「7品目のゴロを覚えていれば、患者への食物アレルギー指導は万全だ」と思っているなら、2023年の制度改正で患者を危険にさらしているかもしれません。
特定原材料とは、発症数や重篤度の高さから食品表示法において表示が義務づけられたアレルゲンのことです。医療従事者であれば、薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師・看護師を問わず、一度は学んだ知識のはずです。
従来の7品目(2023年3月以前)を整理すると、以下のとおりです。
| 頭文字 | 品目 | 特記事項 |
|---|---|---|
| そ | そば | 重篤なアナフィラキシーの原因として代表的 |
| こ | 小麦 | パン・麺類など多くの加工食品に含まれる |
| に | 乳(牛乳) | 「ミルク」「牛乳」の代替・拡大表記あり |
| え | えび | 甲殻類の代表格 |
| た | 卵(たまご) | 0歳児の最多発症原因 |
| ら | 落花生(ピーナッツ) | 微量で重篤症状を起こしやすい |
| か | かに | えびと同じく甲殻類 |
国試でよく使われるゴロの一例として、「そこにえたラッコ乳」(そ・こ=そば・小麦、に=乳、え=えび、た=卵、ラッ=落花生、か=かに)があります。また、「ラッコ乳そえたか?」「変えたらそこに」など複数のバリエーションが医療系国試の参考書に掲載されています。自分が最も頭に入りやすいゴロを1つ選んで完璧に定着させるのがコツです。
特定原材料の指定要件を押さえておくことも重要です。これらは「発症数が多い」「重篤度が高い(アナフィラキシーリスク)」という2つの条件を同時に満たしたものだけが義務表示になります。つまり、7品目はどれも患者の生命に直結しうる食品という認識を常に持つことが原則です。
医療従事者として患者に「このラベルを見てください」と指導するときに、自分自身がどの品目が義務表示でどれが推奨表示かを正確に区別できているかが問われます。まずゴロで7品目を体に染み込ませることが基本です。
参考:日本アレルギー学会ガイドライン2021ダイジェスト版(第17章)では、特定原材料7品目の指定背景と表示規制の概要がまとめられています。
アレルギーガイドライン2021 ダイジェスト版 第17章 アレルギー表示制度 – 日本アレルギー学会
ここが多くの医療従事者が見落としがちなポイントです。意外ですね。
2023年3月9日、消費者庁の食品表示基準改正により、くるみが特定原材料(表示義務)に追加され、従来の7品目から8品目に変わりました。この変更は重要です。
くるみが追加された理由は明確です。消費者庁の調査によれば、くるみによるアレルギー症例数は2012年度の約40件から10年で10倍以上に急増しました。国立成育医療研究センターの研究では、日本においてナッツ類アレルギーが近年急増しており、くるみの重篤例も相次いで報告されています。背景には、菓子・パン類などへの使用量増加があります。
| 変更前(7品目) | 変更後(8品目):2023年3月〜 |
|---|---|
| えび・かに・小麦・そば・卵・乳・落花生 | えび・かに・<strong>くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生 |
最新の8品目対応ゴロとして広く使われているのが「そこからみえたくるみ」です。頭文字を対応させると次のようになります。
旧来の7品目ゴロをそのまま使い続けていると、くるみを漏らした患者指導になってしまいます。8品目が原則です。
なお、この改正には経過措置期間が設けられており、2025年3月31日以前に製造された食品は旧表示のままでも流通が認められていました。現時点(2026年3月)では完全施行済みですが、在庫商品の確認を患者に促すのも医療従事者として重要な指導の一つです。
参考:消費者庁が公表している食物アレルギー表示に関する最新情報(改正の経緯・経過措置を含む)については以下で確認できます。
食物アレルギー表示(消費者庁) – 特定原材料等の表示ルール詳細PDF
8品目を覚えたら、次に押さえたいのが特定原材料に準ずるもの20品目(表示推奨・任意)です。これは薬剤師や管理栄養士の国家試験にも出題されるため、医療系国試の受験生にとっては避けて通れない知識です。
2023年の「くるみ」が義務表示に格上げされたことで、推奨品目は21品目から20品目に減りました。現在の20品目(五十音順)は以下のとおりです。
| グループ | 品目 |
|---|---|
| 魚介・海産物 | あわび、いか、いくら、さけ、さば |
| 果物 | オレンジ、キウイフルーツ、バナナ、もも、りんご |
| ナッツ類 | アーモンド、カシューナッツ |
| 肉類 | 牛肉、鶏肉、豚肉 |
| その他食品 | ごま、大豆、やまいも、まつたけ、ゼラチン |
全20品目のゴロとして知られているのが、「ああ、いい顔」→「極太詐欺」→「裁き山盛りだゼ!」(食品表示検定の学習者の間でも使われているフレーズ)です。これは21品目版をベースに作られていますが、くるみを8品目から外した現在でも20品目の整理に活用できます。
ただし、20品目の優先度はケースバイケースです。これが条件です。国家試験の出題傾向としては、まず8品目の完全暗記、次に「義務 vs 推奨」の区分識別が問われる場面が多く、20品目の全列挙が求められるのは管理栄養士・食品表示検定の上位資格が中心です。
医療現場では、薬剤師・看護師が患者の食事制限を確認する際に「特定原材料8品目だけ確認すれば十分」と考えてしまうリスクがあります。これは問題ありません——ただし、患者が大豆・ごま・バナナなどにも反応する場合は、推奨20品目の知識が患者への具体的な生活指導に直接活きてきます。患者の症状を聞くときに「8品目以外にも気になるものはありますか」と一言添える習慣が、見落としを防ぐコツになります。
参考:食物アレルギー研究会が提供する栄養食事指導の手引き2022では、特定原材料と準ずるものの表示ルールおよびその活用方法が詳しく解説されています。
食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022 – 食物アレルギー研究会
ゴロで8品目を覚えた医療従事者が、患者に「食品ラベルのアレルゲン表示を確認すれば安心ですよ」と伝えてしまう——これが実は非常に危険な指導になるケースがあります。
食品表示法によるアレルギー表示の義務は、あくまで容器包装された加工食品に限定されています。つまり、外食・中食(デリバリー・持ち帰り食品のうち容器包装されていないもの)には、特定原材料8品目についても表示義務がありません。
日本財団が2025年に公開したインタビュー記事では、消費者庁担当者も「外食・中食にはアレルゲン情報の提供を義務づける法的根拠が現行法にはない」と明言しています。これは痛いところですね。
重要な点を整理すると次のようになります。
食物アレルギー患者が外食・中食で誤食事故を起こすケースは決して少なくありません。消費者庁の令和6年度調査によれば、アレルギー患者の誤食例のうち93.6%は食品表示ミス以外の理由でした——つまり、表示がないことによる確認不足や、そもそも表示制度の対象外の場面での事故が大半を占めているのです。
患者への指導では、「加工食品のラベルを確認する」だけでなく、「外食・中食では口頭で店員にアレルゲンを伝えてから注文する」「重症患者は中食・外食を極力避ける」という具体的なアクションまでセットで伝えることが重要です。この一言が、患者の入院リスクを下げることに直結します。
参考:外食・中食でのアレルギー対応の現状と注意点については消費者庁が発行しているリーフレットで確認できます。
8品目のゴロを覚えても、実際の食品ラベルを読むにはもう一段階の知識が必要です。これは使えそうです。
食品表示基準では、特定原材料の表示方法として「個別表示」と「一括表示」の2種類が認められています。さらに、表記の形式として代替表記と拡大表記という概念があります。
| 表記の種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 代替表記 | 名称は異なるが同一と理解できる表記 | 「乳」→「ミルク」「バター」 |
| 拡大表記 | 原材料名に特定原材料名が含まれている | 「牛乳」「乳糖」→乳を含む食品と判断可 |
つまり、食品ラベルに「卵」という文字そのものがなくても、「マヨネーズ」という表記があれば卵アレルギーの患者は注意が必要です。これが拡大表記の考え方です。医療現場で患者からラベルの見方を質問されたときに「"卵"という文字を探してください」と指導するだけでは不十分な場合があります。
また、注意喚起表示(例:「本製品は卵を使用した設備で製造しています」)については、法的義務ではなく任意の表示です。この表示があっても、原材料欄に特定原材料が記載されていなければ、最重症患者を除いて基本的に摂取できると解釈されます。ただし、コンタミネーション(混入)リスクがゼロではないことは患者に伝える必要があります。
栄養指導や服薬指導の場でラベルの読み方を教える際は、「①原材料欄を確認→②代替表記・拡大表記も確認→③注意喚起表示の有無を確認」という3ステップの流れを患者に教えることが実践的です。患者がスーパーで一人でラベルを確認できるようになることが、アレルギー管理の自立につながります。
消費者庁が公開している「食物アレルギー診療の手引き2023」では、代替表記・拡大表記の一覧と臨床的解釈が整理されています。診療現場でのリファレンスとして活用できます。
食物アレルギーの診療の手引き2023(食物アレルギー研究会) – 特定原材料の表示ルールと臨床対応
「特定原材料7品目のゴロ」を覚えることに対するモチベーションは、医療職の種類によって少し異なります。試験勉強と臨床業務の両面で、どう活用するかを職種別に整理します。
薬剤師・薬学生の場合、薬剤師国家試験では衛生分野(食品・公衆衛生)の範囲で特定原材料の品目数・区分が問われます。「義務7品目(現在は8品目)」と「推奨20品目(準ずるもの)」の区別が出題の核心です。また服薬指導の現場では、経腸栄養剤・医薬品の添加物に特定原材料が含まれることがあり、食物アレルギーを持つ患者への確認は薬剤師業務の重要な一部です。
管理栄養士・栄養士の場合、管理栄養士国家試験では「給食経営管理論」「臨床栄養学」の双方で出題されます。特に食事療法・栄養指導の場面では、28品目すべての把握が求められることもあります。入院患者の食事制限情報を正確に把握し、調理担当者に引き継ぐためにも確実な知識が必要です。
看護師・准看護師の場合、直接的な出題頻度は他職種ほど高くないものの、入院患者の与薬・食事管理において「このゼリー飲料に卵は入っていますか」と患者から質問される場面は多く、即答できるかどうかが信頼につながります。
臨床検査技師の場合、検体採取時の問診や食物負荷試験に関与する場合があり、特定原材料の知識は患者への説明に直結します。インスタグラムの学習アカウントでも「臨床検査技師国試で使えるゴロ」として特定原材料が取り上げられるほど、近年は出題への関心が高まっています。
いずれの職種でも、ゴロは「試験をクリアするための道具」としてだけでなく、「患者に即座に正確な情報を届けるための知識の土台」として機能します。試験が終わっても忘れないように、ゴロとセットで背景にある理由(発症数・重篤度の高さ)まで記憶に紐づけるのが効果的です。7品目→8品目の変遷を含めて理解しておけば、今後さらに追加品目が出てきたとしても、素早くアップデートできる知識の枠組みが作れます。それだけ覚えておけばOKです。