MEDを「目安の数値」として流用しているなら、患者に重篤な紅斑・水疱を生じさせるリスクがあります。
最小紅斑量(Minimal Erythema Dose:MED)とは、紫外線(UVB)を照射してから24時間後に、皮膚に最小限の紅斑を生じるのに必要な最低光線量のことです。単位はmJ/cm²で表記され、皮膚科臨床および光生物学の分野において光線感受性を客観的に評価するための基本指標として広く用いられています。
日本人の標準的なMED値はUVBで60〜100 mJ/cm²とされています。これを感覚的にイメージすると、真夏の正午の直射日光を浴びた場合、わずか10〜20分ほど露光しただけで1MEDに達する光線量に相当します。この基準値を下回る照射量で紅斑が生じる場合、光線過敏状態にある可能性が高いと判断します。
MED測定でよく誤解されるのが「UVAとUVBを区別しない」という点です。原則として、MEDという用語はUVBによる紅斑反応に対して使用します。UVAによる最小反応量は別途「MRD(Minimal Response Dose)」と呼ばれ、日本人では約10〜15 J/cm²が正常範囲です。この2つを混同すると、光線過敏型薬疹(UVAが主な誘発波長)を見落とすリスクがあります。つまりMED単独の評価では不十分なケースもあります。
紫外線は波長によって皮膚への作用が大きく異なります。UVB(280〜315 nm)は表皮に強い炎症反応を引き起こすため「日焼けスペクトラム」とも呼ばれ、MEDの主役を担います。一方、UVA(315〜400 nm)は基底層・有棘層に到達してメラニン産生を刺激し、色素沈着を引き起こします。UVC(190〜280 nm)は大気中のオゾン層に吸収されるため、地表には届きません。これが原則です。
フィッツパトリックのスキンタイプ分類(Ⅰ〜Ⅵ)とMEDの関係も理解しておく必要があります。日本人の多くはタイプⅢ〜Ⅳに分類されますが、同じスキンタイプ内でも個人差があり、MED値は必ずしも一致しません。スキンタイプはあくまで目安です。
看護roo!「光パッチテスト|皮膚科の検査③」(MED測定の手順と判定基準について詳述)
MED測定は人工紫外線照射装置を用いて行います。患者の背部に、段階的に照射量を変えて紫外線(主にUVB)を当て、翌24時間後に判定するのが基本的な流れです。意外と見落とされがちなのが「照射後の判定タイミング」で、中波長紫外線(UVB)は照射後24時間で紅斑が最大になりますが、波長によって最大紅斑出現時間が異なるため、波長を把握した上でタイミングを設定することが求められます。
測定の具体的な手順は以下のとおりです。
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①照射準備 | 照射装置のエネルギー量を段階設定(例:20・30・40・60・80・100 mJ/cm²) | 皮膚から一定距離を保って均等に照射する |
| ②照射部位 | 背部(皮膚炎症状のない部位)に各量を1箇所ずつ照射 | 皮膚炎がある部位は判定に影響するため避ける |
| ③待機 | UVB照射後、24時間待機 | その間は照射部位に直射日光・圧迫を避ける |
| ④判定 | 最小限の紅斑が出た照射量をMEDとして記録 | わずかな紅斑を見極める照明環境を整える |
臨床現場では電動式照射装置(メドオート2®など)や、透過率の異なるフィルターを測定孔に組み込んだUVスキンテクターなどが活用されます。これらを使えば照射量の再現性が高まります。これは使えそうです。
また、光線過敏症では1回の照射で反応が出ないことも少なくありません。その場合は2〜3 MEDを3日間連続照射して反応をみる「誘発試験(provocation test)」を行うこともあります。1回判定で終わらせないことが重要です。
実際の判定値の読み方について補足すると、たとえば「20 mJ/cm²では紅斑なし・30 mJ/cm²で初めて紅斑あり」であれば、そのMEDは30 mJ/cm²と判定します。日本人の正常範囲(60〜100 mJ/cm²)を下回っており、この場合は光線過敏症が強く疑われます。
北海道大学皮膚科学教室「光線過敏試験」(MED測定・誘発試験・光パッチテストの詳細手順)
MED測定を実施した場合の診療報酬算定は、D291「皮内反応検査、ヒナルゴンテスト、鼻アレルギー誘発試験、過敏性転嫁検査、薬物光線貼布試験、最小紅斑量(MED)測定」の区分で行います。
点数体系は次のとおりです。
重要な算定ルールは「1照射につき1箇所として算定する」という点です。MED測定では背部に複数の段階的照射を行うため、照射した箇所数がそのまま算定箇所数になります。たとえば6段階の照射量を用いた場合は6箇所として算定します。これが算定の基本です。
実際の臨床でよく生じる疑問として「同一日に薬物光線貼布試験とMED測定を行った場合はどうなるか」という点があります。この場合も、それぞれの照射箇所を合計した箇所数で算定します。両者を同一日に行う場合は照射箇所の管理に注意が必要です。
なお、日本アレルギー学会が発行した「皮膚テストの手引き2025」においても、MED測定の検査料はD291で算定すること、および算定の考え方が明記されています。検査前に担当する医事スタッフと共有しておくとスムーズです。
しろぼんねっと「D291 皮内反応検査・最小紅斑量(MED)測定」(算定点数・通知内容の確認に便利)
MED値は一定の値ではなく、患者が服用している薬剤によって大きく変動します。これが臨床上もっとも注意すべき点のひとつです。
光線過敏症を起こしやすい代表的な薬剤には以下のものがあります。
これらの薬剤を服用中の患者では、MEDが正常範囲を大幅に下回ることがあります。意外なことに、これらは日常診療でよく処方される薬ばかりです。光線療法(特にNB-UVB)を予定している患者の場合、併用薬の確認は必須です。
NB-UVB療法(ナローバンドUVB療法)におけるMEDの活用方法を具体的に確認しましょう。本邦の標準プロトコルでは、初回照射量はMEDの50%を使用します。仮にMEDが70 mJ/cm²と測定された患者であれば、初回照射量は35 mJ/cm²となります。2回目以降は紅斑が出なければ毎回20%ずつ増量し、1回の最大照射量は4 MEDを超えないようにします。
MED測定が困難な場合(例:照射装置がない、患者の状態が不安定)は、初回照射量を300 mJ/cm²に設定するという代替プロトコルがあります。ただしこの代替値はスキンタイプや薬剤影響を考慮していないため、個別MEDに基づく方法より安全性は劣ります。測定できる環境であれば測定するのが原則です。
光線療法の照射回数にも上限があります。NB-UVBでは総照射回数400回、総照射量400 J/cm²を超えないようにするのが目安とされており、長期的な皮膚発癌リスクを最小化するためにも、各照射量の記録と積算管理が重要です。照射回数の管理が条件です。
日本皮膚科学会・川田暁教授「ナローバンドUVBの光と影」(NB-UVB療法の照射プロトコルと副作用対策の詳細)
「MEDが低い=光線過敏症」と短絡的に捉えるのは危険です。臨床の現場では、光線過敏症ではなく「薬剤服用による一時的なMED低下」であるケースが相当数含まれています。この区別を正確に行うためには、測定値と患者背景を総合的に読み解く視点が求められます。
MEDが基準を下回っていたとき、まず確認すべき項目は以下のとおりです。
薬剤による光線過敏が疑われる場合は、まずその薬剤を中止し、MEDが正常値に回復するのを待ってから確定診断のための内服照射試験を行うことが推奨されています。MEDの回復を確認することが条件です。
もうひとつ見落とされやすい点として「慢性光線性皮膚炎(CAD)」があります。この疾患ではUVBのみならずUVAや可視光にまでMEDが低下するケースがあり、UVBだけのMED測定では全体像を把握できないことがあります。これは特に注意が必要です。CADが疑われる場合はUVA・可視光も含めた複数波長での光線照射試験が必要です。
紅斑の判定には照明環境も影響します。判定は明るい自然光または診察室の適切な照明下で行い、わずかな紅斑の有無を丁寧に観察することが求められます。薄暗い環境での判定はMEDの過大評価・過小評価につながります。厳しいところですね。
なお、測定部位も判定に影響します。体の部位によって紫外線感受性が異なり、一般に顔面・前腕内側は紅斑が出やすく、背部・上腕外側は標準的な感受性を示すとされています。そのため、MEDの標準的な測定部位は上背部か上腕外側が推奨されています。これが原則です。
光線過敏症の診断が確定した場合、患者への生活指導として「SPF30以上のサンスクリーンの使用」「UVカットウェアの着用」「光線を遮断する波長に応じた日常行動の見直し」が必要になります。原因波長によって対策が変わる点も患者に丁寧に伝えましょう。作用波長の確認が先決です。
MSDマニュアル プロフェッショナル版「皮膚光線過敏症を引き起こす主な薬剤または物質」(原因薬剤の一覧表として活用可能)