葉酸値が低下することが添付文書のその他の副作用欄にも記載されており、妊娠可能年齢の女性には葉酸補充の必要性を考慮すべきです。
高齢者への投与については「少量から投与を開始するなど慎重に投与すること」が明示されています。理由は、高齢者では肝機能・腎機能が低下していることが多く、フェニトインの代謝・排泄が遅延して血中濃度が上昇しやすいからです。また、投与を中止する場合も徐々に減量するよう求めています。これは高齢者への基本姿勢です。
授乳中の投与については、フェニトインが母乳中に移行するという情報があります。授乳を継続するかどうかは、薬物療法の必要性と授乳の利益を天秤にかけた判断が必要であり、担当医・患者間の十分な話し合いが求められます。
また、自動車の運転および危険な機械の操作については、眠気・注意力低下・反射運動能力の低下が起こりうるため「従事させないよう注意すること」と添付文書は明記しています。処方時の服薬指導で必ず伝えるべき情報です。
参考情報:てんかんと妊娠に関する詳細なガイドライン情報
日本神経学会:てんかん診療ガイドライン「第13章 てんかんと女性」(触媒奇形性・妊娠管理の詳細)