保険点数253点の初診料を使えるのに、あなたのクリニックは毎月数十万円の患者機会損失を出しています。
皮膚科オンライン診療が安いと感じられる最大の理由は、保険診療の枠組みで費用が計算されることにあります。2022年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が廃止され、代わりに「情報通信機器を用いた場合の初診料・再診料」が新設されました。これが現在の制度の根幹です。
2024年度(令和6年度)改定後の点数は以下のとおりです。
| 区分 | 点数 | 3割負担額(目安) |
|---|---|---|
| 初診料(情報通信機器使用) | 253点 | 約760円 |
| 再診料(情報通信機器使用) | 75点 | 約230円 |
| 処方箋料(情報通信機器使用) | 60点 | 約180円 |
つまり原則です。対面初診料が291点(3割負担で約870円)なのに対し、オンライン初診は253点(約760円)と約110円ほど安く設定されています。これは、触診・打診・聴診ができないという診察情報の制限を点数に反映させているためです。
再診料については対面(75点)とオンライン(75点)が同額という点は意外ですね。2022年改定時の73点から2024年改定で75点に引き上げられ、今は対面と同一水準になっています。
患者の視点で見ると、薬代は対面と同じ保険算定です。水虫や湿疹、アトピー性皮膚炎などの標準的な外用薬・内服薬は、通院しても自宅でオンライン受診しても、処方薬の保険負担額はほぼ変わりません。コスト差が生まれるのは交通費や待ち時間の機会コストの部分です。これが大きなポイントです。
医療機関として知っておきたいのは、「安い」という患者の認識が正確かどうかです。システム利用料・配送料など保険外の費用が加わると、患者の総負担は対面より高くなるケースもあります。後述する追加費用の透明な説明が、患者満足度に直結することを押さえておきましょう。
参考:2024年度診療報酬改定の詳細点数について
情報通信機器を用いた初診・再診に係る評価(クレドメディカル)
患者が「安い」と期待してオンライン診療を受けたのに「思ったより高かった」と感じるケースは、この隠れコストの存在に気づいていないことが原因です。医療従事者はこの構造を正確に理解し、事前説明を徹底する必要があります。
オンライン診療で発生する可能性がある保険外費用は主に3つです。
システム利用料が1,000円の場合、3割負担の初診患者は保険料760円+システム利用料1,000円+処方箋料180円で合計約1,940円前後になることもあります。これは対面初診に近い、あるいはそれを超える水準です。厳しいところですね。
重要なのは、厚生労働省の通知に基づき、システム利用料を患者に請求する場合は必ず書面等で説明し同意を得ることが求められている点です。これを怠ると、行政指導の対象となり得ます。コンプライアンスが条件です。
クリニックが選択するオンライン診療システムによってシステム利用料の扱いが異なるため、導入前に「誰が・いくら・どのタイミングで負担するか」を明確に決めておくことが、患者とのトラブル回避につながります。たとえば巣鴨仙石原皮膚科クリニックのようにシステム料を医療機関側が全額負担しているところもあれば、一律1,000円を患者に請求するクリニックもあります。自院の方針を院内掲示・Webサイトに明示しておくことで、受診前の患者の不満を未然に防げます。
参考:システム利用料の患者負担に関する法的根拠と注意点
オンライン診療システムの利用料とは?費用や注意点について解説(march-cos)
皮膚科のオンライン診療が安いかどうかは、保険が使えるかどうかによって大きく変わります。これが基本です。医療従事者として最も重要な知識のひとつです。
保険適用となる代表的な皮膚科疾患を整理しておきましょう。
一方、以下の疾患・状態は対面診療が不可欠で、オンラインでの対応はリスクを伴います。
「皮膚科は視覚情報が多い科だから、オンラインで十分診断できる」という思い込みは危険です。海外の研究(JMIR Dermatology)ではスマートフォン画像を用いた診断の一致度がκ=0.84と高い水準を示していますが、これはあくまでも一定条件下での数値です。実臨床では照明・カメラ性能・撮影角度によって見え方が大きく変わります。
また、美容皮膚科領域(シミ・肝斑・毛穴・たるみなど)は自由診療となるため、保険適用外で全額自己負担です。費用相場は診察料だけで4,000〜7,500円程度となり、一般保険診療のオンライン費用と大きく異なります。患者への説明時に混同が生じやすいため、保険診療と自由診療の区分を明確に伝えることが重要です。
参考:厚生労働省による皮膚科オンライン診療の適応事例・限界の記載
オンライン診療その他の遠隔医療に関する事例集(厚生労働省)
「安い診療=薄利」と考える医療従事者は少なくありません。しかし実態は異なります。オンライン診療を戦略的に導入したクリニックでは、収益の質と量が同時に改善するケースが多いのです。
まず患者獲得エリアの拡大です。対面診療の診療圏は、通常クリニックから半径2〜5km程度に限られます。オンライン診療を導入した瞬間、診療圏は理論上「全国」になります。これは使えそうです。特にアトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹など地方部で専門医へのアクセスが難しい患者を取り込める点は、大きな差別化要素となります。
次にLTV(顧客生涯価値)の向上です。皮膚疾患の多くは単発で完治するものではなく、数か月〜数年の継続治療が必要です。再診をオンラインで完結できる体制を作ると、患者の治療継続率が上がります。月1回の再診料75点(約230円の患者負担)は数字だけ見れば小さいですが、月間継続患者が100名いれば医療機関の算定は750点×100人=7,500点(1点=10円換算で75,000円)が安定して積み上がります。
さらに業務効率の改善も重要なポイントです。再診患者をオンラインに誘導することで、院内の混雑が緩和し、急性疾患・初診・処置が必要な患者に対する診療時間を充実させることができます。待合室の密を避けられることは、感染症対策としても患者満足度の面でも有効です。
| 比較項目 | 対面診療のみ | オンライン診療併用 |
|---|---|---|
| 診療圏 | 半径2〜5km | 全国 |
| 再診患者の来院コスト | 高い(移動・待機時間) | 低い(スマホで完結) |
| 継続率・LTV | 来院ハードルで低下しやすい | 高く維持しやすい |
| 院内の混雑 | 再診患者で混雑しやすい | 再診を分散できる |
ただし、「オンライン診療を導入すれば自動的に収益が上がる」というわけではありません。単に仕組みを入れるだけでなく、患者への周知(院内掲示・ウェブサイト・SNS)、スタッフへの運用教育、電子カルテとの連携設計が揃って初めて効果が出ます。導入後3〜6ヶ月間は試行錯誤が必要と見込んでおくことが現実的です。
参考:皮膚科・美容皮膚科のオンライン診療導入効果の詳細解説
皮膚科・美容皮膚科オンライン診療の導入効果(Medibot)
ここからは検索上位の記事にはあまり掲載されていない、医療機関側の「システム選定コスト」という視点でお伝えします。
オンライン診療を患者に「安く・使いやすく」提供するには、医療機関側がシステムにかけるコストを適切にコントロールすることが前提です。クリニックが支払うシステム利用料(月額・従量課金)が高すぎると、その分を患者に転嫁せざるを得なくなり、「オンラインなのに高い」という評判につながるリスクがあります。
現在日本市場には主要なオンライン診療プラットフォームが複数あり、代表的なものとして「クリニクス(CLINICS)」「curon(クロン)」「SOKUYAKU(速薬)」「LINE DOCTOR」などがあります。それぞれ初期費用・月額費用・予約件数あたりの課金体系が異なります。
システムを選ぶ際に医療従事者が確認すべきポイントを整理します。
また、2024年度改定で注目されたのが「初診における向精神薬処方禁止のウェブ掲示義務化」です。皮膚科にとって直接関係が薄い事項ではありますが、オンライン診療の施設基準を届け出る際には、自院のウェブサイトに必要事項が掲示されているか確認するチェックリストを作成しておくと、算定漏れや後日の返戻を防ぐことができます。
オンライン診療を安く・安全に運用するとは、患者の窓口負担だけを下げることではありません。医療機関のオペレーションコストを最適化し、コンプライアンスを守ったうえで持続可能な体制を作ることです。それが結果的に「患者にとって費用対効果の高い皮膚科オンライン診療」につながるという考え方が、長期的な経営戦略として正しい方向性です。
参考:厚生労働省 オンライン診療の適切な実施に関する指針
オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚生労働省)