販売中止と聞いても「帝國製薬から継続供給されるから問題ない」と思い込んでいると、後発品使用割合の加算要件で思わぬ減算を受けるリスクがあります。
「ヘパリン類似物質クリーム 日医工」という製品名は、実は複数の販売ルートが存在する構造を持っています。製品の製造は帝國製薬株式会社(香川県東かがわ市)が担い、その製品を日医工株式会社や持田製薬株式会社がそれぞれ販売するという、いわゆる「併売」体制が取られていました。
今回の一連の動きは、2024年4月に持田製薬がこの販売形態からの撤退を発表したことに端を発します。持田製薬ブランドの「ヘパリン類似物質油性クリーム0.3%(旧名:ビーソフテン油性クリーム)」は、2024年6月から8月にかけて包装規格ごとに順次販売中止となりました。理由は「製造所の都合」とされており、品質上の問題ではありません。
つまり薬剤そのものが消えたわけではありません。ただし問題はその後に続きます。
持田製薬の撤退によって市場への供給量が減少した結果、残る日医工・帝國製薬ブランドへの発注が急増しました。製造元である帝國製薬の生産キャパシティには限界があり、2024年12月には日医工株式会社から「想定を上回るご注文を頂いているため」として、全規格(25g×10本、50g×10本、100g、100g×5、500g)の限定出荷が正式に通知されました。
さらに背景として、日医工自体が抱える問題も無視できません。同社は2020年に品質試験不適合品を不正に出荷していたことが発覚し、富山県から業務停止命令を受けました。2021年に品質不正で行政処分を受けた後、品質管理体制の再構築を進める過程で、最終的に258品目の販売中止を決定しています。ジェネリック業界最大手の連鎖的な品目削減は、医療現場の供給不安に大きく拍車をかけました。
日本医師会の資料でも、後発医薬品の供給不安の発端として日医工・小林化工などのGMP違反が明示されており、医療現場への深刻な影響が記録されています。
参考:日本医師会「医療用医薬品不足の現状と問題点」(2023年)
日本医師会:医療用医薬品不足の現状と問題点(PDF)
2026年4月現在の最新状況を整理しておく必要があります。
まず「ヘパリン類似物質クリーム0.3%『日医工』」(製造販売元:帝國製薬)については、2024年12月から続く限定出荷が継続しています。出荷量の状況は「Aプラス(出荷量増加)」と分類されているものの、対応状況は「④限定出荷(その他)」のままです。これは季節性による一過性の需要過多や、持田製薬撤退に伴う需要移行が収束しきれていないことを意味します。
一方でローション剤形については状況が異なります。「ヘパリン類似物質ローション0.3%『日医工』」は2023年5月から約2年半にわたって限定出荷が続いていましたが、2025年11月13日に帝國製薬・日医工両社が通常出荷を再開しました。原薬の試験不適合が一時的な供給停止の原因でしたが、製造再開によって正常化されています。これは使えそうな情報です。
また、油性クリーム剤形(旧ビーソフテン系)については、帝國製薬自販品に切り替わった包装規格が存在し、供給状況データベース(DSJP)での確認が引き続き重要です。
医薬品供給状況の確認に有用なデータベースはこちらです。
DSJP(医療用医薬品供給状況データベース):ヘパリン類似物質クリーム0.3%「日医工」
日医工公式の供給状況ページも定期的に確認することが基本です。
日医工株式会社:ヘパリン類似物質クリーム0.3%「日医工」製品情報・お知らせ
代替品を選ぶ際に医療従事者が最初に確認すべきなのは、有効成分・濃度・剤形の一致です。
「ヘパリン類似物質0.3%」という有効成分と濃度は、厚生労働省の薬価基準に収載されている後発品すべてで共通しています。薬効・安全性・治療上の優劣はありません。ただし剤形の違いには注意が必要です。クリーム(乳剤性)、軟膏(油中水型)、ローション(外用液)では使用感や適応部位が異なるため、患者の皮膚状態や使い慣れた剤形を考慮した選択が求められます。
| 剤形 | 主な特徴 | 適した部位・用途 |
|---|---|---|
| クリーム(乳剤性) | 伸びが良い、べたつきが少ない | 顔・四肢など広範囲の乾燥肌 |
| 油性クリーム(軟膏型) | 保湿持続性高い、刺激少ない | 重度乾燥・ひび割れ、アトピー |
| ローション(外用液) | 頭皮など毛髪部位に使いやすい | 頭部・広範囲への塗布 |
| フォーム(泡状) | 塗布しやすく速乾性 | 広範囲・頭皮ケア |
処方変更の実務で最も効率的なのは、処方箋の記載を一般名処方に切り替えることです。「【般】ヘパリン類似物質外用液0.3%(乳剤性)」のように剤形まで含めた一般名処方とすることで、調剤薬局が在庫に応じた後発品を選択できるようになります。2025年9月の通知では、ヘパリン類似物質外用液の一般名記載方式が整理されており、医療機関側での対応準備が求められています。
処方変更は一般名処方が原則です。患者への説明は、「成分は同じで効き目は変わりません。容器やメーカーが変わることがあります」の一言で十分対応できます。
2024年10月から始まった「選定療養」の制度も、処方判断に影響します。先発品のヒルドイド®を患者が希望する場合、先発品と後発品の薬価差の4分の1相当額が保険外負担となります。ヒルドイドクリーム・ソフト軟膏100gを例にとると、先発品薬価が18.20円/g、後発品が3.70円/gであり、3割負担の患者であれば窓口での追加負担が発生します。後発品が供給不安定であっても、先発品への安易な切り替えを勧めると患者の医療費負担が増加する点に留意が必要です。
参考:マルホ株式会社「長期収載品に導入される選定療養について」
ここが医療従事者にとって最も見落としやすいポイントです。
厚生労働省は2026年3月5日付の事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」において、「ヘパリン類似物質クリーム0.3%『日医工』(帝國製薬)」を、後発医薬品使用体制加算等における後発品使用割合の算出対象から除外できる品目として明示しました。この取扱いは2026年4月1日から2026年9月30日まで適用されます。
つまり、この品目を調剤・処方できなかった実績が加算要件に不利に反映されないよう、国が明示的に配慮しているということです。ただし、除外の適用を受けるには条件があります。
2026年度診療報酬改定でも大きな変化があります。従来の「後発医薬品使用体制加算」「外来後発医薬品使用体制加算」が廃止され、「地域支援・医薬品供給対応体制加算」「地域支援・外来医薬品供給対応体制加算」が新設されました。これは後発品の使用促進だけでなく、安定供給体制の整備そのものを評価する方針への転換です。供給不安への対応体制を文書化・整備している医療機関が評価されるようになります。
加算名が変わるということですね。後発品を使っているかどうかだけでなく、供給トラブルへの対応体制が施設基準に組み込まれた形です。
参考:全日本病院協会「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(令和8年3月5日厚労省事務連絡)」
全日本病院協会:後発医薬品出荷停止に係る診療報酬臨時的取扱い(PDF)
現場での対応漏れを防ぐために、優先順位をつけて確認することが大切です。
まず最初に確認すべきは院内採用品の現状把握です。採用しているヘパリン類似物質クリームが日医工ブランドのみになっていないか、帝國製薬自販品や他社後発品の採用有無、現在の在庫量と発注状況を把握します。複数の後発品を並行採用しておくことで、単一品目の限定出荷リスクを分散できます。
次に処方箋の記載方法の確認です。先発品名指定の処方箋を使用している場合、一般名処方に切り替えることで薬局側の対応自由度が増します。特に皮膚科や小児科で大量処方が多い場合は、処方箋マスタの見直しが効果的です。
患者さんへの説明準備も欠かせません。「薬が変わった」と感じる患者さんからの問い合わせに備え、統一した説明文書を準備しておくことが現場の負担を減らします。説明内容は「成分・濃度・効果は同一。メーカーや外観が変わることがある。使い方に変更はない」の3点が核心です。
診療報酬の届出管理も確認が必要です。2026年4月以降の臨時的除外取扱いを活用する場合、医療事務担当者と情報共有し、後発品使用割合の算出方法を更新しておく必要があります。算定漏れや誤算定は返戻・減算の直接原因となります。
帝國製薬のお知らせページで最新の供給状況を定期確認することも重要です。
帝國製薬:ヘパリン類似物質クリーム・ローション「日医工」供給状況お知らせ一覧
今回の一連の事態は、「販売中止=薬がなくなる」という誤解が現場にいかに根強いかを示しています。
実際には、今回のケースのように製造元が同一で販売元だけが変わるケースでは、医薬品の実体は変わりません。しかし問題は、販売元の撤退が需給バランスを一時的に崩し、残る製造・販売元への集中注文が限定出荷を引き起こすという連鎖です。このパターンは今後も繰り返し発生します。日医工の品質不正問題以降、後発品メーカーの合理化・撤退が続いており、併売品を中心に同様のリスクが高まっています。
医療機関として今できることは、採用品目の「製造元の分散」を意識することです。同一成分で販売元が異なる後発品を複数採用しておけば、いずれかが限定出荷になっても代替対応がスムーズになります。これは在庫コスト増を意味しますが、処方変更説明の業務コストや患者不安の対応コストと比較したとき、どちらが現実的かを考える視点が重要です。
また、2026年度改定以降の「地域支援・医薬品供給対応体制加算」は、こうした供給リスクへの対応体制を「文書化・施設基準化」している医療機関を評価するものです。供給不安品目のリスト管理、代替品の事前承認フロー、患者説明文書の整備といった取り組みが、診療報酬上の評価につながる時代に変わりつつあります。
供給リスク管理が加算評価に直結するということですね。現場の薬剤師・医師・医療事務が連携して対応体制を整えることが、患者ケアの質と施設経営の両方を守ることになります。
参考:後発医薬品の供給不安問題と診療報酬改定の方向性について詳しくは厚生労働省の公式情報をご参照ください。
厚生労働省:後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱い(保医発0305第12号)