手術単独でケロイドを切除しても、再発率は80〜100%に達します。
瘢痕治療において、治療の方向性を決める最初のステップが「肥厚性瘢痕」と「ケロイド」の正確な鑑別です。両者は外観が似ており、現場でも混同されがちですが、治療の効きやすさ・再発の程度・長期的な経過において大きな違いがあります。
肥厚性瘢痕は、傷の範囲内に限って皮膚が赤く盛り上がる病態です。増大期は受傷後おおよそ3〜6か月にあたり、その後2年ほどかけて徐々に退色・平坦化していく傾向があります。傷の境界を越えて広がることはなく、適切な治療を行えば改善が期待できる点が特徴です。
一方ケロイドは、傷の境界を越えて正常皮膚まで病変が拡大していきます。これが最大の鑑別ポイントです。遺伝的な体質素因が関与しており、アレルギー疾患を持つ人に多い傾向があります。かゆみや痛みを伴うことが多く、放置すると継続的に広がる可能性があります。
つまり、成熟とともに改善が見込めるかどうかが分岐点です。
鑑別が難しいグレーゾーンも存在します。典型例以外では両者の中間的な形態をとる症例も少なくありません。順天堂大学医学部附属病院形成外科の資料でも「見た目では区別が困難」と明記されており、専門医であっても経過観察を重ねながら診断を確定するケースがあります。医療従事者として患者を紹介する際には、「傷跡が元の傷の範囲を越えているかどうか」という視点で事前評価するだけで、紹介先の選択精度が上がります。
| 項目 | 肥厚性瘢痕 | ケロイド |
|---|---|---|
| 傷の範囲を越えるか | 越えない | 越えて広がる |
| 自然経過 | 2年程度で平坦化 | ほぼ自然改善なし |
| 体質依存 | 比較的低い | 遺伝的素因あり |
| 治療への反応 | 良好なことが多い | 再発・増悪が多い |
| 痛み・かゆみ | 比較的少ない | 伴うことが多い |
鑑別が確定診断より重要な場面もあります。鑑別によって「手術適応か否か」が変わるため、診断の精度が直接、患者アウトカムに影響します。
参考リンク(肥厚性瘢痕とケロイドの特徴・治療方針の違いについて順天堂大学形成外科が詳しく解説)。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 形成外科|瘢痕、ケロイド、肥厚性瘢痕の治療
瘢痕治療において「手術をすれば治る」という前提は、ケロイドに関してはほぼ通用しません。これは臨床現場でも認識されている事実ですが、患者への説明が十分でないケースが散見されます。
手術単独でケロイドを切除した場合、再発率は80〜100%と報告されています。日本放射線腫瘍学会(JASTRO)のガイドラインにも「手術のみでは再発率75〜100%」と明記されており、術後の補助療法なしにケロイドを手術することは、再発のリスクをほぼ確実に抱える選択といえます。
再発予防が条件です。
術後放射線療法(電子線照射)を組み合わせることで、再発率は大幅に低下します。Annals of Burns and Fire Disastersに掲載された研究では、手術後24時間以内と7日後に放射線療法を実施することで、再発率が6.25%まで低下したと報告されています。また別のデータでは手術単独の有効率55.56%に対し、手術+放射線療法群では93.88%という結果が示されています。この差は臨床的に非常に大きな意味を持ちます。
数字だけで判断するのは難しいですが、組み合わせ治療の優位性は明確です。
では、それぞれの治療の特性はどう整理すればよいのでしょうか。現在の標準的な治療体系を以下に整理します。
治療の組み合わせが最終アウトカムを決めます。
名医と呼ばれる形成外科専門医が行うのは、部位・体質・瘢痕の活動期・患者のライフスタイルを考慮したうえで、これらを最適な順序で組み合わせるプランニングです。画一的なプロトコルをあてはめるだけでは、ケロイドの難治例には対応できません。
参考リンク(ケロイド手術後の放射線療法で再発率93.88%の有効率を達成したデータ)。
ケアネット|ケロイド治療、手術後の放射線療法が再発率を有意に低下(2025年8月)
参考リンク(JASTRO良性疾患ガイドラインにおけるケロイドの放射線治療の適応と線量設定)。
日本放射線腫瘍学会(JASTRO)|良性疾患に対する放射線治療ガイドライン(PDF)
「名医を探す」という行動は医療従事者の間でも行われますが、何をもって「名医」と判断するかの基準は曖昧になりがちです。患者紹介の質を上げるために、専門医資格と実績の正しい読み方を整理しておくことは実際の業務に直結します。
まず確認すべきは「日本形成外科学会専門医」の資格です。これは形成外科の基本的な診療能力を担保する認定であり、一定の症例経験と試験合格を経て取得します。ケロイドや肥厚性瘢痕のような瘢痕疾患は形成外科の専門領域であるため、この資格の有無は最低限の判断材料になります。
皮膚科と形成外科の違いは明確です。
皮膚科は主に投薬・外用薬を中心とした治療を行いますが、組織再建・手術的修正・瘢痕拘縮の解除といった機能的アプローチは形成外科の守備範囲です。機能障害を伴う瘢痕拘縮や、手術適応のある肥厚性瘢痕・ケロイドは、形成外科専門医への紹介が適切です。
次に、症例数の見方です。症例数そのものより、「どのような部位・難易度の症例に対応してきたか」が重要です。胸骨部や肩甲部などの高再発部位への対応経験、放射線科や皮膚科との連携体制があるかどうかも、施設選択の判断材料になります。
さらに、医療従事者として患者を紹介するうえで見落としがちな視点があります。それは「単職種で完結しているか、多職種で連携しているか」という点です。熱傷後瘢痕拘縮に対するリハビリテーション、術後のアフターケア指導、精神的サポートなど、複雑な瘢痕治療は医師単独では完結しません。優れた施設ほど、形成外科医・看護師・理学療法士・作業療法士・薬剤師が連携してアウトカムを管理する体制を持っています。
これは使えそうな視点です。
紹介状に「機能障害の有無」を明記すると、保険適用の判断がスムーズになります。肥厚性瘢痕や瘢痕拘縮は、機能障害を伴う場合に健康保険が適用されるケースがあるため、紹介状の記載内容が患者の経済的負担にも影響します。
参考リンク(形成外科と皮膚科・美容外科の違い、形成外科専門医の役割について)。
関東中央病院|形成外科と整形外科・美容外科の違い
医療従事者として押さえておきたいのは「いつ、どのタイミングで専門医に紹介すべきか」という判断基準です。紹介が遅れると、瘢痕が成熟して治療の介入余地が狭まります。早すぎても瘢痕の評価が定まらないという難しさもあります。
早期介入が原則です。
ケロイドの場合、炎症が活発な「活動期」に治療を開始するほうが効果が高い傾向があります。具体的には、受傷・術後から1〜2か月以内に赤みや盛り上がりが出始めた段階で、専門医への紹介を検討するのが望ましいとされています。古くなったケロイドは放射線療法の効果も低くなるため、炎症の新鮮な時期を逃さないことが重要です。
一方、肥厚性瘢痕における瘢痕修正手術の適応時期は異なります。成熟した状態(3か月〜1年程度経過後)で傷が安定してから修正を検討するのが一般的です。手術修正を急ぎすぎると、瘢痕が未成熟なまま再縫合することになり、結果的に傷跡がより広がるリスクがあります。
瘢痕の種類によって紹介のタイミングが変わります。
では、紹介状を作成する際に医療従事者として記載すべき情報は何でしょうか。以下の項目を紹介状に盛り込むことで、受診先の専門医が初回診察から適切な評価を行えます。
記録が治療の質を上げます。
また、院内での一次ケアとして活用できるのが圧迫療法です。シリコンジェルシートやアテロダーム軟膏などは、紹介待機中の患者にも処方可能であり、瘢痕の悪化を一定程度抑制する効果が期待できます。術後の患者には傷の上皮化が完成した段階(2〜4週間程度)からシリコンシートを3か月以上継続することが推奨されており、この指導を担当看護師や薬剤師が行うことも早期ケアの一環として有効です。
ケロイド・肥厚性瘢痕治療において、多くの情報サイトは「初回治療の実績」を評価軸として紹介しています。しかし医療従事者として患者を長期的に管理する立場からは、もう一つ重要な視点があります。それは「再発後の対応力」です。
再発への備えが本当の実力です。
前述のとおり、手術単独でのケロイド治療は再発率が80〜100%に達します。放射線療法を組み合わせてもなお、胸骨・肩甲部など高再発部位では30%前後の再発が残ります。つまりケロイド治療において「再発しないこと」を保証できる施設は存在しません。重要なのは、再発した際に「次の手を持っているかどうか」です。
再発後の対応力を評価する具体的な方法として、以下を確認することを推奨します。まず、初回カウンセリングで「再発した場合の治療プラン」を医師が明確に説明できるかどうかを確認します。再発時の対応方針(追加注射・再手術・線量追加など)をあらかじめ患者と共有している施設は、治療の全体設計ができている証拠です。
次に、放射線科との院内・院外連携体制の有無です。ケロイドの術後放射線療法は、形成外科単独では実施できません。放射線科との密な連携が確立されているかどうかを、紹介前に施設情報や学術発表歴などで確認することができます。
日本医科大学や東京大学医学部附属病院の形成外科は、ケロイド・瘢痕の研究と臨床の両面で豊富な実績を持つ施設として知られています。日本医科大学には「瘢痕・ケロイド研究室」が設置されており、病態解明から治療法開発まで一貫した研究が行われています。
厳しいところですね。
さらに、患者への再発リスク教育という観点も見逃せません。術後の自己管理(シリコンジェルシートの継続装着・圧迫療法・紫外線対策・体重増加によるテンション負荷の回避など)が再発率に影響します。優れた施設ほど、医師だけでなく看護師・薬剤師がこれらの生活指導を体系的に行っています。
瘢痕治療は「1回切れば終わり」という疾患ではありません。患者を紹介する医療従事者がこの視点を持ち、施設の「再発後対応力」を評価軸に加えることで、患者が長期にわたり適切なケアを受けられる可能性が高まります。
参考リンク(日本医科大学形成外科学教室の瘢痕・ケロイド研究室の取り組みについて)。
日本医科大学形成外科学教室|瘢痕・ケロイド研究室
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