亜鉛を補充しているのに、銅欠乏で患者さんの血球が減ることがあります。
ノベルジン錠(酢酸亜鉛水和物)は、2017年以前はウィルソン病(肝レンズ核変性症)の治療薬としてのみ承認されていた薬剤でした。それが2017年3月に「低亜鉛血症」へと適応が拡大され、現在は2つの疾患に使用されています。この2つの適応は、名前こそ同じ「亜鉛」を含む薬剤ですが、期待される治療効果のメカニズムがまったく異なります。
<strong>ウィルソン病における効果は、銅の吸収を阻害することです。腸管上皮細胞でメタロチオネインという金属結合タンパクの産生を誘導し、食物中の銅をこのタンパクに捕捉・固定することで、銅が体循環に入るのをブロックします。ウィルソン病は先天性の銅代謝異常症であり、体内に銅が蓄積して肝炎・肝硬変・神経症状・精神症状など多彩な症状をきたします。つまり、ここでの亜鉛はあくまで「銅を排除するための道具」として機能しているわけです。
低亜鉛血症における効果はその逆で、不足した亜鉛を体内に補充することが目的です。亜鉛は体内で300種類以上の酵素の活性中心として機能する必須微量元素であり、不足すると味覚障害・食欲低下・皮膚症状・脱毛・創傷治癒遅延・易感染性など多彩な症状が現れます。つまり2つの適応は「銅を減らしたいか、亜鉛を増やしたいか」という全く逆方向のゴールを目指しているのです。
低亜鉛血症を合併しやすい疾患としては、C型肝炎・肝硬変、糖尿病、腎不全・透析、長期静脈栄養・経腸栄養などが挙げられます。また、アロプリノール、D-ペニシラミン、メトホルミンなどの薬剤性亜鉛欠乏にも注意が必要です。亜鉛欠乏による症状は多岐にわたるため、原因となる基礎疾患を見落とさない視点が臨床では求められます。
血清亜鉛濃度の基準値は80〜130μg/dLです。この数値が低いだけでなく、「亜鉛欠乏症状が見られる場合」も投与の検討対象となります。慢性肝疾患や糖尿病では、症状がなくても血清亜鉛値が低い例が多く、亜鉛補充により基礎疾患の所見が改善することがあるとされています(亜鉛欠乏症の診療指針2018)。
参考リンク(ノベルジン錠の適応・用法に関する製品情報PDFです)。
ノベルジン錠25mg・50mgを低亜鉛血症にご処方の際 – Nobel Park(医療関係者向け資材)
多くの医療従事者が見落としやすいのが、ノベルジン錠の服用タイミングが適応によって「食間(空腹時)」と「食後」で真逆に設定されているという事実です。これは単なる添付文書の細かい違いではなく、薬の治療効果を最大化するための科学的根拠に基づいています。
ウィルソン病の場合は「食間(空腹時)」、つまり食前1時間以上前か食後2時間以上経過してから服用します。その理由は、亜鉛による銅吸収阻害効果を最大限に引き出すためです。食事中には食物由来の銅が腸管に流入しています。この時間帯に亜鉛を空腹の状態で服用することで、亜鉛が腸管上皮細胞でメタロチオネインを誘導し、食事と一緒に入ってくる銅の吸収を効