マイスタン錠を単独で処方しているなら、それだけで重大な安全インシデントになりえます。
マイスタン錠(一般名:クロバザム)は、住友ファーマ株式会社が製造販売する抗てんかん剤です。2000年5月に販売が開始され、現在も広く使用されています。名称の「マイスタン」はドイツ語の「meist(大部分の)」に由来し、「大部分の発作に有効な薬」という意味が込められています。
添付文書上の効能・効果は「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかんの下記発作型における抗てんかん薬との併用」と定められており、対象は部分発作(単純部分発作・複雑部分発作・二次性全般化強直間代発作)および全般発作(強直間代発作・強直発作・非定型欠神発作・ミオクロニー発作・脱力発作)です。
ここで重要なのは、「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められない場合」という限定条件です。つまり、マイスタン錠はあくまでも第二選択以降の薬剤として位置づけられています。日本てんかん学会ガイドラインでも、部分てんかんの第二選択薬としてクロバザムが挙げられており、第一選択薬(カルバマゼピン・ラモトリギン等)への追加療法として用いられるのが標準的な使い方です。
これが原則です。
単独投与の経験が少ない点は添付文書の「7.用法及び用量に関連する注意」でも明記されており、「本剤は他の抗てんかん薬と併用して使用すること。(本剤単独での使用経験が少ない。)」という記載があります。薬剤師・医師を問わず、処方内容のチェック時に確認しておきたいポイントです。
薬効分類番号は1139(抗てんかん剤)、ATCコードはN05BA09で、規制区分は第三種向精神薬・習慣性医薬品・処方箋医薬品に分類されます。薬価はマイスタン錠5mgが14円/錠、マイスタン錠10mgが24.8円/錠、マイスタン細粒1%が23.3円/gです。
参考として、PMDA公開の電子添付文書(医薬品医療機器情報検索ページ)を常に最新版で確認することが推奨されます。
PMDAの医薬品情報検索ページ(マイスタン錠の最新添付文書を確認できます)。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構|添付文書情報検索(クロバザム)
添付文書に定められた用法・用量は、成人と小児で大きく異なります。これは重要な基本事項ですね。
成人の場合、クロバザムとして「1日10mgから経口投与を開始」し、症状に応じて徐々に増量します。維持量は「1日10〜30mg」を1〜3回に分割経口投与し、最高1日量は40mgとされています。小児の場合は体重あたりで管理されており、「1日0.2mg/kgから開始」し、維持量は1日0.2〜0.8mg/kgを1〜3回に分割経口投与、最高1日量は1.0mg/kgです。
成人の最大用量40mgという数字は、マイスタン錠10mgで換算すると「1日4錠」になります。維持量の上限30mgは同3錠に相当しますので、実際の処方枚数のチェック時に覚えておくと便利です。
増量に際して添付文書(8.1)は「投与初期に眠気、ふらつき等の症状があらわれることがあるので、本剤の投与は少量から開始し、慎重に維持量まで漸増すること」と明記しています。少量開始・漸増が基本です。また、8.2では連用中に投与量を急激に減らした場合や突然中止した場合に「てんかん重積状態があらわれることがある」と警告しており、中止する際は徐々に減量することが求められています。
剤形は2種類あり、マイスタン錠5mg(うすいだいだい色・識別コードP771)、マイスタン錠10mg(白色・識別コードP772)、そしてマイスタン細粒1%(白色散剤)が揃っています。嚥下困難な患者には細粒製剤の使用も選択肢になります。ただし、マイスタン細粒1%の配合変化には注意が必要で、インタビューフォームに配合変化表が掲載されているため、他剤との混合調製時は事前確認が必要です。
1日の投与回数について「1〜3回」と幅があるのも特徴です。インタビューフォームには「1日1〜3回投与が可能で、併用されている抗てんかん薬の1日投与回数に合わせることができる」と記載されており、患者のアドヒアランスを考慮した柔軟な設計になっています。これは使えそうです。
添付文書の禁忌(2項)は3項目あります。①本剤成分への過敏症の既往歴のある患者、②急性閉塞隅角緑内障の患者(眼圧上昇のおそれ)、③重症筋無力症の患者(症状を悪化させるおそれ)です。緑内障と重症筋無力症は特に見落とされやすい禁忌です。
慎重投与として注意が必要な背景を持つ患者は多岐にわたります。心障害のある患者では「心障害が悪化するおそれ」、脳に器質的障害のある患者や衰弱患者では「作用が強くあらわれる」、呼吸機能の低下している患者では「呼吸抑制作用が増強されることがある」という記載があります。また腎機能・肝機能障害患者では薬物の体内蓄積による副作用発現に注意が必要です。
相互作用(10.2)は医療従事者が特に把握しておくべき項目です。まず中枢抑制薬(フェノチアジン誘導体・バルビツール酸誘導体・MAO阻害剤等)との併用では「相互に作用が増強されることがある」とされており、減量が必要です。アルコールとの併用も同様に血中濃度の上昇と相互作用増強が報告されています。
より注意が必要なのが他の抗てんかん薬との組み合わせです。フェニトイン・フェノバルビタール・カルバマゼピンとの併用ではマイスタン錠の血中未変化体濃度が低下する一方、これらの薬剤の血中濃度を上昇させる場合があります。バルプロ酸との併用でも同様にマイスタンの血中濃度が低下し、バルプロ酸濃度が上昇するおそれがあります。スチリペントールとの併用ではCYP3A4およびCYP2C19の阻害によりマイスタンと活性代謝物の血中濃度が上昇します。
代謝経路の観点から整理すると、クロバザム自体はCYP3A4で主に代謝され、その代謝物であるN-脱メチルクロバザム(活性代謝物)はCYP2C19で代謝されます。つまり、オメプラゾール等のCYP2C19阻害薬との併用でも活性代謝物の血中濃度が上昇するリスクがあります。消化器系疾患を持つてんかん患者にオメプラゾールが処方されているケースは珍しくないため、見落とされやすい組み合わせといえます。
相互作用は多岐にわたります。
PMDA公開の使用上の注意改訂情報(クロバザムのTEN・皮膚粘膜眼症候群の追加経緯)。
PMDA|クロバザムの「使用上の注意」の改訂について(2013年)
添付文書の副作用情報は、重大な副作用とその他の副作用に分けて理解することが重要です。
まず重大な副作用(11.1)は3種類です。①依存性(頻度不明):連用により薬物依存が生じることがあり、急激な中止・減量によるけいれん発作・せん妄・振戦・不眠・幻覚・妄想等の離脱症状のリスクもあります。②呼吸抑制(頻度不明):呼吸機能が低下している患者で特に注意が必要です。③中毒性表皮壊死融解症(TEN)・皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(いずれも頻度不明):発熱・紅斑・水疱・口内炎等の初期症状を見逃さないことが重要で、発現した場合は投与を中止し副腎皮質ホルモン剤投与等の適切な処置が求められます。
頻度不明だからといって油断は禁物です。
その他の副作用のうち頻度5%以上と明記されているのは精神神経系の「眠気・傾眠(38.6%)」と「ふらつき・めまい(10.9%)」です。実に患者の約4割近くで眠気が出現するという数字は、投与開始時の患者説明において「自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」(8.7)という添付文書の記載と合わせて重要です。
1〜5%未満では複視・唾液分泌過多・食欲不振・白血球減少・好酸球増加・AST/ALT/γ-GTP/ALP上昇などの肝機能検査値異常・倦怠感などが挙げられています。このうち肝機能検査値異常については、添付文書8.6に「連用中は定期的に肝・腎機能、血液検査を行うことが望ましい」と記載があります。長期投与患者では定期的なモニタリング体制を確立しておくことが求められます。
また、頻度不明の副作用として「転倒(注2)」が記載されており、眠気・ふらつき・めまい・失調・意識障害等からの転倒リスクが明示されています。高齢者や入院中の患者では特に転倒・骨折リスクの観点から、病棟スタッフへの周知が必要です。
さらに注目すべき情報が「その他の注意」(15.1.4)にあります。海外の199のプラセボ対照臨床試験のメタアナリシスで、抗てんかん薬の服用群は自殺念慮・自殺企図のリスクがプラセボ群と比較して約2倍(0.43% vs 0.24%)高く、1,000人あたり1.9人多いとされています。てんかん患者サブグループでは1,000人あたり2.4人多いという数字も示されています。
定期的な精神状態の評価が条件です。
マイスタン錠の薬物動態を把握することは、適切な用量設定と副作用マネジメントのうえで欠かせません。
健康成人への10mg単回経口投与時の血漿中半減期(β相)は約30時間、5mg投与では約25時間です。最高血中濃度到達時間(Tmax)は1〜2時間程度と比較的速やかで、血漿蛋白結合率は89.6〜90.6%という高い値を示します。
問題は高齢者での薬物動態です。非高齢者(平均28歳)では半減期が約17時間であるのに対し、高齢者(平均63歳)では約48時間に延長するというデータが外国人データとして示されています。半減期が約3倍になるというのは、薬物の蓄積リスクに直結します。これが添付文書9.8.1に「高齢者では、本剤の消失半減期の延長が報告されている」として「少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら、慎重に投与すること」とされる根拠です。
高齢者は特に要注意です。
さらに多くの医療従事者が見落としがちな点として、CYP2C19の遺伝子多型があります。クロバザムの主要代謝物であるN-脱メチルクロバザムはCYP2C19によって代謝されますが、このCYP2C19の活性には個人差があり、日本人の約20%がCYP2C19の活性が低い「PMタイプ(Poor Metabolizer)」に相当するとされています。PMタイプでは活性代謝物の血中濃度が上昇しやすく、想定外の副作用が出やすい可能性があります。添付文書の相互作用の項でオメプラゾール等のCYP2C19阻害薬が取り上げられているのも、この代謝経路の重要性を示しています。
肝機能障害患者でも半減期が延長します。健康成人では半減期が約22時間ですが、肝炎患者では約47時間、肝硬変患者では約51時間に延長するという外国人データが示されています。肝硬変患者への投与は特に慎重な経過観察が求められます。
過量投与時(13項)にも注意点があります。症状として嗜眠・錯乱・失調・呼吸抑制・血圧低下・昏睡等が挙げられていますが、処置として「強制利尿または血液透析は無効である」(13.2.1)という重要な記載があります。ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤のフルマゼニルが使用されることがありますが、長期ベンゾジアゼピン系薬投与中の患者への使用ではけいれん発作を誘発したとの報告もあるため、使用前に必ずフルマゼニルの使用上の注意を確認する必要があります。
代謝・薬物動態の詳細情報(JAPIC掲載のインタビューフォーム・第21版)。
JAPIC|マイスタン錠 医薬品インタビューフォーム(2025年4月改訂・第21版)
マイスタン(抗てんかん剤・クロバザム)とマイスリー(催眠鎮静剤・ゾルピデム)は、名称の類似から長年にわたって取り違えが問題になっています。
製薬企業(アステラス製薬・大日本住友製薬)は2012年6月に最初の注意喚起を行いましたが、2018年9月時点で2012年以降の取り違え事例が28件に上ったため再度注意喚起を実施しました。日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集では、2019年以降も年間70件前後の事例が継続的に報告されています。意外ですね。
典型的な事例パターンとしては、「電子カルテ上で『マイス』と入力し、表示された候補リストから誤って『マイスタン』を選択した」というものが多く報告されています。マイスリーを処方したつもりで抗てんかん剤を処方するケースや、その逆のパターンも起きています。
防止策として添付文書・製薬企業資料が提案している対策は複数あります。処方オーダーシステムでは、薬剤マスターの表示名称に薬効区分(「〈抗てんかん剤〉マイスタン錠5mg」など)を追加すること、ハイリスク薬には★マークや色付きで表示すること、先頭4文字まで入力するよう検索ルールを設けることなどが挙げられています。調剤・交付時には、患者の受診科や病名・薬歴との照合、患者へのインタビューによる疾患確認が有効です。
実務での対策はシンプルです。マイスタン錠の識別コード(5mg:P771、10mg:P772)とマイスリーの識別コードを院内で整理し、PTPシートの見た目も確認しておくと、交付時の二重チェックに役立ちます。また、新しく配属された薬剤師・スタッフへの研修や、薬局内への注意掲示表の設置も重要な取り組みです。
なお、添付文書の14.1(適用上の注意)には「PTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、食道粘膜へ刺入し、縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある」という記載もあります。服薬指導時に合わせて伝えておきたい情報です。
PMDAが公開するマイスリー・マイスタン取り違え注意喚起資料(製薬企業連名)。
PMDA|「マイスリー」と「マイスタン」販売名類似による取り違え注意のお願い(2018年10月)