DESIGNスケールを毎回同じように記録しているのに、チーム間でスコアが最大10点以上ズレていることがあります。
「DESIGN」という名称は、褥瘡の構成要素の頭文字を並べたものです。Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Infection/Inflammation(感染・炎症)、Granulation tissue(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)の6項目で構成されており、その頭文字を組み合わせてDESIGNと呼ばれています。
このスケールは2002年に日本褥瘡学会が開発しました。国際的に使われているBradenスケールが「発生リスク予測」を目的とするのに対し、DESIGNは「褥瘡が発生した後の重症度評価と治癒過程のモニタリング」に特化している点が大きな特徴です。つまり目的が根本的に異なります。
大文字と小文字の使い分けにも意味があります。各項目の重症度が高い状態を大文字(例:D)、低い状態を小文字(例:d)で表し、一目でトリアージが可能な視覚的設計になっています。これはスケールの「デザイン」として非常に合理的な工夫です。
DESIGNのスコアは0点から66点の範囲で算出され、点数が高いほど重症度が高いことを示します。スコアが15点以上になると積極的な介入が必要なフェーズと判断されることが多く、現場では一つの目安として活用されています。
DESIGN-RはDESIGNの改訂版として2008年に日本褥瘡学会が公表しました。末尾の「R」はRevised(改訂)を意味します。改訂の最大の理由は、治癒経過をより精密に追跡できるようにするためです。
旧DESIGNでは治癒に向かうプロセスが点数に反映されにくいという現場からの声がありました。たとえば「壊死組織が除去されて肉芽が形成され始めた段階」と「完全に上皮化した段階」が、スコア上で区別しにくい構造だったのです。DESIGN-Rではこの問題を解消するために各項目のスコア配分が見直され、特にDepth(深さ)の評価基準が細分化されました。
改訂後のDESIGN-Rでは深さの項目が0〜5の6段階から評価されるようになり、深部組織損傷(DTI)や骨・腱・筋が露出した状態にも対応した評価ができるようになっています。これは実務上、大きな違いです。
また2020年にはDESIGN-R 2020という最新版が公表されています。この版ではDTI(深部組織損傷)とICU-AIの概念が新たに組み込まれ、重症患者や集中治療室環境にも対応できるようにアップデートされました。現在使用しているのがどのバージョンかを確認しておくことが大切です。
日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」:DESIGN-R 2020の評価基準と項目の詳細が掲載されています
BradenスケールはBarbaraブレーデンとNancy Bergstromが1987年に開発したアメリカ発のスケールです。知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養、摩擦とずれの6項目で構成されており、合計スコアが低いほどリスクが高いという逆方向の採点になっています。
ここが混乱しやすい点です。DESIGNはスコアが高いほど重症、Bradenはスコアが低いほどリスクが高い、という逆転した方向性を持っています。チームで複数のスケールを運用しているとき、この方向性の違いを意識しないとスコアの解釈が逆転するミスが起きます。
Bradenスケールの判定基準として、23点満点のうち18点以下がリスクありとされ、12点以下は高リスク、9点以下は最高リスクとされています。入院時のスクリーニングツールとして多くの病院で採用されており、NHKのドキュメンタリーでも取り上げられるほど国際的な知名度があります。
選び方の基本はシンプルです。「褥瘡ができる前のリスク評価」にはBradenスケール、「褥瘡ができた後の状態評価・治癒モニタリング」にはDESIGN-Rというように、目的で使い分けることが原則です。
一方でOHスケール(大浦・堀田スケール)という選択肢もあります。日本独自の評価ツールで、在宅や介護施設での使用を念頭に設計されており、自立度・栄養状態・骨突出・浮腫の4項目からなる簡便なスクリーニングツールです。手軽さが求められる場面での活用が向いています。
| スケール名 | 目的 | 項目数 | スコアの方向 | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|---|
| DESIGN-R 2020 | 重症度・治癒評価 | 7項目 | 高=重症 | 急性期・慢性期病棟 |
| Bradenスケール | 発生リスク予測 | 6項目 | 低=高リスク | 入院時スクリーニング |
| OHスケール | 発生リスク予測 | 4項目 | 高=高リスク | 在宅・介護施設 |
スケールの精度は「誰が記録するか」によって大きく変わります。ある研究では、同一患者の褥瘡をDESIGNで評価した場合、経験3年未満の看護師と専門看護師(WOCナース)のスコアが平均8〜12点差になるケースが報告されています。スコアに客観性があるように見えて、実は評価者の経験値に強く依存しているのです。
特にズレが大きくなりやすいのはExudate(滲出液量)とGranulation tissue(肉芽組織)の2項目です。滲出液は「少量・中等量・多量」という定性的な評価になるため、個人差が出やすい構造になっています。これが基本的な弱点です。
標準化のために有効な手段として、写真記録との併用があります。評価日ごとに同一条件(照明・距離・角度)で撮影した写真をカルテに紐付け、スコアの根拠として残すことで、次回評価者が前回評価との比較をしやすくなります。多くの電子カルテシステムでは画像添付機能が標準搭載されているため、積極的に活用することが望ましいです。
院内での統一教育も重要です。日本褥瘡学会が提供する「褥瘡管理者テキスト」や、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)が主導する院内勉強会を定期的に実施しているチームでは、評価者間の信頼性(ICC値)が0.8以上を維持できているという報告があります。チーム全体で精度を保つ仕組みが必要です。
日本褥瘡学会公式サイト:DESIGN-R評価ツールのダウンロードや教育資材が入手できます
在宅療養環境では、病棟と同じようにDESIGN-Rを使うことが現実的でない場面も少なくありません。訪問看護師や介護福祉士が評価の中心を担うケースでは、7項目の評価に時間がかかること、壊死組織や肉芽組織の判定に専門知識が必要なことが課題として挙げられています。
そこで在宅では、OHスケールや改訂Braden-Qスケール(小児向け)などの簡便なツールと組み合わせて使う運用が広まっています。具体的には、初回アセスメントでBradenまたはOHスケールでリスク分類を行い、褥瘡が発生した段階でDESIGN-Rによる詳細評価に移行するという二段階方式です。
これは合理的なアプローチです。訪問看護ステーションと主治医のクリニック、ケアマネジャーが同一フォーマットのスコアシートを共有することで、電話や文書によるコミュニケーションの精度が上がります。「滲出液が中等量、スコアE3」という形で情報伝達できれば、口頭説明だけよりも正確に状態が伝わります。
介護保険制度の観点からも、褥瘡評価の記録は重要です。2021年度の介護報酬改定以降、褥瘡マネジメント加算の算定要件として「褥瘡に関するリスクアセスメントの実施」が明記されており、スケールに基づいた評価記録が加算の根拠として求められるようになりました。記録の質がそのまま施設の収益に直結する時代になっています。
褥瘡評価スケールは「記録するためのツール」ではなく、「チームで状態を共有するための言語」として機能します。その設計思想(デザイン)を理解することが、現場での誤用を防ぐ第一歩です。スケールの種類と目的の対応を正確に把握したうえで、場面に合わせた選択と標準化された運用を継続することが、褥瘡ケアの質向上につながります。
厚生労働省「2021年度介護報酬改定の概要」:褥瘡マネジメント加算の算定要件と評価スケールに関する記載が確認できます