外用ステロイドをきちんと使っているのに、光線療法を始めると逆にかゆみが増す患者が3〜10回目に一時的に出ることがあります。
アトピー性皮膚炎の患者は、慢性的な掻破刺激によって、本来は真皮中層に存在するかゆみ伝達神経線維が表皮近くまで伸展していることが知られています。この神経線維の表皮内伸展が、些細な刺激でも強いかゆみを感じるという悪循環の根本にあります。光線療法(紫外線療法)はこの伸展した神経線維を退縮させ、密度を減らす作用を持っており、それがかゆみの改善につながります。これが基本です。
光線療法に使われる紫外線はいくつかの種類に分かれます。現在アトピー性皮膚炎の臨床現場で主流となっているのは、波長311±2nmのナローバンドUVB(NB-UVB)です。従来のブロードバンドUVBよりも有害な短波長をカットした、治療効果の高い帯域だけを使用するのが特徴です。もう一つの選択肢として波長308nmのエキシマライトがあり、こちらは局所型の照射デバイスです。さらに古典的なPUVA療法(ソラレン内服・外用+UVA照射)も存在しますが、光感作薬の使用や光老化リスクなどの欠点から、現在はNB-UVBに取って代わられています。
意外ですね。実はNB-UVBは皮膚科医の間でも「最後の手段」と思われているケースがまだ一部にありますが、日本皮膚科学会のアトピー診療ガイドラインでは、外用ステロイドでコントロール困難な症例に対するセカンドラインとして明確に位置づけられています。早期導入によってステロイドの使用量やランクを下げられる可能性があるため、積極的な活用が推奨されています。
照射の物理的なメカニズムとして、NB-UVBは真皮上層までをターゲットとし、皮膚の免疫調節に関わる樹状細胞(ランゲルハンス細胞)の機能抑制、Th2サイトカインの産生抑制、そしてT細胞のアポトーシス誘導を通じて抗炎症作用を発揮します。これらが複合的に働くことで、外用薬だけでは達成しにくいレベルのかゆみ・炎症コントロールが実現します。
認定NPO法人日本アレルギー協会:アトピー性皮膚炎のナローバンド療法(ナローバンドUVBの仕組みと臨床的位置づけについての解説)
臨床現場での最重要判断の一つが、ナローバンドUVBとエキシマライトのどちらを選ぶかです。つまり「照射範囲」で決まります。
ナローバンドUVBは全身型の大型機器で、日焼けサロンのような縦長パネルの前に立った状態で照射します。背部・体幹・四肢と広範囲に病変が分布するアトピー患者への第一選択となります。1回の照射は数分程度、着替えを含めても15分以内に終わるケースがほとんどです。アトピー性皮膚炎の患者では週1〜2回の頻度で通院し、3〜10回目から効果が出始め、合計20回程度を目安とするのが一般的です。
一方、エキシマライトはハンディ型デバイスで、医療者が手持ちで患部に直接当てる局所照射が可能です。1箇所あたりの照射時間は数秒〜1分程度と短く、照射エネルギーはNB-UVBより高出力です。「手掌や足底だけに頑固な病変が残る」「頭皮の一部に脱毛が局在する」といったピンポイント治療に向いています。エキシマライトは、NB-UVBで改善しなかった局所病変に追加で使用するという組み合わせも有効です。
📋 適応疾患の早見表
| 疾患 | 保険適用 | 推奨デバイス |
|------|----------|-------------|
| アトピー性皮膚炎 | ✅ | NB-UVB(広範囲)/ エキシマライト(局所) |
| 尋常性乾癬 | ✅ | NB-UVB |
| 尋常性白斑 | ✅ | エキシマライト(色素再生に優位な報告あり) |
| 掌蹠膿疱症 | ✅ | NB-UVB / エキシマライト |
| 円形脱毛症 | ✅ | エキシマライト |
| 菌状息肉症 | ✅ | NB-UVB |
顔面・頸部は原則として照射を行わず、照射中は必ずUVカットサングラスを着用させることが重要です。また、照射対象外の皮膚は遮光するのが原則です。
妊婦・授乳中の患者についても光線療法は対応可能であり、内服薬を使えない時期の代替療法として有用です。これは使えそうです。小児については一般に小学生以上を対象とするクリニックが多い傾向がありますが、施設方針によって異なります。
服部皮フ科クリニック:光線治療(2)全身型と局所型治療機の違い(NB-UVBとエキシマライトの詳細な使い分け解説)
光線療法の安全性について、患者から最もよく受ける質問が「がんにならないか」です。この点は医療従事者が正確に把握しておく必要があります。
PUVA療法は累積照射回数が増えるほど有棘細胞癌などのリスクが上昇することが歴史的データで示されており、国内での報告でも照射回数400回以上の症例での発がんが記録されています。これに対してNB-UVBは、動物実験ではPUVAよりも低い発がんリスクが示されており、20年以上にわたる臨床使用においても皮膚癌発症リスクが有意に上昇したという臨床報告は現時点では存在しません。ただし、長期・高累積線量での慎重なフォローは推奨されています。1回照射量の上限を2.8J/cm²、総照射量の目安を1,000J/cm²以下とする施設が多く、これは初回照射量0.5J/cm²で換算すると2,000回相当となります。つまり、適切な管理のもとで行えば、安全性は十分に担保されています。
短期的な副作用としては以下が挙げられます。
- 照射部位の紅斑(日焼け様反応):最も頻度が高く、数時間〜1日程度で消退
- 色素沈着:治療終了後、数ヶ月かけて改善
- ほてり・ヒリヒリ感:照射量が多すぎた場合に出現
- 水疱形成:過照射では起こりうるが、適切な照射量管理で防止可能
アトピー性皮膚炎では、開始後3〜10回目に一時的にかゆみや赤みが増強するケースがあります。これは治療反応の過程として起こりうる現象であり、中止せず照射量を調整しながら継続することが重要です。この点を患者に事前に説明しておくことが、治療継続率の向上につながります。
長期的な副作用としては光老化(シワ・シミの増加)が理論的には想定されますが、NB-UVBによる光老化促進の臨床的エビデンスは現時点では限定的です。
大木皮膚科:尋常性乾癬におけるナローバンドUVBの安全性・有効性(発がんリスクとPUVA比較のデータ解説)
実際の臨床での運用手順を把握しておくことで、患者への適切な説明と治療計画の立案がスムーズになります。
初回診察では症状の範囲と重症度の確認、これまでの治療歴の聴取、光線療法の適応判断、そして使用デバイスの選択を行います。肌タイプ(フィッツパトリック分類)も確認し、初回照射量(MED:最小紅斑量の70〜80%程度)を設定します。肌タイプが白いほど初回照射量は低く設定します。
照射量は毎回の治療後の皮膚反応を評価しながら段階的に増量するのが基本です。増量幅は前回照射量の10〜20%程度が標準で、紅斑が強く出た場合は増量を止め、あるいは減量します。最終的に「ちょうどよい治療量」に到達したら、その量を維持しながら照射を続けます。
治療頻度は週1〜2回が推奨されており、毎日照射しても効果が上がるわけではありません。これは忘れがちなポイントです。皮膚が紫外線に反応し免疫調整が完了するまでに時間が必要なため、適切なインターバルを確保することが重要です。効果判定は概ね30回を目安にします。
症状が安定・寛解した後は、外用薬と同様にプロアクティブ療法の考え方を適用し、月1〜2回の「維持照射」を行うことで再燃を防ぐことができます。これは実臨床での継続的なコントロールにも有効なアプローチです。
治療前の外用薬は特に中止する必要はなく、ステロイド外用や保湿剤との併用は問題ありません。ただし、感光性薬剤(テトラサイクリン系抗菌薬、チアジド系利尿薬、フルオロキノロン系など)を内服中の患者では照射前に確認が必要です。
保険診療として光線療法を提供できることは、患者の治療継続性に直結します。費用の透明性を正確に把握しておくことが重要です。
光線療法(紫外線療法)はアトピー性皮膚炎をはじめとした保険適応疾患に対して、健康保険が適用されます。3割負担の患者であれば1回の処置料は約1,000円程度(再診料等は別途)が目安です。2割負担では約680円、1割負担では約340円となります。照射範囲の広さや機器の種類によって点数が異なりますが、いずれにせよ高額にはなりません。
一方で、現在アトピー性皮膚炎の重症例に使われている生物学的製剤(デュピクセント等)は、3割負担の場合、初回2本で約21,000円、以後1本ごとに約10,700円が目安となります。月額に換算すると2万円前後の自己負担が継続することになります。光線療法は週1〜2回の通院が必要というデメリットはありますが、費用面での患者負担は圧倒的に少なくなります。
💰 費用比較の目安(3割負担の場合)
| 治療法 | 1回あたりの目安費用 | 月あたりの目安費用 |
|--------|---------------------|-------------------|
| 光線療法(NB-UVB) | 約1,000円 | 約4,000〜8,000円(週1〜2回) |
| デュピクセント | 約10,700円(2回目以降) | 約10,700〜21,400円 |
| JAK阻害薬(内服) | 施設・薬剤により異なる | 施設・薬剤により異なる |
光線療法は通院頻度が高い分、患者のアドヒアランスが問われます。職場や学校に近い皮膚科での治療継続が現実的かどうかを、治療開始前に確認しておくことが脱落防止の観点から重要です。週2回の通院が難しい場合でも、週1回でも一定の効果は得られるため、患者の生活スタイルに合わせた柔軟な設定が実臨床では求められます。
また、光線療法は単独でも使いますが、ステロイド外用薬との併用で相乗的な効果が期待できる場合があります。塗り薬だけではコントロールが難しかった患者に対して、「外用薬+光線療法」という組み合わせを提案することで、ステロイドのランクを下げられるケースがあります。これは長期的な外用副作用(皮膚萎縮など)のリスク管理にもつながる重要な視点です。
日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(光線療法の位置づけ・推奨度・併用療法の根拠が記載されています)

Visual Dermatology Vol.19 No.5 特集:『光線療法使いこなしガイド-症例と最新情報』 (ヴィジュアルダーマトロジー)