霊芝エキスの粉末は1カ月以上の長期摂取で肝障害リスクがあります。
霊芝エキスとは、サルノコシカケ科に属するマンネンタケ(学名:Ganoderma lucidum)の子実体から抽出された成分です。別名マンネンタケとも呼ばれ、湿気の多い山林地帯に自生する希少なキノコで、中国では約2000年前に編纂された『神農本草経』に不老長寿の上薬として記載されています。上薬とは長期服用しても副作用がないという分類です。
参考)https://www.frontierfoods.co.jp/products/reishi_extract_powder/
日本でも民間療法として利用されてきましたが、伝統的な漢方処方には霊芝を含むものはありません。つまり日本の漢方医学とは別系統です。現代では健康食品やサプリメントとして流通しており、1日3~5グラムを400ミリリットルの水で40~50分煎じて服用する方法が一般的とされています。
参考)https://www.tokushima.med.or.jp/kenmin/doctorcolumn/hc/718-172
医療従事者としては、患者が自己判断で霊芝製品を使用している可能性を念頭に置く必要があります。特に併用薬がある場合、相互作用のリスク評価が重要です。霊芝は医薬品ではなく食品扱いですが、薬物動態に影響を与える可能性があることを理解しておくべきでしょう。
患者から「霊芝を飲んでいる」と報告があった際は、服用目的や形態(粉末、エキス、錠剤など)を確認することが推奨されます。形態によって安全性プロファイルが異なるためです。
霊芝エキスの主要成分は、β-D-グルカンなどの多糖類とガノデリン酸などのトリテルペン類です。これらの成分は抽出方法によって含有量が変化し、熱水抽出では主に多糖類が、エタノール抽出ではトリテルペン類が多く得られます。β-D-グルカンは強い抗腫瘍活性を示すとされ、自然治癒能力を高める働きが動物実験で報告されています。
参考)https://www.nfy.co.jp/foods/reishi_mushroom
抽出プロセスでは、乾燥した霊芝子実体を原料とし、20%エタノール抽出または水抽出が一般的です。このプロセスを経て得られるエキスには、15種類のアミノ酸、ステロール、脂肪酸、タンパク質なども含まれます。製品によっては1箱あたり霊芝エキス6,000mg(乾燥子実体80g相当)が配合されているものもあります。
参考)https://sakura-herben.tokiwaph.co.jp/reishi-mushroom/
特許抽出法を用いた製品も存在し、国産霊芝から本来の力を引き出す試みが行われています。抽出法が異なれば成分プロファイルも変わるため、製品間の比較は困難です。医療従事者が患者から霊芝製品について相談を受けた際は、製品の原材料表示や抽出方法を確認することが有用でしょう。
成分分析の観点では、β-グルカンとトリテルペンの含有量が製品の品質指標となります。ただしこれらの成分が実際にヒトでどの程度の効果を発揮するかは、次項で述べる臨床試験の結果を参照する必要があります。
参考)http://tojukosan.co.jp/group/member/shopping04.html
霊芝エキスには、中枢神経の鎮静作用、血圧安定化(特に拡張期血圧の低下)、高脂血症改善、免疫賦活作用、抗アレルギー作用などが報告されています。徳島県医師会の資料によれば、悪玉コレステロールや中性脂肪を低下させ、動脈硬化を予防する働きがあるとされています。これは脂質異常症の患者にとってメリットとなる可能性があります。
参考)https://www.tokushima.med.or.jp/?id=718%3A244
中国では各種の霊芝製剤が臨床試験を経て認証を得ており、不眠に対しては4週間の服用で96%に改善効果が見られ、神経衰弱には2週間で88%に改善がみられたとの報告があります。ただし日本では臨床試験が進んでおらず、エビデンスレベルに差があることを認識すべきです。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%8A%E8%8A%9D
徳島県医師会の霊芝に関する医学コラムでは、効能の根拠や服用法について詳しい解説が掲載されています。患者指導の参考情報として有用です。
霊芝のエキスは最長1年間の摂取なら安全かもしれませんが、粉末の霊芝は1カ月以上摂取すると肝臓に損傷を与える可能性があります。これは医療従事者が患者指導で最も注意すべき点です。実際に霊芝子実体抽出物を含む健康食品による薬剤性肺炎の症例報告もあり、重度の肝障害のケースも霊芝抽出物に関連しているとされています。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/004050385j.pdf
その他の副作用としては、口腔乾燥、発疹、胃の不調、下痢、頭痛、鼻出血、めまいなどがあります。研究によれば、霊芝を4か月間服用した人はプラセボを服用した人のほぼ2倍の副作用を経験する可能性が高いことがわかっています。副作用頻度は決して低くありません。
参考)https://feelgoodpal.com/ja/blog/health-benefits-of-reishi-mushroom/
高用量の霊芝は血小板減少症などの出血性疾患を有する人の出血リスクを増大させ、手術前または手術中の摂取は出血リスクを高めます。そのため周術期の患者には特に注意が必要です。妊婦や授乳中の女性における安全性は十分に研究されておらず、低血圧や出血性疾患のある人、手術を受ける人は霊芝を避けるべきとされています。
患者が霊芝製品を使用している場合、定期的な肝機能検査の実施を検討する価値があります。特に1カ月以上の継続使用では肝障害のリスクを念頭に置くべきでしょう。安全性プロファイルを考慮すると、漫然と長期使用を推奨できる素材ではないということですね。
霊芝は血圧を下げることがあるため、降圧薬(カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、アムロジピン、ヒドロクロロチアジドなど)との併用で血圧が下がりすぎる可能性があります。これは高血圧治療中の患者にとって重大なリスクです。実際に抗血小板薬および抗凝固薬の投与を受けている患者では、霊芝により出血のリスクが増大する可能性があると報告されています。
霊芝は血液凝固を遅らせることがあるため、クロピドグレル、イブプロフェン、ナプロキセン、ヘパリン、ワルファリンなどと併用すると出血や皮下出血の可能性が高まります。特にワルファリン服用中の患者が自己判断で霊芝を追加すると、PT-INRが予想外に延長するリスクがあります。これは出血イベントにつながりますね。
また霊芝は一部の化学療法薬の有効性を低下させる可能性があり、逆に一部の化学療法薬の有効性を高める可能性もあります。化学療法/放射線療法との併用で霊芝が投与された患者では、単独治療と比較して腫瘍退縮が大きく生活の質が改善したとのメタ解析結果がありますが、霊芝のみでは便益が示されず、延命効果のエビデンスも認められていません。
血糖降下薬との併用では付加的な低血糖を引き起こすこともあるため、糖尿病患者への注意喚起が必要です。霊芝は特定の種類のがんの存在を示す血清腫瘍マーカー(CA72-4)の臨床検査を妨げることもあります。つまり検査値の解釈に影響するということです。
MSDマニュアル プロフェッショナル版の霊芝の項には、薬物相互作用について詳細な情報が掲載されており、処方設計の参考になります。
患者の服薬歴を聴取する際は、サプリメントや健康食品の使用状況も必ず確認し、霊芝が含まれている場合は相互作用のリスク評価を行うべきでしょう。特に抗凝固薬や降圧薬を処方している患者では、定期的な確認が重要です。
医療従事者が霊芝エキスについて患者から質問を受けた際は、科学的根拠の限界を正確に伝えることが重要です。主張されている健康上の便益はヒトを対象とした質の高い試験で確認されていないため、「絶対に摂取しなければならない理由はない」というのが現時点での科学的見解です。
患者が霊芝製品の使用を希望する場合は、まず服用目的を明確にしてもらいます。不眠、免疫力向上、がん予防など目的によって情報提供の内容が変わります。その上で、粉末形態では1カ月以上の使用で肝障害リスクがあること、エキス形態でも最長1年が安全性の目安であることを説明します。
併用薬がある場合は必ず相互作用を確認し、特に降圧薬、抗凝固薬、血糖降下薬を使用している患者には慎重な対応が必要です。周術期の患者には出血リスクの増大を説明し、手術前の一定期間は霊芝の中止を推奨すべきでしょう。手術の2週間前からの中止が一般的です。
霊芝業界では機能性表示食品の誕生に期待が寄せられていますが、健常者での臨床試験論文が少なく、データ蓄積が進めば受理の可能性が見えてくるという段階です。現時点では医薬品としての位置づけはなく、あくまで食品としての扱いであることを患者に理解してもらう必要があります。
参考)https://www.kenko-media.com/health_idst/archives/17173
患者教育では、「天然だから安全」という思い込みを是正することも重要です。天然物でも肝障害や薬物相互作用のリスクがあることを、具体的な事例を交えて説明すると理解されやすいでしょう。エビデンスに基づいた情報提供が患者の安全を守ります。
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