複数の漢方薬を同時に処方したとき、甘草の重複で患者が低カリウム血症を起こすリスクがあなたの見落としで11%を超えます。
当帰飲子(とうきいんし)はツムラ<strong>86番として知られる医療用漢方製剤です。 正式名称は「ツムラ当帰飲子エキス顆粒(医療用)」で、粉末を顆粒化した灰褐色の内服薬として流通しています。
処方の出典は中国の古典医書『済生方(さいせいほう)』であり、10種類の生薬から構成されます。 処方名の「当帰」は主薬であるセリ科植物の根を指し、「帰るべし=本来の健康に戻す」という意味が込められています。 「飲子(いんし)」は冷服する煎じ薬を指し、頻回服用を意味するという説も残っています。ngskclinic+2
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ツムラ番号 | 86番 |
| 剤形 | 顆粒剤(内用) |
| 出典 | 済生方(中国古典) |
| 構成生薬数 | 10種類 |
| 主薬 | 当帰(とうき) |
処方の中核は四物湯(しもつとう)という補血処方です。 四物湯に荊芥・防風・蒺藜子・何首烏・黄耆・甘草を加えた構成で、血を補いながら風邪(ふうじゃ)による皮膚のかゆみを取り除く設計になっています。kampo-do+1
添付文書に記載された効能・効果は「冷え症のものの次の諸症:慢性湿疹(分泌物の少ないもの)、かゆみ」の2点です。 つまり、じゅくじゅくと滲出液が多い急性湿疹ではなく、乾燥してカサカサした慢性的な皮膚症状が主な対象です。ここが重要です。
適応となる疾患・症状をまとめると下記のとおりです。
参考)【当帰飲子】の解説~乾燥肌の皮膚のかゆみに用いる漢方薬~
漢方的には「血虚生風(けっきょせいふう)」の病態が適応の核心です。 血液が不足して皮膚が栄養されず、乾燥・痒みが生じる状態を指します。
患者像のイメージとして、「小柄で冷え性、顔色が悪く体力があまりない」高齢者が典型とされています。 若い患者でもアトピー性皮膚炎で乾燥・血虚傾向が顕著なケースには選択肢に入ります。 体力中等度以下が目安です。rheumatology.co+1
用法・用量は成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与します。 年齢・体重・症状により適宜増減が可能です。これが原則です。
効果発現までの期間は2週間〜1か月以上かかることもあります。 ステロイド外用薬と比較すると即効性はありませんが、長期的な体質改善を目的とする場合に有用です。
💰 薬価について具体的な数字を確認します。
参考)漢方薬86「当帰飲子(トウキインシ)」 - 巣鴨千石皮ふ科
患者負担が1か月1,418円程度というのは、外用薬と比較して費用対効果を説明しやすい数字です。 ただし、調剤技術料・薬学管理料は含まれないため、実際の窓口負担はこれより高くなります。
処方箋を記載する際は「ツムラ当帰飲子エキス顆粒(医療用)」または「ツムラ86」と記載します。なお、クラシエからも当帰飲子の製剤が存在しますが、ツムラの医療用製剤はツムラ86番に一本化されています。
注意すべき副作用として、偽アルドステロン症・低カリウム血症・血圧上昇・浮腫・体重増加・ミオパチーが挙げられます。 これらはすべて甘草(かんぞう)に含まれるグリチルリチン酸が引き起こすものです。
問題になるのは「重複処方」です。 医療用漢方製剤148品目のうち、甘草を含有するものは109処方にのぼります。複数の漢方を同時処方すると、意図せず甘草の1日摂取量が危険量を超えます。
偽アルドステロン症の発症率は甘草摂取量によって変わります。
| 1日の甘草摂取量 | 偽アルドステロン症の発症率 |
|---|---|
| 1g | 約1.0% |
| 2g | 約1.7% |
| 4g | 約3.3% |
| 6g以上 | 約11.1%以上 |
例えば、加味逍遙散(甘草1.5〜2g)+葛根湯(甘草2g)+小青竜湯(甘草3g)を同時投与すると、1日の甘草摂取量は6.5〜7gになり、発症リスクが11%を超えます。 当帰飲子にも甘草が含まれるため、他の漢方製剤との重複処方時は必ず甘草の総量を計算することが重要です。
発症タイミングは原因薬剤の内服開始後3か月以内が約40%ですが、長期使用後に突然発症することもあります。 痩せ型・高齢・高血圧薬服用中の患者は特にリスクが高いため、定期的な電解質チェックが必要です。
参考:偽アルドステロン症と甘草の用量依存性について
漢方の複数内服に注意!偽性アルドステロン症|名駅さこメンタルクリニック
透析患者の皮膚掻痒症は、透析患者の多くが悩む症状です。 透析で除去しきれない尿毒素の蓄積・皮膚の乾燥・神経過敏が複合的に関与するとされています。
参考)かゆみ(透析そう痒症)
標準治療としてはオピオイドκ受容体作動薬のレミッチ(ナルフラフィン塩酸塩)が用いられますが、レミッチが効かない症例や、冷え症・血虚傾向が強い高齢透析患者に対して、当帰飲子が著効した臨床報告があります。
参考)かゆみに当帰飲子(漢方薬)が著効した透析患者さん - 加古川…
選択の判断ポイントは以下の通りです。
透析患者への処方では、腎機能低下による生薬成分の蓄積リスクも念頭に置く必要があります。 中国の臨床研究では、血液透析患者80例を対象に当帰飲子の血虚風燥型皮膚掻痒症への有効性を検討した報告があります。 結論は「証(しょう)の見極めが条件」です。jglobal.jst+1
血虚・冷え症が明確な透析患者では、保湿剤とスキンケアの指導と組み合わせることで、より高い効果が期待できます。 腎臓内科・皮膚科・薬剤師が連携し、電解質管理と並行して処方判断を行うことが現実的な運用です。
参考:透析患者の掻痒症に当帰飲子が著効した症例
かゆみに当帰飲子(漢方薬)が著効した透析患者さん|きたうらクリニック