2時間ごとに体位変換すれば褥瘡は防げると、あなたは今も信じていますか。
ポジショニングとは、単に「患者さんの姿勢を変える」ことではありません。日本褥瘡学会が定義するように、「動けないことによって起こるさまざまな悪影響に対して予防対策を立て、安全・安楽な観点から体位を評価し、現状維持から改善に役立つよう体位づけを管理すること」です。これは看護師にとって非常に奥深いケアです。
褥瘡が発生する本質的な原因は、骨と皮膚表層の間の軟部組織が外力によって血流障害を起こすことにあります。外力には「静的外力」と「動的外力」の2種類があり、静的外力はベッドや椅子に横たわっている状態で骨周辺に縦・横・斜め方向へ複合的にかかる力のことです。一方の動的外力は、体位変換・オムツ交換・リハビリ時に生じる摩擦とずれが代表例です。
アセスメントに欠かせないのがブレーデンスケールです。「知覚の認知」「湿潤」「活動性」「可動性」「栄養状態」「摩擦とずれ」の6項目で構成され、各項目を1〜4点(摩擦とずれのみ1〜3点)で評価します。合計点が低いほどリスクは高く、15〜18点が低リスク、13〜14点が中等度、10〜12点が高リスク、9点以下は非常に高リスクと分類されます。これが原則です。
アセスメントで重要なのは、点数の総合値だけでなく、どの項目が特に低下しているかを確認することです。たとえば、「可動性」が極端に低い場合は体圧分散に主眼を置いたポジショニング計画が必要になり、「摩擦とずれ」が低い場合は背抜き・足抜きなどのずれ力解消ケアを強化することが求められます。患者の状態を多角的に把握してからポジショニングを組み立てる。これが看護師としての基本姿勢です。
また、アセスメントは入院時だけで終わりではありません。患者の状態は日々変化するため、定期的な再評価が不可欠です。状態変化があった際には即時に計画を見直すことが求められます。
参考:ブレーデンスケールの6項目と評価基準の詳細
OHスケールなど|褥瘡のリスクアセスメント・スケール(ディアケア)
「褥瘡予防といえば30度側臥位」という認識は、ある程度正しいですが、全員に適用できるわけではありません。意外ですね。
30度側臥位が推奨される理由は、骨突出部がないお尻の殿筋(でんきん)で体重を受けることができ、接触面積を広くとれるため体圧を分散できるからです。仙骨や大転子など骨の出っ張った部分を浮かせ、比較的平坦な殿部がマットと接触するよう設計されたポジションです。
しかし注意点があります。日本の高齢入院患者の多くはるい痩が進んでいます。殿筋量が少ないため、30度側臥位をとっても腸骨部や仙骨部に骨突出による当たりが生じてしまうことがあるのです。腸骨はおよそ手のひら1枚分の骨出っ張りであり、そこへの圧集中は褥瘡を招きます。
仰臥位についても同様の注意が必要です。頭側挙上は10〜20度でも呼吸機能を助ける効果がありますが、30度を超えると臀部への圧が急増し、仙骨部褥瘡発生リスクが高まります。30度以上の頭側挙上は要注意です。
また、仰臥位・側臥位どちらにおいても「踵部」は特別な注意が必要な好発部位です。踵部は軟部組織が薄く、体重の全荷重が1点に集中しやすい部位で、仰臥位時の接触面積は10〜15㎝²(ちょうど500円玉2枚分程度)しかないことも報告されています。踵にはクッションを置いて浮かせることが基本です。
つまり、ポジショニングに「これが正解」という一律の答えはないということです。体型・拘縮の有無・得手体位(患者さんが楽と感じる体位)などを総合的に判断し、個別化したケアを組み立てることが本質です。
参考:30度側臥位の利点と注意点(日本褥瘡学会ガイドブックより図解あり)
「この体位で大丈夫?」褥瘡予防の科学的根拠|LTSセミナー
「体位変換は2時間ごと」。この言葉は多くの看護師が研修で学び、現場で実践してきたルールです。しかし実は、このルールに確固たるエビデンスはありません。
体位変換の「2時間ルール」が明文化されたのは、1977年に出版された書籍が初出とされています。それ以前の根拠はウサギやネズミを用いた動物実験で、「2時間加圧でウサギの臀部に微細な変化が出た」「ネズミのハムストリングに2〜3時間圧をかけると変化が生じた」というものでした。どちらも動物実験のため、人間への直接適用は科学的には弱い根拠です。
日本褥瘡学会をはじめとする最新のガイドラインは、「画一的に2時間ごとの体位変換を計画するのではなく、リスクアセスメント結果をもとに患者ごとの体位変換計画を立てるべき」と明記しています。
具体的には、以下のような知見が示されています。
これは「2時間以上放置してよい」という話ではありません。体圧分散寝具の種類と患者の全身状態に応じて、適切な間隔を個別に設定することが肝心です。一方で、体圧分散寝具を使わず通常のマットレスを使用している場合は、やはり2時間を目安にすることが無難です。体圧分散用具なしでは短縮が条件です。
また、大きな体位変換でなくとも「スモールチェンジ」という選択肢があります。スモールチェンジとは、手や顔の向きを変えたり、滑る手袋を使って身体をわずかに動かすことで1箇所への圧集中を解消する手法です。体位変換に比べて介助者の負担が少なく、患者への侵襲も小さい。夜間帯や少人数スタッフでのケア時などに特に有効な方法です。
参考:体位変換間隔のエビデンスとスモールチェンジの詳細
体位変換を2時間から4時間にするためのケアとは?(ナース専科)
正しい体位をとっても、使う用具の選択が不適切だとケアの効果は半減します。これは見落とされがちなポイントです。
体圧分散マットレスの選択については、患者の褥瘡リスクの高さに応じて種類を使い分けます。低リスクには一般的なフォームマットレスが対応できますが、中〜高リスクには粘弾性フォームマットレスや交互圧エアマットレスが選択されます。とくに動的エアマットレス(交互圧型)は、定期的に膨張・収縮して自動的に圧を変化させるため、スタッフの介入回数を減らしながら褥瘡予防効果を維持できます。
体圧分散のひとつの目安として、臨床では局所の体圧値を「40mmHg以下」に保つことが推奨されています。40mmHgは毛細血管閉塞圧(32〜35mmHg)を少し上回る値であり、これを超えた圧が持続すると血流が途絶え始めます。つまり40mmHg以下が安全域の目安です。
クッションの使い方では、単純に「クッションを当てればよい」ではなく、当てる位置と目的を明確にすることが大切です。側臥位では背中側のクッションが安定性をもたらし、両膝の間のクッションは大転子・膝外側への圧集中を防ぎます。踵部には踵をマットから浮かせるようにクッションをふくらはぎ全体の下に入れることが基本です。
そして見落とされがちな重要ケアが「背抜き(圧抜き)」です。ベッドを頭側挙上すると、患者の身体は重力でずり下がり、皮膚と背中の間にずれ力が残留します。日本褥瘡学会はこのずれを「ベッドや車椅子などから一時的に身体を離すことで解放すること」として「背抜き」と定義しています。背上げ後に看護師が背中に手を差し入れ、皮膚とマットレスの間に滑り込ませて引き抜くだけで、蓄積したずれ力を効果的に解消できます。
ポジショニング後は残留ずれ力を必ず解除する。これが大原則です。クッションを当てる→背抜きを行う→皮膚の状態を観察するという一連の流れを習慣化することが、褥瘡発生を防ぐ実践的な手順です。
参考:背抜きの方法と効果の詳細解説
褥瘡ケアでよく聞く「背抜き」とは?(ナース専科)
ポジショニングは看護師だけで完結できるケアではありません。チームで関わることが成果を大きく左右します。
実際に、病院の褥瘡対策チームは医師・看護師・理学療法士・作業療法士・管理栄養士・薬剤師・医事課など多職種で構成されているケースが多く、月1〜2回の多職種合同ラウンドを通じてハイリスク患者への早期介入を行っている施設では、褥瘡発生率の低減が実現されています。
理学療法士(PT)の専門的視点は特に重要です。拘縮の程度・関節可動域・筋緊張パターンを詳細に評価できるPTが介入することで、看護師だけでは気づきにくい「なぜこの姿勢が危険か」という力学的な問題点を特定できます。たとえば、患者さんが股関節に外旋拘縮を持っている場合、仰臥位で脚が外側に倒れ、踵部が局所的に接触し続けることが発生します。PTとの情報共有で、このリスクを事前に発見することが可能です。
管理栄養士の介入も褥瘡予防に直結します。褥瘡は皮膚の問題であると同時に、全身栄養状態の問題でもあります。低栄養状態では皮膚の脆弱性が高まり、同じポジショニングを行っても褥瘡発生リスクが格段に上がります。血清アルブミン値が3.5g/dL未満の場合は特に注意が必要です。栄養補給の介入と並行したポジショニングケアが効果的です。
独自の視点として注目したいのが「ポジショニングログ(記録の見える化)」の活用です。ポジショニングを実施した時刻・体位・使用したクッションの配置・皮膚観察の結果を一覧で記録・共有することで、シフトを越えた継続的なケアが実現します。これがあるとチームの認識が統一されます。個人の技量に依存するケアから、チームとして質を担保するケアへと移行するための具体的な手立てです。
ポジショニングの計画は看護師がリードし、PTの評価・栄養士の栄養管理・医師の指示・薬剤師の処方確認を束ねて統合することが、褥瘡ゼロを目指すチームアプローチの核心です。
参考:多職種チームで取り組む褥瘡対策の実例
褥瘡対策チームによる多職種連携の取り組み(大原綜合病院)
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