オルミエントのアトピー小児への適応と用量・安全性の要点

2024年3月に小児アトピー性皮膚炎へ適応拡大されたオルミエント(バリシチニブ)。2歳以上に使えるJAK阻害薬として期待が高まりますが、用量設定・剤形・安全管理に独自の注意点があることをご存じですか?

オルミエントのアトピー小児への適応・用量・安全性の要点

「2歳から使えると聞いて処方したら、錠剤が飲めず投与を断念した」という事例が現場で報告されています。


この記事の3ポイント要約
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2歳以上に適応拡大されたが剤形は錠剤のみ

2024年3月承認。小児用シロップ・細粒はなく、経口JAK阻害薬として12歳未満で唯一使用可能な薬剤。実際の投与開始年齢は錠剤嚥下能力で判断が必要。

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用量は「年齢」ではなく「体重30kg」で区切る

体重30kg以上→4mg(2mgへ減量可)、30kg未満→2mg(1mgへ減量可)。臨床試験では年齢基準だったが、添付文書は体重基準に変更されている。

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BREEZE-AD-PEDS試験で早期から有意な改善を確認

483例(うち日本人38例)の第III相国際共同試験。高用量群でプラセボ群に対する統計学的有意差を確認。安全性プロファイルは成人と一貫していた。


オルミエントが小児アトピーに使えるようになった背景と承認の経緯


小児アトピー皮膚炎(AD)は、乳児期・幼児期から発症し、掻痒を伴う湿疹病変が軽快・増悪を繰り返す慢性疾患です。成長に伴い寛解するケースも少なくありませんが、重症度が高い患者では標準的な外用療法だけでは疾患コントロールが困難なことがあります。


こうした難治性の小児AD患者に対する全身治療薬の選択肢は、近年になってようやく増えてきました。


オルミエント(一般名:バリシチニブ)は、JAK1およびJAK2を選択的に阻害する経口JAK阻害薬です。日本では2017年に関節リウマチで承認され、2020年12月には成人アトピー性皮膚炎に適応が追加されました。そして2024年3月、小児(2歳以上18歳未満)のアトピー性皮膚炎に対する用法・用量の追加承認が行われました。これは非常に意義深い承認です。なぜなら、12歳未満の小児ADに経口で使える全身治療薬はバリシチニブだけだからです。


2024年6月時点で、12歳未満に使用可能な全身治療薬は以下の3つに限られます。


- デュピルマブ(皮下注、生後6カ月以上)
- ネモリズマブ(皮下注、6歳以上)
- バリシチニブ(経口、2歳以上)


経口薬は皮下注射に比べて投与が簡便であり、特に低年齢児では注射に対する心理的・身体的負担が大きいため、経口投与が可能なバリシチニブの意義は大きいといえます。


承認の根拠となったのは、2歳以上18歳未満を対象とした国際共同第III相試験「BREEZE-AD-PEDS試験(JAIP試験)」です。日本を含む多施設共同で実施されたこの試験の成績を受け、厚生労働省薬食審・医薬品第二部会が2024年2月に承認を了承しました。欧州をはじめ世界31カ国・地域でも同適応で承認されています。


PMDAによるオルミエント小児AD審議結果報告書(令和6年2月6日)


オルミエントの小児アトピーにおける用量設定:体重30kgで区切られる理由

臨床試験(BREEZE-AD-PEDS試験)では年齢によって投与量が設定されていました。具体的には、2歳以上10歳未満の患者にバリシチニブ2mg、10歳以上18歳未満の患者に4mgが割り付けられ、成人への4mg投与と同程度の曝露量が得られるよう設計されていました。


ところが、実際の電子添文では用量基準が「年齢」ではなく「体重」に変更されています。なぜそうなったのでしょうか?


これは母集団薬物動態解析の結果によるものです。小児では特に2歳以上において、体重単独でクリアランスの変化を説明できる共変量として広く受け入れられています。シミュレーションの結果、体重30kgをカットオフ値とした場合に成人患者の曝露量(AUCおよびCmax)と最も近い推定値が得られることが示されました。つまり体重が条件です。


現在の電子添文における小児の用法・用量は以下の通りです。


| 体重 | 通常用量 | 減量時 |
|------|---------|--------|
| 30kg以上 | 4mg 1日1回 | 2mgへ減量可 |
| 30kg未満 | 2mg 1日1回 | 1mgへ減量可 |


処方する際には、年齢ではなく体重を確認してから用量を決定する必要があります。年齢と体重が一致しないケース(低体重児や過体重児)では特に注意が必要です。


また、腎機能障害を有する患者(eGFR 40〜60 mL/分/1.73m²)では体重30kg以上でも2mgへの減量が推奨されています。投与前に腎機能を確認することも欠かせません。


なお、剤形については後述する重要な注意点があります。現時点ではシロップ剤や細粒剤は存在せず、錠剤(1mg・2mg・4mgの3規格)のみです。小児への投与を検討する際はこの点が大きな制約になります。


日本イーライリリー医療関係者向けページ:小児患者への投与量に関する解説(体重別用量の根拠含む)


オルミエントの小児アトピーへの投与で見落とされがちな「錠剤のみ」という制約

「2歳以上に承認された」という情報が先行しがちですが、実臨床では剤形の問題が最初の壁になります。これは意外ですね。


オルミエントには現在、小児用のシロップ剤・細粒剤・顆粒剤は存在しません。市販されているのはすべて錠剤(1mg・2mg・4mgの3規格)です。2歳の幼児が錠剤を確実に嚥下できるかどうかは個人差が大きく、年齢だけで判断することはできません。


ある皮膚科クリニックの報告によれば、実際には「錠剤が内服でき、かつ採血も可能な7〜9歳以降」から投与を開始するケースが多いとされています。採血は投与前スクリーニングおよび投与中のモニタリングとして必須であるため、採血が困難な低年齢の患者では更なる壁となります。


投与前に確認すべき主なスクリーニング検査は次の通りです。


- 血液検査(血算・肝・腎機能・脂質)
- 結核スクリーニング(QFT、Tスポット、または部レントゲン)
- B型肝炎ウイルス(HBV)スクリーニング
- 帯状疱疹ヘルペスウイルス)リスク評価
- 生ワクチン接種歴の確認(投与中は生ワクチン接種不可)


特にワクチンに関しては、投与中の生ワクチン接種が禁忌となっています。小児の予防接種スケジュールと照らし合わせて、投与開始前にワクチンの接種状況と今後の予定を必ず確認することが重要です。年齢区分によっては水痘・麻疹・風疹・おたふくかぜの生ワクチンが未接種の場合もあるため、接種のタイミングを治療計画の中で検討する必要があります。


これらの手続きを踏まえると、「2歳から処方できる薬」という表現は正確ではありますが、実際の投与可能年齢は個々の患者の嚥下機能・採血受容性・ワクチン接種状況によって大きく異なるといえます。


日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎におけるJAK阻害内服薬の使用ガイドライン(投与前チェックリスト・生ワクチン禁忌の詳細あり)


オルミエントの小児アトピーにおける有効性:BREEZE-AD-PEDS試験の主要成績

BREEZE-AD-PEDS試験(JAIP試験)は、2歳以上18歳未満で既存の外用療法(ステロイド外用薬またはカルシニューリン阻害外用薬)に効果不十分な中等症から重症のAD患者を対象とした、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験です。


二重盲検期(16週間)に483例が無作為化されました。うち日本人患者は38例です。参加患者の年齢平均は12歳で、2歳以上10歳未満の患者が約27〜28%を占め、AD診断からの平均経過年数は9〜10年でした。vIGA-ADスコア4(重症)の患者が38〜39%を占めており、相当重度の患者群が含まれていたことがわかります。


試験デザインとして、プラセボ群・バリシチニブ低用量群・中用量群・高用量群の4群に1:1:1:1で割り付けられました。高用量は10歳以上18歳未満では4mg、2歳以上10歳未満では2mgでした。


有効性については、主要評価項目である16週時のvIGA-AD(0/1)達成率かつベースラインから2ポイント以上の改善において、バリシチニブ高用量群でプラセボ群に対する統計学的に有意な優越性が示されました。副次評価項目のEASI-75達成率でも高用量群はプラセボ群を上回る傾向が確認されています。


さらに注目すべきは、改善の早さです。プラセボ群と比較して、バリシチニブ高用量群では主要評価時点(16週)よりも早い時点からADの徴候・症状に統計学的に有意な改善が認められています。これは患者・保護者のアドヒアランス維持に重要な意味を持ちます。治療開始から比較的短期間で変化が実感できると、通院継続につながりやすくなるからです。


長期継続期のデータについては、現在も試験が継続中であり(最長5年間の継続期)、今後の長期安全性・有効性データの蓄積が期待されます。


新薬と臨牀(2024年)掲載の総説:小児ADの最新全身治療薬とバリシチニブの臨床試験成績の詳細


オルミエント小児投与時の安全性管理:感染症リスクと独自の視点

小児への投与においては、免疫系がまだ発達途上にあることを踏まえた安全性管理が特に重要です。


BREEZE-AD-PEDS試験では、467例のバリシチニブ投与患者のうち重篤な有害事象は31例(6.6%)に報告されました。重篤な有害事象の内訳には、アトピー性皮膚炎の増悪、喘息、間質性肺疾患、アデノイド肥大、虫垂炎などが含まれていました。


注目すべき感染症としては単純ヘルペスがあります。バリシチニブ投与を受けた小児467例中28例(6.0%)で単純ヘルペスが報告されており、28例中26例(93%)は軽度から中等度でした。4例(14%)は重篤と判定されましたが、そのほとんどは回復しています。成人AD患者での報告(2531例中224例、8.9%)と比較すると発現割合はやや低い水準です。


感染症リスクに関する主な注意事項は以下の通りです。


- 活動性結核への投与は禁忌(投与前に結核スクリーニング必須)
- 重篤な感染症(敗血症等)の患者への投与は禁忌
- 投与中は生ワクチン接種を行わないこと
- 免疫調整生物製剤・他の経口JAK阻害薬・シクロスポリンなどの強力な免疫抑制剤との併用は行わないこと
- HBV再活性化に注意し、投与前にスクリーニングを行うこと


ここで、見落とされやすいが重要な視点をひとつ挙げます。小児AD患者の保護者の約7〜8割がステロイド外用薬(TCS)の副作用に懸念を示しており、それがアドヒアランスの低下につながっているという報告があります。TCSへの過度な忌避が難治化の一因となっているケースも少なくありません。オルミエントを導入する際は、「外用療法が不十分だから全身治療薬へ切り替える」という一方向の思考ではなく、「外用療法との適切な組み合わせ」を意識することが患者のQOL改善につながります。添付文書でも、原則として抗炎症外用剤との併用を行うことが明記されています。


また、投与継続の可否を判断する時期についても注意が必要です。バリシチニブは投与開始から8週後までに治療反応が得られない場合、投与中止を考慮することとされています。他のJAK阻害薬(ウパダシチニブアブロシチニブ)の判断基準が12週後であるのに対し、バリシチニブは8週後とやや早いため、この違いを理解した上で経過観察の計画を立てることが重要です。


最適使用推進ガイドラインによれば、小児ADへのバリシチニブ投与を行う施設には、免疫抑制療法に関する専門的な知識・経験を有する医師による副作用モニタリング体制が求められています。投与前の十分なスクリーニングと、定期的な血液検査による安全性モニタリングを確実に実施することが、この薬剤を最大限に活かすための基本です。


厚生労働省:バリシチニブ最適使用推進ガイドライン(アトピー性皮膚炎)令和6年3月改訂版(小児の投与対象基準・留意事項を含む)




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