床ずれ予防クッションの種類と正しい選び方・使い方

床ずれ(褥瘡)予防に欠かせないクッションの種類・素材・選択基準を医療従事者向けに解説。円座クッションのNG理由や体圧32mmHgの根拠、座位での15分ルールまで、現場で即活かせる知識を網羅しています。正しく選べていますか?

床ずれ予防クッションの選び方と種類・活用のポイント

「床ずれ予防には円座クッションを使えばOK」は、逆に褥瘡を悪化させるリスクがあります。


この記事でわかること
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円座クッションが禁忌な理由

使えば安心と思われがちな円座(ドーナツ型)クッションが、なぜ褥瘡学会で使用を推奨されていないのかを解説します。

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素材別クッションの特徴と使い分け

ウレタン・エア・ゲル・ビーズなど、素材ごとの体圧分散性能の違いと、患者の状態に合わせた正しい選択基準を整理します。

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クッションだけでは防げない落とし穴

体位変換のタイミング・座位の15分ルール・ポジショニングとの組み合わせなど、クッション以外のケアと連携するためのポイントを紹介します。


床ずれ予防クッションが必要な理由と体圧32mmHgの根拠


床ずれ(褥瘡)は「できてしまうもの」ではなく、適切なケアで防げる病態です。その予防に欠かせない知識として、まず「なぜクッションが必要なのか」という根拠を押さえましょう。


皮膚の毛細血管が血流を保てる限界の圧力は、32mmHgとされています(Landis, 1930)。これは、名刺1枚の面積にわずか40g程度の力がかかり続ける状態を意味します。想像よりずっと小さな圧力で、皮膚は虚血に陥るということです。


さらに圧迫の強度と時間には関係があり、約200mmHgの圧力なら2時間、約500mmHgの圧力なら20分で皮膚に壊死が起こり始めるとされています。寝たきり高齢者では仙骨部や踵部にこれ以上の局所圧がかかるケースが珍しくなく、体圧分散は最優先の課題です。


日本褥瘡学会の実態調査によると、病院では入院患者の約0.8%、介護保険施設では約1.16%、訪問看護ステーションでは約1.93%に褥瘡が認められます。つまり施設に入所している利用者約100人のうち、1~2人は褥瘡を抱えているわけです。


体圧分散クッションやマットレスは、この「一点への集中した圧力」を広い接触面積で受け分け、32mmHg以下に抑えることを目的に設計されています。これが基本です。クッション選択のすべての判断基準は、この原則から始まると考えてください。


以下の参考ページでは、褥瘡発生に関わる体圧の定義や数値の考え方が詳しく解説されています。


ディアケア|体圧分散 用語解説(32mmHgの意味・体圧分散用具の役割)


床ずれ予防に「円座クッション」はNG——褥瘡学会が推奨しない理由

「お尻の骨が当たって痛いから、真ん中に穴の開いたドーナツ型クッションを使う」。この発想は長年、現場で広く行われてきました。


結論から言えば、円座(ドーナツ型)クッションの使用は禁忌です。


理由は構造的にシンプルです。骨突出部を「穴」の部分で浮かせるかわりに、クッションが接触するその周囲の皮膚に圧力が集中します。環状に圧をかけることで骨突出部局所の血流がかえって阻害され、褥瘡のリスクを高めてしまいます。さらに、座位の安定性が損なわれるという問題もあります。


褥瘡の予防・管理ガイドライン(日本褥瘡学会)および国際ガイドライン(NPIAP/EPUAP/PPPIA)でも、円座クッション単体で褥瘡を予防する根拠は弱く、圧分散を一方向に集中させる危険性が指摘されています。


ただし、肛門周囲の炎症や術後の疼痛緩和など、褥瘡以外の目的での限定的な使用が否定されているわけではありません。褥瘡予防という文脈では、円座は逆効果になると覚えておく必要があります。


円座の代わりとして選ぶべきは、体全体で圧を均等に受ける体圧再分散クッション(エアタイプ・ゲルタイプ・ウレタンフォームタイプなど)です。これらを適切に選択・調整することが、褥瘡予防の第一歩になります。


マルホ 褥瘡辞典 for FAMILY|円座クッションの使用に関するQ&A(使用を避けるべき理由)


床ずれ予防クッションの素材別比較——ウレタン・エア・ゲル・ビーズの使い分け

クッションや体圧分散マットレスの素材は主に4種類に分けられます。患者の状態に合わせて正しく使い分けることが重要です。素材だけ覚えておけばOKです。


① ウレタンフォーム(低反発・高反発)
最も広く普及している素材で、やわらかく体を包み込む特性があります。自力で寝返りができる患者に向いており、日常的に動ける方の補助的な体圧分散に適しています。体動を阻害しにくいのが最大のメリットで、圧力が高い箇所に沈み込みながら接触面積を広げます。ただし、完全に動けない高リスク患者への単独使用には限界があります。


② 圧切替型エアマットレス・エアクッション
自力体位変換ができない患者には、圧切替型エアマットレスの使用が推奨されています(褥瘡ガイドライン・推奨度1B)。セル内の空気圧が自動的に切り替わり、体圧がかかる部位を定期的に変えます。介助者の負担軽減にも直結するため、重度の寝たきり患者がいる病棟・施設では導入を積極的に検討する価値があります。デメリットは電源が必要な点と、空気圧の調整を誤ると逆効果になることです。


③ ゲル素材
ゲルは圧力を受けたときに流動し、「ずれ力(せん断力)」を吸収する特性に優れています。仙骨部・踵部など骨突出が顕著な部位に対して局所的に使用するパッドとしても有効です。手術台上での褥瘡予防にゲルパッドを使用することも、ガイドラインで推奨(推奨度B)されています。


④ ビーズ・シリコン系
ビーズクッションは通気性が高く、フィット感を調整しやすい特徴があります。体型や姿勢に細かく対応しやすいため、車椅子使用者のポジショニングにも活用されています。ただし、経年劣化でビーズが片寄りやすく、定期的な確認が必要です。


| 素材 | 主な対象者 | 特徴 |
|------|----------|------|
| ウレタンフォーム | 自力で動ける人 | 体を包み込む・動きを妨げない |
| 圧切替型エア | 自力体位変換不可 | 自動で体圧部位を変える |
| ゲル | 骨突出が強い人・手術中 | ずれ力を吸収 |
| ビーズ | 車椅子使用者 | 通気性・フィット感に優れる |


ナース専科|体圧分散用具の種類と選択のポイント(素材別の詳細解説)


床ずれ予防クッションと組み合わせるポジショニングの基本——臥位・座位別のポイント

クッションの選択だけでは不十分です。正しい体位での使い方を知らなければ、せっかくの用具が効果を発揮しません。


臥位(仰向け・横向き)でのポジショニング


臥位では「30度側臥位」が褥瘡予防に推奨されています。これは、骨の突出が少ない殿筋の広い面積で体重を受けるためのポジションです。平坦な90度の側臥位より、30度傾けた方が接触圧が分散されます。クッションを背中や膝の間に挟み、安定したポジションを保持します。


体位変換の間隔は、基本的に2時間以内です。ただし、高仕様の粘弾性フォームや二層式エアマットレス使用時は4時間以内まで延長できるケースもあります(ガイドライン注3)。マットレスの種類によってスケジュールが変わる点は、現場でも混乱しやすいポイントです。


座位(車椅子・椅子)でのポジショニング


座位時の基本は「90度ルール」です。股関節・膝関節・足関節をそれぞれ90度に維持することで、体圧が坐骨結節に均等に分散されます。骨盤が後傾すると尾骨部への圧が集中し、仙骨座りと呼ばれる状態になりやすいため注意が必要です。


車椅子での「仙骨座り」予防には、フットレストを膝・踵関節が90度になるよう調整し、ハムストリングスの緊張を緩和させることが有効です。座面クッションはアームサポートの高さ調整が可能な車椅子と組み合わせると、より正確な調整ができます。


また、自分で動ける患者には15分ごとにお尻を浮かせる「座り直し」を促すことが褥瘡予防に有効です。自力でのプッシュアップや前傾みで除圧するだけでも、皮膚への圧迫を一時的に解放できます。車椅子に長時間座ったままにしない、この原則は必須です。


ディアケア|褥瘡予防のためのポジショニング:座位(90度ルールと実践的なケア)


床ずれ予防クッション選択で見落とされがちな「高機能エアマットの使い方ミス」問題

これは検索上位には少ない、現場でよく起きている落とし穴です。


高機能の圧切替型エアマットレスやエアクッションを導入しているのに、褥瘡が悪化する——そんなケースが実際の病棟・施設で報告されています。原因の多くは「エア量の誤調整」です。


エアマットレスは空気の量が多すぎると、患者が「板の上に乗っているような状態」になり、体圧が分散されずに集中してしまいます。逆に少なすぎると「底突き」が起き、マットレスとしての機能を失います。体重に合わせた適切な内圧設定が必要で、患者が変わるたびに調整が求められます。


適切なエア量の目安は、患者が仰臥位のときに仙骨部付近に手を入れ、「手のひらがぎりぎり入る程度」とされています。これより沈み込みが大きければエアを足し、手が入らないほど硬ければ抜く調整が基本です。


また、シーツの素材も見落としやすい要因のひとつです。伸縮性のないシーツをエアマットレスに使用すると、骨突出部が突っ張り体圧が上昇します。エアマットレスには必ず「伸縮性の高いシーツ」を使用することが推奨されています。


さらに、エアマットレス使用中でも体位変換は必要です。「エアマットを使っているから体位変換しなくていい」という誤解が現場で広がっているケースがあります。マットレスはあくまで補助手段であり、体位変換との組み合わせが原則です。


| よくある誤用 | 正しい対応 |
|----------|---------|
| エア量を調整しないまま使い続ける | 体重・体型に合わせて定期的に再調整 |
| 伸縮性のないシーツを使用 | 伸縮性素材のシーツに変更 |
| エアマット導入後に体位変換を省略 | 体位変換は引き続き実施 |


用具の導入だけでなく、適切な管理と運用がセットになって初めて褥瘡予防の効果が発揮されます。これが条件です。


アクションジャパン|床ずれ防止豆知識(エアマットの圧管理・ずれ力の考え方)


床ずれ予防クッション導入時に確認すべき介護保険の適用ルールと注意点

医療従事者が在宅・施設ケアに関わる場合、床ずれ防止用具の費用負担についても理解しておくと、患者・家族への説明がスムーズになります。


床ずれ防止用具(主にエアマットレスなど全身用マット)は、介護保険の福祉用具貸与の対象品目に含まれています。自己負担は原則1割(所得に応じて2〜3割)です。


ただし、要支援1・2の方は対象外となる場合があり、利用可能な用具の種類に制限があります。また、状態によっては「特定福祉用具販売」(購入費用の9割を給付)の対象となる小型のポジショニングクッションなど、貸与ではなく購入が推奨されるケースもあります。


月額費用の目安としては、エアマットレスのレンタルで3,000〜8,000円程度(1割負担の場合は300〜800円程度)とされています。高リスク患者には必要不可欠なコストとして、ケアマネジャーや家族に対して適切に情報提供することが、医療従事者の重要な役割のひとつです。


なお、クッションの素材や型によっては介護保険の対象外になるものもあるため、選定前に必ず制度上の位置づけを確認することが大切です。座面クッション単体(ポジショニングクッションの一部)は、販売品として購入補助の対象になる場合があります。担当ケアマネジャーと連携して確認する、この1アクションで無駄なコストを避けられます。


みんなの介護|要支援1でレンタルできる福祉用具の種類(床ずれ防止用具と介護保険の適用範囲)





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