ソルラクト輸液のカロリーと栄養管理を正しく理解する方法

ソルラクト輸液のカロリーはゼロである事実を医療従事者は把握していますか?ソルラクトDとの違い、乳酸代謝リスク、術中・術後の輸液設計まで、現場で役立つ知識を徹底解説します。

ソルラクト輸液のカロリーと栄養管理を正しく理解する

ソルラクト輸液を1,000mL投与しても、患者の体重は1gも増えない。


この記事の3ポイント
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ソルラクト輸液のカロリーはゼロ

ソルラクト輸液(乳酸リンゲル液)は糖質を一切含まないため、250mL・500mL・1,000mL、どの規格でも熱量は0kcalです。カロリーがあるのはブドウ糖を加えた「ソルラクトD輸液」のみで、500mLで100kcalです。

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ソルラクトDでも1日の必要カロリーには程遠い

成人の1日の安静時必要エネルギーは最低1,400〜1,600kcal程度。ソルラクトD輸液(500mL)は100kcalで、おにぎり約半個分。輸液だけで必要栄養量を賄おうとすること自体、そもそも不可能な設計です。

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肝障害患者では乳酸アシドーシスのリスクがある

ソルラクト輸液に含まれるL-乳酸ナトリウムは肝臓で代謝されます。重篤な肝障害があると代謝が滞り、血中乳酸濃度が上昇して乳酸アシドーシスを悪化させる可能性があります。


ソルラクト輸液のカロリーがゼロである理由と組成の基本

ソルラクト輸液(一般名:乳酸リンゲル液)は、細胞外液補充を主な目的として設計された等張電解質輸液です。有効成分は塩化ナトリウム・塩化カリウム・塩化カルシウム水和物・L-乳酸ナトリウム液の4種のみで構成されており、ブドウ糖などの糖質をまったく含みません。そのため、500mLであっても1,000mLであっても、熱量(カロリー)は0kcalです。


電解質補充が目的であるという点が原則です。


現場でときどき見られる誤解のひとつが「透明な輸液ならカロリーがあるかもしれない」という思い込みです。しかし輸液の外観は栄養の有無を示しません。ソルラクト輸液は電解質濃度が体液に近く設計された「細胞外液補充液」であって、エネルギー源としての役割は担っていないのです。


ソルラクト輸液(500mL)の組成を表に整理します。


電解質成分 500mL中の含量
Na⁺ 65.5mEq
K⁺ 2mEq
Ca²⁺ 1.5mEq
Cl⁻ 55mEq
L-Lactate⁻ 14mEq
熱量 <strong>0kcal


L-乳酸ナトリウムは体内に入ると肝臓を中心に代謝を受け、重炭酸イオン(HCO₃⁻)に変換されます。この反応によって代謝性アシドーシスを補正する働きを持つのが、ソルラクト輸液が「ただの生理食塩水では不十分」な場面で選ばれる理由です。L-乳酸ナトリウムは「栄養」ではなく、あくまで「pH調整・アシドーシス補正の担い手」として機能します。


浸透圧比は生理食塩液に対して約0.9とほぼ等張で、pHは6.0〜7.5の範囲に調整されています。わずかに低張であることで過剰なナトリウム負荷を避ける観点では有利に働く一方、低張液による電解質変動リスクにも注意が必要です。


ソルラクト輸液は処方箋医薬品(承認番号:21900AMX01677)であり、1987年10月に販売開始された実績ある製剤です。室温保存で有効期間は3年です。


ソルラクト輸液の添付文書(テルモ株式会社)に組成・効能効果の詳細が記載されています。


ソルラクト輸液 添付文書(テルモ株式会社)PDF


ソルラクト輸液とソルラクトD輸液のカロリー・組成の違いと使い分け

ソルラクト輸液とソルラクトD輸液は名前がよく似ていますが、カロリー面での差は明確です。最も重要な違いは「ブドウ糖の有無」で、これが効能効果の範囲にまで影響します。


製剤名の「D」の有無が大きな分かれ目です。


製剤名 ブドウ糖含量(500mL中) 熱量(500mL) 浸透圧比
ソルラクト輸液 なし 0kcal 約0.9
ソルラクトD輸液 25.0g 100kcal 約2


ソルラクトD輸液はブドウ糖を25g(500mL製剤)含有しており、ブドウ糖由来の熱量として100kcalを提供できます。250mL製剤では12.5gのブドウ糖で50kcalです。電解質組成はソルラクト輸液とほぼ同じですが、ブドウ糖の追加により浸透圧比が約2まで上昇しているため、血管刺激や投与速度の管理に注意が必要です。


ソルラクトD輸液の効能効果には「エネルギーの補給」が追加されており、添付文書の用法用量には「投与速度は通常成人ブドウ糖として1時間あたり0.5g/kg体重以下とする」と明記されています。体重50kgの患者であれば1時間あたり最大25gまで、つまり500mL製剤をおよそ1時間以上かけて投与する計算になります。これに対しソルラクト輸液の投与速度は「1時間あたり300〜500mL」と定められており、速度管理の基準そのものが異なります。


つまり、同じ「ソルラクト系」でもブドウ糖の有無によって、適応・投与速度・代謝的な注意点がすべて変わってきます。


また、糖尿病患者へのソルラクトD輸液投与には「血糖値が上昇することにより症状が悪化するおそれがある」と添付文書に警告があり、慎重な血糖モニタリングが不可欠です。ソルラクト輸液であれば糖質ゼロのため、この問題は生じません。糖尿病患者の術中・術後管理でソルラクト輸液が選ばれやすい理由の一つがここにあります。


使い分けの基本方針は次の通りです。


  • 細胞外液の補充・補正のみが目的の場合 → ソルラクト輸液(0kcal)
  • 電解質補充+エネルギー補給の両立が必要な場合 → ソルラクトD輸液(100kcal/500mL)
  • 糖尿病患者や高血糖リスクのある患者への急速輸液 → ソルラクト輸液を選択


KEGG医薬品情報にソルラクトD輸液(500mL)の組成・効能効果の詳細が掲載されています。


KEGG 医療用医薬品情報 ソルラクトD輸液(500mL)詳細


ソルラクト輸液のカロリーゼロが引き起こす栄養不足リスクと対策

「点滴をしているから栄養が摂れている」という誤解は患者・家族だけでなく、医療現場においても「とりあえず維持輸液を継続」という漫然とした処方につながることがあります。実際のカロリー収支を正確に把握しておくことは、患者の栄養管理において非常に重要です。


ソルラクト輸液はカロリーゼロです。


仮にソルラクトD輸液(500mL)を1日3本投与したとしても、得られるカロリーは300kcalにとどまります。成人の安静時エネルギー必要量は最低でも1,400〜1,600kcal/日程度とされており、3本分の300kcalはコンビニのおにぎり約1〜2個分のエネルギーに相当するにすぎません。これは痛いですね。


経口摂取ができない状態で末梢輸液のみを継続していると、急速に低栄養が進行します。骨格筋のタンパク質が異化に回され、筋肉量が減少するいわゆる「サルコペニア」が加速するのです。特に高齢者や元々の栄養状態が不良な患者では、入院後わずか数日で嚥下機能や身体機能に悪影響が出ることがあります。このような状態は「医原性サルコペニア」とも呼ばれ、回復の遅延・転院先での長期療養につながりやすいことが報告されています。


なお、2g/kg/日の糖質投与によって「糖新生を抑制し筋肉の分解を緩和する効果(protein-sparing効果)」が期待できるとされています。体重50kgの患者であれば1日100gの糖質、カロリーに換算して約400kcalが目安になります。ただし、ソルラクトD輸液で400kcalを確保しようとすると、500mLを4本投与する計算になり、1日必要量の25〜30%程度にしかなりません。400kcalが最低ラインと覚えておけばOKです。


経口摂取が安定しない場面では、ビーフリード®(アミノ酸+糖質含有末梢静脈栄養輸液)の導入を検討することになります。ビーフリード®は500mL1本あたり約210kcalを提供でき、アミノ酸も含まれているため筋肉の異化抑制により直結します。さらに積極的な介入が必要な場合は、中心静脈栄養(TPN)への移行も視野に入ります。


食事量と輸液の目安として、現場で広く共有されているのが以下の基準です。


食事摂取量 補液の目安
7割〜全量 維持輸液は原則不要
3〜6割 維持液を1本/日追加
1〜2割 維持液を2本/日追加
全く摂れない 維持液を3本/日+栄養補充を検討


経口摂取量を常にモニタリングし、漫然とした輸液継続を避けることが基本です。栄養管理の方針を早期に管理栄養士・NST(栄養サポートチーム)と連携して立てることが、患者の早期回復と在院日数の短縮につながります。


国際親善総合病院 NSTだよりに点滴とカロリーの関係がわかりやすく解説されています。


国際親善総合病院「点滴とカロリー」(栄養サポートチームNSTだより, 2018年)


ソルラクト輸液と乳酸代謝:肝障害患者で生じる乳酸アシドーシスリスク

ソルラクト輸液が細胞外液補充の第一選択として評価される理由のひとつが、L-乳酸ナトリウムによる代謝性アシドーシス補正効果です。しかしこの「長所」が、特定の患者群では「リスク」に転化することを必ず押さえておく必要があります。


L-乳酸ナトリウムは主として肝臓で代謝されます。


具体的なメカニズムとしては、L-乳酸ナトリウムが肝細胞内でピルビン酸を経てエネルギー代謝に組み込まれ、最終的に重炭酸イオン(HCO₃⁻)を産生します。この反応により血液のpHが上昇し、代謝性アシドーシスが補正されます。大量生理食塩水を急速投与した際に生じる「高クロール性代謝性アシドーシス」を予防できる点でも、ソルラクト輸液(乳酸リンゲル液)は急速輸液の場面で広く使用されています。


ところが、重篤な肝障害がある患者ではこの代謝ルートが機能不全に陥ります。肝臓でのL-乳酸代謝が滞ると、血中乳酸濃度が上昇し、むしろ乳酸アシドーシスを悪化させる方向に働くことがあります。pH低下と乳酸蓄積の悪循環は、腎不全・循環不全が重なるとさらに加速します。


こうしたリスクがある患者への代替選択肢として、酢酸リンゲル液(フィジオ140®やヴィーン®Fなど)が挙げられます。酢酸は肝臓だけでなく骨格筋でも代謝されるため、肝機能低下時にも比較的安全に使用できる点が乳酸との大きな違いです。「乳酸で代謝できないなら酢酸へ」という切り替えの判断基準は、ICU・手術室・救急現場でも即座に使える知識です。


乳酸リンゲル液の使用が禁忌または慎重投与となる代表的な状況は以下の通りです。


  • 🚫 重篤な肝障害:乳酸代謝不全→乳酸アシドーシスリスク(慎重投与または禁忌)
  • 🚫 高カリウム血症:K⁺(2mEq/500mL)含有による悪化リスク
  • 🚫 高カルシウム血症:Ca²⁺(1.5mEq/500mL)含有による悪化リスク
  • 🚫 心肺停止時:高カリウム血症の可能性が高く、生理食塩水を優先
  • ⚠️ 腎不全:水分・電解質過剰のリスク(投与量に注意)
  • ⚠️ 心不全:循環血液量増加による心臓負荷悪化リスク


なお、乳酸リンゲル液は糖尿病ケトアシドーシス(DKA)においても、生理食塩水と少なくとも同等の有効性を示すとされています(Van Zyl, et al. QJM. 2012)。DKAでは高血糖が懸念されてソルラクトD輸液は避けますが、糖質ゼロのソルラクト輸液であれば使用を検討できる場面があります。


乳酸代謝は肝機能に依存するということです。


ケアネットの医薬品データベースにソルラクトTMR輸液の禁忌・慎重投与事項が掲載されています(乳酸リンゲル系製剤共通の注意点を確認できます)。


ケアネット 医療用医薬品検索 ソルラクトTMR輸液(禁忌・慎重投与事項)


ソルラクト輸液のカロリー管理と術中・術後の輸液設計の考え方

周術期の輸液設計において、「循環血液量の確保」と「カロリー補充」は根本的に目的が異なります。ソルラクト輸液はあくまで細胞外液補充液であり、栄養補充ラインとは切り離して考えることが輸液設計の出発点です。


これが原則です。


術前に維持輸液(ソルデム3Aなど)からソルラクト輸液に切り替える指示が出ることがよくあります。その理由は、術中には出血・サードスペースへの体液移行・麻酔による血管拡張などにより、循環血漿量が急速に低下するリスクがあるためです。ソルラクト輸液のような細胞外液補充液を投与すると、投与量の約25%が血管内に、残りの約75%が組織間液側に移行する分布特性を持ちます。これが「細胞外を満たす輸液」として術中に選ばれる理由です。


一方でカロリーゼロという特性は、絶飲食管理においてデメリットとなり得ます。術後に経口摂取が進まない時期が長引いた場合、ソルラクト輸液のみを継続しているとエネルギー供給がまったく行われない状態が続くことになります。


近年注目されているのが「目標指向型輸液療法(Goal-Directed Fluid Therapy:GDT)」という考え方です。従来の体重ベースで一律に投与量を決める方式から脱し、1回拍出量変動(SVV:Stroke Volume Variation)や心拍出量をリアルタイムでモニタリングしながら必要なタイミングで必要量を投与する方法です。過剰輸液による縫合不全・腸管蠕動遅延・呼吸不全のリスクを最小化できるとされており、術後早期回復を促す「EARSプロトコル(Enhanced Recovery After Surgery)」とも高い親和性を持ちます。


目的 適した輸液 カロリー供給
循環血液量の補充・維持 ソルラクト輸液(乳酸リンゲル) 0kcal
電解質+エネルギー補充 ソルラクトD輸液 100kcal/500mL
アミノ酸+エネルギー補充(PPN) ビーフリード®など 約210kcal/500mL
本格的な栄養補充(TPN) 高カロリー輸液製剤 1,000〜2,000kcal/日


また、絶飲食時にビタミンB1を補充しないまま糖質輸液を継続するとウェルニッケ脳症を発症するリスクがあることも忘れてはなりません。ビタミンB1は1週間程度で枯渇するとされており、特に低栄養・アルコール依存の既往がある患者では早期補充が必須です。ビーフリード®にはビタミンB1が含まれているため、PPN選択時には同時に補充できる点でも有用です。


「循環管理」はソルラクト輸液、「栄養補充」は別ラインで、というのが輸液設計の基本です。


この視点を持つことで、「とりあえずソルラクトを継続」という漫然とした処方から脱却し、患者ごとの栄養必要量と循環維持の両軸から輸液設計を見直すきっかけが生まれます。輸液の「目的」を常に意識した処方が、チーム医療における質の向上にも直結します。


以下の記事では輸液設計の全体像(水分量・Na・K・栄養の4視点)が詳しく解説されています。現場での処方判断の参考として有用です。


金芳堂コラム「第10回 一歩進んだ輸液の考え方」(森川暢, 市立奈良病院)