皮膚症状が出ても、保湿剤+ステロイド剤を早期に使えば87.5%の患者は継続できます。
リバスタッチパッチの有効成分はリバスチグミンであり、その効能・効果は「軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。重要なのは、この薬が認知症の病態そのものの進行を抑制するわけではないという点です。認知機能を回復させる薬ではなく、進行を「遅らせる」薬として位置づけられています。
他のコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト・レミニール)との最大の違いは、二重阻害の作用機序にあります。アリセプトやレミニールがアセチルコリンエステラーゼ(AchE)のみを阻害するのに対して、リバスチグミンはAchEに加えてブチルコリンエステラーゼ(BchE)も阻害します。
アルツハイマー型認知症が進行すると、グリア細胞(神経細胞を支持する細胞)が増加し、BchEも多く放出されます。BchEもアセチルコリンを分解する酵素であるため、これを阻害することで脳内のアセチルコリン濃度をより高く維持できます。つまり、BchEの阻害も効きます。
この二重阻害の効果として、他の抗認知症薬にはない「意欲の改善」「言語野の血流増加による言葉数の増加」が認められています。認知症専門医が初期に本剤を選択する大きな理由の一つです。アリセプトやレミニールで「やる気がない」「無口になった」という症状が改善しないケースで、本剤への切り替えを検討する意義は大きいです。これは使えそうです。
また、本剤はアルツハイマー型認知症治療薬の中で世界唯一の経皮吸収型製剤です。低分子であるリバスチグミンの特性を活かし、パッチ剤として皮膚から持続的・安定的に吸収される点が他剤にはない強みとなっています。
認知症専門医が最初にイクセロン/リバスタッチパッチを選択する理由(ときわ内科・神経内科クリニック)
リバスタッチパッチを使用する上で、医療従事者が必ず把握しておくべき重要事項があります。それは「18mg未満は有効用量ではない」という添付文書の記載です。
通常の増量スケジュールは次の通りです。
| 開始時期 | 用量 |
|---|---|
| 開始時 | 4.5mg/日 |
| 4週後 | 9mg/日 |
| 8週後 | 13.5mg/日 |
| 12週後〜(維持量) | 18mg/日 |
維持量18mgに達するまでには最低でも12週間以上を要します。この12週間は「副作用を軽減するために神経伝達物質の変化に体を慣らす期間」であり、治療効果を期待できる段階ではありません。つまり、3か月かけてようやく本来の効果を発揮し始めると理解するのが原則です。
2015年8月からは「9mgから開始し、4週後に18mgへ増量する1ステップ漸増法」も承認されました。この方法では最短4週で維持量に到達でき、従来の3ステップ漸増法と副作用の出現率に差がないことが確認されています。消化器症状への認容性がある患者では積極的に活用を検討する価値があります。早期から効果が期待できる点は大きなメリットです。
一方で、体重40kg以下の患者への対応は異なります。低体重の患者には9mgを維持量とし、MMSE等の認知機能検査で悪化が確認された場合に限り18mgへ増量します。逆にMMSEが維持または改善している場合は9mgを継続します。これが条件です。
増量中に嘔吐・悪心などの消化器症状が出た場合は、減量または休薬が必要です。休薬が4日未満であれば同用量で再開できますが、4日以上になった場合は開始用量(4.5mgまたは9mg)から再スタートし、2週間以上の間隔で増量していく必要があります。再開時の増量を急いで行うと重篤な副作用リスクが高まるため、注意が必要です。
リバスタッチパッチ4.5mg、他の効能・効果・用法・用量(今日の臨床サポート)
リバスタッチパッチ使用において最も臨床現場で問題となるのが皮膚副作用です。旧基剤(シリコン系)時代の報告では、皮膚障害の発現率は59.6%、中止率は23.7%という高い数値が記録されていました(Osada et al., 2018)。
2019年3月から合成ゴム系基剤に変更された新基剤では、皮膚障害発現率は28.0%まで低下したという調査結果があります(畠山ら, 2022)。改善したとはいえ、依然として約3割の患者に皮膚症状が現れます。そして、皮膚障害を発現した患者のうち71.4%が9mg増量時点までに症状が出ていることが明らかになっています。厳しいところですね。
皮膚障害の主な内容は紅斑(発赤)、掻痒感、皮膚炎の3つです。重症化すると腫脹を伴うこともあります。発症のメカニズムとして、局所でアセチルコリンが増加して血管が拡張するためとの報告があり、基剤の改良だけでは皮膚刺激性を根本的に解消できないとされています。
では、皮膚障害が出た場合どうするか。同調査で重要なデータが示されています。皮膚障害があっても新基剤を継続できた患者8名のうち、87.5%が保湿剤やステロイド剤などの皮膚外用剤を使用していました。一方で、皮膚障害を主な理由に中止した患者6名のうち83.3%が皮膚外用剤を使用していませんでした。早期の皮膚ケア介入が継続使用の鍵と言えます。
具体的な皮膚ケアとして現場で活用されているのは以下の方法です。
薬剤師や看護師が服薬指導時に「皮膚ケアの実施」を毎回確認し、必要時に処方医へ皮膚外用剤の追加を提案することが、治療継続率の向上につながります。
新基剤リバスチグミン貼付剤の皮膚障害が継続使用に及ぼす実態調査(認知症学会誌, 2022)
リバスタッチパッチの薬理学的特性を理解した上で、どの患者に使うべきか・使うべきでないかを整理することが処方の質を高めます。
積極的に選択すべき症例は以下の特徴を持つ患者です。
一方で、使用を避けるべきケースとして重要なのが、攻撃性・易怒性が前景に出ている患者です。「穏やかだった人が急に怒りっぽくなった」「イライラして介護拒否が強い」といった症状がある場合、アクセル系のリバスタッチパッチを使用すると症状が悪化するリスクがあります。こういったケースではブレーキ系のメマリー(メマンチン)を選択するのが基本です。
また、レビー小体型認知症には抗認知症薬の使用量に注意が必要です。4段階の用量設定が可能なリバスタッチパッチは、少量から細かく調整できる点でレビー小体型認知症への対応に有利です。実際に4.5mgでの維持という選択肢もあり、アリセプト3mg相当の用量として使用されたケースが報告されています(アリセプト3mgは保険上使用できないため)。
なお、他のコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト・レミニール)との併用は禁忌です。同様の作用機序を持つ薬剤の重複は、過剰なコリン作動性刺激により重篤な副作用を引き起こす可能性があります。これは必須の確認事項です。
リバスタッチパッチは、適切に使用されてはじめて効果を発揮できます。医療現場では本剤に関連するヒヤリハット事例が複数報告されており、医療従事者として把握しておくべき重要な安全情報があります。
事例1:貼り替え忘れによる過剰投与リスク
リバスタッチパッチは1日1枚・24時間ごとの貼り替えが原則です。古いパッチを剥がさずに新しいパッチを貼付してしまうと、二重貼付(過剰投与)となります。用量が倍になることで、狭心症・徐脈・房室ブロック・QT延長症候群・けいれん発作・食道破裂を伴う重度の嘔吐など、重篤な副作用が起こるリスクが高まります。意外ですね。
認知症患者が自己管理している場合、「貼ったかどうか忘れて重ねて貼ってしまう」という事例は珍しくありません。介護者や訪問看護師が「前のパッチが残っていないか」を確認する習慣を持つことが重要です。また、使用後のパッチにも薬の成分が残っているため、廃棄を確実に行うよう指導することも欠かせません。
事例2:外観類似薬との取り違え(ニュープロパッチ)
薬局ヒヤリハット事例として報告されているのが、リバスタッチパッチ18mgとニュープロパッチ18mg(ロチゴチン:パーキンソン病治療薬)の取り違えです。両剤はともに円形の貼付剤であり、規格も共通しているため視覚的な確認だけでは判別しにくい状況があります。調製時と鑑査時の2段階チェックが欠かせません。
事例3:4日以上の貼り忘れ後の不適切な再開
貼り忘れに気づいたとき、すぐに高用量で再開することは危険です。休薬期間が4日以上になった場合は、中断時の用量ではなく開始用量(4.5mgまたは9mg)から再スタートし、2週間以上かけて増量する必要があります。患者や家族が「途中から再開したからそのまま続けていい」と勘違いしたまま高用量を使い続けると、重篤な副作用につながります。
これらの事例を防ぐために、薬剤師・訪問看護師・介護士が連携して「貼付状況の確認」「古いパッチの廃棄確認」「中断後の用量確認」を徹底する体制を整えることが、医療安全の観点から非常に重要です。結論は「多職種連携による確認体制の構築」です。
「リバスタッチパッチ」と見た目が似すぎて…ヒヤリハット事例(m3.com)
リバスタッチパッチ9mg くすりのしおり(くすりのしおり:患者向け情報)