IgEが陰性でも、カビアレルギーによる喘息重症化が起きることがあります。
カビアレルギーの血液検査には、大きく分けて「特異的IgE(マルチアレルゲン)」と「特異的IgE(シングルアレルゲン)」の2つの検査体系があります。まずこの2つの構造を理解することが、検査オーダーの精度を上げる第一歩です。
カビマルチ(マルチアレルゲン)とは何か
カビマルチは、代表的な真菌5種を1パネルにまとめたスクリーニング検査です。具体的にはアルテルナリア(M6)、アスペルギルス(M3)、クラドスポリウム(M2)、ペニシリウム(M1)、カンジダ(M5)などが含まれます。保険請求上は1項目として取り扱われるため、アレルゲンが絞り込めていない段階の初期スクリーニングとして費用対効果が高い検査です。
ただし、重要な注意点があります。カビマルチが陽性であっても、含まれる5種のうちどの真菌による反応かは判別できません。つまり、陽性が出た後に「どのカビが原因か」を調べるためにシングルアレルゲンの追加検索が必要になります。これが基本です。
シングルアレルゲン検査の各項目コード
シングルアレルゲンでは個別の真菌に対する特異的IgEをそれぞれ測定します。主な項目は次のとおりです。
| 項目コード | アレルゲン名(略称) | 一般的な呼称 |
|---|---|---|
| M1 | ペニシリウム | アオカビ |
| M2 | クラドスポリウム | クロカビ |
| M3 | アスペルギルス | コウジカビ |
| M4 | ムコール | ムコール属 |
| M5 | カンジダ | カンジダ |
| M6 | アルテルナリア | ススカビ |
| M8 | ヘルミントスポリウム | ヘルミントスポリウム |
| M9 | マラセチア | マラセチア |
| M11 | ビール酵母 | サッカロミセス |
つまり「マルチで陽性→シングルで絞り込み」という2ステップが原則です。ただし、重症喘息が疑われる場合やABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)の診断を目指す場合は、最初からアスペルギルス(M3)のシングルアレルゲンをオーダーすることも合理的な選択肢になります。
また、VIEW39やMAST36などのパネル検査にもカビ系真菌が一部含まれています。VIEW39にはアルテルナリア、アスペルギルス、カンジダ、マラセチアが含まれており、カビ以外の吸入・食物アレルゲンと合わせてスクリーニングする際に活用されています。これは使えそうです。
参考:カビアレルゲンに対する検査種別の整理(広島市医師会臨床検査センター)
http://www.labo.city.hiroshima.med.or.jp/qanda/1398.html
検査結果の解釈には、各菌種の発生環境・飛散時期・症状との関連を理解しておくことが不可欠です。IgE陽性の「どの真菌か」によって、臨床的な対応が変わってきます。
アスペルギルス(M3):重症喘息・ABPAに直結
アスペルギルスの中でもAspergillus fumigatusは、ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)およびSAFS(真菌感作重症喘息)の主要な原因菌です。分生子のサイズが2〜10μmと小さく、下気道に容易に到達して発芽し、気道粘膜で強い免疫反応を引き起こします。重症喘息患者の約30%が何らかの真菌特異的IgEを保有しており、そのなかでアスペルギルスの頻度は特に高い、というデータがあります(日本内科学会雑誌110巻、2021年)。
アスペルギルス陽性例では、血清総IgE値(417IU/mL以上)、末梢血好酸球数(500/μL以上)、胸部CT所見(中枢性気管支拡張)を合わせて評価し、ABPAの診断基準に沿った対応が求められます。これが原則です。
アルテルナリア(M6):鼻炎・喘息への二重リスク
アルテルナリア(ススカビ)の胞子は他の真菌と比べてサイズが大きく、鼻腔に長くとどまる特性があります。このため、アレルギー性鼻炎との関連が強く、症状が「屋外・梅雨〜秋口」で増悪するパターンをとりやすいです。飛散ピークは6月で、4月〜10月にかけて屋外での胞子濃度が高まります。
一方で胞子のサイズが大きいものは下気道には到達しにくい面もありますが、アルテルナリアへの感作は気管支喘息の悪化要因にもなり得ます。鼻炎と喘息の両方が絡む患者では、アルテルナリア特異的IgEをシングルで確認しておく価値があります。
クラドスポリウム(M2)・ペニシリウム(M1)
クラドスポリウム(クロカビ)はあらゆる環境に発生する最も一般的な空中真菌です。浴室・台所・結露の出る壁面・室内空中に広く検出されます。一方、ペニシリウム(アオカビ)は比較的乾燥に強く、押し入れ・靴箱・食品で見られます。どちらも通年性のアレルゲンとして機能し、季節的な変動が少ない点が特徴です。
マラセチア(M9)・カンジダ(M5):皮膚疾患との関連
マラセチアは皮膚常在菌であり、環境中には存在しません。そのため、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の原因とはなりにくいです。主にアトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎の悪化因子として作用します。カンジダも同様に皮膚・口腔・消化管の常在菌で、成人のアトピー重症化に関わるとされています。吸入アレルゲンとしての意義は低いため、主訴が鼻炎・喘息の場合は優先度を下げて考えるのが妥当です。
参考:臨床で使うカビ別の検査項目と意義(SRL総合検査案内)
https://test-directory.srl.info/akiruno/test/detail/000780200
血液による特異的IgE検査は便利ですが、それだけでカビアレルギーの有無を完全に判定することはできません。この点を見落とすと、診断の精度が大きく下がります。
血液検査と皮膚プリックテストの感度・特異度の違い
日本アレルギー学会「皮膚テストの手引き2025」によると、多くのアレルゲン項目で血液検査よりも皮膚テストの方が真のアレルギー診断に対する感度・特異度が高いとされています。特に吸入アレルゲン(カビを含む)では、皮膚プリックテストの即時反応が強い診断的価値を持ちます。皮膚テストの最大の利点は迅速性で、15〜20分で結果が出るため、外来でその場の判断が可能です。
一方で、血液検査はアナフィラキシーリスクがなく、抗ヒスタミン薬などの服用の影響も受けにくい安全性の高い検査です。どちらか一方が「優れている」というわけではなく、患者の状態・目的に応じて使い分けることが正解です。
IgE陰性でもSAFSが存在する:見逃し防止のポイント
重要な臨床的事実として、血清特異的IgEが陰性または低値であっても、皮膚プリックテストで陽性反応が出る場合があります。SAFSの診断基準でも「即時型皮内反応または血清特異的IgE抗体が陽性であること」とされており、どちらか一方が陽性であれば真菌感作の根拠になります。
つまり、「IgEが陰性だからカビアレルギーではない」という判断は危険です。難治性・重症喘息で原因不明の増悪を繰り返す患者には、血液検査が陰性でも皮膚テストを追加する視点が必要です。
また、特異的IgEの結果は0〜6のクラス分けで評価されますが、全体的なアレルギー血液検査の約50〜60%に偽陽性の可能性があるとも言われています(一之江駅前ひまわり医院)。逆に偽陰性も存在します。検査値と臨床症状・環境暴露歴を必ず照合することが大前提です。
検査前に確認すべき環境暴露歴の問診ポイント
血液検査をオーダーする前の問診として、以下の情報を取得しておくと解釈精度が上がります。
- 症状悪化のタイミング(室内・屋外・季節・特定の部屋)
- 住居の築年数・水回りの状態・結露の有無
- 職業(食品加工・農業・医療施設など)
- 既存のアトピー性皮膚炎・喘息・アレルギー性鼻炎の既往
これらを事前に整理しておくと、どのカビ菌種のシングル検査が有力候補かを絞りやすくなります。問診が先行するのが基本です。
参考:日本アレルギー学会「皮膚テストの手引き2025」
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/皮膚テストの手引き2025_Web掲載用_修正.pdf
カビアレルギーの検査項目を適切に選択するためには、重症化疾患の診断フローを知っておくことが欠かせません。特にSAFSとABPAは、一般的な喘息・鼻炎として見過ごされやすいため注意が必要です。
SAFSとは何か:定義と検査の役割
SAFS(Severe Asthma with Fungal Sensitization:真菌感作重症喘息)は、高用量の吸入ステロイドと長時間作用型β₂刺激薬の併用でも症状が持続し、頻回または持続的な経口ステロイドを要する患者に、真菌感作が確認された場合に診断される疾患概念です。
SAFSの診断には次の3条件が必要です。
世界的には喘息患者の約20〜30%が真菌アレルゲンに感作されており、重症喘息に限るとその頻度はさらに高くなります。検査項目としては、アスペルギルス(M3)・クラドスポリウム(M2)・アルテルナリア(M6)が中心となります。
ABPAの診断基準に含まれる検査項目
ABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)の診断には、AMEDが提唱する日本の臨床診断基準(2020年)が使用されます。10項目中6項目以上を満たすことが診断要件です。
🔍 ABPAの診断に関係する主な検査項目。
血液検査だけでは診断が完結しない点が重要です。胸部CTや気管支内視鏡との組み合わせが確定診断には必要になります。
ABPAとSAFSの鑑別における検査値の見方
ABPAでは血清総IgEが著明に上昇(1000IU/mL以上が多い)するのに対し、SAFSでは総IgEの上昇は必須条件ではありません。また、ABPAでは抗アスペルギルスIgG抗体(沈降抗体)が陽性になる一方、SAFSでは必ずしも陽性になりません。
「IgEが高い=ABPA」という単純な判断は避けるべきです。これ1点だけ覚えておけばOKです。
参考:日本呼吸器学会によるABPA疾患解説
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-04.html
参考:アレルギー性気管支肺真菌症の診断基準研究(AMED)
https://www.amed.go.jp/news/release_20200915.html
ここでは検索上位にはない独自の切り口として、エアコンおよび職業性暴露とカビアレルギーの関係について解説します。この視点は、感作経路の説明が難しい患者の診療で特に役立ちます。
エアコンはカビの「散布装置」になり得る
アスペルギルス・クラドスポリウム・ペニシリウムはいずれもエアコンの内部(熱交換器・フィルター・ドレンパン)に発生しやすい環境真菌です。特に長期間使用されたエアコンは、内部に数万個/m³に達する真菌胞子を保有していることがあり、稼働時に室内全体に胞子を撒き散らします。
患者が「自宅ではほとんど症状が出ないが、特定の部屋にいると悪化する」「夏の始めにだけ喘息が悪化する」という訴えをする場合、エアコン由来の真菌曝露が強く疑われます。エアコンの使用開始時期と症状悪化のタイミングを問診で確認することは、どのカビ菌種を検査すべきかの手がかりになります。これは使えそうです。
職業性カビアレルギーという見落としやすい概念
農業従事者(堆肥・牧草)、パン職人・チーズ製造者(ペニシリウム)、医療施設従事者(院内換気系)、建設現場作業者(壁材・木材のアスペルギルス)など、特定の職業では日常的に高濃度の真菌胞子に暴露される環境が整っています。
職業性アレルギーでは一般的な感作率より高い陽性率が出ることがあり、特異的IgEの解釈においても職業暴露歴の確認が欠かせません。MAST系の検査で陽性が出たとき、患者の職種を把握していないと重要な原因を見落とす可能性があります。菌種と職業の対応を頭に入れておくことが、感度の高い検査オーダーにつながります。
室内環境の湿度管理が感作リスクを決める
カビは温度25〜30℃・湿度60〜80%で最も活発に増殖します。日本の住宅環境は特に梅雨〜夏にかけてこの条件を満たしやすく、エアコンを使わない日中の蒸し暑い時間帯に室内カビ胞子濃度が上昇します。患者への療養指導として「除湿機の併用」「換気扇の常時稼働」「結露の即時除去」は最低限伝えるべき内容です。
また、観葉植物の土・切り花を活けた花瓶の水・エアコンの吹き出し口はアスペルギルスの主要な室内発生源として知られています。これらを患者の生活環境の聴取時に具体的に確認すると、血液検査結果と環境因子の照合がスムーズになります。
参考:CRC-Group「カビアレルギーの検査と主な真菌種の解説」
https://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/21.html