皮脂が多いからと、1日3回以上洗顔するとかえって肌荒れが悪化します。
生理周期の後半(黄体期)に入ると、卵巣から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が急増します。このホルモンは受精卵の着床を助ける重要な役割を担う一方で、皮脂腺に対して強い刺激を与えます。プロゲステロンの分子構造はアンドロゲン(男性ホルモン)と似ており、皮脂腺の受容体に結合して皮脂の過剰産生スイッチを入れてしまうのです。
一方、排卵後は「美肌ホルモン」と呼ばれるエストロゲン(卵胞ホルモン)が相対的に低下します。エストロゲンはヒアルロン酸・コラーゲン産生を促し、肌の水分保持を助けます。その量が減ることで、肌のバリア機能が著しく低下した「無防備な状態」になります。
つまり、黄体期の肌は以下の二重苦に直面しています。
| ホルモン変化 | 肌への影響 |
|---|---|
| プロゲステロン⬆ | 皮脂分泌増加・毛穴詰まり・ニキビ悪化 |
| エストロゲン⬇ | 水分保持低下・バリア機能の破綻・敏感化 |
バリアが弱った状態で皮脂が過剰に出るのが、PMSの肌荒れの本質です。
さらに、黄体期には自律神経が乱れやすく、ストレスホルモンのコルチゾールが過剰分泌されます。コルチゾールは本来は抗炎症に働きますが、過剰になると免疫バランスを崩し、炎症反応を助長します。活性酸素も産生されるため、肌細胞そのものが傷つく二次的なダメージも見逃せません。
日本人女性の約70〜80%が月経前に何らかの不調を自覚しており、20代女性では「肌荒れ(ニキビ)」が最も多く訴えられる症状の一つです(株式会社アラヴィス、2022年、5,961名調査)。医療従事者も例外ではなく、看護職を対象にした研究では月経異常を起こす頻度が一般女性の5倍以上という報告もあります。
PMSの肌荒れ対策の核心は「皮脂が多い=洗い落とす」という発想からの転換です。これが重要です。
皮脂が増えると「もっとしっかり洗わなければ」と洗顔回数を増やしたり、強い洗浄力のクレンザーを使う方は少なくありません。しかし1日3回以上の洗顔は、肌に必要なNMF(天然保湿因子)やセラミドまで除去してしまいます。乾燥を感じた肌は防御反応として皮脂をさらに分泌するため、むしろ悪循環に陥ります。洗顔は朝晩2回が原則です。
黄体期のスキンケアは、以下の方針でシンプルに組み立てましょう。
| ケアの工程 | 黄体期の推奨アプローチ | 避けるべきNG行動 |
|---|---|---|
| クレンジング | ジェル・クリームタイプで低摩擦に | オイルタイプで毎晩ゴシゴシ洗い |
| 洗顔 | 泡をクッションにやさしく転がす。32〜34℃のぬるま湯で流す | 熱いお湯・洗顔回数を1日3回以上に増やす |
| 保湿 | ヒアルロン酸・セラミド配合のローション・ジェルタイプ | 油分の多いリッチクリームを厚塗りする |
| UV対策 | SPF20〜30・PA++程度の低負担タイプ | 落としにくい高SPF製品を毎日重ね塗り |
「インナードライ」という状態も見落としがちです。表面は皮脂でテカっているのに、肌の内部は水分が枯渇しているケースで、黄体期の肌に非常に多く見られます。「オイリーだから保湿は不要」という思い込みが肌荒れを長引かせることになります。
炎症の兆候(赤み・腫れ)が現れ始めたら、グリチルリチン酸ジカリウム・アラントイン・トラネキサム酸が配合された薬用化粧水(医薬部外品)への切り替えが有効です。生理予定日の約1週間前から使用を始めると、予防効果を高めやすくなります。
「ノンコメドジェニックテスト済み」と表示された製品は、毛穴詰まりのリスクを抑える処方になっています。ファンデーションや化粧下地など密着度の高いアイテムは、この表記があるものを黄体期限定で使用する選択肢も有効です。
株式会社アラヴィス:PMS時期の「守りのスキンケア」3つのポイント
スキンケアだけでは追いつかない場合、内側から皮脂コントロールをサポートする食事戦略が重要になります。
まず見直したいのが血糖値の管理です。精製された砂糖や白小麦を多く含む菓子パン・スイーツ・清涼飲料水は、食後に血糖値を急激に上昇させます。血糖値が上がるとインスリンが大量分泌されますが、このインスリンがアンドロゲンを刺激して皮脂腺を活性化させることが知られています。GI値の高い食品を黄体期に多く摂ることは、皮脂過剰分泌に直結します。
野菜・海藻・きのこ類から先に食べる「ベジファースト」の実践や、白米を玄米・雑穀米に置き換えるだけで、血糖値の上昇カーブをなだらかにできます。これなら現場の忙しい医療従事者でも取り入れやすい方法です。
次に重要な栄養素を以下にまとめます。
| 栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食材 |
|---|---|---|
| ビタミンB2 | 脂質代謝促進・皮脂抑制・皮膚や粘膜の保護 | レバー・うなぎ・卵・納豆・海苔 |
| ビタミンB6 | タンパク質代謝・ホルモンバランス調整 | カツオ・マグロ・バナナ・鶏ささみ・玄米 |
| ビタミンC | 抗酸化・コラーゲン生成・皮脂分泌の抑制 | 赤ピーマン・ブロッコリー・キウイ・イチゴ |
| 亜鉛 | 皮脂分泌抑制・皮膚修復・ターンオーバー促進 | 牡蠣・牛肉・ナッツ・ごま・高野豆腐 |
| 大豆イソフラボン | エストロゲン様作用・皮脂過剰の緩和 | 豆腐・納豆・豆乳・味噌・きな粉 |
ビタミンB群とCは水溶性のため、体内に蓄積できません。一度に大量に摂っても尿として排出されるだけなので、毎食こまめに摂ることが大切です。
大豆イソフラボンはエストロゲンに似た分子構造を持ち、低下したエストロゲンの働きを穏やかに補う可能性があります。とはいえ、サプリメントで過剰摂取するとかえってホルモンバランスを崩すリスクもあるため、毎日の食事から納豆・味噌汁・豆乳などの形で自然に摂ることを優先してください。
おきクリニック:生理前の大人ニキビ悪化と黄体ホルモン、周期的な肌荒れを防ぐ栄養・スキンケア対策
PMSの肌荒れ対策として、今最も注目を集めているアプローチが「腸活」です。これは使えそうです。
2022年、近畿大学東洋医学研究所の武田卓教授らの研究チームが、PMS患者と健常者の腸内フローラを比較した世界初の研究を発表しました(PLOS ONE誌掲載)。その結果は次のようなものでした。
- PMS患者では、抗炎症・精神安定に関わる酪酸菌(Butyricicoccusなど)が顕著に減少
- 脳内神経伝達物質GABAを産生するMegasphaeraなどの菌も有意に少ない
- 腸内細菌のパラバクテロイデス(Parabacteroides)の割合が多いほど、PMS症状が軽い傾向
腸と脳は「腸脳軸(脳腸相関)」と呼ばれる双方向の連絡路でつながっています。腸内環境が乱れるとセロトニンの産生・分泌も低下します。セロトニンは「幸せホルモン」として知られますが、体内のセロトニンの約90%は腸で作られているのです。
セロトニンが低下すると、精神的不安定・イライラが増幅し、コルチゾールの過剰分泌を招きます。つまり「腸の乱れ→セロトニン低下→ストレスホルモン増加→皮脂腺刺激→肌荒れ悪化」というカスケードが生じます。PMSの肌荒れは肌だけの問題ではないということですね。
腸内環境を整えるために実践したい生活習慣は以下のとおりです。
- 🥦 プレバイオティクス(水溶性食物繊維)を摂る:大麦・海藻・きのこ・オクラ・アボカドが酪酸菌のエサになりやすい
- 🍶 プロバイオティクス(発酵食品)を取り入れる:ヨーグルト・キムチ・味噌・ぬか漬け
- 🚶 軽い有酸素運動:ウォーキング20〜30分程度で腸のぜん動運動を促進
- 😴 7時間前後の質の高い睡眠:睡眠不足は腸内細菌叢のバランスを乱す一因
特にシフト勤務が多い医療従事者は腸内環境が乱れやすい傾向があります。夜勤明けの食事を一品だけ発酵食品に変えるなど、小さな積み重ねが腸内フローラの改善につながります。
Mykinso(近畿大学 武田卓教授監修):PMSと腸内フローラの関係——世界初研究の詳細解説
近畿大学:月経前症候群(PMS)と腸内フローラの関連性を研究(2022年研究報告)
セルフケアで改善が難しい場合や、症状が重度のPMDDレベルに至っている場合、医療的な介入が有効です。医療従事者として患者への情報提供の場面でも役立つ知識です。
低用量ピル(OC/LEP)の選択肢
低用量ピルは排卵を抑制することで、黄体期のプロゲステロン急増を防ぎます。結果として皮脂分泌量が安定し、PMS肌荒れの根本的な改善が期待できます。特に第3世代のピル(マーベロン・ファボワール)は、アンドロゲン活性が低い新世代プロゲスチンを含有しており、ニキビ・肌荒れ改善効果が高いことが複数の婦人科専門医によって報告されています。
ただし、ピルの種類によって肌への影響は大きく異なります。全ピルで同じ効果があるわけではないので、ニキビ・肌荒れ改善を目的とする場合は婦人科医に明示して処方を相談することが大切です。
漢方薬の選択肢
西洋薬に抵抗がある方や、ホルモン剤を使用できない方には漢方も選択肢の一つです。PMSの肌荒れによく使われる代表的な処方を紹介します。
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):血行改善・うっ血解消に働き、ニキビ・肌荒れ・のぼせに使われる
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):貧血傾向・冷えがある方のむくみや肌乾燥に適する
- 加味逍遥散(かみしょうようさん):ストレス・イライラを伴うPMS全般に幅広く使われる
体質・症状によって合う処方は異なります。自己判断での長期服用は避け、専門医・薬剤師への相談が前提です。
睡眠ケアの見直し
夜間勤務の多い医療従事者が特に意識したいのが睡眠です。プロゲステロン優位の黄体期は体温が上昇するため、もともと眠りが浅くなりやすい時期です。就寝90分前に38〜40℃のぬるめの入浴で深部体温を一時的に上げると、その後の体温低下にともなって自然な眠気が促され、睡眠の質が改善されます。
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、日中受けた肌ダメージを修復し、ターンオーバーを正常化する役割を担います。「肌は寝ている間に作られる」というのは医学的にも根拠のある話です。睡眠不足は角質肥厚を招き、PMS期の肌荒れをさらに悪化させます。
マイピル:第3世代低用量ピルとは——肌荒れ・PMSへの効果と選び方
ヒロクリニック(産婦人科医監修):避妊だけじゃない、低用量ピルのPMS改善効果
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