グセルクマブが潰瘍性大腸炎の寛解導入と維持に示す効果

2025年3月に潰瘍性大腸炎への適応承認を取得したグセルクマブ(トレムフィア®)。IL-23 p19阻害に加えCD64への二重作用が注目されるが、バイオ既治療例での寛解率や投与設計の実際をどう活かすべきか?

グセルクマブの潰瘍性大腸炎への寛解導入と維持の効果

バイオ不応の中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者でも、グセルクマブは投与1週目から症状改善が始まっています。


グセルクマブ 潰瘍性大腸炎 3つのポイント
💉
唯一のdual-acting IL-23p19阻害薬

グセルクマブはIL-23のp19サブユニット阻害に加え、IL-23産生細胞上のCD64にも結合する二重作用を持つ。この特性はIL-23阻害薬の中でグセルクマブのみに認められる。

📊
44週時点での臨床的寛解率は最大50%

QUASAR第III相試験では、維持療法44週時の臨床的寛解率がプラセボ群19%に対し、グセルクマブ200mg群で50%、100mg群で45%と優越性を示した。

🗓️
導入は点滴静注、維持は皮下注の2段階レジメン

日本では導入療法として200mgを0・4・8週に点滴静注し、その後100mgを8週間隔で皮下投与する。患者状態に応じ200mgを4週間隔にも変更可能。


グセルクマブの潰瘍性大腸炎への承認経緯とIL-23という標的

潰瘍性大腸炎(UC)は日本国内で約22万人が罹患する指定難病であり、慢性的な再燃と寛解を繰り返す免疫介在性疾患です。従来の治療では5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬が中心でしたが、既存治療が奏功しない中等症から重症の患者への選択肢は限られていました。


グセルクマブ(商品名:トレムフィア®)は、ヤンセンファーマ株式会社が開発した完全ヒト型モノクローナル抗体です。もともとは乾癬・乾癬性関節炎掌蹠膿疱症などに承認されていましたが、2025年3月27日に中等症から重症の潰瘍性大腸炎への寛解導入療法および維持療法として、日本で新たに承認を取得しました。これはJ&Jにとって国内で6番目の適応症となります。


IL-23という標的が重要です。IL-23はTh17細胞を活性化し、慢性腸管炎症の維持・増悪に深く関与するサイトカインです。特に慢性化した病態においては、発症初期に優位なIL-12よりもIL-23依存的な炎症回路が主体となることが示されています。これは、グセルクマブを含むIL-23 p19阻害薬が選択される根拠のひとつです。


グセルクマブが他のIL-23阻害薬と一線を画す特性は、CD64への結合能力にあります。CD64はIgG受容体の一種で、活性化した炎症性単球やマクロファージの表面に発現します。グセルクマブはIL-23のp19サブユニットに結合するだけでなく、IL-23を産生している細胞そのものの膜表面に発現するCD64にも結合し、産生源の近傍でIL-23を直接捕捉します。これがdual-acting(二重作用)と呼ばれる仕組みです。つまりグセルクマブは、IL-23阻害と産生細胞レベルでの捕捉という二重の抑制機構を持つ唯一承認された薬剤ということです。


なお、CD64を介した作用はin vitro試験の知見に基づくものであり、その臨床的意義については引き続き検討が必要な点は押さえておくべきでしょう。


J&J公式プレスリリース:トレムフィア®潰瘍性大腸炎承認(2025年3月27日)


グセルクマブの潰瘍性大腸炎における臨床試験QUASAR結果の読み方

グセルクマブの潰瘍性大腸炎への有効性は、国際共同第IIb/III相試験であるQUASAR試験のデータに基づいています。対象はTNFα阻害薬・ベドリズマブ・JAK阻害剤などで効果不十分または忍容性が不良であった、中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎の成人患者です。これが重要な点です。すでに生物学的製剤やJAK阻害薬でうまくいかなかった"バイオ不応・バイオ既治療例"を対象としているにもかかわらず、高い有効性が示されました。


導入療法(12週時点)の成績:


| 評価項目 | グセルクマブ群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 臨床的寛解率 | 22.6%(約23%) | 7.9%(約8%) |
| 臨床的改善率 | 61.5% | 27.9% |
| 群間差(臨床的寛解) | 14.9%ポイント | — |


12週時点でのグセルクマブ群の臨床的寛解率22.6%という数字は、一見低く感じるかもしれません。しかしこれはバイオ既治療例も多く含む、難治性患者群が対象です。プラセボ群のわずか7.9%と比較すると、統計的有意差は明確(p<0.001)です。


維持療法(44週時点)の成績:


| 評価項目 | 200mg 4週間隔群 | 100mg 8週間隔群 | プラセボ群 |
|---|---|---|---|
| 臨床的寛解率 | 50% | 45% | 19% |
| 内視鏡的寛解率 | 34% | 35% | 15% |


44週時点での臨床的寛解率50%という数値は注目に値します。長期継続試験(QUASAR LTE)では、92週時点での臨床的寛解率は72%にまで上昇し、そのうち99%がコルチコステロイドを8週間以上使用せずに寛解を維持していました。これは治療の本質的な目標である「ステロイドフリーの長期寛解」につながるデータです。


さらに見落とせないのが早期効果です。QUASAR試験の追加解析では、初回投与後わずか1週目から臨床的改善および症状改善が認められています(グセルクマブ群28.3% vs. プラセボ群18.9%、p<0.01)。排便回数の正常化や直腸出血の消失も4〜8週で顕著に進み、患者の生活の質向上に直結することが示されました。


HOKUTO医師向けサマリー:QUASAR試験(Lancet 2025掲載)の詳細解説


グセルクマブの潰瘍性大腸炎における投与スケジュールと適正使用の実際

日本国内での承認された用法・用量を正確に理解することが、適正使用の第一歩です。グセルクマブの潰瘍性大腸炎に対する投与は「導入療法」と「維持療法」の2段階で構成されます。


🔹 導入療法(寛解導入)


トレムフィア®点滴静注200mg を以下のスケジュールで静脈内投与します。


- 初回(0週)
- 4週後(4週)
- 8週後(8週)


1バイアルあたりの点滴時間は60分以上とされています。リサンキズマブ(スキリージ®)の潰瘍性大腸炎向け導入が1200mgで2時間以上であることと比較すると、グセルクマブの点滴時間は短く設定されています。これは外来での投与管理という視点から、スケジュール管理に有利です。


🔹 維持療法(寛解維持)


導入療法終了の8週後から皮下注射に切り替えます。


- 基本:トレムフィア®皮下注100mg を8週間隔で投与
- オプション:患者の状態に応じて200mgを4週間隔に変更可能(導入終了4週後以降)


100mg 8週間隔と200mg 4週間隔のどちらを選択するかは、44週時での臨床的寛解率(45% vs 50%)の差と患者の通院負担・状態をあわせて検討することになります。これが重要な臨床判断です。


なお、適正使用ガイドに基づき、投与前には以下の確認が必須とされています。


- 結核スクリーニング(潜在性結核の除外、必要に応じてINH予防投与)
- 重篤な感染症の有無の確認
- 生物学的製剤からの切り替え時は感染症徴候の十分なモニタリング


皮下注導入療法(ASTRO試験)について: 2026年2月時点で、皮下注400mgによる寛解導入療法(ASTRO試験)の承認が追加されました。これにより、「点滴なし・すべて皮下注で導入から維持まで完結できる」唯一のIL-23阻害薬となっています。48週時点での臨床的寛解率は36.7〜42.9%(100mg群・200mg群)、内視鏡的寛解率は約26%が示されており、皮下注レジメン単独での高い持続効果が確認されています。


PMDA公開:トレムフィア®適正使用ガイド(潰瘍性大腸炎)


グセルクマブと他のIL-23阻害薬の潰瘍性大腸炎での位置づけ比較

現在、潰瘍性大腸炎に対して使用可能なIL-23 p19阻害薬は、ミリキズマブ(オンボー®)、リサンキズマブ(スキリージ®)、そしてグセルクマブ(トレムフィア®)の3剤です。同じ作用機序を持ちながら、各薬剤には投与設計上の差異があります。


📋 IL-23 p19阻害薬 潰瘍性大腸炎での比較:


| 項目 | グセルクマブ | リサンキズマブ | ミリキズマブ |
|---|---|---|---|
| 導入点滴量 | 200mg(60分) | 1200mg(120分以上) | 300mg(30分) |
| 維持皮下注間隔 | 8週(100mg)または4週(200mg) | 8週(180mg) | 4週(200mg) |
| 皮下注導入 | ✅ あり(400mg、ASTRO試験) | ❌ なし | ❌ なし |
| 主要試験での維持寛解率 | 45〜50%(44週) | 37〜40%(52週) | 49.9%(40週) |
| dual-acting特性 | ✅ CD64結合あり | ❌ なし | ❌ なし |


各試験の対象患者背景や評価時期が異なるため、数値の単純比較には注意が必要です。ただし、投与の利便性という観点で整理すると見えてきます。グセルクマブは点滴時間が60分と短く、かつ皮下注導入も選択できる唯一の薬剤であるという点で、患者と医療機関双方にとってフレキシビリティが高い選択肢といえます。


また、バイオ不応例への有効性という観点では、クローン病領域のGALAXI-2/GALAXI-3試験においてグセルクマブはウステキヌマブ(ステラーラ®)に対して複数の主要エンドポイントで優越性を示しています。これはリサンキズマブ同様の結果であり、ミリキズマブの非劣性とは異なる位置づけです。炎症性腸疾患の既治療例において、IL-23 p19阻害薬への切り替えを検討する際の参考になる知見です。


さらに独自の視点として、長期継続試験(92週)でのデータに注目すると、グセルクマブ投与継続例の84%が内視鏡的改善を92週にわたり維持できています。これは単なる症状の抑制にとどまらず、粘膜治癒という深いアウトカムの達成・維持を示すものであり、潰瘍性大腸炎の長期管理戦略において非常に重要な指標です。


小金井つるかめクリニック:IL-23 p19阻害薬3剤の投与スケジュールと試験データ詳細


グセルクマブ導入時に医療従事者が押さえるべき安全性と感染症管理

グセルクマブの安全性プロファイルは、承認済みの乾癬・乾癬性関節炎等の適応症における既知のプロファイルと一貫しています。これが基本原則です。潰瘍性大腸炎患者での特別なリスクが新たに発生したわけではありませんが、炎症性腸疾患患者は免疫抑制状態であることが多く、感染症管理の比重は高くなります。


<strong>🔸 QUASAR導入試験での主な副作用(発現率 >2%)


- 呼吸器感染症(グセルクマブ群でプラセボ群より高頻度)
- COVID-19(7.2%)
- 貧血(5.1%)
- 潰瘍性大腸炎の悪化(4.6%)


🔸 QUASAR維持試験での主な副作用(発現率 >3%)


- 注射部位反応
- 関節痛
- 上気道感染症


重篤な有害事象は導入試験でグセルクマブ群3%、プラセボ群7%と、むしろプラセボ群で高い傾向が示されています。治療中止に至った有害事象は、グセルクマブ群2%、プラセボ群4%でした。安全性プロファイルは良好です。


感染症対策においては特に潜在性結核のスクリーニングが重要となります。インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)またはツベルクリン反応による検査が推奨され、陽性の場合はイソニアジド(INH)300mg/日を原則として6〜9か月投与することが求められます。生物学的製剤を切り替える際には、前剤の作用が残存する期間を考慮した感染症モニタリングの継続が必要です。前剤からの切り替え時期については、添付文書および適正使用ガイドを必ず確認するようにしてください。


また、潰瘍性大腸炎患者ではうつ病の発症率も高いことが知られており、精神的なサポートを含めた包括的な疾患管理が求められます。グセルクマブを選択する場合も、患者の精神面・生活の質(QOL)を継続的に評価することが長期治療成功の鍵となります。


投与前チェックリストとして、適正使用ガイド(PMDAより入手可能)を活用すると、抜け漏れのない投与前評価が効率的に行えます。チェックリストを活用することで、特に乾癬からの適応経験はあっても炎症性腸疾患での経験が少ない施設でも、安全な導入が可能になります。


J&J:第III相ASTRO試験48週データ(皮下投与レジメンの臨床的・内視鏡的寛解)