格子面(防水フィルム面)を創部に当てると、吸収がゼロになり創が乾燥します。
モイスキンパッドは、褥瘡治療の第一人者・鳥谷部俊一先生が開発に携わった非固着性の外科用パッドです。製造・販売は白十字株式会社(東京都豊島区)が行っており、一般医療機器として届出番号13B2X00023000142が付与されています。単なるガーゼの代替品ではなく、構造的な工夫によって「固着しない・吸収する・外部汚染を防ぐ」という3つの機能を同時に実現しているのが最大の特徴です。
パッドの構造は3層になっています。創部側には多孔ポリエステルフィルム(有孔フィルム面)があり、この小孔を通して滲出液を内部の吸収体へと取り込みます。中間の吸収体はレーヨン・紙・高吸水性樹脂で構成され、生理食塩液を自重の5倍以上吸収する性能を持ちます。外側(体の外側に向く面)は格子印刷が入った透湿性防水フィルムで、外部からの水分・汚物の侵入を防ぎながら、内部の湿気は外へ逃がします。
使い方の基本手順は以下のとおりです。
特に重要なのはSTEP3です。格子印刷(防水材)側を誤って創部に当ててしまうと、滲出液は一切吸収されません。外観がよく似ているため、ベッドサイドで複数枚扱う場面では「小孔あり=創部側」と常に意識することが必要です。これは原則です。
白十字株式会社の製品情報ページには、吸収の仕組みや特長を詳しく確認できる動画も公開されています。
白十字株式会社公式:モイスキンパッド(滅菌済)一般医療機器の製品情報・使用方法
モイスキンパッドには、Miniから2660まで全7サイズがラインナップされています。サイズを間違えると固定が不十分になり、ずれによる周囲皮膚の損傷が生じたり、逆に大きすぎると創部以外の正常皮膚に過剰な滲出液が滞留してしまいます。創よりやや大きいサイズの選択が原則です。
| サイズ名 | 寸法 | 主な使用場面の目安 |
|---|---|---|
| Mini | 4.5×4.5cm | 小さな術後縫合創、指先の処置 |
| 7510 | 7.5×10cm | 中程度の術後創、外来での小切開創 |
| 7520 | 7.5×20cm | 細長い創(下腿など)、四肢の熱傷 |
| 1515 | 15×15cm | 褥瘡(仙骨部、大転子部など)、中程度熱傷 |
| 1530 | 15×30cm | 広範な褥瘡、腹部術後創 |
| 2630 | 26×30cm | 大範囲の熱傷、広背部・臀部の褥瘡 |
| 2660 | 26×60cm | 広背部全体の被覆、大腿全周の保護 |
例を挙げると、1515サイズ(15×15cm)はハガキ(14.8×10cm)を一回り大きくしたイメージです。仙骨部の典型的な褥瘡であれば、このサイズが基本的な選択肢になります。一方、2660サイズ(26×60cm)はA4用紙(21×29.7cm)を縦に少し長くした面積に相当し、広背部全体や大腿全周の被覆に使われます。
また、モイスキンパッドの厚さはわずか約3mmと非常に薄く、創部への圧力を最小限に抑える設計になっています。褥瘡は骨突出部への圧力そのものが発生・悪化要因であるため、パッドの薄さは治療上の明確なメリットです。これは使えそうです。
なお、添付文書には「裁断加工禁止」と記載されています。大きすぎると感じたとしても、ハサミでカットすることは禁止です。滅菌状態と構造的な完全性が損なわれる可能性があるため、適切なサイズのものを選ぶことが求められます。
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構):モイスキンパッド滅菌済 添付文書(禁忌・使用方法・品目仕様等を記載)
「モイスキンパッドは軟膏と一緒に使えるのか?」という疑問は、現場でよく聞かれます。答えはYESです。添付文書には「必要に応じて白色ワセリン等を吸収面(有孔フィルム面)に塗布して使用する」と明記されており、軟膏剤との併用は正式に認められた使い方です。ただし、使用する軟膏の添付文書を事前に確認することも必須となっています。
軟膏を併用する目的は、有孔フィルム面への軟膏塗布によって創部のさらなる非固着性を高めることです。とくに滲出液が少なく乾燥しやすい創では、白色ワセリンを薄く塗布したモイスキンパッドを当てることで固着リスクを低減できます。
一方、従来のガーゼとの違いは非常に大きいです。ガーゼは空気を通すため創面が乾燥しやすく、乾燥したガーゼは創に固着し、剥がす際に新生上皮を傷つけます。モイスキンパッドの吸収層はガーゼの約30倍の吸収性能を持ちながら、有孔フィルムにより創面への直接接触を避ける設計になっています。
交換時に固着が起きた場合、患者に大きな痛みが生じるだけでなく、肉芽組織や新生上皮の破壊につながり、治癒を遅延させます。モイスキンパッドへの移行は、このリスクを実質的に減らす選択です。
ガーゼからモイスキンパッドへ変更する際は、まず創の感染状態と滲出液量を確認してから選択することが重要です。感染徴候(発赤・疼痛・悪臭・膿性分泌物)がある場合は、まず感染のコントロールを優先するのが原則です。
日本皮膚科学会:創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)第3版 ─ モイスキンパッドを含む外科用パッドの位置づけを記載
現場でよく見られる使い方のミスには、明確なパターンがあります。知っておくと患者ケアの質を高めることができます。
ミス①:格子面を創部に当ててしまう
最も多いミスです。格子印刷が入った防水フィルム面は滲出液を吸収しません。これを創部に当てると、滲出液は排出されずに創部に滞留し、浸軟・感染のリスクが高まります。視覚的に格子模様が見える面=「外側(体の外に向ける面)」と覚えておくと確認しやすいです。
ミス②:創よりも小さいサイズを使用する
コストを意識するあまり、小さいサイズで代用しようとするケースがあります。創より小さいパッドは、滲出液の漏れを防げないだけでなく、テープ固定もしにくくなります。また、ずれによって創周囲の正常皮膚を傷つける原因になります。つまり「ケチると逆に手間が増える」ということです。
ミス③:植皮直後や滲出液が極めて多い創への過信
モイスキンパッドは適度な吸収を目的に設計されています。植皮術直後のように滲出液が多量かつ管理が繊細な創では、過湿潤による植皮片の脱落リスクが報告されています(実際に医療者コミュニティでの事例報告もあります)。滲出量が非常に多い場合は、ズイコウパッド等の高吸収型ドレッシング材や追加の吸収体を重ねる対応も選択肢になります。また、感染創や壊死組織が残存している創への単独使用は推奨されません。これは注意が必要です。
現場での確認ポイントをひとつに絞ると、「開封前に必ず面の向きを確認し、有孔フィルム面(小孔・つるつる面)が創に当たっているか」を毎回チェックすることが条件です。
手嶋形成外科クリニック:あなたの知らないキズ保護剤の世界 ─ モイスキンパッドを含む各種被覆材の特徴・使い分けを形成外科医が解説
多くのガイドや説明書では「汚染されたら交換」「滲出液が確認できたら交換」という表現にとどまっています。しかし現場では「いつ見ればいいのか」「具体的に何を見るべきか」という観察の視点が欠けていることが少なくありません。
交換タイミングを判断する際に注目すべきポイントは次のとおりです。
また、「1日1回は交換する」という被覆材の基本的な考え方も見直すべき場面があります。滲出液が非常に少ない(乾燥傾向の)創では、日に2回交換することで乾燥・固着を招くケースがあります。逆に滲出液が多い感染傾向の創では、1日複数回の交換が必要になることもあります。交換頻度は「状態に応じて変える」が基本です。
さらに見落とされやすいのが、周囲皮膚の浸軟(しんなん)です。滲出液がパッドの外にはみ出して皮膚に接触すると、正常な皮膚がふやけてただれる「浸軟」が生じます。浸軟した皮膚はわずかな摩擦でも容易に損傷し、新たな創傷の原因になります。モイスキンパッドの防水フィルムは外部汚染を防ぐ機能はありますが、創部から漏れた滲出液が周囲に広がることへの対応は別途必要です。パッドが十分に大きいか、テープ固定が適切かを毎回確認することが重要です。
創の観察自体は、モイスキンパッドの半透明な防水フィルム越しである程度確認できます。白色の格子模様は視認性向上のために意図的にデザインされており、滲出液の色や量の変化を肉眼で把握する工夫が施されています。疑わしい変化があれば、パッドを開けて実際に創を直接観察することが大切です。創の観察が条件です。
褥瘡の滲出液コントロールについてより詳しい情報は、以下の参考リンクが役立ちます。
ディアケア(医療情報サイト):「滲出液」のコントロールが褥瘡治療のカギ ─ 外用薬とドレッシング材の使い分け・ガイドラインの推奨度も記載