泡立てが不十分だと、手洗い後でも菌が1万個以上残ることがある。
「よく泡立てて洗いましょう」という指導は看護現場で日常的に行われていますが、その理由を正確に説明できるスタッフは意外と少ないものです。泡立ての重要性は、石鹸の主成分である「界面活性剤」の働きに直結しています。
界面活性剤の分子は、水になじみやすい「親水基」と油になじみやすい「疎水基」の2つを持っています。この分子が一定以上の濃度に達すると「ミセル」と呼ばれる集合体を形成し、そのミセルが皮脂や汚れを内側に取り込んで水で流せる状態にします。つまり、洗浄力が発揮される濃度と泡が立ち始める濃度はほぼ同じです。
泡が立っている=洗浄力があると判断できるということですね。
さらに泡には、皮膚のしわや毛穴の奥まで入り込む力があります。泡がクッションとなることで摩擦が軽減され、皮膚へのダメージを最小限に抑えながら汚れを浮かび上がらせることができます。泡の体積が増すことで少量の洗浄剤でも広い面積をカバーでき、皮膚に接触する洗浄剤の濃度が希釈されるため刺激も減ります。
厚生労働省のデータによると、ハンドソープで60秒もみ洗いしたあとに流水で15秒すすいだ場合、手洗いなしと比べてウイルスの残存数は約100万個から数十個にまで減少します。一方、流水のみの15秒手洗いでは約1万個が残り、ハンドソープで10〜30秒の短時間洗いでも数百個程度です。泡立てと洗浄時間のセットが感染リスクを大きく左右します。これは使えそうです。
また、泡立てて洗うことですすぎ後に皮膚へ残留する洗浄成分が減ることも研究で示されており、手荒れ予防にもつながります。よく泡立てることは、汚れを落とすだけでなく、皮膚を守るためにも不可欠な行為なのです。
参考:石けん・ボディソープの泡立てと効果との関係について(福井大学医学部 月田佳寿美准教授による解説、日本医事新報社)
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_11264
「泡立てる」とひとことで言っても、現場の状況によって使える道具は異なります。泡の質は「逆さにしてもポタポタ落ちてこない」状態が目安で、泡の角が立つくらいのきめ細かさが求められます。この状態の泡は、ハガキ(約10cm×15cm)の表面をすべて覆えるくらいのボリュームを両手で作ることを意識してください。
現場で活用できる泡立て方は主に4通りです。
| 方法 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ① 泡タイプの石鹸(ポンプ式) | 最初から泡状で出てくるため手間が省ける | 手指衛生・陰部洗浄・在宅ケア |
| ② 泡立てネットを使う | 固形・液体石鹸でもきめ細かい泡が短時間で作れる | 清拭・スキンケア補助 |
| ③ ビニール袋を使う | 液体石鹸と微温湯を入れ、空気を含ませて上下に振る | ベッドサイドでの褥瘡周囲洗浄 |
| ④ ペットボトルを使う | 液体石鹸と微温湯を入れて上下に振り、洗面器に移す | 在宅・訪問看護での傷周囲洗浄 |
ビニール袋を使う場合は、最初に大きく空気を入れた状態でざっと振り、次に袋の空気を3分の1程度に減らしてから1分ほど素早く上下に振ると、きめ細かいクリーミーな泡が完成します。途中で水を足すと泡が粗くなるため、水の量は最初に決めておくことが条件です。
泡立ての途中で水を足してはいけません。
固形石鹸を手で直接こすって泡立てようとすると、皮膚との摩擦が生じ、特にバリア機能が低下した患者の皮膚を傷つけるリスクがあります。必ず事前に泡を作ってから皮膚に乗せるという手順を守ることが原則です。泡を皮膚に「置く」イメージで洗浄することで、摩擦によるダメージを防げます。
参考:洗浄に適した泡ってどんなもの?良い泡と悪い泡の違いと作り方(ナース専科)
https://knowledge.nurse-senka.jp/227670/
那須赤十字病院(460床・栃木県大田原市)の感染管理認定看護師によるタイムスタディでは、液体タイプの石鹸を使用していた時代、多くの看護師が石鹸を十分に泡立てずに手洗いを済ませていたことが明らかになりました。その後に実施した手の培養検査では、手洗い後にもかかわらず多くの菌が検出されるという結果が出ています。これは厳しいところですね。
この調査がきっかけとなり、同病院では泡タイプの石鹸(ホイップウォッシュ無香)の導入が決定されました。泡タイプへの切り替えにより、スタッフが自然と適切な量の泡を使うようになり、手肌への優しさについても改善が確認されています。
WHOが推奨する「手指衛生の5つのタイミング」も、手洗いの質(=泡立ての十分さ)が担保されてはじめて機能します。5つのタイミングは次のとおりです。
石けんと流水による手洗いが特に必要な場面として、ノロウイルスやクロストリジウム・ディフィシルなどアルコール抵抗性の微生物に曝露した可能性がある場合が挙げられます。アルコール消毒だけでは不十分なケースがあることを覚えておくと現場での判断に役立ちます。
手洗い時のお湯の使用も要注意です。
熱いお湯を使った頻繁な手洗いは皮膚の皮脂を奪い、手荒れを促進させます。手荒れが起きた皮膚はひび割れ部分から菌が侵入しやすくなり、洗浄の効果も低下します。水温は人肌程度(38℃前後)を基準にし、洗浄後はペーパータオルで優しく押さえ拭きすることが重要です。手洗い後のハンドケアも感染対策の一部として位置づけると大丈夫です。
参考:手洗いの時間・回数による効果(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105095.pdf
褥瘡周囲の皮膚洗浄において、石鹸の泡立て方は治癒を左右するほど重要なポイントです。褥瘡周囲の皮膚は、肉眼で浸軟(皮膚がふやけた状態)が見られなくても、経皮水分蒸散量(TEWL)の値が高くバリア機能が低下しているケースが多く見られます。この状態で摩擦を加えると、さらに皮膚を傷つけることになります。
泡が果たす役割は2つです。
まず、泡がクッションとなることで皮膚への摩擦を大幅に軽減します。次に、十分に泡立てて使うことで洗浄剤の残留量が少なくなることがわかっています。石鹸成分が皮膚に残ると真菌や細菌の栄養源となり感染リスクが高まります。つまり泡立てることは、洗浄力を上げながら皮膚刺激を下げる、一石二鳥の行為です。
洗浄剤の選択も重要です。
健常な皮膚は石鹸(pH9〜11のアルカリ性)を使用しても、2〜3時間以内に皮膚本来の弱酸性(pH4〜6.5)に戻る「緩衝作用」があります。ところが皮膚が脆弱な患者ではこの緩衝作用が弱まっており、アルカリ性洗浄剤の刺激が残りやすくドライスキンが悪化します。高齢患者や褥瘡患者には、弱酸性洗浄剤を選択するほうが望ましいということですね。
洗浄手順の基本は、①38〜40℃の微温湯で予洗い、②あらかじめ作った泡を皮膚に「乗せる」ように置く、③グローブをつけた手で愛護的に洗浄する、④微温湯で十分に流すという順番です。「こすって汚れを取る」という感覚を手放し、「泡に汚れを吸着させて流す」という考え方に切り替えることが大切です。
参考:褥瘡周囲皮膚と創部の洗浄方法|洗浄剤・石鹸の使い分けなど(アルメディアウェブ)
https://www.almediaweb.jp/pressureulcer/maruwakari/part7/02.html
看護師が患者や家族に泡立ての方法を教える場面は、退院指導や在宅ケアの場でも頻繁に発生します。しかしここで問題になるのが「正しく伝えたつもりでも、家に帰ると元の雑な泡立てに戻ってしまう」という現象です。これは多くの訪問看護師や皮膚・排泄ケア認定看護師が現場で感じている課題です。
ここで有効なのが「泡育て」という概念の導入です。
泡を作る行為を「育てる」と表現することで、患者の意識が変わります。「時間をかけて丁寧に空気を含ませながら泡を作る」という行動が、手を抜きにくいルーティンとして定着しやすくなるのです。在宅看護においては、泡立てネットとペットボトルを使った方法が特に有効で、「ペットボトルを30秒以上振り続けて逆さにしても落ちない泡を作る」という具体的な目標を伝えると患者も実践しやすくなります。
患者指導での泡立て確認は1回だけでは不十分です。
退院指導時に1回手順を見せて終わりにするのではなく、患者に実際にやってもらいその泡を手のひらに乗せて逆さにして確認するというフィードバックの場を設けることで、習得度が大きく変わります。アトピー性皮膚炎などの慢性疾患を持つ患者では、泡立ての質が皮膚症状の悪化・改善に直接影響することを伝えると、患者のモチベーションも上がります。
また、泡タイプのポンプ式石鹸の活用も患者指導の場面で積極的に紹介できます。泡が最初から出てくるため泡立て手順が不要で、高齢者や手の力が弱い患者でも適切な量の泡を使いやすいです。セルフケア能力が低下した患者にはこの選択肢が一番現実的です。退院後の在宅ケアで使用する洗浄剤の種類と泡立て方法をセットで確認してから退院させることが理想的な患者指導の形です。
参考:洗浄剤を使ったほうがよい場合と使わないほうがよい場合(ナース専科)
https://knowledge.nurse-senka.jp/500551