「セラミド配合」と書かれた化粧品を患者さんに勧めているとしたら、その製品にセラミドNGが入っていない可能性があります。
セラミドNGは、ヒトの角質層にもともと存在するセラミドと同じ化学構造をもつ「ヒト型セラミド」の一種です。正式には皮膚科学名「セラミドNDS(Ceramide NDS)」に相当し、スフィンゴイド塩基の「ジヒドロスフィンゴシン(DS)」にノンヒドロキシ脂肪酸(N)がアミド結合した構造をしています。かつては「セラミド2」という名称で知られていましたが、2014年にINCI(国際化粧品原料命名法)が改定され、現在は「セラミドNG」が正式な化粧品表示名として採用されています。
重要な点は、化粧品の成分表と医薬部外品の成分表では表記が異なるということです。化粧品として配合されている場合は「セラミドNG」と表示されますが、医薬部外品として配合されると「N-ステアロイルジヒドロスフィンゴシン」という全く別の名称になります。つまり同じ成分でも製品の区分によって名前が変わるため、成分表の読み方に慣れていないと見落としやすくなります。
セラミドNGが角質層で果たす役割は特徴的です。細胞間脂質の約11%(セラミドNDSとして)を占め、疎水層と親水層が交互に重なる「ラメラ液晶構造」の形成に貢献します。特にセラミドNGは、水分保持能力の強化とバリア機能の補修という2つの作用が確認されています。他のヒト型セラミドと比較すると、セラミドNGは「保水力に優れている」という特徴があり、乾燥対策や肌荒れ予防を目的としたスキンケアに向いているとされています。
また、セラミドNGは毛髪中にも存在します。毛髪のセラミド組成は主にセラミドNDS(化粧品表示名:セラミドNG)が約68%を占め、残りをセラミドNS、セラミドADS、セラミドASが構成しています。これはシャンプーやトリートメントへの配合が多い理由のひとつでもあります。
化粧品成分オンライン:セラミドNGの基本情報・配合目的・安全性(ラメラ液晶構造・配合目的・安全性の詳細データを参照可)
「セラミド配合」と謳われた化粧品であっても、実際にセラミドNGが含まれていないケースが少なくありません。これは化粧品分野で非常に重要な落とし穴です。
化粧品に配合されるセラミドには、大きく分けて4種類があります。ヒト型セラミド、天然セラミド(動物・植物由来)、そして疑似セラミド(合成セラミド)です。ヒト型セラミドはヒトの肌にある構造と同一のものを酵母などを使って合成したものですが、疑似セラミドはセラミドに「似せた」構造の化合物であり、厳密にはヒトのセラミドとは異なります。つまり保湿効果の高さに差があります。
成分表示での見分け方は比較的シンプルです。化粧品の全成分表示において、以下の表記があればヒト型セラミドが含まれていることを意味します。
| 化粧品表示名(新) | 旧表示名 | 医薬部外品表示名 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| セラミドNG | セラミド2 | N-ステアロイルジヒドロスフィンゴシン | 保水力に特に優れる |
| セラミドNP | セラミド3 | N-ステアロイルフィトスフィンゴシン | 外部刺激から肌を守る |
| セラミドEOP | セラミド1 | — | ラメラ構造を安定化・ハリを与える |
| セラミドAP | セラミド6Ⅱ | N-ステアロイルフィトスフィンゴシン(別名) | エイジングケア向き |
疑似セラミドの代表例は「ヘキサデシロキシPGヒドロキシエチルヘキサデカナミド」で、この表記が成分表にある場合はヒト型ではありません。キュレルなどに配合されているのもこの疑似セラミドであることが、SNSや美容メディアでしばしば話題になります。
疑似セラミドが一概に「効果がない」わけではなく、安価で高濃度に配合できるメリットがあります。ただし、構造がヒトのセラミドと異なるため、ラメラ液晶構造の再現性がヒト型と比べて低く、バリア機能の修復効果に差があるとされています。医療従事者として患者さんにスキンケアを提案する場合は、この違いを踏まえた上で製品を選ぶことが重要です。
シェルシュール(医学博士監修):ヒト型セラミドの見極め方——成分表記の具体例と天然・疑似セラミドとの比較を詳しく解説
セラミドNGを含む角質層のセラミド構成は、皮膚疾患の病態と密接に関係しています。これは皮膚科診療の現場でも注目すべきポイントです。
アトピー性皮膚炎(AD)の患者では、健常肌と比較して角質層のセラミド総量が著しく低下していることが複数の研究で確認されています。特に注目されているのは、セラミドのクラス組成変化です。2023年に大分大学と花王が発表した研究では、ADの角質層セラミドプロファイルが疾患の寛解指標として活用できる可能性が示されました。さらに2025年12月の研究では、加齢に伴いアトピー素因者の角層脂質レベルが変化することも報告されています。
また、2023年に花王が発表した研究では、バリア機能が低下した敏感肌では、アトピー性皮膚炎の肌とセラミドプロファイルが類似していることが確認されました。これは「敏感肌」と「アトピー性皮膚炎」の境界が、セラミド組成の観点から連続的にとらえられることを示唆しています。
セラミドNGの保水機能という観点でも重要な知見があります。1999年に高砂香料工業が行った研究では、3%濃度のセラミドNGベシクル溶液がモデル角質層脂質膜のバリア機能とほぼ同等のバリア能を示し、光学活性体(D-erythro体)のみが効果を発揮することが報告されました。つまりラセミ体(光学異性体の混合物)では効果が劣るという重要な事実があります。これは製品の品質評価にも直結します。
セラミドNGを含むヒト型セラミドを補充するアプローチは、アトピー性皮膚炎の補助的スキンケアとして有用とされています。2021年に発表されたランダム化比較試験(Spada et al.)では、セラミドを主成分とする保湿クリームの毎日使用が中等度湿疹患者の皮膚バリアを有意に改善したことが示されています。患者指導においてもエビデンスに基づいた製品の推奨が重要です。
日本生化学会:セラミドによる皮膚バリア形成——アトピー性皮膚炎とセラミドの関係・角質層でのラメラ構造形成機序の詳細
ここでは、医療従事者がほとんど知らない視点から製品選択を考えます。セラミドNGはそれだけで配合されても、ほとんど効果を発揮しないという事実があります。
セラミドは非常に結晶性が高い物質で、単独では油性基剤にも水性基剤にも溶けにくいという性質があります。これが化粧品開発における最大の障壁のひとつです。セラミドNGが角質層のラメラ液晶構造を再現するためには、同じく細胞間脂質を構成するコレステロールや脂肪酸と組み合わせて配合し、ラメラ構造を形成した状態で皮膚に届ける必要があります。この点が重要です。
実際の製品設計では、セラミドNGをコレステロールと組み合わせたベシクル(小胞体)として処方する方法が有効とされています。このベシクルがラメラ液晶構造を形成した状態で皮膚表面に塗布されることで、角質層へのなじみやすさが高まり、保湿効果と修復効果が発揮されます。成分表にセラミドNGが含まれていても、コレステロールや脂肪酸が同時に配合されていない製品は、セラミドNGが十分に機能していない可能性があります。
製品を見るときの判断基準は「セラミドNG、コレステロール、脂肪酸(またはセラミドNG複合成分)」の3つが揃っているかどうかを確認することです。これだけ覚えておけばOKです。
また、配合位置も確認ポイントになります。成分表示は配合量が多い順に記載されるルールです。セラミドNGが成分表の後半(特に後ろから数番目)に位置している場合、配合量は極めて少ない可能性が高くなります。一般的に有効とされる濃度は製品によって異なりますが、0.01%以下の配合では体感できるほどの効果が得られにくいとされています。
| 確認ポイント | チェック内容 |
|---|---|
| ✅ ヒト型セラミドの表記 | 「セラミドNG」または「N-ステアロイルジヒドロスフィンゴシン」の記載を確認 |
| ✅ ラメラ構造の相棒成分 | コレステロール・脂肪酸・ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの記載 |
| ✅ 成分表の記載順位 | 成分表の前半~中盤に位置しているか(後ろすぎると配合量が少ない可能性) |
| ✅ 光学活性体かどうか | 製品仕様書に「D-erythro体」の記載があれば効果が高い原料を使用している |
DSR研究所(note):セラミドには相棒が必要——ラメラ構造を形成するための成分組み合わせの解説
医療従事者が患者さんのスキンケアを指導する際、セラミドNG配合化粧品の種類と使い分けを理解しておくことは非常に有用です。製品の剤形によって期待できる効果の出方が異なります。
まず化粧水(ローション)タイプは、水分補給と成分の浸透を主目的としています。セラミドNGが化粧水に配合されている場合、角質層の保水能を高める効果があります。ただし水溶性の基剤に溶けにくいセラミドNGを安定配合するには技術的な工夫が必要であり、単純な水溶液として配合されているケースは実は少ないです。美容液タイプや乳液タイプとの併用が効果的です。
美容液タイプは有効成分を高濃度で配合しやすく、セラミドNGを含むヒト型セラミドを効率的に補給する目的に向いています。乾燥が強い患者や、アトピー性皮膚炎の患者が安定期のスキンケアに取り入れる場合、ヒト型セラミドを複数種類(セラミドNGとセラミドNPを組み合わせるなど)配合した美容液が選択肢になります。
クリームタイプは油分を多く含むため、セラミドNGを安定配合しやすく、かつ蓋をするような保護膜の役割も果たします。特に皮膚のバリア機能が著しく低下している患者では、化粧水→美容液→クリームの順で重ねづけする「セラミドレイヤリング」の考え方が有効です。
患者指導で伝えるべきポイントは、「継続的な使用」と「洗いすぎに注意すること」の2点です。化粧品によるセラミド補充は即効性があるものではなく、継続することで角質層のラメラ構造が整っていきます。また、洗浄力が強すぎる洗顔料や、頻繁なピーリングはセラミドを含む細胞間脂質を流出させるリスクがあります。石けんや一般的な洗顔料を使うと一時的にpHが上昇し、バリア機能が一過性に低下することもアトピー性皮膚炎の診療ガイドラインで指摘されています(日本アレルギー学会 2024年版)。
セラミド配合製品の選択に迷ったときは、成分表示で「セラミドNG」「セラミドNP」などヒト型セラミドの表記があり、かつコレステロールが同時に配合されている製品を優先するのが基本です。これが条件です。
日比谷スキンクリニック:セラミドの種類と作用の違い——ヒト型・疑似・植物性の分類から患者指導への応用まで皮膚科専門医が解説