スペルト小麦パンはグルテンフリーと誤解して患者に勧めると、セリアック病が悪化します。
古代小麦とは、現代の品種改良が行われる以前から栽培されてきた小麦の総称です。代表的なものとして、スペルト小麦(ファッロ)・アインコーン(一粒小麦)・カムート(二粒小麦)の3種類が挙げられます。現在スーパーで流通している一般小麦とは異なり、これらは数千年から1万年以上にわたって、ほぼそのままのDNA特性を維持してきた穀物です。
| 種類 | 栽培の歴史 | 主な特徴 | GI値の目安 |
|---|---|---|---|
| スペルト小麦 | 約9,000年前〜 | 現代小麦の原種・ナッツのような風味 | 約54〜63 |
| アインコーン | 約12,000年前〜 | 人類最古の栽培穀物・ソフトグルテン | 約30 |
| カムート | 約6,000年前〜 | 香ばしい風味・大粒・良質タンパク質 | 約40〜45 |
| 現代小麦(普通小麦) | 品種改良後 | 製パン性が高い・グルテン多い | 約69〜71 |
通販で「古代小麦パン」と表示されている商品のほとんどは、スペルト小麦を主原料としています。アインコーンを使用したパンは生産量が少なく、希少性が高い分、価格帯も1個あたり600〜1,500円程度とやや高めです。カムートはパスタや食パンへの利用が多く、通販での取り扱いも増えてきています。
これが基本です。まず3種類の違いを整理しておけば、患者や同僚への説明もスムーズになります。
参考:古代小麦の種類と栄養成分について詳細に解説されています。
古代小麦は本当にグルテンアレルギーに優しいのか?【JIDL健康雑学】
古代小麦が医療・健康分野で注目される理由は、具体的な数値で見るとよくわかります。スペルト小麦100gあたりの鉄分含有量は約5.4mgで、これは普通小麦の約6倍に相当します。鉄欠乏性貧血が多い医療従事者やその患者にとって、食事からの鉄分補給は地道ながら確実な手段です。
さらに注目すべきはGI値(血糖値上昇指数)です。一般的な小麦粉のGI値が約69〜71であるのに対し、アインコーン(一粒小麦)のGI値は驚きの30とされています。これはそば(GI値約54)よりも低く、糖尿病患者の食事療法や血糖管理の観点からも意義があります。スペルト小麦の場合はおよそ54〜63程度で、全粒粉を使用することでさらに低くなります。
食物繊維については、多糖類に分類される複合炭水化物が豊富に含まれており、単純糖に比べて消化・吸収が緩やかです。これが血糖値の急上昇を抑制し、インスリン分泌を安定させる効果につながります。つまり低GI効果は実際の糖質量だけでなく、この食物繊維の存在によるところも大きいのです。
アインコーンはルチンの含有量も一般小麦の約3倍、マンガンは約1.7倍とされています。ルチンは毛細血管の強化や抗酸化に関与しており、長時間の立ち仕事が多い医療従事者にとってもうれしい成分です。これは使えそうです。
参考:スペルト小麦の5つの健康効果と栄養素の詳細データが確認できます。
スペルト小麦がもたらす5つのメリット | ベーカリスタ株式会社
ここが最も重要なポイントです。古代小麦は「グルテンフリー」や「グルテンが少ない」と誤解されることが多く、医療現場でも誤った情報が流通しています。
結論から述べると、古代小麦にはグルテンが含まれています。
スペルト小麦のタンパク質のうち、約80%はグルテンです。しかも、スペルト小麦のグルテン含有率は普通小麦よりも高い傾向があるとする研究報告もあります(木下製粉株式会社の調査)。構造上の違いとして、スペルト小麦はグルテニン(生地の弾性に関わる)が少なく、グリアジン(粘性に関わる)が多い特性を持ちます。この構造の違いが消化のしやすさや免疫反応の差異につながる可能性はありますが、セリアック病患者に対しては完全に安全とは言えません。
アインコーンのグルテンインデックスは約18と低く、一般小麦の約90と比較すると大きく異なります。これが「消化しやすい」「膨満感が少ない」という評価につながっています。ただし、これはグルテン構造の「柔らかさ」の話であり、グルテンがない、ということとはまったく異なります。
患者への食事指導で古代小麦を勧める際は、対象者の状態を必ず確認することが条件です。
参考:農林水産省のグルテン関連疾患に関する詳細な解説が確認できます。
日本でも増え続けている過敏性腸症候群(IBS)の患者に対して、低FODMAP食療法は一定の有効性が認められています。FODMAPとは、腸内で発酵しやすい炭水化物の総称であり、特にフルクタンはIBS症状を悪化させる代表的な成分です。
通常の小麦はフルクタンを多く含むため、IBS患者にとって高FODMAP食品に分類されます。ところが、スペルト小麦は発酵過程を経た場合、フルクタン含量が大幅に低下することがわかっています。これが、スペルト小麦を使用した一部の古代小麦パンが「低FODMAP認定」を受けている理由です。
注目すべき点は、同じスペルト小麦でも製法によって低FODMAP性が変わる、ということです。天然酵母を使って長時間発酵させることで、フルクタンが分解されて低FODMAP食品として認定される場合があります。一方、イーストで短時間発酵させたものはその効果が期待できません。
通販で入手できる低FODMAP認定の古代小麦パンとして注目されているのが、ブランジュリ ロワゾー・ブルー(Boulangerie L'oiseau bleu)のスペルト小麦パンシリーズです。
これらはIBSのチャレンジ期(1ヶ月の導入期を経た後)に対応した商品として位置づけられており、卵・乳製品・はちみつ不使用で設計されています。医療現場でIBS患者の食事指導に携わる際、具体的な通販先として案内できる実用的な選択肢です。
低FODMAPが条件です。購入前に製法と認定の有無を確認しましょう。
参考:IBSと低FODMAP食の詳細、スペルト小麦との関連が確認できます。
低FODMAP食対応ページ | ブランジュリ ロワゾー・ブルー
通販で古代小麦パンを選ぶとき、多くの人は「スペルト小麦使用」という表示だけを見て購入します。しかし、医療・健康の観点から見ると、パンの品質は原材料だけでは判断できません。製法・産地・添加物の有無が、同じ「スペルト小麦パン」でも効果に大きな差をもたらします。
まず産地について、スペルト小麦はドイツやイタリアからの輸入品が多く流通しています。一方、国産(北海道産)スペルト小麦を使用したパンも少数ながら通販で入手可能です。農薬の使用基準が日本と海外では異なるため、健康意識の高い方や免疫系の疾患を持つ患者向けには、有機JAS認定・オーガニック認証のある製品を選ぶほうが安心です。
次に製法です。天然酵母(ルヴァン種・ホシノ天然酵母など)を使用した長時間低温発酵のパンは、フルクタンの分解が進んでいるため消化性が高く、腸への負担が少ない傾向があります。また、石臼挽き全粒粉を使用したパンは、精製過程でのビタミン・ミネラルの損失を抑えることができ、栄養価の観点から見ると高評価です。
通販の古代小麦パンは、スーパーでは手に入りにくい天然酵母・無添加・低FODMAP対応商品が揃っているのが最大のメリットです。そのぶん、選択肢が多く迷いやすいのが現実でもあります。
一つのコツとして、購入前に「冷凍発送かどうか」を確認することをお勧めします。無添加・天然酵母のパンは日持ちが短いため、品質を保った状態で届けるには冷凍便が必須です。常温発送の場合は添加物が使用されている可能性を疑いましょう。これだけ覚えておけばOKです。
参考:国産・ドイツ産スペルト小麦のパン製法の違いと石臼挽き全粒粉の特性について。