ヤヌスキナーゼ阻害薬一覧と作用機序・適応・副作用の比較

ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)の一覧を、作用機序・JAK選択性・適応疾患・主な副作用まで徹底比較。スマイラフの帯状疱疹発症率12.9%やフィルゴチニブの精子形成障害リスクなど、見落とされがちな安全性情報を押さえていますか?

ヤヌスキナーゼ阻害薬一覧と適応・副作用の比較

スマイラフ(ペフィシチニブ)を使うと、帯状疱疹が12.9%の患者に出て治療中断のリスクになります。


ヤヌスキナーゼ阻害薬 3つのポイント
💊
経口薬8種+外用薬1種の計9製品

国内で使用できるJAK阻害薬は経口薬8種類(ゼルヤンツ・オルミエント・スマイラフ・リンヴォック・ジセレカ・サイバインコ・リットフーロ・ジャカビ)と外用薬コレクチム軟膏の計9製品。薬剤ごとに適応疾患・JAK選択性が異なる。

⚠️
帯状疱疹リスクはTNF阻害薬の1.7〜2.2倍

JAK阻害薬による帯状疱疹の発現率は薬剤により大きく差があり、日本人・アジア人で特に高い。投与前のリスク評価と帯状疱疹ワクチン(生ワクチンは投与中禁忌)の接種タイミングが重要。

🔬
フィルゴチニブは精子形成障害に要注意

ジセレカ(フィルゴチニブ)は他のJAK阻害薬にはない精子形成障害リスクが動物試験で確認されており、生殖可能な男性への説明と同意取得が必須とされている。


ヤヌスキナーゼ阻害薬一覧:各製品の基本情報と作用機序



ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)は、細胞膜上のサイトカイン受容体に結合するチロシンキナーゼの一種です。JAK1・JAK2・JAK3・TYK2の4種類が存在し、それぞれ異なるサイトカイン受容体と組み合わさってシグナルを核内へ伝えます。TNFαやIL-6・IL-4・IL-13などの炎症性サイトカインが受容体へ結合すると、JAKが活性化してSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)のリン酸化を介して炎症反応や免疫細胞の活性化を引き起こします。


JAK阻害薬はATPと類似した構造を持ち、ATPがJAKに結合する部位へ競合的に作用することでSTATのリン酸化を阻害します。つまり、サイトカインの「指令」を細胞内で遮断するのが基本的な仕組みです。結果として、複数のサイトカインシグナルを同時にブロックできる点が、単一サイトカインを細胞外で中和する生物学的製剤との大きな違いといえます。


現在、国内で使用可能なヤヌスキナーゼ阻害薬の主要製品は以下のとおりです。


商品名 一般名 発売年 剤型 主な用法
ゼルヤンツ トファシチニブ 2013年 錠剤 1日2回
ジャカビ ルキソリチニブ 2014年 錠剤/内用液 1日2回
オルミエント バリシチニブ 2017年 錠剤 1日1回
スマイラフ ペフィシチニブ 2019年 錠剤 1日1回
リンヴォック ウパダシチニブ 2020年 錠剤 1日1回
ジセレカ フィルゴチニブ 2020年 錠剤 1日1回
コレクチム軟膏 デルゴシチニブ 2020年 軟膏 1日2回
サイバインコ アブロシチニブ 2021年 錠剤 1日1回
リットフーロ リトレシチニブ 2023年 カプセル 1日1回


生物学的製剤は注射剤かつ高分子化合物として細胞外でサイトカインを中和しますが、JAK阻害薬は低分子化合物であり経口投与が可能です。分子量は500Da以下と小さく、半減期が比較的短いため毎日内服する必要があります。注射による侵襲がなく患者負担が軽い点は、長期通院が必要な慢性疾患においてアドヒアランス向上につながります。


参考:各薬剤の詳細な一覧・作用機序について(PASSMEDのまとめ記事)
JAK阻害薬の一覧表(経口7製品)と作用機序のまとめ – PASSMED


ヤヌスキナーゼ阻害薬のJAK選択性と適応疾患の違い

JAK阻害薬を使い分けるうえで最も重要な視点のひとつが、各製剤の「JAK選択性」です。どのJAKサブタイプを強く阻害するかによって、作用するサイトカインの種類が変わり、有効性・安全性プロファイルにも差が出ます。


各製剤のJAK選択性は以下のようにまとめられます。


商品名(一般名) JAK1 JAK2 JAK3 TYK2
ゼルヤンツ(トファシチニブ)
オルミエント(バリシチニブ)
スマイラフ(ペフィシチニブ)
リンヴォック(ウパダシチニブ)
ジセレカ(フィルゴチニブ)


(◎:選択的に阻害、△:中等度の阻害、—:ほとんど作用しない)


JAK1は炎症性免疫応答に主に関与し、JAK2は造血系(赤血球・血小板産生)に関与しています。JAK3は免疫細胞の増殖に、TYK2は炎症性サイトカインのシグナルに関係します。この点が重要です。


JAK2を強く阻害するオルミエント(バリシチニブ)は、造血系への影響から貧血のリスクがやや高い一方、IL-6経路を介するシグナルも効率よくブロックできます。一方、フィルゴチニブ(ジセレカ)はJAK2への作用が弱く、JAK1への選択性が他剤に比べて最も高いとされます。JAK2関連の貧血や血小板減少リスクを軽減できる可能性が期待されています。スマイラフ(ペフィシチニブ)はJAK1〜TYK2を広く阻害する非選択的な薬剤という点でほかと異なります。


適応疾患は薬剤間で大きく異なり、以下のように整理できます。


  • 関節リウマチ(RA):ゼルヤンツ・オルミエント・スマイラフ・リンヴォック・ジセレカの5種類
  • アトピー皮膚炎(AD):オルミエント・リンヴォック・サイバインコ(内服)+コレクチム軟膏(外用)
  • 潰瘍性大腸炎(UC):ゼルヤンツ・ジセレカ・リンヴォック
  • クローン病(CD):リンヴォック
  • 円形脱毛症(AA):オルミエント・リットフーロ
  • SARS-CoV-2による肺炎:オルミエントのみ
  • 骨髄線維症・真性多血症・造血幹細胞移植後GVHD:ジャカビ(ルキソリチニブ)
  • 乾癬性関節炎・体軸性脊椎関節炎・巨細胞性動脈炎:リンヴォック


リンヴォックは最多クラスの適応疾患数を持つ薬剤です。特に注目すべき点として、オルミエント(バリシチニブ)はCOVID-19による重症肺炎への適応を持つ唯一の経口JAK阻害薬であり、ベクルリー(レムデシビル)との併用で使用されます。これは他のJAK阻害薬にはない特徴です。


参考:日本リウマチ学会によるJAK阻害薬の詳細解説
JAK阻害薬 – 一般社団法人 日本リウマチ学会(JCR)


ヤヌスキナーゼ阻害薬の副作用:帯状疱疹リスクと心血管系警告

JAK阻害薬に共通する最大の懸念は感染症リスクです。特に帯状疱疹は、日本人・アジア人において他の人種と比べて発症率が高いことが複数の臨床試験で確認されています。臨床現場で見逃されがちな点ですね。


各薬剤の帯状疱疹関連事象の発現率(臨床試験データ)を比較すると、次のとおりです。


商品名(一般名) 帯状疱疹発現率
スマイラフ(ペフィシチニブ) 12.9%
ゼルヤンツ(トファシチニブ)アジア人 8.1/100人・年
オルミエント(バリシチニブ)日本人 6.5/100人・年
ジセレカ(フィルゴチニブ) 比較的少ない


スマイラフの12.9%という数値は、罹患率としてはかなり高い水準です。仮に100人に処方すれば、約13人が帯状疱疹を発症するという計算になります。TNF阻害薬と比較すると、JAK阻害薬全体として帯状疱疹リスクは1.7〜2.2倍高いことが2025年10月の研究でも示されています。


帯状疱疹ワクチンについては重要な原則があります。生ワクチン(水痘ワクチン)はJAK阻害薬投与中は禁忌です。組換えサブユニットワクチン(シングリックス®)は投与中でも使用可能ですが、投与開始前の接種が推奨されます。特に50歳以上・帯状疱疹既往のある患者への投与前には、このリスク説明が欠かせません。


心血管系リスクについても無視できません。米国FDAは2021年9月、トファシチニブ(ゼルヤンツ)を用いた市販後調査「ORAL Surveillance試験」の結果を受けて、重篤な心疾患・悪性腫瘍・血栓・死亡リスクの増加を警告するBOXED WARNINGを発出しました。同試験では、50歳以上・心血管リスク因子を持つ患者において、トファシチニブ群のMACE(主要有害心血管イベント)発生率は3.4%、TNF阻害薬群で2.5%(中央値追跡期間4年)でした。ハザード比は1.33と示されています。


この警告はオルミエント・リンヴォックにも同様のリスクがある可能性として波及しており、日本リウマチ学会からも同内容の注意喚起が医療関係者向けに通知されています。これが基本です。65歳以上の高齢者や、悪性腫瘍既往・喫煙歴・心血管リスク因子を持つ患者への投与は、特に慎重な判断が求められます。


参考:FDA警告とJAK阻害薬心血管リスクに関する日本リウマチ学会からのお知らせ
JAK阻害薬に関するお知らせ(医療関係者向け情報)– 日本リウマチ学会


ヤヌスキナーゼ阻害薬の腎・肝機能別の用量調整と禁忌比較

薬剤選択においてもうひとつ見落としがちな視点が、腎・肝機能による用量制限の違いです。各JAK阻害薬の代謝排泄経路は異なり、同じ患者背景でも選択できる薬剤が変わります。


代謝・排泄経路の特徴から各製剤を整理すると、以下のようになります。


  • 肝代謝(CYP3A4):ゼルヤンツ・リンヴォック。CYP3A4の強力な阻害薬または誘導薬(アゾール系抗真菌薬・リファンピシンなど)との相互作用に注意が必要です。


  • 腎排泄:オルミエント・ジセレカ。活性代謝物が尿中へ排泄されるため、eGFRが30未満(透析中含む)では使用禁忌となります。


  • 特有の酵素代謝:スマイラフはニコチンアミドN-メチル転移酵素、ジセレカはカルボキシエステラーゼでそれぞれ代謝されるため、CYP系の相互作用は少なく、主要な併用注意薬が他剤と異なります。


腎機能障害への対応の比較は以下のとおりです。


商品名 eGFR 30未満・透析
ゼルヤンツ(トファシチニブ) 1回5mg 1日1回へ減量
オルミエント(バリシチニブ) 禁忌
スマイラフ(ペフィシチニブ) 用量制限なし(腎機能障害の制限なし)
リンヴォック(ウパダシチニブ) 中等度以上は7.5mg 1日1回へ減量
ジセレカ(フィルゴチニブ) 禁忌


スマイラフが腎機能障害患者に使いやすい薬剤という点は意外ですね。ただし、帯状疱疹発症率の高さとのバランスで判断する必要があります。


肝機能に関しては、スマイラフが中等度肝機能障害では50mgへ減量・重度では使用禁忌となる一方、ゼルヤンツは中等度肝機能障害で減量が必要です。妊婦への投与はすべてのJAK阻害薬において禁忌または投与不可とされており、動物試験で催奇形性が確認されているほか、ヒトでのデータも限られている点を患者へ説明する義務があります。最終投与後の避妊期間は薬剤ごとに異なり(リンヴォックは最終投与後1月経周期など)、処方前に必ず確認が必要です。


参考:各JAK阻害薬の選択性・副作用の詳細比較
JAK阻害薬の特徴・比較まとめ – くすりPRO


医療従事者が見落としやすいヤヌスキナーゼ阻害薬の盲点:フィルゴチニブの生殖毒性と投与開始前の確認事項

JAK阻害薬のなかで、ジセレカ(フィルゴチニブ)だけが持つ固有の安全性上の注意点があります。それは「精子形成障害を伴う男性の生殖能低下」です。これは他のJAK阻害薬にはないリスクです。


動物試験(ラット・イヌ)において、フィルゴチニブは精巣毒性が確認されています。ヒト等価用量での曝露量において精子形成への影響が示されたことから、添付文書の9.4.2項には「生殖可能な男性には、本剤投与による精子形成障害に伴う妊孕性低下の可能性について説明した上で、投与を開始すること」と明記されています。


ただし、2024年に発表されたMANTA試験(大規模臨床試験)のデータでは、ヒトでの精子パラメーターへの臨床的に有意な影響は確認されなかったとも報告されています。痛いところですね。したがって、動物試験の結果を過度に懸念するより、「説明義務を果たしたうえで処方を判断する」という姿勢が現実的な対応です。


投与開始前に確認すべき一般的な事項は以下のとおりです。


  • 🔍 感染症スクリーニング:結核(ツベルクリン反応またはIGRA検査 + 部X線/CT)、B型肝炎ウイルス(HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体)のチェック
  • 🩸 血算・肝腎機能:好中球数・リンパ球数・ヘモグロビン・血小板、AST/ALT/クレアチニン/eGFR
  • 💉 ワクチン接種状況:特に帯状疱疹ワクチン(シングリックス)の投与前接種の検討
  • 🚫 悪性腫瘍既往・心血管リスク因子:50歳以上で当該リスクを持つ患者では生物学的製剤を優先する判断も必要
  • 👨 男性患者への妊孕性説明(フィルゴチニブの場合)


好中球数が500/mm³未満、リンパ球数が500/mm³未満、ヘモグロビンが8g/dL未満のいずれかに該当する場合は、投与を開始または継続しないことが推奨されています。数値だけは覚えておけばOKです。


なお、JAK阻害薬は関節リウマチでは原則として既存の抗リウマチ薬(特にメトトレキサート)が効果不十分な場合の第二選択として位置づけられています。生物学的製剤よりも先にJAK阻害薬を使うことを当然とする処方パターンは、ガイドライン上は推奨されていません。生物学的製剤を優先し、それが効果不十分または使用困難な場合にJAK阻害薬へ切り替えるというのが原則です。


参考:日本リウマチ学会 JAK阻害薬使用の手引き(最新版)
関節リウマチ(RA)に対するヤヌスキナーゼ阻害薬使用の手引き – 日本リウマチ学会




【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠