「下痢に出す薬だから安全」と思って透析患者に投与すると、アルミニウム脳症を招くことがあります。
天然ケイ酸アルミニウムは「アドソルビン原末」という名称で知られる、消化管用吸着剤に分類される医薬品です。一般名はNatural Aluminum Silicate(JAN)で、主成分はモンモリロナイト系粘土鉱物であり、地中海原産の酸性白土を精製したものです。
その歴史は古く、かつては石油・植物油の精製・脱色に使われていた素材を医薬品へ転用したことに始まります。日本では薬剤師・湯川蜻洋が下剤に代わり腸内を清浄にする目的で着目し、「アドソルビン」の名で発売されました。1979年の再評価で適応症は「下痢症」のみに絞られています。
作用機序は3ステップです。
まず、消化管内に投与された本剤が胃・腸管内で異常有害物質(ウイルス・細菌毒素・化学物質等)を物理的に吸着します。次いで過剰な水分・粘液もあわせて吸着・除去します。この吸着作用が腸管内では結果的に収斂(しゅうれん)作用をあらわし、最終的に止瀉(ししゃ)作用につながります。
つまり「腸の動きを抑える」のではなく「有害物質・水分を物理的に取り込む」という点が特徴です。
また、腸内でゲル化して腸粘膜を保護する作用もあるとされており、粘膜のバリア機能を補助する働きも期待できます。これはロペラミドのような腸運動抑制薬とは根本的に異なるアプローチです。
粉末の性状は白色〜わずかに着色した粉末で、無味・無臭です。水や有機溶媒にはほとんど溶けない不溶性の物質であるため、吸収されず消化管内で作用し、便とともに排泄されます。そのため全身への薬理作用は基本的にありません。吸収されない点は安全性の面でメリットになりますが、後述する通り特定の患者群では例外が生じます。
用法・用量は、成人1日3〜10gを3〜4回に分割経口投与です。年齢・症状により適宜増減し、小児にも使用されます。薬価は1gあたり約7.7円(2024年時点)で、1日最大量10gとして約77円というコスト面での扱いやすさもあります。
参考:アドソルビン原末の効能・副作用(ケアネット医療用医薬品検索)
https://www.carenet.com/drugs/category/antacids/2343002X1058
添付文書に記載された3つの絶対禁忌は、医療従事者なら必ず覚えておくべき内容です。それぞれには明確な病態生理学的根拠があります。
① 透析療法を受けている患者(禁忌)
これが最も重要です。長期投与によりアルミニウム脳症・アルミニウム骨症があらわれることがあります。健常人では消化管から吸収されるアルミニウムはごく微量ですが、腎機能が廃絶した透析患者ではアルミニウムの排泄ができません。蓄積したアルミニウムが脳や骨に沈着することで、言語障害・異常行動・運動障害・発作(アルミニウム脳症)や骨軟化症・骨折(アルミニウム骨症)を引き起こします。これは深刻な副作用です。
なお、腎機能低下患者(CKD)では慎重投与となっており、長期投与の場合は血中アルミニウム・リン・カルシウム・ALP値を定期的に測定することが求められています。
② 腸閉塞のある患者(禁忌)
天然ケイ酸アルミニウムは腸管内の水分を吸着するため、腸閉塞がある患者では腸管内容物の貯留を悪化させるおそれがあります。症状を増悪させるリスクが高いため、腸閉塞が疑われる場合は禁忌です。
③ 出血性大腸炎の患者(禁忌)
O157などの腸管出血性大腸菌感染症や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢の患者では、症状の悪化・治療期間の延長をきたすおそれがあります。細菌性腸炎では病原菌の排除が治療上重要であり、吸着薬が腸管内で毒素・菌をくるんで動きを鈍化させることで、かえって菌の排出が遅れるという機序が考えられます。「下痢をとめればよい」という単純な判断が危険なケースです。
さらに、原則禁忌として「細菌性下痢のある患者」があります。こちらは治療期間の延長を招くおそれがあるため、投与を原則避けますが、特に必要な場合には慎重投与とされています。
また慎重投与の対象として、便秘のある患者・腎障害のある患者・リン酸塩低下のある患者があります。リン酸塩低下は見落とされやすい慎重投与条件であり、本剤中のアルミニウムが無機リンの吸収を阻害するという機序によるものです。腸管からのリン吸収が低下し、低リン血症がさらに悪化するリスクがあります。
禁忌3条件一覧:
| 禁忌 | 理由 |
|------|------|
| 透析療法中の患者 | アルミニウム蓄積→脳症・骨症 |
| 腸閉塞のある患者 | 症状悪化のおそれ |
| 出血性大腸炎の患者(O157等) | 病期延長・症状悪化のリスク |
参考:アドソルビン原末 添付文書(日本薬局方 天然ケイ酸アルミニウム)
https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/syouka/AD2275-01.pdf
天然ケイ酸アルミニウムの吸着力は強力です。有害物質だけでなく、消化液・消化酵素まで吸着してしまいます。これが多くの薬物との相互作用を生む根本的な原因です。
ニューキノロン系抗菌薬・テトラサイクリン系抗生物質との「キレート形成」
本剤に含まれるアルミニウムイオンが、ニューキノロン系(エノキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン等)やテトラサイクリン系(テトラサイクリン塩酸塩、ミノサイクリン塩酸塩等)の薬物とキレートを形成します。キレートとは金属イオンと薬物分子が結びついて安定した複合体を作ることで、この状態では薬物が消化管から吸収されにくくなります。
結果として抗菌薬の血中濃度が低下し、十分な抗菌効果が得られなくなる可能性があります。これは感染症の治療失敗につながりかねない深刻なリスクです。
添付文書では「服用時間をずらすことにより弱まる」と記載されており、同時服用は避け、1〜2時間の間隔をあけることが実臨床での対処法となります。これが基本です。
その他の薬剤への影響
天然ケイ酸アルミニウムは「その他の併用薬剤」の吸収・排泄に影響を与えることがある、と添付文書に明記されています。これは特定薬剤名だけにとどまらず、広く「他の薬全般」に対して吸着の可能性があることを意味します。
例えばクラリスロマイシンでも天然ケイ酸アルミニウムとの相互作用(吸収低下)の報告があります。飲み合わせの確認が重要です。
実際に薬剤師向け解説サイトでは「消化液や消化酵素も吸着することから、他の薬と併用する場合は基本的には1〜2時間は間隔をあける必要があります」と推奨されています。複数の薬が処方されている患者の場合、服薬指導のタイミングで必ずこの点を確認することが欠かせません。
参考:止瀉薬(下痢止め)一覧・作用機序 - ファーマシスタ
https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/bowel/2588/
「とりあえず下痢止めとして処方している」という印象を持たれがちな天然ケイ酸アルミニウムですが、実は国際的なメタ解析データが存在します。これは使えそうです。
2018年に発表されたシステマティックレビュー&メタ解析では、生後1ヶ月〜18歳の小児を対象に計18研究・2,616人のデータが解析されました。国外ではsmectite(ケイ酸アルミニウムとケイ酸マグネシウムの合剤)として販売されており、これがアドソルビンの成分に相当します。
主要な結果は以下の通りです:
| アウトカム | 結果 |
|------------|------|
| 下痢の期間 | Smectite群のほうが約24時間短縮 |
| 3日後の改善率 | リスク比(RR)=2.1倍、NNT=3 |
| 点滴治療の必要性 | リスク比(RR)=0.77倍(やや低下傾向) |
| 入院率 | 有意な差なし |
| 反動性便秘(副作用) | リスク比(RR)=4.71倍(NNH=17) |
| イレウス・死亡 | 2,616人中ゼロ |
NNT=3という数値は非常に高い臨床的有用性を示します。3人投与すると1人の3日後改善が見込まれるということです。東京ドーム1個分のキャパシティが約55,000人とすると、この数値がいかに「現場で差がつく数字」かがわかるでしょう。
一方でNNH=17というのは「17人に投与すると1人に反動性便秘が生じる」ことを意味します。下痢が改善した後に便秘が続く場合は、本剤の服用終了を考慮することが大切です。
また、ロペラミドでは1%以下の頻度でイレウス・死亡の副作用が報告されているのに対し、2,616人の調査でsmectiteではそのような事例がゼロであったことも安全性の面での重要なデータです。
小児への投与は特に注意が必要ですが、このエビデンスに基づけば、ウイルス性腸炎による小児の下痢に対して、本剤は「3日以内に症状を改善させる可能性が2.1倍高まる」薬剤として積極的に選択肢に入れられます。
参考:アドソルビン®(天然ケイ酸アルミニウム)が小児の胃腸炎で有効か検討した研究(小児科医のブログ)
https://www.dr-kid.net/adsorbent-sysmeta
臨床現場でこの薬が「効かない」と感じられることがあるとすれば、服薬方法の問題が絡んでいる可能性があります。ここは独自の視点から整理します。
飲みにくさという「隠れた問題」
天然ケイ酸アルミニウムは白色の粉末で、無味・無臭です。ところが口に含むと水分を強力に吸収し、砂のようなザラザラした食感が残ります。水に溶けないため、コップの底に沈殿してしまいます。これが特に小児や高齢者で服薬コンプライアンスを大きく下げる要因になります。
飲ませ方として現場で推奨されているのは、アイス・ヨーグルト・ゼリーに混ぜる方法です。これらはザラザラ感をマスクしやすく、相性がよいとされています。食欲がない場合は水・ぬるま湯に混ぜながら少しずつ飲ませることも有効です。
注意すべきは、ジュースやお茶に混ぜても飲みにくさが解消されない点です。「とにかく混ぜれば飲める」わけではありません。
「食前・食後・食間のどれか」という質問への答え
天然ケイ酸アルミニウムは食事の影響を受けにくい吸着薬であり、添付文書上は食事タイミングに関する制約は記載されていません。ただし、他の薬剤を同時服用している場合は1〜2時間の間隔を設けることが重要です。実際の処方設計では「他剤の最終服用から1〜2時間後」に本剤を服用するよう指示することで、相互作用を最小化できます。
服薬期間の目安と終了タイミング
下痢症は多くが急性の経過をたどります。通常は症状改善(軟便→成形便)を目安に服用を終了します。便秘傾向になった場合は、本剤による吸着作用が過剰になっているサインです。継続服用は避けるよう患者・保護者に伝えておくことが、NNH=17の反動性便秘を防ぐためにも大切なポイントです。
腎障害グレードによる確認ポイント
CKDステージ3以上の患者では、長期投与時に血中アルミニウム・リン・カルシウム・ALP値の定期測定が必要です。外来で短期的に処方する場合は問題が少ないですが、慢性的な軟便・下痢を抱える腎障害患者に継続処方してしまうケースが最も危険なパターンです。腎障害患者への処方時は1回ごとに「短期処方か否か」を確認することが原則です。
参考:PMDA 医薬品等安全性情報 No.155(天然ケイ酸アルミニウム使用上の注意改訂)
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/safety-info/0150.html
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