コンタミ表示がない食品でも、アレルギー患者がアナフィラキシーを起こすケースが報告されています。
コンタミネーション(contamination)とは、食品製造の過程で、原材料としては使用していないにもかかわらず、アレルゲン物質が意図せず混入してしまう現象を指します。日常的には「コンタミ」と略されることも多い言葉です。
たとえば、同じ製造ラインでナッツ類を含む製品とナッツ類を含まない製品を続けて製造した場合、ライン洗浄後であっても微量のナッツタンパク質が残存し、後続製品に混入することがあります。これが典型的なコンタミネーションです。
重要なのは、現行の食品表示基準(食品表示法)では、コンタミネーションについては表示義務が課されていないという点です。原材料として使用した場合にのみ表示義務が生じます。
つまり原則です。コンタミネーションによる混入がどれほど疑われる場合でも、法律上は表示しなくてよいということになります。
ただし消費者庁は、コンタミネーションの可能性を排除できない場合、事業者に対して「注意喚起表示」を推奨しています。注意喚起表示は任意の対応ですが、食物アレルギー患者の安全を守るうえで非常に重要です。
注意喚起表示が認められている表現の例は以下のとおりです。
一方で、禁止されている表現があることも覚えておく必要があります。これは外せないポイントです。「入っているかもしれない」「入っている場合があります」といった可能性表示は認められていません。これは、曖昧な表現が消費者に誤った安心感や不必要な不安を与えるためです。
参考情報として、東京都保健医療局がまとめたアレルゲン表示の詳細ルールはこちらから確認できます。アレルギー表示の個別表示・一括表示・コンタミネーションの注意喚起表示の書き方が具体例とともに掲載されています。
医療従事者として食品表示を読む際、アレルゲンの分類を正確に把握しておくことが前提となります。現行制度では、アレルゲンは「特定原材料(義務表示)」と「特定原材料に準ずるもの(推奨表示)」の2段階に分かれています。
特定原材料(8品目・義務表示)は以下のとおりです。
| 品目 | 主な症例・特記事項 |
|---|---|
| 卵 | 最も症例数が多い(特に小児) |
| 乳 | 重篤化しやすい |
| 小麦 | 食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因となることも |
| えび | 成人での症例が多い |
| かに | えびと並んで甲殻類として管理 |
| くるみ | 2023年3月改正で義務化・2025年4月完全施行 |
| そば | アナフィラキシーリスクが高い |
| 落花生(ピーナッツ) | 微量でも重篤な反応を起こしやすい |
特に注目すべきは「くるみ」の追加です。2023年3月9日の食品表示基準改正により、症例数増加を受けてくるみが特定原材料に昇格。2025年4月1日に完全施行となりました。それ以前の製品ラベルには「くるみ」の義務表示がない場合があるため、患者指導の際には注意が必要です。
コンタミネーションの問題と絡めると、これは重要な知識です。特定原材料に準ずるもの(推奨表示・20品目)については表示が義務ではないため、コンタミネーションの注意喚起表示が記載されていない場合でも、その食品にアレルゲンが混入している可能性を完全に否定できません。
アーモンド、カシューナッツ、大豆、ごま、キウイフルーツ、りんごなどの20品目については、表示がない製品でも患者の状態によっては製造元への問い合わせを促すことが安全管理上の基本です。これが条件です。
食物アレルギー研究会が公開している「加工食品のアレルギー表示」は、医療従事者が患者に正確な情報を伝えるうえで参考になります。
コンタミネーションに関する表示の問題は、食品メーカーや食品事業者だけの話ではありません。病院や施設の給食場面でも深刻なリスクをはらんでいます。
医療安全推進センター(公益財団法人日本医療機能評価機構)が公表した「医療安全情報 No.69」では、「患者のアレルギー情報が伝達されていたにもかかわらず、栄養部から誤ってアレルギーのある食材を提供した事例が9件報告されている」と明記されています(集計期間:2008年〜)。
9件という数字は氷山の一角です。報告される事例の背後には、より多くのヒヤリハット事例が存在すると考えられています。
その事例の中には、成分表のコンタミネーション欄を見て「アレルギー食材はない」と誤って判断してしまったケースが含まれています。つまり、コンタミネーション欄だけを確認し、原材料欄の確認を省略したことで誤提供が起きていたのです。
これは使えそうな知識ですね。医療従事者が給食提供の現場でアレルギー確認を行う際は、「原材料欄」と「コンタミネーション欄(注意喚起表示)」の両方を確認することが必須です。どちらか一方の確認では、安全を担保できません。
愛知県が実施した「病院食の食物アレルギー対応に関する実態調査」では、「対象食材が食事に含まれないよう除去対応はしているが、原材料表示やコンタミネーションまでは配慮していない」という選択肢に回答した施設が存在していたことも明らかになっています。コンタミネーションへの配慮が施設によって大きく異なる現状は、患者安全の観点から見過ごせません。
藤田医科大学総合アレルギーセンターの「食物アレルギーひやりはっと事例集2021年版」には、コンタミネーションを原因とするアレルギー事例として「チョコレートのアレルゲン表示に牛乳がなかったので食べさせたところ、1時間後に顔に蕁麻疹が出た」という事例が記録されています。欄外の注意喚起表示に「同じ製造ラインで牛乳を含む製品を生産しています」という記載があったにもかかわらず、見落とされたことが原因でした。
医療従事者として患者の食事管理に関わる場面では、注意喚起表示の見落としを防ぐ確認フローを施設全体で標準化することが、事故防止の第一歩といえます。
多くの食物アレルギー患者が見落としがちなのが、「外食・給食には食品表示法のアレルギー表示義務がない」という事実です。これは患者指導でも非常に重要なポイントになります。
食品表示法でアレルギー表示が義務化されているのは「容器包装された加工食品および添加物」に限られます。具体的には以下が義務表示の対象外です。
対象外であることが原則です。飲食店がメニューにアレルギー情報を記載していても、それは法律に基づく義務表示ではなく、任意の情報提供にすぎません。
消費者庁が発行している「外食・中食をするときのポイント」(リーフレット)では、「外食・中食の利用は医師の指導に従うことが大切です。利用してよい患者さんであっても、お店では食物アレルギーであることを伝えて調理器具やトングの共用がないか確認しましょう」と記されています。
ここでいう「調理器具の共用」そのものが、クロスコンタミネーション(cross-contamination)のリスクそのものです。クロスコンタミネーションとは、一度アレルゲンに触れた器具や調理台を介して、別の食品にアレルゲンが移ってしまう現象を指します。
外食を完全に義務表示の対象外にした背景には、「調理の多様性」や「零細事業者の多さ」といった実態があります。しかし患者側からすれば、表示がないことで誤食リスクが高まる構造は変わりません。厳しいところですね。
医療従事者として患者に外食利用を指導する際は、以下の点を具体的に伝えることが推奨されます。
消費者庁が公開している外食・中食時のアレルギー対応リーフレットは、患者に直接見せる説明資材としても使えます。
コンタミネーションのリスクはゼロにはできません。しかし、正しい知識を持って行動すれば、そのリスクを大幅に下げることは可能です。医療従事者の立場から、防止策と患者指導の両面で知っておくべきポイントをまとめます。
食品事業者が取るべき製造現場でのコンタミネーション防止策
製造現場でのコンタミネーション防止の基本は「特定原材料を含まない製品から先に製造する」ことです。たとえば小麦を使った製品を作る前に、小麦不使用製品を先に製造することで、グルテンの混入リスクが下がります。順番が命です。
次に製造ライン洗浄の徹底も重要です。予備洗浄→洗浄(アルカリ性または酸性洗剤)→消毒(次亜塩素酸ナトリウムなど)という3ステップで実施します。特にアレルゲンを含む製品の後は、残存タンパク質を確実に除去するまで洗浄を繰り返すことが求められます。
そのうえで、アレルゲンを含む原材料には専用保管スペースと専用器具を割り当てることが基本です。色分けされたまな板や調理器具のセットを整備している給食施設も多く、目視で区別できる工夫が事故防止に有効です。
患者・家族への指導ポイント(医療従事者向け)
患者指導では、まず「コンタミネーション表示(注意喚起表示)がある食品=必ず避けなければならない食品ではない」という理解を正確に伝えることが重要です。
食物アレルギー研究会の「加工食品のアレルギー表示」ガイドでも、「原材料に特定原材料等の表記がなく、特定原材料等に対する最重症の患者でなければ、注意喚起表示があっても基本的に摂取できる」と明記されています。
つまり注意喚起表示は「摂取禁止」のサインではなく、「混入の可能性がある」という情報提供です。患者の重症度と医師の判断に基づいて対応を決定する、というプロセスが重要です。
一方で、アナフィラキシーの既往がある患者や、閾値が低い患者(ごく微量のアレルゲンで症状が誘発される患者)については、注意喚起表示のある食品は回避するよう指導することが安全です。消費者庁の研究報告では、食品中に特定原材料由来のタンパク質が10ppm(食品1gあたり10μg)以上含まれている場合は「微量を超える」と判断され、表示が実質的に必要とされる基準が検討されています。
患者への具体的な指導アクションとしては、「購入するたびにラベルを再確認する」ことを習慣化させることが大切です。加工食品は予告なく規格変更されることがあり、以前は安全だった製品が原材料変更によってアレルゲンを含む製品になっている場合があります。前回問題なかったからといって、今回も大丈夫とは限りません。
患者指導に役立つ公的資料として、消費者庁「食物アレルギー表示」リーフレットは患者・家族向けに分かりやすくまとめられています。
食物アレルギー表示について(消費者庁・患者・家族向けリーフレット)
日本アレルギー学会が一般向けに公開しているアナフィラキシーガイドライン2022は、医療従事者の学習にも役立つ内容です。アナフィラキシーの誘発閾値や緊急対応のプロトコルが整理されています。