「重症アトピーに見えても、タクロリムス外用で腎障害を起こすことがあります。」
ネザートン症候群(Netherton syndrome:NS)は、SPINK5遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性遺伝性の先天性角化症です。罹患率は約100万人に1人という超希少疾患であり、国内では指定難病160(先天性魚鱗癬)に分類されています。
SPINK5遺伝子がコードするLEKTI(リンパ上皮カザール型セリンプロテアーゼ阻害因子)の機能が失われると、角層セリンプロテアーゼ(特にKLK5・KLK7)の活性が制御不能となります。その結果、角層の過剰な剥離、表皮バリアの崩壊、免疫応答の異常亢進が連鎖的に起こります。これが基本病態です。
臨床的な三徴候は以下の3点に集約されます。
成人期においても、全身性の鱗屑と潮紅・紅斑は生涯にわたって継続します。乳児期〜幼少期と比べると皮膚症状は「徐々に軽快傾向」と記載されることがありますが、完全に消失するわけではありません。むしろ体表面積が大きくなる分、外用薬の使用量が増え、医療費も増加するという現実的な問題が成人期には重くのしかかります。
皮膚科・呼吸器内科・耳鼻科・眼科・メンタルクリニックなど多科連携が成人診療の原則です。
参考:ネザートン症候群の病態・診断・治療の概要(日本小児科学会ガイドライン2024年版)
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240130_GL049.pdf
ネザートン症候群の最大の落とし穴は、外観がアトピー性皮膚炎(AD)と非常に酷似していることです。特に成人例では竹節状裂毛(bamboo hair)が成長とともに減少するため、毛髪異常という重要な鑑別所見が見落とされやすくなります。
2008年に報告された臨床皮膚科の成人例(医書.jp)では、28歳男性患者が幼少期からステロイド軟膏で「軽快・増悪を繰り返す」という経過を経ており、アトピー性皮膚炎として長期管理されていたことが記されています。成人になって初めて眉毛での竹節状裂毛・陥入性裂毛が確認され、免疫組織化学染色とSPINK5遺伝子解析によりネザートン症候群と確定診断されています。身長153cmという低身長もこの症候群に特徴的な成長障害を示していました。
鑑別に有用な検査・所見をまとめると次のとおりです。
成人になって初めて診断されるケースの存在は、「重症のアトピー性皮膚炎として誤診されている潜在患者が一定数いる」ことを示唆しています。これは深刻な問題です。なぜなら、誤診のまま外用薬を選択すると、NSでは使うべきでない薬剤が投与されるリスクが生じるからです。
参考:アトピー性皮膚炎の鑑別疾患としてのネザートン症候群(HOKUTO)
https://hokuto.app/post/QSF4Gqr6DBkaOyv1aKNY
ネザートン症候群では角層バリア障害が非常に高度です。このことが、外用薬選択に際して決定的に重要な意味を持ちます。
タクロリムス外用薬(プロトピック軟膏)は、原則禁忌とされています。この根拠となったのは、Allen Aら(2001年、Arch Dermatol)が報告したNS患者3例での事例です。タクロリムスが著明に経皮吸収され、腎機能障害や高血圧といった全身性の副作用が現れることが示されました。腸管から吸収された際の免疫抑制と同様の毒性が、皮膚から塗布しただけで生じ得るということです。これは重大な事実ですね。
一方、ステロイド外用薬についても注意が必要です。NSでは角層剥離が著しいため、ステロイドの経皮吸収が一般的な湿疹性疾患と比べてはるかに亢進しています。その結果、通常量の外用でも以下のような全身性副作用が現れ得ます。
つまり、NSの成人患者に対してステロイド外用薬を全身に使用する際は、「局所外用」とはいえ全身投与に準じた安全管理の視点が求められます。血圧・血糖・骨密度のモニタリングを、外用量に応じて定期的に計画することが実践的な対応となります。
保湿剤・角質溶解剤が外用療法の基本です。感染合併時には、抗生剤・抗真菌剤・抗ウイルス剤の外用・内服・点滴を使い分けます。皮膚バリアの破綻が常態化しているため、細菌・真菌・ウイルスを含む二次感染症が繰り返しやすく、敗血症への移行は生命予後に直結します。感染兆候の早期察知が管理の要となります。
参考:先天性魚鱗癬(指定難病160)の治療・管理(難病情報センター)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/288
従来、ネザートン症候群に対する確立された全身療法は存在せず、対症療法が中心でした。この状況が、2025年以降の研究で変わりつつあります。
Experimental Dermatology誌2025年5月号に掲載されたパイロット研究では、NS患者へのデュピルマブ(IL-4/IL-13受容体拮抗薬、商品名:デュピクセント)投与の効果が評価されました。主な結果は以下のとおりです。
NSの病態にはTh2サイトカイン(特にIL-4・IL-13)が深く関与しており、デュピルマブはその上流を遮断することで炎症カスケード全体を抑制すると考えられます。これは理にかなった作用機序です。
ただし、現時点ではデュピルマブのNSへの投与はわが国において適応外使用となります。ADとしての適応での処方が現実的な選択肢となるケースがありますが、NSとADの鑑別が確定している場合には適応外であることをインフォームドコンセントとして丁寧に説明する必要があります。研究が進展しており、今後の保険適用の動向を注視することが推奨されます。
また、2025年6月にCurr Pediatr Rev誌に掲載されたシステマティックレビューでも、NSに対する生物学的製剤の可能性が論じられており、エトレチナート(レチノイド系)を含む抗角化薬との比較検討も今後の課題として挙げられています。なお、エトレチナートを内服中・内服後(女性は2年以内、男性は6ヵ月以内)の患者では催奇形性のリスクがあるため、避妊指導は必須です。
参考:デュピルマブによるネザートン症候群の皮膚・血清異常改善(CareNet Academia)
https://academia.carenet.com/share/news/4c6aa5e0-59b0-4c11-92d4-ee3285ce12f9
ネザートン症候群の成人患者が直面するのは、皮膚・医療的な問題だけではありません。社会生活全般に大きな影響が及ぶ点を医療従事者が把握しておくことが、実践的なサポートにつながります。
まず医療費の問題が重くのしかかります。体が成人サイズになると使用する外用剤・内服薬の量が増えます。保湿剤の必要量だけで換算しても、全身塗布が必要なNS成人患者では1日数十グラム以上の消費が想定されます。
指定難病の制度を正しく活用することが大切です。NSは「先天性魚鱗癬(指定難病160)」として成人でも医療費助成の対象となります。ただし、成人での認定には「魚鱗癬重症度スコアシステムで36点以上(重症)」という条件を満たす必要があります。または「皮膚以外の臓器にも日常生活に支障をきたすレベルの異常(例:喘息合併)」があれば助成対象となります。医療従事者側から積極的に難病申請の情報提供を行うことで、患者の経済的負担を大きく軽減できます。
社会的な問題としては以下が挙げられます。
生殖医療に関しても注意点があります。性器に病変がなければ性交渉は可能ですが、エトレチナートの服薬歴がある場合は厳重な避妊管理が必要です。常染色体劣性遺伝のため、特殊な場合を除けば親から子への直接発症は起きにくい点は、患者の不安軽減につながる情報として適切に伝えましょう。
参考:小児慢性特定疾病情報センター ネザートン症候群 概要
https://www.shouman.jp/disease/details/14_02_005/
ステップ1〜4(内部処理)
- 読者の常識:「成人スチル病の熱は長く続くはずなので、発熱が続く患者を見れば気づける」
- 驚きの事実:成人スチル病の発熱は午前中は平熱で夕方〜夜に39〜40℃に急上昇する弛張熱が特徴であり、採血や診察が午前中に行われることが多い医療現場では、発熱を見落とす可能性がある。
- 驚きの一文候補:「午前中の採血だと、発熱を見落として診断が遅れます」(27文字)→採用