腫瘍サイズをカルテに書かないだけで、手術点数が丸ごと返戻されます。
皮膚科手術の保険算定でもっとも頻繁に誤りが起きるのが、露出部(K005)と露出部以外(K006)の区分です。この区分ひとつで診療報酬点数に数千点単位の差が生じるため、正確な理解が欠かせません。
「露出部」とは、頭部・顔面・頸部・肘関節以下(前腕・手)・膝関節以下(下腿・足)を指します。一方、体幹・上腕・大腿などは「露出部以外」に分類されます。令和6年度改定後の点数で確認すると、露出部(K005)は長径2cm未満で1,660点、2cm以上4cm未満で3,670点、4cm以上で5,010点です。露出部以外(K006)は長径3cm未満で1,280点、3cm以上6cm未満で3,230点、6cm以上12cm未満で4,160点となっています。つまり、同じ腫瘍を摘出しても部位によって数千点の差が出ます。
注意が必要なのは、露出部と非露出部にまたがる病変の扱いです。
東京都医師会の保険診療ガイドラインによれば、露出部に係る長さが全体の50%以上である場合はK005(露出部)で算定し、50%未満の場合はK006(露出部以外)で算定するというルールが定められています。単純に切開部位の見た目で判断するのではなく、病変全体の分布を確認した上で正確に判定することが求められます。
また、手術で算定する「大きさ」に関して見落としがちな点もあります。皮膚切開術や皮膚・皮下腫瘍摘出術において点数区分の基準となる「長径」は、切開を加えた長さではなく「病巣そのものの大きさ」です。これを切開長で記録してしまうと、実際の点数区分と乖離が生じ、査定や返戻を招くことがあります。病変の大きさが基本です。
しろぼんねっと:令和6年 K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)点数表
「保険算定ができる」ことと「実際に保険が認められる」ことは、必ずしも同じではありません。どれほど適切な手術を行っても、カルテに必要事項が記載されていなければ、査定や返戻の対象となります。つまり、記録されていない診療は「行っていない」と判断されます。
東京都医師会が公開している皮膚科向けの保険診療要点では、手術に関して以下の記載が必須とされています。①腫瘍の具体的な病名(例:左頬部母斑、右前腕粉瘤など)、②部位の明記(左右・体表の位置)、③腫瘍のできるだけ正確なサイズ(長径)、④露出部か否かの判断根拠です。
これらが記載されていない場合、審査機関(支払基金・国保連)は「最小範囲の区分」として算定を変更します。たとえば、腫瘍が4cmを超える露出部病変であっても、サイズの記載がなければ「2cm未満」として査定されることがあります。実際に行った処置より低い点数に強制変更されるため、算定漏れと同じ損害が発生します。
さらに昨今では、腫瘍を摘出する際に腫瘍を分断した状態で病理提出している事例が問題視されています。
腫瘍を分断して提出すると病理標本からもサイズが把握できなくなり、術中の記録だけが根拠となります。その記録が不十分だと、適切な点数区分での算定が認められないケースがあります。腫瘍摘出後は可能な限り分断せず、完全な状態で病理提出することが望ましいといえます。
実際の現場でよく見られる算定誤りは、いくつかの典型パターンに集約されます。知っておくことで、査定リスクを具体的に回避できます。
❶ 陥入爪手術の麻酔なし算定
陥入爪手術は局所麻酔下で実施した場合に算定できます。麻酔なしで処置を行った場合は、陥入爪手術としては認められず、「J001-7 爪甲除去(麻酔を要しないもの)70点」に査定・変更されます。陥入爪手術(簡単なもの)は1,400点ですから、1件あたり1,330点の差が生じます。これは深刻な差です。ペンケースの長さ(約20cm)分ほどの小さな処置に思えても、算定の差は大きいです。
❷ 血管腫摘出術の誤適用
「皮膚、皮下、粘膜下血管腫摘出術」は、単純縫合や電気焼灼では止血不可能な、剥離・結紮などの血管操作を必要とする血管腫に限定されます。血管拡張性肉芽腫、老人性血管腫、静脈湖、単純縫合で摘除可能な星芒状血管腫などを切除した場合は、この術式では認められません。これらは「皮膚、皮下腫瘍摘出術(K005またはK006)」で算定します。この区別が理解できていれば大丈夫です。
❸ 冷凍凝固術の個数カウントミス
いぼ等冷凍凝固法(J056)は、個々のいぼの数ではなく「1回の局所麻酔範囲を1か所」とカウントします。たとえば、右人差し指に4つの疣贅が集まっていた場合、「4か所以上」の点数(270点)を算定したくなりますが、これは「1か所」のカウントとなり「3か所以下(210点)」が正解です。逆に、カルテに部位の詳細な記載がない場合は、どれだけ多く処置しても「3か所以下」と判定されます。正確な部位記録が条件です。
❹ 100㎠未満の皮膚科軟膏処置の誤算定
皮膚科軟膏処置(J053)は、処置面積が100㎠未満の場合は基本診療料(初・再診料)に含まれるため、別途算定できません。100㎠とは、はがきの面積(約100㎠)とほぼ同じサイズです。これを意識せずに算定しているケースが見られますが、審査で確実に減点されます。
美容皮膚科や一般皮膚科で特に問題になるのが、保険診療と自由診療の線引きです。この点は法的リスクにも直結するため、慎重な運用が求められます。
日本の保険制度では、1人の患者に対して同一疾病の治療過程で保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は、原則として禁止されています(健康保険法)。混合診療が発覚した場合、その日の診療費は全額が保険対象外となり、患者は全額自己負担を求められます。実際に近畿厚生局の個別指導において、同日に保険診療と自費施術(ピーリング・レーザー等)が混在してレセプト請求された事例で「混合診療の疑い」と認定されたケースが報告されています。
特に注意が必要なのは、美容目的の施術を保険病名で包んで算定するケースです。
たとえば、「毛細血管拡張」という病名をつけて酒さや赤ら顔の美容目的に色素レーザーを照射することは、保険では認められていません。血管腫への色素レーザーが保険適用になるのは、器質的疾患が対象です。美容目的のレーザー照射はレセプト病名の捏造とみなされ、架空請求と判定されることもあります。厳しいところですね。
また、自由診療中に生じた合併症の治療も原則として自費です。自由診療で行った処置の副作用や感染症に対し、保険診療として切り替えて対処した場合、混合診療となる可能性があります。自由診療を行う際は、合併症対応も含めて患者に事前説明し、文書で同意を得ておくことが重要です。
保険と自費の適切な区分管理は、医療機関の信頼性を守ることに直結します。
知っておきたい「混合診療」と「診察料の二重請求」のルール(開業医向け解説)
多くの医療機関では、レセプト審査で通過している=問題ないと考えがちです。しかし、これは正確ではありません。審査機関を通過しても、個別指導では記録の内容まで精査されます。
大阪市内の皮膚科クリニックで実際に起きた事例では、年間約10,000件のレセプトを請求していたにもかかわらず、1年間で返戻率が10%を超える月が続き、近畿厚生局から新規個別指導の通知を受けました。指摘の中心は「特定疾患療養管理料の算定根拠不足」と「SOAP形式の記録の具体性の欠如」でした。所見欄に「変わりなし」「同薬継続」しか記載がないと、管理料の要件を満たしていないと判断されます。改善後は返戻率が1.5%以下に改善されています。
別の都市型美容皮膚科でも、保険と自費の記録が混在した状態で請求が行われ、レセプト返戻が月15件以上発生し続けた結果、個別指導の対象となりました。改善後は月2件以下まで減少しています。これは使えそうな改善指針です。
個別指導で問題とされる皮膚科手術関連の典型的な指摘は次のとおりです。
| 指摘内容 | 具体的な事例 | 結果 |
|---|---|---|
| 部位・サイズの記載なし | 皮膚科軟膏処置で部位・範囲の記載がない | 55点に減点 or 返戻 |
| 病名のみで指導内容なし | 皮膚科特定疾患指導管理料を算定したが指導記録がない | 管理料全額返還 |
| 架空の保険病名 | 扁平母斑のレーザーで部位を毎月書き換えて請求 | 査定・不正請求認定 |
| 疑い病名での手術算定 | 「皮膚悪性腫瘍の疑い」で悪性腫瘍摘出術を算定 | 査定 |
| 麻酔なしで陥入爪手術算定 | 局所麻酔なしで陥入爪手術1,400点を請求 | 70点に査定変更 |
個別指導でリスクが高まる主なきっかけは、レセプトの返戻率が高い月が続くことと、同一手術の高点数算定が繰り返されることです。月次でのレセプト点検体制を院内に持つ、あるいは外部の医療事務サポートを活用することで、リスクを事前に察知できます。算定ミスの早期発見が原則です。
ささき経営グループ:教えて!保険診療の留意点〜新規個別指導の具体事例より〜
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