「塗り薬なら妊娠中でも安全」と思っていたら、アダパレンで胎児奇形リスクが生じます。
妊娠中のニキビ増悪の中心的な原因は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の急激な上昇です。プロゲステロンは男性ホルモン様作用を持ち、皮脂腺を直接刺激して皮脂分泌を亢進させます。毛穴に過剰な皮脂と角質が蓄積することでアクネ菌(*Cutibacterium acnes*)が増殖し、炎症性痤瘡へと進展するという流れは、通常の尋常性痤瘡と本質的には同じです。
ただし、妊娠中は単純なホルモン過剰だけでなく、複合的な要因が重なります。つわりによる食事内容の偏り(糖質・脂質過多)、睡眠の質の低下、心理的ストレスによる自律神経の乱れ、これらすべてがニキビの悪化因子として機能します。
医療従事者が特に意識すべきは、時期によるニキビの消長パターンです。下表のとおり、妊娠初期(〜14週ごろ)が最も皮脂分泌が不安定になりやすく、その後は安定期に入るにつれて改善傾向をとる患者も少なくありません。
| 妊娠時期 | ホルモン動態 | ニキビの傾向 |
|---|---|---|
| 初期(〜14週) | プロゲステロン・hCG 急上昇 | ⚠️ 最も悪化しやすい |
| 中期(15〜27週) | エストロゲン優位で安定 | ✅ 改善傾向が多い |
| 後期(28週〜) | 再びホルモン変動+身体的ストレス増大 | ⚠️ 再燃することがある |
中期に「自然に治った」と患者が感じても、後期に再燃するケースがあります。そのため診察時には妊娠週数の確認が不可欠です。
また、妊娠中は肌のバリア機能そのものが低下しやすく、外用薬の経皮吸収率が通常より高くなる可能性も指摘されています。これが後述する薬剤選択の慎重さに直結します。「塗り薬だから問題ない」という前提での判断は、妊娠中においては危険な思い込みです。
日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では妊娠中・授乳中の薬剤選択について安全区分が詳述されています。
日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」(PDF)
妊娠中に使用できるニキビ治療薬の区分を正確に把握しておくことは、医療従事者の最低限の義務です。ここを曖昧にしていると、患者に誤った薬剤が渡るリスクがあります。
まず絶対に避けるべき薬剤の代表が、アダパレン(ディフェリン®ゲル)です。ビタミンA誘導体(レチノイド系)であるアダパレンは、動物実験において経口投与で催奇形性が報告されています。経皮投与での催奇形性は確認されていないものの、過剰肋骨の発生頻度増加が報告されており、添付文書上は「妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用しないこと」と明記された禁忌薬剤です。アダパレン配合製剤(エピデュオ®ゲルも含む)はすべて同様の扱いになります。禁忌です。
次に「有益性投与」扱いとなるのが過酸化ベンゾイル(BPO)系の薬剤です。ベピオ®ゲル、デュアック®配合ゲルなどが該当します。BPOは経皮吸収量が非常に少なく、全身曝露量は低いと考えられています。動物実験で生殖毒性の直接的な有害作用は示されていませんが、妊娠中の使用は「胎児への潜在的リスクを超える有益性が得られると予想される場合に限る」とされています。つまり、使用が完全に禁止されているわけではありませんが、主治医と患者が十分に話し合った上での投与が前提です。
一方、比較的安全に使用できる薬剤も存在します。まず第一に、アゼライン酸です。
| 薬剤 | 代表的製品名 | 妊娠中の分類 |
|---|---|---|
| アダパレン | ディフェリン®ゲル / エピデュオ® | 🚫 禁忌 |
| 過酸化ベンゾイル(BPO) | ベピオ®ゲル / デュアック® | ⚠️ 有益性投与 |
| クリンダマイシン外用 | ダラシンT®ゲル | ⚠️ 使用しないことが望ましい(FDA分類B) |
| アゼライン酸 | DRX AZAクリア® など | ✅ 比較的安全・使用可能 |
| イオウ製剤 | イオウカンフルローション 等 | ✅ 使用可能 |
アゼライン酸は小麦・ライ麦などの穀類に自然に含まれる飽和ジカルボン酸で、催奇形性試験・遺伝毒性試験・耐性獲得試験がすべて陰性です。世界80カ国以上でニキビ治療薬として承認されており、約30年にわたる使用実績があります。これが条件です。
なお、内服薬に関しては禁忌範囲がさらに広がります。テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)は胎児の歯牙・骨格に影響する可能性があり絶対禁忌です。イソトレチノイン(ロアキュタン)は最も強力な催奇形性を持ち、服用中・服用後1か月以内の妊娠は絶対に避けなければなりません。フェモフィリンなどのホルモン剤も妊娠中は禁忌となります。
外用抗菌薬のクリンダマイシンに関する使用上の注意と、妊産婦への影響については下記が参考になります。
薬剤だけが治療の選択肢ではありません。妊娠中でも実施できる処置として特に重要なのが、面皰圧出(めんぽうあっしゅつ)です。
面皰圧出は、専用のコメドエクストラクターを用いて毛穴に詰まったコメド(白ニキビ・黒ニキビ)を物理的に排出する処置です。薬剤を一切使用しないため、妊娠週数を問わず安全に実施できます。コメドを早期に除去することで、炎症性の赤ニキビへの移行を防ぎ、ニキビ跡のリスクを低減する効果が期待できます。いいことですね。
ただし、患者が自宅で無理に行うと毛包を傷つけ、かえって炎症が拡大して瘢痕形成につながります。必ず医療機関での施術であることを患者に明確に伝えましょう。
光治療(IPL・LED光線療法)については、慎重な扱いが必要です。美容目的でのIPL施術は妊娠中は推奨されませんが、ニキビの炎症抑制を目的としたLED光線療法(青色光・赤色光)は、日本皮膚科学会の尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023においても局所治療で効果不十分な場合の選択肢の一つとして言及されています。施設・機器・使用目的によって判断が変わるため、担当医師が個別に評価する必要があります。
ケミカルピーリングについては、グリコール酸やサリチル酸などを使用した一般的なピーリングは妊娠中の実施には慎重な立場をとるクリニックが多く、乳酸(ラクチック酸)によるマイルドなピーリングは比較的安全性が高いとする意見もあります。いずれにせよ、施術前に必ず妊娠の有無を確認し、実施の可否を医師が判断する体制が求められます。
妊娠中・授乳中の施術・外用・内服の可否一覧を詳しくまとめたクリニックの情報が参考になります。
0th CLINIC「妊娠中・授乳中の施術/外用/内服:可・慎・不可一覧」
妊娠中のニキビ治療を皮膚科単独で完結しようとするのは、リスク管理として不十分です。これが原則です。
皮膚科受診時に必ず確認すべき情報として、まず現在の妊娠週数があります。妊娠初期(特に器官形成期である〜10週)は薬剤の胎児への影響がもっとも懸念される時期であり、同じ薬剤でもリスク評価が変わります。また、産婦人科の主治医から使用制限の指示が出ている薬剤がないかの確認も不可欠です。
連携の実際として、皮膚科からは「現在処方している外用薬の成分と継続の可否」を産科に情報提供し、産科側からは「胎盤の状態や合併症リスク」を皮膚科に共有する仕組みを構築するのが理想です。電子カルテや診療情報提供書の活用はもちろん、患者自身が「お薬手帳」に記録を持参することを促すだけでも情報連携のハードルは下がります。
また、患者に伝えるべき重要なポイントがあります。妊娠が判明した時点で、「これまで使っていたニキビの塗り薬」をすぐに中断するよう伝えることです。特にアダパレン製剤は、既に処方が出ていたとしても妊娠確定後は速やかに使用を中止しなければなりません。
一方で、過剰な不安を患者に与えることも避けるべきです。ニキビが悪化することで産前うつや自己効力感の低下につながることも報告されています。米国皮膚科学会(AAD)のKeri氏も「ニキビ治療をないがしろにしてはいけない」と明言しており、安全な治療法を積極的に提示することも医療従事者の役割です。
産婦人科ジャーナルによる「妊娠中のマイナートラブルと受診先の考え方」は、どの科に連携すべきかの指針として役立ちます。
産婦人科ジャーナル「妊娠中のマイナートラブル ~何科を受診したらいいの?」
薬剤や処置と並行して、日常的なスキンケアと生活習慣の指導が治療効果を左右します。医療従事者として患者に的確なアドバイスを届けることで、薬への依存度を下げることができます。
洗顔については、1日2回・ぬるま湯・低刺激性の洗顔料が基本です。妊娠中は皮脂過多を感じやすいため、患者は「しっかり洗わなければ」と力を入れがちです。しかし過度な洗顔はバリア機能をさらに低下させ、肌の反応性皮脂分泌を引き起こします。「泡で肌を包む感覚で洗う」という具体的な表現で指導するのが効果的です。
保湿については、ノンコメドジェニックテスト済みの製品を選ぶよう伝えましょう。「べたつくから保湿しない」という判断が乾燥→皮脂増加→ニキビ悪化という悪循環を生みます。
紫外線対策は、妊娠中は特に重要です。妊娠中はメラニン産生が促進されやすく、ニキビ跡の色素沈着(炎症後色素沈着)が残りやすくなります。紫外線散乱剤(酸化亜鉛・酸化チタン)を主成分とした「ノンケミカル処方」の日焼け止めは、妊娠中の敏感肌にも使いやすい選択肢です。SPF30以上のものを推奨するとよいでしょう。
食事指導では、ビタミンB群(皮脂分泌の調整)・ビタミンC(抗酸化・コラーゲン生成)・食物繊維(腸内環境改善)の摂取を促します。一方で、高GI食品(白米・白砂糖・菓子類)や高脂肪食は皮脂分泌を亢進させるため、できる限り控えるよう説明します。
ストレス管理も見落としてはなりません。コルチゾールの上昇は皮脂腺を刺激するため、軽いウォーキングや呼吸法など、安全にできるリラクゼーションを勧めるとよいでしょう。
日本皮膚科学会による「皮膚科Q&A:にきび」では、スキンケアの基本と外用薬の使い方が患者向けにわかりやすくまとめられています。医療現場での患者説明資料としても活用できます。

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