強く貼るほど安全だと思っているなら、あなたはすでに患者さんの皮膚を傷つけているかもしれません。
看護の現場でテープ固定はほぼ毎日行う処置です。しかし「とりあえず貼れれば問題ない」という感覚で行っていると、皮膚トラブルの原因を自ら作ってしまうことになります。テープには大きく分けて、サージカルテープ・伸縮性粘着テープ・フィルムドレッシングの3つのタイプがあり、それぞれの特徴を理解することが選び方の基本です。
サージカルテープはロール状で手で簡単に切れるタイプで、ガーゼの固定や一般的なドレッシング固定に広く使われます。一方、伸縮性粘着テープはサージカルテープより粘着性が強く、関節など曲げ伸ばしする部位の固定に向いています。フィルムドレッシングは透明で薄く、刺入部の観察が貼ったまま行えるため、点滴や中心静脈カテーテルの固定によく使われます。これは覚えておけばOKです。
粘着剤の種類も重要なポイントです。現在主流はアクリル系で、透明性と耐熱性に優れ固定力も高いのが特徴です。ただし皮膚が脆弱な高齢者や透析患者などには、シリコーン系が適しています。シリコーン系は皮膚へのダメージが少ない一方でコストが高いというデメリットがありますが、皮膚トラブルを繰り返す患者には積極的な採用を検討する価値があります。以前の主流はゴム系粘着剤でしたが、ラテックスアレルギーの問題からアクリル系に切り替わった経緯があり、シリコーン系やウレタン系といったよりやさしい粘着剤も登場しています(参考:ニチバン医療用テープ選び方ガイド)。
テープを選ぶ際は「固定の目的」「患者の皮膚状態」「部位」の3点を必ずアセスメントしてから決定することが原則です。
ニチバン|医療用テープの選び方(医療関係者向け)
粘着剤の種類と素材ごとの特徴、用途別の使い分けが詳しく解説されています。
点滴ルートやバルーンカテーテルの固定でよく使われるΩ留め(オメガ留め)は、正しく行えば通常の固定方法より最大約39%も固定力が高まるという実測データがあります(skinix調査より)。これは使えそうです。
Ω留めとは、テープをΩ(ギリシャ文字のオメガ)の形に折り曲げてチューブを皮膚から浮かせた状態で固定する方法です。チューブが直接皮膚に触れないため、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)のリスクを下げる効果もあります。「固定力」と「皮膚保護」の2つを同時に達成できる点が、この方法の最大のメリットです。
実際の手順は次の通りです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①土台テープ | 5cm程度に切ったテープを皮膚に貼る(土台になる) |
| ②Ω用テープ | ①より2〜3cm長め(7cm程度)に切り、土台テープの中央あたりまで端をずらして重ねる |
| ③ルートを乗せる | 残りのテープを折り返し、ルートを中央から少しずらして乗せてΩ型に包む |
| ④補強テープ | 3〜4cmのY字カットテープをΩの根本部分に噛ませて固定 |
「Ωの形にならない」という声は現場でよく聞きます。その多くは、土台テープなしに1枚だけで固定しようとしていることが原因です。土台・Ω用・補強の3枚を事前にカットしてから始めるのが、失敗を減らす一番の近道です。
また、手袋をしているとテープが指に貼りついてうまく操作できないことが多いです。アルコールで指先を拭いてから作業するか、操作の直前だけ手袋を外して行うという方法もあります。つまり、事前準備と指先の操作性が仕上がりを大きく左右するということです。
skinix|Ω固定・オメガ留めとは?通常固定と比べて約39%固定力が高まる場合も
Ω固定の仕組みと、引っ張り試験による固定力の比較データが掲載されています。
テープによる皮膚トラブルは、ICU入院患者の場合、月に30〜40%の挿管患者に皮膚障害が発生しているという報告があります(奈良医科大学附属病院)。また開腹術後患者でのテープかぶれ発生率は約24%という研究データもあります。痛いですね。
皮膚トラブルの原因は大きく3つに整理できます。1つ目は機械的刺激で、テープを強く引っ張って貼ることや、繰り返し剥がすことで起こる物理的な皮膚損傷です。2つ目は化学的刺激で、粘着剤や消毒剤の成分が皮膚炎を起こすものです。3つ目はアレルギー反応で、テープ材質に対する過敏反応が原因で、貼付範囲を超えた広い範囲に症状が出るのが特徴です。
予防のために現場で即実践できるポイントをまとめると以下の通りです。
また、近年注目されているスキンテアは、テープ剥離時に最も多く発生します。スキンテアは入院基本料の褥瘡対策評価項目にも新たに追加されており、病棟での体制整備が求められています。「皮膚が弱い患者さんだから仕方ない」で終わらせず、リスクアセスメントの段階から関わる意識が今の看護師には必要です。
ナース専科|テープなどの粘着製品による皮膚トラブルの原因とトラブル対策4つのポイント
機械的刺激・化学的刺激・アレルギー反応別の原因と、具体的な対策方法が整理されています。
テープの「貼り方」に比べて、「剥がし方」が疎かになっているケースは少なくありません。しかし剥がし方を誤ると、スキンテアをはじめとする重篤な皮膚損傷につながります。スキンテア予防の観点では、剥がし方はむしろ貼り方と同じくらい重要です。
基本の剥がし方の手順は以下の3点です。
体毛がある部位は、体毛の流れに沿って剥がすと痛みが抑えられます。剥がす方向も大切です。
剥離剤(リムーバー)を使う場面も増えています。剥離剤には大きく「オイル系」と「シリコーン系」の2種類があります。オイル系はゆっくり作用するため、再貼付の際には石鹸で油分を十分に除去する必要があります。一方、シリコーン系は速効性があり、皮膚を清拭するだけで再度テープを貼れるため、繰り返し交換が必要な場面に向いています。剥離剤はテープの端を少しめくってから皮膚と粘着剤の間にしみ込ませるのが正しい使い方です。
皮膜剤(スキンバリア)も有効な選択肢です。皮膜剤を塗布して薄い撥水性の皮膜を形成してからテープを貼ることで、剥離時の角質損傷を軽減できます。皮膚が浸軟しやすい患者や発汗が多い患者への使用が特に有効です。なお、皮膜剤はオイル系・シリコーン系ともに可燃性があるため、電気メスや酸素吸入器具の近くでは使用しないよう注意が必要です。
日本褥瘡学会|医療関連機器圧迫創傷の予防と管理(ベストプラクティス)
カテーテル固定時の固定位置変更の推奨方法など、エビデンスに基づいた実践ガイドが記載されています。
病棟が変わるとテープの種類も固定方法もバラバラ、という経験は多くの看護師が持っています。実はこの「手技の不統一」こそが、皮膚トラブルやインシデントの温床になっています。「郷に入れば郷に従え」では済まされないのが現実です。
院内の手技が統一されていない場合、患者を引き継いだときに前の固定の意図が伝わらなかったり、「良かれと思った工夫」が別の担当者には理解されずにトラブルにつながるケースがあります。これは個人の技術の問題ではなく、チームの安全文化の問題です。
手技を統一するうえで実践しやすいアクションとして、以下の点が挙げられます。
もう一つ、見落としがちな視点があります。それは「テープを貼った後のアセスメント」です。看護師がテープを貼って固定を終えた時点で業務が完了したと思いがちですが、正確には貼った後の観察こそが肝心です。24時間後に固定部周囲の皮膚に発赤や硬結がないか、チューブが皮膚に直接当たっていないか、浮腫が出ていないかを確認して初めてケアが完結すると考えてください。毎日1回は固定位置を変更することも、MDRPUや皮膚トラブル予防の観点から推奨されています(日本褥瘡学会)。
固定力が高くても皮膚に負担が出ていれば、それは「うまい固定」とは言えません。結論は、観察まで含めてテープ固定という技術です。
skinix|尿道カテーテルのテープ固定で見逃してしまいがちなポイント
手技が統一されていない場合のリスクと、固定の意図を引き継ぐ重要性が具体的に解説されています。