ニトリの円座クッションを褥瘡に使っているなら、新たな褥瘡が生まれているかもしれません。
「床ずれには円座クッション」という言葉は、今でも医療・介護の現場で耳にすることがあります。しかし実際には、これは誤解に基づいた使い方です。
円座クッションとは中央に穴が空いたドーナツ型のクッションで、「患部に圧が当たらない」という印象を持たれがちです。ところが、その構造こそが問題になります。穴の周囲に体重が集中し、リング状の部分に局所的な強い圧力がかかり続けるのです。結果として、別の部位に新たな褥瘡が生じたり、もともとの褥瘡周囲の血流障害を悪化させるリスクが高まります。
つまり「逆効果」ということですね。
日本褥瘡学会が発行する褥瘡予防・管理ガイドラインは、この点を明確に示しています。円座クッションについて、褥瘡の予防・治療には「推奨しない」と記載されており、理由としては「圧が分散されない」「局所的な圧迫が起こる」「血流障害を悪化させる」の3点が挙げられています。
それでも現場で使われ続ける背景には、「昔からそう言われているから」という思い込みがあります。ニトリでも円座クッションが販売されており、価格が手頃なために手軽に購入されるケースも少なくありません。医療従事者として、この事実をチームで共有することが、現場での不適切な使用を防ぐ第一歩となります。
円座クッションが使えるのは、短時間かつ医療的な判断がある一時的な除圧目的に限定されます。長期利用は推奨されません。
参考:円座クッションが褥瘡に推奨されない理由と正しい褥瘡対策の詳細
円座クッションは床ずれに逆効果?褥瘡学会が推奨しない理由と正しい対策(kaigo-youhin.com)
褥瘡は、32mmHg以上の圧力が持続的にかかることで血行不良が起き、皮膚組織が壊死することで発生します。たとえば仙骨部や踵といった骨が突出した部位にその圧が集中しやすく、自力での体位変換が困難な方ほどリスクが高まります。
体圧分散の目的は2つです。1つ目は「沈み込み・包み込み」によって身体の接触面積を増やし、突出部への圧を低くすること。2つ目は「接触部位を変える」ことで、一点への継続的な圧迫を避けることです。この原理を理解してからクッションを選ぶのが基本です。
クッション選びには形状・素材・固さの3つの要素があります。それぞれを以下に整理します。
| 形状 | 主な用途 | 向いている対象 |
|---|---|---|
| 長方形・筒型 | 足下・側臥位時の膝間・背中サポート | 寝たきりの方全般 |
| 三角形(30度形状) | 30度側臥位の体位保持・仙骨除圧 | 仙骨部・大転子部リスクの方 |
| 車椅子用クッション | 座位時の坐骨・尾骨への圧分散 | 長時間座位が必要な方 |
素材については、低反発ウレタンは体にフィットして体圧分散性が高く、高反発ウレタンは適度な固さで姿勢保持に向いています。ビーズ素材は通気性が高く、高さ調整が可能で拘縮がある方にも使いやすい特徴があります。
クッション選びには条件があります。重要なのは患者さんの可動性・活動性・骨突出度合い・ポジショニングの目的の4点を必ず確認することです。
参考:ディアケアによる褥瘡予防ガイドライン準拠の体圧分散用具選択フローチャート
体圧分散用具は、どのように選択する?|褥瘡予防 - ディアケア(almediaweb.jp)
ニトリでは、「体圧分散 高反発シートクッション(立体タイプ)」が税込2,790円で販売されています。幅45×奥行39×高さ13cmのウレタンフォーム製で、カバーの洗濯が可能な点が衛生面でも評価されています。座位時のお尻への圧分散を目的とした設計です。これは使えそうです。
ただし、医療従事者として注意しなければならない点があります。ニトリの商品はあくまで一般消費者向けの設計であり、高い褥瘡リスクを抱える患者さんに対してそのまま「医療的対策」として用いることは適切ではありません。使い方の位置づけを明確にすることが前提条件です。
具体的には以下の場面での活用が考えられます。
在宅療養中の患者さんのご家族が「手元にあるクッションで対応したい」というケースでは、ニトリの入手しやすい価格帯(2,000〜3,000円台)と洗濯可能な衛生性は大きなメリットになります。ただし、皮膚の状態や褥瘡リスクが高い方には、この方針だけで対応するのは不十分です。ケアマネジャーや主治医と連携して福祉用具貸与による専用クッションへの移行を検討することが原則です。
クッションを使うだけでは褥瘡は防ぎきれません。そのことが大切です。
日本褥瘡学会のガイドラインでは、体位変換は「基本的に2時間を超えない範囲」で行うことが推奨されています(褥瘡予防・管理ガイドライン第3版 推奨度C1)。ただし、粘弾性フォームマットレスや上敷二層式エアマットレスを使用する場合は、4時間を超えない範囲での体位変換が認められています。
体位変換のコアとなるのが「30度側臥位」です。仙骨部・大転子部を除圧するため、体幹を30度だけ傾けるこの体位は、骨の突出がない広い面積の殿筋で体重を受けられるのが特長です。この姿勢を安定して保持するには、背中から臀部をカバーできるサイズのクッションが必要になります。三角形(30度角度設計)のポジショニングクッションがもっとも適しています。
チームでの統一ケアには「体位変換スケジュール表」の活用が有効です。誰がいつ、どの体位に変換したかを記録することで、変換漏れの防止と継続的な観察につながります。
また、体位変換時の「摩擦」も見落としがちなリスクです。引きずるような介助動作は皮膚にずれ力をかけ、それが皮膚組織のダメージとなります。スライディングシートを活用することで、一人介助での負担軽減と皮膚へのダメージを同時に減らせます。
クッションと体位変換は「セット」で考えることが原則です。
参考:日本褥瘡学会による褥瘡予防の体位変換・体圧分散の公式情報
褥瘡の予防について|一般・福祉関係の皆様向け - 日本褥瘡学会(jspu.org)
クッションやマットレスに目が向きがちですが、在宅での褥瘡予防において「スキンケア」と「栄養管理」の2つは見落とされやすい重要な要素です。これは意外ですね。
スキンケアの観点では、排泄物や汗による皮膚の湿潤状態が褥瘡の大きなリスクになります。尿・便失禁によって皮膚がふやけた状態が続くと、わずかな摩擦でも皮膚組織が壊れやすくなります。排泄後の皮膚洗浄と、肛門・外陰部周囲への皮膚保護クリームの塗布が推奨されています(ガイドライン推奨度C1)。また、在宅では皮膚を観察する頻度が施設に比べて少なくなるため、訪問のたびに発赤・皮膚の変色を必ずチェックする習慣が求められます。
栄養管理については、低栄養状態が褥瘡発生リスクを大幅に高めることが知られています。血清アルブミン値や体重減少率が指標として使われ、低栄養の場合は高エネルギー・高蛋白質のサプリメント補給が推奨されています(推奨度B)。特に在宅では食事管理が属人的になりがちで、知らないうちに低栄養に陥っているケースもあります。
在宅療養者の褥瘡のうち約90%は「在宅療養中に発生」したものとする調査データもあります(厚生労働省資料)。この数字の重みを考えると、施設内での対策だけでなく、在宅環境の整備が極めて重要だとわかります。
ニトリのクッションは入手が手軽ですが、スキンケアや栄養管理がなければ、どれほど良いクッションを使っても褥瘡のリスクはゼロにはなりません。褥瘡予防は「クッション一枚」で完結するものではなく、多職種が連携して全身管理に取り組むことが条件です。